お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第三星 『予兆』

 

 

はじまりはやはりというべきかあっさりと始まってしまった。

最果てのオークニーに居ても尚、その予兆はあまりにもわかりやすかった。

 

ブリテン中にとても大きな瘴気が漂っている。

あの大穴から……祭神の眠る大穴を起点として夥しいほどのモース毒が溢れ出していた。

 

「……っ!お兄様!」

 

「モルガン……いや、その姿は」

 

「もうモルガンである必要もありませんので、トネリコ(本来の姿)に戻っていたんです。本当ならこの服の感想を聞くところでしたがそれはおいおい」

 

水鏡から飛び出してきたモルガン、いやトネリコを見て動揺したが事態はそれを許してくれるほど甘くはない。

 

「大厄災の予兆がこんなにも早く始まるなんて……ノクナレアの戴冠式はいったいどうなって……!」

 

「この様子だと上手くはいかなかったんだろう。それよりも、キャメロットの大穴から始まったのなら悠長にはしていられない。メリュジーヌはともかくとして今あそこに1番近いのはバーゲストだぞ」

 

「私の着名(ギフト)が剥がれている今の状態ではすぐにでも覚醒してしまうでしょう。バーゲストは責任感の強い騎士です、殿を務めて強力なモースを狩り始めているのなら今彼女の元に行くのは却って危険です」

 

トネリコのいうことは最もだ。

今彼女の元に行って僕たちに何ができる?

彼女の本能がむき出しになって仕舞えば危険なのはこちらだ。

大厄災を対処するどころか、そのまえに喰い殺されてしまうなんて話にもならない。

 

「……結局僕たちは後手に回るしかないのか」

 

「後手に回るしかないからこそ、出来ることもあります。アロンダイトとフェイルノートをお兄様が使う形に作り直して強力な礼装に仕上げましょう。私とお兄様で取り掛かればカルデアが動き出すまでに間に合うはずです」

 

「そうだね、あとはシャスティフォルがどこにあるかわかればいいんだが」

 

「アルトリアが持っていれば重畳、キャメロットにあるのなら多少のリスクを冒してでも回収するべきではありますが……」

 

本格的に厄災が現れるギリギリまでやらなければいけないことは多い。

わかっているだけで大穴から湧き出る厄災、それがケルヌンノスだった場合の対処だけで相当な規模の攻撃魔術が必要になる。

それに付随して予言にある赤と黒の厄災。

それは間違いなくアルビオンとブラックドッグが相手となるだろう。

 

「もし、全ての厄災が同時に現れた場合はケルヌンノスは後回しです。アルビオンとブラックドッグを先に倒して大穴へ向かうのが最善でしょう。それに、お兄様には必ずブラックドッグの相手をしてもらわなければなりません」

 

「そこはわかってる。全力で戦えば聖剣を持たない僕でも辛うじて勝てるはずだ」

 

レインフォートが生まれながらにして持つ最後の特性(スキル)。

それがなければトネリコとレインフォートは魔力喰い(エレメンタルイーター)に対抗することができない。

あとは、それを十全に扱うためにレインフォート自体の枷を外す必要があるのだが……。

 

「聖剣がなくても、実際に相手を前にすれば勝手に発動するだろう。あの手のスキルはそういうものだ」

 

「なら、早く準備に取り掛かりましょう。私はフェイルノートを、お兄様はアロンダイトの調整を急いで」

 

最果ての国オークニー、そこに隠れた兄妹は最後の戦いに向けて準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

****

 

そして、厄災の予兆から1日と半日。

カルデアやレインフォートたちの想定よりも最悪の方向で大厄災はその姿を現した。

 

キャメロットに囲われた大穴から這い上がってきたのは白き巨体。

濃密な呪いを振り撒き、キャメロットからブリテン全土にその呪いを振り撒く厄災と化した祭神ケルヌンノスがブリテンの大地に帰還した。

 

その巨碗はキャメロットを飲み込み、大地を呪いに染め上げる。

数多くの妖精がモースへと変わった、ブリテンの生命体は終わりへのカウントダウンを始めてしまった。

 

ゆるされよ

 

ゆるされよ

 

われらのつみをゆるされよ。

 

祈る言葉は、願う心は届かない。

ただ、幾度となく繰り返した罪禍を今再び清算するときが来たのだ。

 

 

 

穏やかな町では妖精による人間の虐殺が始まっていた。

 

 

 

それを見た騎士は自分の認識が間違っていたことを悟った。

 

 

 

「……この生き物を外に出してはいけない」

 

 

そうして、彼女は理性を捨てた。

 

手にしていた彼女の誇りの剣はその場に突き立てた。

 

もう、苦しみから解放されてもいいと思った。

 

辛うじて繋ぎ止めていた最後の鎖を解き放ってしまった。

 

誇り高き騎士はその姿を醜い厄災へと転じる。

 

黒き魔犬が全ての生命を喰らい始める。

 

いずれこの悪しき生き物を食い尽くした先に、必ず止めてくれる誰かが居ると願って。

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

結局のところ、わたしが抱える使命はしっかり果たさないといけないみたいです。

 

リツカやマシュ、先に帰還していた虞美人とペペロンチーノの母艦だというストーム・ボーダーに逃げ込んだわたしたちは想定していたよりも最悪の状況に置かれていて。

 

厄災と化したバーゲスト、そして大穴から這い上がってきたケルヌンノス。

ムリアンと一緒にいたコヤンスカヤというサーヴァントのお陰でケルヌンノスの手から逃れられたわたしたちに残されたのはこの厄災を全て倒すしかないという現実だけだった。

 

そんな時に現れたのがマーリンと名乗る男。

どこか心が落ち着くような声で彼は告げた。

 

ロンゴミニアドをカルデアが手にしても使うことができない。

 

神造兵装はただあれば使えるというものではないのだと。

 

カルデアにはその資格がない、それどころか今の汎人類史には聖剣も聖槍も使う資格を消失しているのだと。

 

理由は明白だった。

 

それがこのブリテンで聖剣を作られていないから。

 

もはや異聞帯という枠を飛び出して汎人類史の上に特異点として存在するこのブリテンの影響は“聖剣が鍛造されていない”という事実を汎人類史の歴史に刻み込もうとしているのだ。

 

完全にそうなってからでは遅い。

過去の亜鈴の罪が、全く関係ない汎人類史の歴史を変えようとしている。

星の聖剣と最果ての槍、その二つが人類史から消失するのは決してして見過ごせないと。

 

「だけど、ここにはシャスティフォルがある。巡礼を終えた楽園の妖精もいる……残念ながら担い手はここにはいないみたいだけど、聖剣を造ることそのものに意味がある。楽園の妖精、アルトリア・キャスター……あとは、わかるね?」

 

「…………わかってます」

 

マーリンと名乗る男と会話したのはこれが最初で最後。

話はまとまり、わたしたちは湖水地方の一画。

 

アルビオンの亡骸に向かうことになったのでした。

 

ストーム・ボーダーは信じられないような速度でアルビオンの亡骸のある湖水地方まで飛び……そして、わたしたちを降ろしたのです。

 

突入のメンバーはわたしとリツカ、村正にマシュの4人。

それ以上は霊洞の中を通れないとマーリンは言っていた。

 

湖のほとりに降り立ち、霊洞に足を踏み入れる直前。

 

 

見知った姿が、その入り口を塞いでいた。

 

 

「レイン……」

 

「───悪いけれど、アルトリアをこの先に進ませるわけにはいかない」

 

いつものような優しい顔ではない。

ここを通るなら攻撃すると、その顔は物語っていた。

 

「レインフォートさん!そこを避けてください!私たちはこのブリテンを救うために聖剣を……!」

 

マシュがレインに向けて叫ぶ。

しかし、その言葉に返ってきたのは底冷えするような冷たい声だった。

 

「行かせない、と言った。アルトリアに聖剣は作らせない……それは、アルトリアにはずっと言っていたはずだよ」

 

「…………そうだね、レインは絶対にここに来るって思ってた。でも、わたしも前に言ったよ。レインを泣かせてでも押し通すって」

 

わたしにとっても、きっとレインにとっても時間はない。

きっとレインなら聖剣がなくたって厄災をどうにかするつもりなのはわかってる。

 

───でも、きっとそれじゃあ全部は間に合わない。

 

だから、押し通す。

自分のやることを、やらなきゃいけないことを。

 

きっとこのブリテンで、この世界で1番わたしを愛してくれたヒトを傷つけてでも、これは果たさなきゃならない使命なんだ。

 

「ごめん、リツカ。ちょっとだけ時間ちょうだい」

 

「───本当にやるの?」

 

「やらなきゃいけない、じゃないとわたしもレインも先に進めないんだ」

 

曲げられない、その意思を汲んでくれたのかリツカは強く頷いた。

 

「わかった。マーリン、時間はどのくらい猶予ある?」

 

虚空に話しかけると、どこから現れたのかマーリンが姿を現す。

わたしと、リツカとそしてレインを見て少し考えるようにして口を開いた。

 

「レインフォートくん、猶予がないのはお互い様だろう?」

 

「だからどうした?まさかロクデナシの君まで僕を止めようって話かい?」

 

「いいや、どのみち君を越えられないようでは厄災は討てないだろう。君と楽園の妖精が戦うのを止めるつもりはない。だけど、時(・)間(・)が(・)な(・)い(・)んだ。それはわかっているね?」

 

「……わかっている。だからこそ、この場で戦うつもりはないよ」

 

「そうか、それならいいんだ。君の妖精領域の全てのリソースを使えばほんの少しくらいの時間の圧縮くらいならできるだろう。それでも30分以内には帰ってきて欲しい。でないと本当に全てが終わってしまうからね」

 

そう言い残して、マーリンは花びらとなって消えていく。

時間がない、レインを相手に戦うには30分は少ないかもしれない。

 

でも、もう止まれない。

 

わたしの旅はこの先で終わる。

 

レインの放つ魔力が途端に大きくなった。

 

きっと今のわたしと同じかそれ以上。

 

世界が、レインを中心に塗り変わっていく。

 

暗く終わりに向かっていたブリテンから、明るく繁栄していたオークニーへ。

 

あの時ウルヴァーとレインが戦っていた大広間にわたしたちは立っている。

記憶幻想領域オークニー、その中心でわたしたちは対峙している。

 

「どうしても聖剣を作りにいくのなら、僕を殺してでも進め。しかし、その程度の覚悟すら持てないのならこのブリテンを捨て、そこにいる人類最後のマスターと共にどこへなりとも逃げるがいい」

 

わかっている、その言葉がその行動が全てわたしのためだってことは。

 

 

「───楽園の妖精の使命、その結末を僕は否定する」

 

でも、わたしのこの行動だってレインのためだって。

どんな結末でも、あなたの道を照らすための剣になれるのなら。

 

「今更逃げるとでも思った?わたしの負けず嫌いは元からだけど、諦めの悪さと欲が強くなったのは誰のせいか……しっかり教えてあげる!」

 

いまは、どれだけ否定されようともこの道を突き進むんだ。

 






楽園の妖精、その使命の終わりを僕は認めない。


星の聖剣が造られなったのは彼女たちの責任ではない。


現世の情報を蒐集し、その命を……まだ幼い命を散らして造るようなものなら必要ない。


そんな世界なら滅びてしまった方が幾分がマシだろう。




次回『アルトリアvsレインフォート(おやこげんか)』

アヴァロン・ル・フェの更新について

  • 今まで通り月に3〜4話見れればいい。
  • 待ってもいいからストックして放出
  • 別に気にせんでええねんで(^ω^)
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