お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第六星 『あなたの為のつるぎ』

 

視界が再び切り替わる。

楽園の花畑から世界はあの冷たいキャメロットへ。

これは夜のキャメロットで時々モルガン陛下が魔術の手解きをしてくれた時の思い出だった。

 

「そう……上手ですね。やはりお兄様が教えていただけあって飲み込みはいい。その魔術の理論は完璧にできていますが、構成が少し甘いのでしょう。いいですか?その魔術を使う時はこうやるのだ」

 

何度もお手本を見せてくれて、上手にできたらちゃんと褒めてくれた。

たまにバーヴァン・シーが来て、メリュジーヌが空から降りてきて、バーゲストが軽食を持ってきてアーデルハイトがわたしが陛下に指摘されたところをまとめて渡してくれる。

そんな光景をレインが少し離れたところから笑顔で見つめていて、確かにわたしにとっては1番楽しかった時期といえばこの頃だったかもしれない。

最初はキャメロットに連れて行かれてからはやることもなくて腐っていたところをモルガン陛下が連れ出してくれたのだ。

 

モルガン陛下はやっぱりというか、当たり前のようにすごい人でした。

わたしの魔術を見てすぐに構成が脆いところを見つけて指摘してその補強の仕方を教えてくれて。

なんだったらバーヴァン・シーとわたしの魔術を同時に見てそれぞれのダメなところや改善の仕方を同時にしてくれたりもした。

だから、わたしはひとつ聞いてみたいことがあって陛下と2人の時に聞いてみたのでした。

 

「陛下の好きな魔術ってあったり……」

 

「私の好きな魔術?特にないが……ああ、いやひとつあった」

 

そう口にしてモルガン陛下が使ったのは指先に火を灯す。

それは天才が好む魔術としてはあまりにも地味でわたしは呆気にとられていて。

 

「これはお兄様が私に初めて教えてくれた魔術でな。昔の私は本を読むのが好きで夜な夜なこの魔術でランタンを灯しては読書に耽っていたものだ」

 

それは冬の女王と呼ぶにはあまりに優しい理由で素敵な魔術でした。

だから、わたしはこの時には陛下が好きになっていたのでしょう。

だってあの過ごした時間でその場にいた誰もが嘘を言わなかったのです。

きっと、わたしが楽園の妖精でなければ出会うこともなかったけれど……楽園の妖精でなければこんな時間がずっと続いて欲しいと思ったのは事実でした。

 

 

 

 

「お前、服は結構マシなもの着てるくせにその田舎くさい帽子はどうにかならないわけ?」

 

「え、なに急に喧嘩?」

 

「違うっつの。その帽子だけ今着てる服に合わないって言ってんの」

 

それはバーヴァン・シーとたまたまお茶を飲むことになった時の話。

この頃はレインとの旅もニュー・ダーリントンまで終えて少しした頃、キャメロットに戻ってきていたバーヴァン・シーが部屋まで来て『ちょっとツラ貸せよ』なんて治安の悪そうな誘い文句でお茶会に誘ってきたのでした。

 

蓋を開けてみればただのお茶会。

美味しいお菓子と美味しい紅茶が用意されていてわたしの彫金細工に興味を持ってくれていたことを話していたのです。

 

「ボロいわけでもないし、そこそこ丁寧に手入れしてるのはわかるけどさ。細工をする時にはいいかもだけど、今の服装には合わねぇだろ」

 

確かに、エクターにもらったこの帽子ももう随分使い込んでいた。

あのログハウスにいた時はしっかり手入れして大切に保管していたけど、この旅を始める時に再びかぶることにして……ずっとかぶっていたままでした。

 

「あはは……これね、昔に大切な人からもらったもので」

 

「あー、思い入れとかそういう話?なら尚更だろ。その帽子が大事ならその帽子に似合う格好をしろって話。そうね、キャメロットの服屋じゃちょっと物足りないから……やっぱりグロスターで探すのが1番か?」

 

「えっと、トリスタン?」

 

「よし、お前の旅が終わって少ししたらグロスターに行くわよ。その帽子に似合う職人っぽい服とカジュアルな服、私が見繕ってやるよ」

 

「え……!?そ、そんなわたしみたいなのにグロスターの服なんて似合わないよ!」

 

「バカ言ってんな。馬子にも衣装っていうだろ?お前素材だけはいいんだからそれなりの服だって着こなせるって話だよ」

 

『約束な?』そう告げたバーヴァン・シーの笑顔は普段の悪逆令嬢とは違う純粋な笑顔で、そのときわたしの中で彼女の評価は一気に変わったのです。

 

結局、彼女との約束は果たせなくて……わたしにとってささやかな楽しみであった小さな願いはまた叶わなかったのです。

 

 

 

 

「料理を教えて欲しい?私にか?」

 

それは旅も半分終わった頃。

キャメロットに帰城していたバーゲストを見つけた時だ。

妖精騎士への苦手意識もほぼ無くなり、個人的に苦手意識のあるバゲ子にも声をかけるべき、という

 

「うん、ガウェインって料理上手でしょ?軽食みたいなのでいいから旅先で作れそうなものをひとつ……教えて欲しいなって」

 

「なるほど、確かキャメロットから目的の街までは徒歩で移動しているのだったか……レインフォート殿にだけ食事の準備をさせているのに気後れしているとみる」

 

「ま、まあそんなところ?完全初心者のわたしにも作れそうなレシピある?」

 

「……まあ、あることにはありますが。いいでしょう、今日の深夜キャメロットの食堂まで来なさい。誰にも見つからないように」

 

なんだかんだ言って、この騎士は面倒見がいいのだ。

そして、城内でもひとが捌けた深夜。

こそこそと部屋を抜け、もはや得意技となったキャメロット城内でのスニーキング術で食堂へと向かえばバーゲストが鎧を脱いだエプロン姿でわたしを待っていたのです。

 

「来ましたわね」

 

「え、どうしてそんなお嬢様言葉……?」

 

「普段の口調の方が作っている方なのだ」

 

「あっ……そうだったんだ。うん、そっちの方がいいじゃん!」

 

主に偉そうじゃなくて、とは口が裂けても言えない。

でもそんな言葉を聞いてバーゲストは微笑んだ。

 

「では、はじめて行きましょう。今回は簡単に作れる───」

 

そうして、バーゲストから教わる深夜の料理教室もわたしのキャメロットでの日常になって行ったのでした。

 

 

 

 

「じゃあ彫金は独学なんだ?」

 

「基礎は昔お世話になったおじいさんのやつを見てて……レインにあってからは最初の方はデザインしてもらってそれを作ってた感じで」

 

「それでも凄いよ。あのデザインのアクセサリーを見た時は私も驚いたものだよ。今のところこのブリテンではピカイチの作品さ」

 

「え、えへへ……そうかなぁ〜」

 

これはキャメロットに行ってすぐの頃、わたしに与えられた個室にメリュジーヌが押しかけてきた時の記憶。

わたしがキャメロットにいく原因になった彫金細工を持って押しかけてきて強引に話をしようと言ってきたのだ。

 

興味深そうにいろんなことを聞いてくれて、その時のわたしは妖精騎士の目にもわたしの作品が評価されてると有頂天になってたのは間違いない。

 

「私も結構いろんな細工は見てきたけど、なるほどレインがデザインの師ならこのブリテンにはない意匠なのも納得だ。君がこのまま彫金師として大成するならお抱えの細工師にしたいくらいさ」

 

「あはは、そんな大袈裟な……」

 

「冗談なものか。知らないのかい?竜は価値のある財宝は自分のねぐらに溜め込むって……君の細工はそれだけの価値があるってこの私が言ってるんだよ」

 

その時のメリュジーヌの目は竜種特有の縦目で、ほんの少しだけ恐怖を感じたのを覚えている。

でも、結局その話はなんとかかわしてその後はレインと過ごした時間の話で盛り上がったのでした。

 

 

 

 

「えっと、レイレナード……さんは昔はレインの部下だったんだよね?」

 

「レイレナード、もしくはアーデルハイトで構いませんよ。私はオークニーの騎士団、現政権で言うならば女王騎士をまとめる立場にありました。騎士団に命令を下すのが殿下でしたので私の直属の上司であり、殿下を含めた王家の方に仕えていましたからモルガン女王陛下にも仕えていたとも言えるでしょうか」

 

「やっぱり、昔からレインって凄かったの?」

 

「はい、私が仕えたのは500年程度でしたがその手腕は当時のブリテンで最高峰であったと言えましょう」

 

これもキャメロットに行ってすぐくらい。

毎日律儀にお菓子を持ってきてくれるレイレナードに興味本位で聞いてみたのだった。

 

「もし、ご興味があれば私の知る殿下の話をいたしましょうか?」

 

「いいの!?」

 

「もちろん、他の妖精ならともかくアルトリア様であればいくらでも」

 

そこから毎日、お菓子を持ってきてくれる時間に少しづつレインがオークニーにいた頃の話を聞かせてくれたのです。

明るくて、幸せそうな国だったというのはこの時の話から知っていたから実際にオークニーに行った時に見た光景には驚きを隠せなかったのですが。

 

 

 

ほんとうに、ほんとうにわたしにとっては幸せな時間だったのです。

 

成り行きで始まってしまったレインとのふたり旅。

 

わたしのミスで見つかってしまったモルガン陛下との邂逅。

 

でも、その幸せの時間から決別したのもわたし自身の選択だったのです。

 

 

 

───春の記憶はこのあたりで。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「なんだ、やれば出来るじゃん。うんうん、捨てたもんじゃないねわたしの人生も」

 

「アルトリア……」

 

「なに?もしかして陛下とわたしを戦わせたことに後悔でもしてる?」

 

「それは、その……」

 

ちょっと無神経な問いかけだったかも、なんてちょっと後悔。

でも、リツカやマシュがそのことを気にしてるならそれこそお門違いというものでしょう。

 

「リツカが気にすることじゃないよ。流されて、自分で決められなかったのはわたしのせい。陛下と戦ったのも、バーヴァン・シーを取り返しのつかないところまで落としちゃったのもそう……結局最後はわたしが決めたことなんだ。わたしがやったことだから、それはわたしが背負うべき責任なんだ」

 

「でもそれは、私のせいじゃないっていうことには…ならないよ」

 

「困ったな……じゃあ、こうしよう。リツカは今見たわたしの記憶を忘れない。わたしが生きたこのブリテンを忘れないで。それだけでいい、それだけで、きっとわたしたちの歴史にも意味が生まれるでしょう」

 

これは呪いでしょうか。

問いかけるまでもない、最低最悪の呪いだ。

こんな最悪の結末を迎える世界のことを忘れるな、なんて。

 

ああ、でも……ひとつだけこれだけはお願いしないと。

 

「あと、レインのことは首根っこ掴んででも連れて行ってね。それだけは絶対に約束」

 

「うん、わかった。どっちも約束するよ、ブリテンのこともアルトリアのことも……レインさんのことも絶対に」

 

「よかった、それじゃあ行きましょう。つまらない記憶巡りはこれでおしまいです」

 

いつも通りに、最後まで前を見て進む。

みんなの足取りが遅いけど、先に進んでわたしも最後の覚悟を決めましょう。

 

 

「…………村正」

 

「……わかってる」

 

アルトリアよりも少し後ろにいるふたりはそんな短いやり取りをしているとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

****

 

星の内海、選定の場。

 

楽園の妖精、その生命の終わりの場。

 

わたしの生まれた意味が、わたしの過ごしてきた時間を清算する場所。

 

「ここが───聖剣の鍛錬場ですか?」

 

「そうだ。中心にあるのが宙の炉(ソラのなか)。楽園の妖精の還る場所。あそこにキミが身を納めれば、聖剣は確立される。この異聞帯だけじゃなく、白紙にされたすべての歴史で人類の武器としての聖剣が与えられる」

 

「それで、リツカとマシュの……レインの生きる世界は救われるのですね?」

 

「ああ、救われる可能性ができる。0が1になる」

 

その回答が1番大切だった。

それなら、ちゃんとこなさないといけない。

 

「そっか、ならやっぱりやらないとですね!ブリテンも正しい姿に戻る、外の世界も救える。まさに一挙両得です」

 

「アルトリアさん……ですが、それは……」

 

マシュの消え入りそうな声が、選定の場に響く。

明らかにその顔はこれから起こる事象へのためらいを感じる。

それはリツカも同じ、わたしが強がっているのをわかっていて……きっと最後に止めようとしているのかもしれない。

 

「……やっぱりやめよう。レインさんの言ってる通り、ふざけてるよこんな話」

 

「───でも、約束してくれたのはあなたですよ」

 

リツカの言葉を遮るように、わたしは彼女に背を向けた。

ヒカリが溢れる、そのヒカリの中に足を踏み入れたら……わたしはもう帰ってこれない。

 

「あ。でも、最後だから告白しちゃうとですね」

 

最後だから、きっと今までの心のうちを曝け出しても許されるでしょう。

 

「わたしは、妖精と人間も、ブリテンも使命も、すべてがイヤでした」

 

「戦いは怖いし、憎しみあうのはしんどいです。普通にみんな笑ってられるのが1番ハッピーです」

 

「それを言ったらきっとみんなガッカリするから『予言の子』らしく振る舞っていました」

 

「だから、みんなとの旅はいつも綱渡りで」

 

「今回はたまたま頑張れたけど、次こそわたしは放り出しちゃうだろうなって。そんなわたしがレインに泣き付かずにここまでこれたことに、わたしが1番呆れています」

 

聖剣を作るということは妖精國をなくすということ。

妖精も人間も好きにはなれなかったけど、それでもその根底にある『願い』だけはずっと見えていたのだから。

誰もが心の底で救われたいと願っていた。

それがどれだけ自業自得だとしても、その願いを笑うことも蔑むことも出来なかった、そんなことをする資格はわたしにはなかった。

 

「どれだけ頑張っても、報われないこともある。ずっと思ってたんだ、世界を好きになれないわたしなんかが世界の行方を決めていいわけないって」

 

「───でも、行くんだよね?」

 

リツカの言葉が、背中の向こう側から届く。

 

「───うん、やる」

 

「わたしはわたしの使命を果たします。理由は、ここではちょっと話せないけど、それでもしっかりとこの胸に決意だけはあるのです」

 

「わたしは……わたしを愛してくれた人のために、ずっと嵐のなかを進むのです」

 

ヒカリの中に、わたしの身体が溶けていく。

ゆっくりと輪郭が消えて行って記憶がなくなり、わたしという個体が消えていくのでしょう。

 

星の内海は好き好んでわたしの記憶を取り出すんじゃない。

聖剣を作るには、その時代のあり方を材料にする必要があるからだ。

生まれた時からわたしはただの集積器だった。

より毅(つよ)く、より善い聖剣を象るための。

 

たくさんの思い出が溢れていく。

 

立香たちと一緒にいた赤髪のトリスタン。

小さいけれどとても頼りになったダ・ヴィンチ。

わたしを何度も助けてくれた村正。

お節介で口も悪いけど最後までわたしを守ってくれたオベロン。

背中にわたしを乗せてブリテンを駆けてくれたレッドラ・ビット。

わたしの騎士だと胸を張ってくれたガレス。

勇敢で誰よりも幼かったパーシヴァル。

誰よりも鮮烈に記憶に残ったノクナレア。

なんだかんだずっと気を遣ってくれたグリム。

強い心を持ってみんなの盾になったマシュ。

そして、誰よりも強い心を持って歩き続けたリツカ。

 

旅の仲間たちとの思い出が、どんどん溢れてくる。

酷い世界だった、でもわたしが出会った人たちは間違いなく善いひとたちでもあったのです。

 

口は悪いけど面倒見のいいバーヴァン・シー。

忠義の騎士でありながら乙女としての側面も持ち合わせていたバーゲスト。

他の誰よりも私の彫金を誉めてくれたメリュジーヌ。

わたしに沢山のことを教えてくれた雨の騎士のレイレナード。

 

 

そして、このブリテンで本当は1番優しいモルガン陛下。

 

ああ、安心した。

これならきっといい剣ができる。

あの嵐の中の光のように、どんな悪性にも負けない輝ける星が。

 

ここではない彼方。

わたしではない貴方。

 

多くの願いを受けて、多くの笑顔に報いるために。

選定の場で顔をあげた、貴方に相応しい剣に。

 

 

───でも、まだ終わりじゃない。

貴方に託す剣にはわたしの旅の思い出を。

それでも、手に持ったこの霊剣に込めるのは──

 

わたしにたくさんの幸せをくれた。

 

わたしに生きる喜びを教えてくれた。

 

わたしに別れの悲しみを教えてくれた。

 

わたしにたくさんの色を与えてくれた。

 

わたしに、愛をたくさんくれた。

 

レインフォート・アーデルハイト。

 

あの時、わたしに手を差し伸べてくれてありがとう。

 

わたしを信じてくれてありがとう。

 

わたしのために泣いてくれてありがとう。

 

貴方がくれたこの素敵な“愛の記憶”はしっかりと貴方を導く光の剣になってくれるでしょう。

 

 

───ああ、でも。

 

この剣を手にした1番素敵なあなたを見れないのは、少し残念で。

 

 

「そうかい。なら、まだここで終わりじゃねえな」

 

「───え、なんで」

 

この場にいるはずのない声が響く。

ここは星の内海で、わたし以外には来れないはずなのに。

 

「なんでもなにもねぇ。刀作りなら儂(オレ)だろ。定めを切り業を切り、刀に捧げた我が人生ってな。千子村正舐めてんじゃねえぞ」

 

いや、そうじゃない。

どうしてここにいるとかじゃなくて、どうやってここにきたって話で。

 

「ほら、どいたどいた。剣という金型があるなら、お前さんが命を捨てる必要もねぇ。それに必要な材料は最初からお前にあったんだからな」

 

「だが、あいつらにくれてやる分は別だ。金型も鉄も全部お前さんがやってやらなきゃならねぇ。それに納得してなかったのはお前の親父だけじゃないって話だ」

 

「都合のいいことに、目の前には手本になる聖(・)剣(・)がある。なら、あとは儂(オレ)に任せな」

 

「ダメ!嬉しいけどダメ!村正、灰になっちゃう!」

 

現に、本来立ち入るべきではない者が入り込んだことで今も彼の身体を星の熱が焼き続けている。

 

「おう!それがなんでぇ!鉄を打つのが鍛人の本懐、それが神域のモンなら命を燃やす価値がある!鍛冶場が熱いのは当たり前だ!この霊基、焔になっても打つ手は止めねえ!」

 

大きくひとつ、鉄を打つ音が響く。

2度、3度、規則正しくそれでいて力強い音が響く。

鍛錬を繰り返すたび、村正の身体が焼き崩れていく。

 

「いけるいける。お前が作った手本があるんだ、徹底的にガッツリ鍛えてやろうじゃねえか!」

 

なんども、なんども、身体が焼け落ちて尚鉄を鍛える音は止まらない。

 

「だからダメだって……えっ!?わたし、なんか浮いてない!?」

 

「おう、儂(オレ)が仕事を受け継いだからな。邪魔なんで追い出されるんだろうさ」

 

「じゃあな、『予言の子』。何もぜ(・)ん(・)ぶ(・)を使うことはねぇ。お前が持っていく剣にはお前さんの大事な思いが、儂(オレ)が作る剣には旅の思い出とお前の覚悟が詰まってる」

 

「親父に会いたいって思いがあるなら尚更だ。残るのはほんの少し、最後の仕上げ分くらいの力だが……それはお前自身のために使え」

 

村正の背中が遠ざかっていく。

わたしの手には、青く輝く聖剣が握られていて。

彼の鍛える剣は未だその熱を彼に向けて放っている。

 

「その代わり、儂(オレ)はここで仕事上がりだ。お前ら親子に命を拾われたんだから、命で返すのは当たり前だろ?」

 

「そんなの、とっくに払い終わってる!こんな……こんなこと村正がすることじゃないでしょ!?」

 

「おう、だがそんなこと気にすんな。これは儂(オレ)がやりたくてやることだからな」

 

「だから、最後の時間を悔いのないようにしな。それが、お前に髪飾りを作ってやれなかった儂(オレ)からの最後のプレゼントだ」

 

ヒカリが遠ざかっている。

英霊、千子村正の存在が完全に消え去っていくのがわかる。

 

 

 

 

 

 

───わたしの手に二振りの聖剣を残して。

 

 

 

 

「ありがとう、村正。貴方の最期の働きに報いるために、私(・)も役割を果たすと約束しましょう」

 

 

 

希望は、この胸の中に。

 




えー、ここまでストックしていたお話がここで尽きました()
これを書いた後からですね、ちょっと体調崩してしまってぇ……。
この後はいつも通り書き上げ次第投稿していくような形になります。

Q.えっ!?聖剣が二振り!?そんなのありなんですか!?
A.ありなんだよ(キリッ)。霊剣は聖剣の金型であり本来はこれに楽園の妖精の集めた記録を使うことで聖剣になるものでした。

Q.なんで楽園の妖精に金型としての機能は残っていたの?
A.霊剣が紛失した際の予備機能(言い方)。

Q.アルトリアはどうやって2本作ろうとしたの?
A.本来使うべき季節の記憶と予備機能で原作同様の聖剣のエッセンスをつくり、本来得るはずのなかった彼女だけの“愛の記憶”で霊剣を使ったたったひとりの為の聖剣を作ろうとした。
そんなことしたら存在そのものを全て使うのでAAどころか英霊として登録されることもありませんでしたが(ひとのこころ)

Q.つまり村正はナイスプレーってこと?
A.超ファインプレー、よくやった村正。

アヴァロン・ル・フェの更新について

  • 今まで通り月に3〜4話見れればいい。
  • 待ってもいいからストックして放出
  • 別に気にせんでええねんで(^ω^)
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