お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
日曜日なのでサプライズ貯蓄放出です。
レインフォートの攻撃は、あまりにも苛烈なものだった。
幾重にも張り巡らされた攻撃魔術、モルガンとの戦闘とはまた別次元の魔術の頂に立つものが繰り出すありとあらゆる属性や指向性の魔術の嵐。
妹が神域の天才と評される妖精ならば、兄もまたその領域に足を踏み入れるものなのだと、その場にいる全員が確信する。
レインフォートといえば水の魔術や円卓の騎士の宝具の名を冠する魔術というイメージが誰にでもあった。
実際に彼がこれまで好んで使ってきたのはその手の属性や宝具の名を冠した魔術であったからだ。
しかし、蓋を開けてみればその概念は一気に覆されることになる。
ありとあらゆる属性の魔術に当然のように繰り出される複合属性の魔術。
しかもそれを無詠唱でフィンガースナップや軽く腕を振るだけで行うという魔術師泣かせの魔術行使の数々。
アルトリアにさまざまな魔術を教え込んだのはレインフォートであり、またアルトリアはレインフォートから教わった魔術を応用した魔術を使う。
アルトリアが得意な術は基本的に支援と聖剣魔術であるが、それだけではないと旅の中でさまざまな場面で証明し続けてきた。
「どうしたアルトリア、守るだけじゃあ僕には何も届かないよ」
「こんな嵐みたいな魔術の物量ぶつけてきてよく言うよね!少しは娘に手加減とかしようと思わないの!?」
「思うわけないだろう。少しばかりのケガと君の命じゃ天秤にかけるまでもない。この程度で音を上げるならさっさと尻尾を巻いて逃げることを勧めるよ!」
パチンッとレインフォートの指が鳴る。
風と雷、そしてその中に炎と闇の要素を詰め込んだ竜巻が一度に八つ。
アルトリアは心の中で極大の舌打ちをする。
「陛下でもこんなことしなかった!!」
「あの子は自分の都市で戦うんだからここまでのことはしないだろう。手加減されていたのに気が付かなかった?」
「この、バカにして……!!」
迫る竜巻を竜巻より強い魔力で練り上げたレイン・クラレントの雷で焼き払う。
次の魔術が放たれる前に、数十の聖剣魔術を展開してレインフォートの周囲を包囲した。
あの時、キャメロットでモルガンに放った聖剣魔術を74基同時に展開するアルトリアの切り札中の切り札。
ほんの数日前の出来事だと言うのに、魔術の練度は比べ物にならないほど上昇していて、展開の速度もあの戦いよりも数秒だが速くなっている。
魔術戦における数秒は戦いの勝敗を分ける重要な要素だ。
ほんの数秒、ほんの数瞬、相手の思考速度よりも速く行動するだけ勝利への一歩が近づいてくる。
光の剣が、炎の狼が、雷の槍が、速射と装填速度に優れた剣が一斉にレインフォートへ殺到する。
射出、着弾、爆発。
モルガン相手にしたときの反省から、射出と同時に再装填。
74の聖剣の名を冠した魔術はモルガンの時の2倍3倍とその射出数を増やしていく。
相手は自分が最も尊敬する魔術師だ。
自分が最も信頼している魔術師だ。
このブリテンで1番強い魔術が全幅の信頼を向ける魔術師だ。
それが相手ならばこの程度でやりすぎと言うことは絶対にない。
「はは……やっぱそうだよね」
現に爆炎の中からは無傷のレインフォートが姿を見せたのだから。
「まったく、どこでこんな野蛮な魔術を覚えてきたんだ。僕じゃなければ死んでいたところだよ」
数日前に聞いたような言葉と共に、レインフォートはさらに言葉を続ける。
「いい攻撃魔術だ。これなら確かに厄災の一体や二体は祓えるだろう。でも、それだけだ……その先はない、僕を倒せないのなら所詮はその程度だよアルトリア」
再び、パチンと指が鳴る。
アルトリアの頭上に展開されたのは巨大な水鏡。
そして、その中から射出されてきたのは先ほど自分が放ったいくつかの魔術。
全部で222放たれた魔術のうち50以上の魔術が自分の頭上から降り注ぐ。
よりによって選ばれていたのは足の速いスピュメイダーとシャスティフォルばかりで瞬間的に避けられないと認識した。
「『
対粛清防御、この旅の中で幾度と使用したアルトリア・キャスターの専売特許とでもいえる最強にして難攻不落の防御魔術。
天から降り注ぐ50以上の魔術を全て受け止め、次の攻撃に備えようとした時……腰に今まであった重みが消えていたことに気がつく。
短刀の代わりに腰に装備していた霊剣シャスティフォル。
それが防御に集中してる間に抜き取られていた。
「……返して」
「返す?これは異なことを言うね。“コレ”は元々僕の剣だ、レイレナードがいない今、僕の手元にあるのは自然なことだと思うけど……それとも、“コレ”がないと何か不都合なことでも?」
意地の悪い質問だ。
あの剣がなければこの先の使命は行えない。
行えないことはないが、それでも必要な分は用意できない。
「いいよ、そういうこと言うんなら無理やり奪い返すから……!」
「出来るものならやってみるといい」
高圧的なその態度に若干の苛立ちを覚えつつも思考はあくまで冷静に。
飛んでくるであろう魔術と組み合わせてくるであろう剣技に警戒をはじめる。
****
やはりというか、想定はしていたけれどアルトリアは強くなっていた。
魔術の腕もそうだが、その精神性もそうだ。
以前ならほんの少しだけ力を込めたような言葉を言えば怯えていたし、今のような高圧的で冷ややかな言葉を掛けようものなら泣いてしまうような子だったのに。
それを向けられても怯むどころか啖呵を切って軽口を返してくる。
実際問題、彼女の親とは言うが一緒にいたのはほんの一年にも満たないような短い期間だ。
しかし、それでも僕に芽生えたこの感情は……あの別れの時にアルトリアから“おとうさん”と呼ばれた時にはっきりと認識できた。
モルガンに向けるような愛、それに近しくも違う愛情を彼女には向けていたのだと。
だからこそ、どんな結末になろうとも彼女を選定の場に送ることはしたくなかった。
泣き虫で、強がりで、よく笑って、よく話して。
知らないことに興味津々で、なんでも楽しそうに学ぶ。
彫金の腕はさらに磨きがかかっただろうか。
魔術の腕は見違えるほど上がったね。
もうイノシシに追いかけられて泣いてないかな。
立派な衣装を着て、その小さな身体にのし掛かる重圧に負けてないかい?
たくさん、出会いを別れを繰り返して苦しくはなかっただろうか。
君の旅に、付き合ってやれなくてすまない。
君が苦しい時にそばにいてあげられなくてごめん。
辛くて嫌な選択ばかりをさせて……。
頬に、彼女の魔術が掠る。
切れ味のいい魔術だ、頬から流れる血を拭ってアルトリアをしっかりと見据える。
諦めるという意思は感じ取れない。
僕が放つ魔術と剣技の隙を狙って虎視眈々と反撃の一瞬を見定めている。
アルトリアの意思はきっともうどうやっても曲がらないだろう。
どれだけ叩きのめしても、きっと勝つまで立ち上がる。
こうなって仕舞えば僕の根負けだ、いくら無制限の魔力を持っているからと言っても結局時間に追われているのは僕だって同じだ。
だから、きっと剣を持つ手が魔術を操る手が緩んでしまった。
ほんの一瞬だけ隙が生まれてしまったのだ。
****
(ここ……!いましかない!!!)
明確に生まれたレインフォートの隙。
魔術と剣技をどれだけ瞬間的に使い分けていても表れてしまった、きっと最初で最後の隙をアルトリアは見逃さなかった。
レインフォートまでの距離はアルトリアの足でおおよそ5歩分。
杖を握った手とは反対の手にもう慣れ切ったルクス・アロンダイトを展開してレインフォートの一歩前に駆け出す。
これを振り抜けば勝てる。
この剣を、レインフォートの腹に目掛けて斬り掛かれば文句なしにアルトリアの勝ちだといえる。
だけど、彼の顔を見てしまった。
いつものような優しい、それでも勝つことを諦めたようなそんな顔だった。
(出来るわけ、ないじゃん)
でも、最後のその瞬間……アルトリアが選んだのは武器を全て捨ててレインフォートの腹に突っ込むことだった。
勢いよく走ってついた勢いをそのままに、数ヶ月前までと同じように。
まるでなんでもなかったかのように、アルトリアはレインフォートに抱きついた。
「…………わたしの勝ちだよ」
「───困ったな、僕の負けみたいだ」
先ほどまで行われていた苛烈な戦闘とは裏腹に、その終わりは何よりも静かで優しい終わりを迎えたのだ。
レインフォートも手にしていた武器を離して、胸に飛び込んできた愛娘をしっかりと抱きしめ返した。
「……アルトリア、使命を果たしに行くことがどう言う意味かわかっているね?」
「うん、わかってる。ヤケになったわけじゃないよ、わたしなりにしっかり考えて……それで出した結論」
「もう、会えなくなる」
「うん、でもいいの。わたし、レインに会えて幸せだったよ。辛いことばっかりだったわたしにたくさん楽しいことを教えてくれた。あんなに笑っていられたのも、あんなに泣いたのも、たくさん話せたのも……全部レインがわたしを拾ってくれたから」
「だからね、レイン」
ほんの少し、息が止まる。
レインフォートの胸に収まっていたアルトリアが少しだけ離れて、優しい笑顔で彼に本心からの言葉を口にした。
「レインから貰ったたくさんの“愛”をほんの少しでもレインに返したい。きっと世界中の誰よりもあなたに救われたわたしが出来る、唯一の恩返しをしたいのです」
「……恩返しなんて、そんなもの必要ない!君はまだ16歳で、楽しいことも……悲しいことも、幸せなことも……まだ、これからたくさん経験していくはずだったのに……!」
レインフォートの瞳から大粒の涙が溢れる。
辛くて、苦しかったのはアルトリアの方だったはずだ。
ほんの少し、ほんの少しアルトリアに手を差し伸べて生きていくための知識を力を彼女に与えただけ、彼女が笑えるようにと一緒に時間を過ごしただけ。
そんな、そんな当たり前のことが……そんな当たり前の時間が何よりも幸せだった、なんて。
「ううん。わたしはもう十分幸せだったよ。生まれた時からレインに拾われてたらもっと幸せだったと思う、でも……わたしの物語はこうだったから。ここで終わり……愛娘からの最初で最後の親孝行、受け取ってくれる?」
その問いかけに、レインフォートがすぐに首を縦に振ることはできなかった。
頷いて仕舞えば、彼女は星の内海に向かい選定の場で聖剣を鍛造してその命を散らしてしまう。
頷けるわけがなかった、自分を父と呼んで慕ってくれる子の生命を散らすような恩返しなんてあってたまるかと叫びたかった。
───でも、自分は確かに負けたのだ。
真っ直ぐに挑んできて、その果てに勝利を掴んだのはアルトリアだったのだ。
「……わかった」
結局口から出たのは震えたそんな小さな声だった。
「うん、ありがとう」
短い感謝の言葉と共に、最後の別れのようにもう一度強く、強くレインフォートを抱きしめた。
その小さな身体は震えていて、これから自身を星の炉に投げ入れることになることが怖かった。
でも、この温もりがあればきっと大丈夫。
「ありがとう、ブリテンではじめて……わたしを愛してくれた人」
「きっといい剣が出来る。それで、世界を救ってね」
「……ああ、約束する。キミが造る剣に相応しいように必ず世界を救ってみせるよ」
世界に光が満ちる。
止まっていた時間が動き出したように、レインフォートの妖精領域が解除されて彼自身も同時にいなくなっていた。
代わりに、彼のいた場所には霊剣が選定の剣のように突き立てられていて。
「───お別れは済みました。星の内海へ進みましょう」
アルトリアが霊剣を引き抜いて見守っていたリツカたちへ告げる。
「わたしたちが聖剣を作り終える頃には彼はブリテンのどこかで厄災と戦っているはずです。きっと厄災と戦うための切り札になってくれる……だから、聖剣を彼に託す役割はお任せしますね」
ほんの少し、震える声のままアルトリアは自分の使命の結末を口にした。
「───わたし、聖剣を作ったらそのまま死んでしまうので」
アヴァロン・ル・フェの更新について
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今まで通り月に3〜4話見れればいい。
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待ってもいいからストックして放出
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別に気にせんでええねんで(^ω^)