お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
楽園から帰還したアルトリアと藤丸とマシュ。
マーリンの奮闘のおかげでブリテンの大穴からケルヌンノスの姿が一時的に消え去り、マシュの『円卓の盾』に格納された『聖剣の
次にカルデア一行が行うのはブリテンを焼き歩みを進める魔犬の討伐。
その後に控えるケルヌンノスの討伐に向けた話し合いが進んでいた。
「結局のところ、ケルヌンノスに攻撃を通すには物理的な攻撃ではなく霊的攻撃のみ、干渉が出来ると見ていいだろう。アルトリア・キャスターに賢人グリム。我々が持てる戦力ではこの2人以外にそれを持ち得ない」
ホームズの思考において尚、現状ケルヌンノスを突破するための決定打が思いついていない。
最高位の楽園の妖精に最高神の遣いであるグリム。
その2人を持ってしてもあの呪層で固められた肉を突破し神核を貫くための武装がこのカルデアには足りていなかった。
しかし、やることは決まった。
測定結果によるケルヌンノスの出現はおおよそ30分。
さらにそこから呪いが溢れ出すまでの1時間。
残り1時間半がカルデアに残された決戦の時間だった。
その間に少しでも作戦を詰めようとホームズが声をあげ───。
ストーム・ボーダーを大きな振動が襲った。
アラートが鳴り響き、ムニエルが観測する機体制御のモニターには右舷後方が攻撃され損傷したと警告が出ている。
「右舷後方に衝撃!物理防御、一撃で切り裂かれた!内部通路が露出してる!くそっ!マリーンが1人落ちた!」
「ダ・ヴィンチ!今の熱線はなんだ!?ストーム・ボーダーの装甲を切り裂くなんてそれこそ神造兵装しかありえないぞ!」
「ちょっと待って!今モニターに出す!」
ダ・ヴィンチの声と共に、ブリッジのモニターに巨大な機影が映る。
その姿は戦闘機のようであった。
しかし、その形を誰もが同じように口にするのなら。
「───ドラゴン?」
立香の口から思わずこぼれたその言葉に誰もが頷く。
「対気速度1200km/hからなおも加速!すご、大気中の魔力を利用して跳ねてる!」
計器に表示される黒き機竜の速度は信じられない速度で上がっていく。
マッハ1、さらに超えてマッハ2。
その速度をさらに超えて加速を続ける。
その速度のままストーム・ボーダー目掛けて旋回し直撃コースで突っ込んできた。
「高度上げろ、最大加速!直撃すればブリッジごと切り裂かれる!」
ネモの指示が飛び、ムニエルの操舵でギリギリ直撃を免れる形で機竜の突撃を避ける。
「敵性生物との距離10、14km!あー、また旋回した!どうするのキャプテン。あいつ、完全にボクたちを撃ち落とすつもりだー!」
「わかってる!とにかく高度上げて!引き離すのは不可能だ!こちらの高度限界が向こうよりも上なことを願うしかない!ダ・ヴィンチ!あいつは一体なんだ!新しいデータなにかある!?」
もはや怒鳴り声のようなネモの問いかけ。
しかし、この短期間でダ・ヴィンチは敵の正体をしっかりと掴んでいた。
「あるとも!今の攻撃は爪じゃない!敵生命体の口内からの魔力放出だ!あの加速と攻撃の密度、慣性を受け付けないデタラメな翼!間違いない、アレは『純血竜アルビオン』だ!」
「あ、アルビオンだとぉ!?」
ダ・ヴィンチの出した結論にゴルドルフの悲鳴が響く。
汎人類史における時計塔の地下に眠るダンジョンの原型、魔術師なら誰もが知る最強の幻想種である竜種の中でも冠位とも言える存在。
この異聞世界での名は『境界のアルビオン』。
幻想種の中でも最強の存在がカルデアを撃ち落とさんとその翼を向けていた。
「アルビオン、今度はブレスを向けて接近〜!」
「艦尾にブレスを撃たれたら終わりだ!物理防御を紙キレみたいに切り裂く鋭さなんだ!一撃で機関部が切断される!」
「総員席につけ、ベルトを締める!ダ・ヴィンチ、次のブレスのタイミングを計って!着弾予想タイミングの2秒前に重力帆を最大展開!船を縦に落とす!空中で派手にすっ転ぶようなものだ!めちゃくちゃ揺れる!立ってると死ぬぞ!!」
アルビオンの口内に再び超高密度の魔力が集う。
ストーム・ボーダーのどこに直撃しても致命傷になり得る最強種からの純粋な魔力放出のブレス。
ダ・ヴィンチがブレスのタイミングを測り、ムニエルがそれに合わせて船を操舵するために緊張が走る。
ミスをすれば全員が死ぬ、そんな最悪の状況で───。
「来る!射程に入られた!7、6、5───」
「艦首上げ!セイル展開!ぶん回れー!!」
最悪の展開にならないためにネモの号令と共にストーム・ボーダーが空中で縦に回転する。
無理やり制御した代償に艦内はめちゃくちゃ、しかしそれを気にする時間は一切許されない。
「そのまま機関最大!最高速度で上昇後姿勢を復帰!!」
「無茶言うなよ!」
ムニエルが悪態を吐きながらもストーム・ボーダーは急上昇しなんとか姿勢を復帰させる。
固定されていなかった道具やらなんやらは全部散乱したままだが、辛うじてアルビオンからほんの少しの距離を取ることに成功する。
「め、めちゃくちゃだよこれ!!」
「私も流石にこんなのは初めて!」
姿勢を復帰し、さらに速度を上げて飛ぶストーム・ボーダーのブリッジで言われるままに席に座りシートベルトで身体を固定していたアルトリアが叫ぶ。
ほんの少し前、初めて乗ったときはブリテンにない最先端どころかもはや未来の乗り物同然であるこの艦に興奮すら覚えていたが、今はもうすぐに降りたくて仕方がなかった。
「クソ!アレだけ溜め込んでいた魔力が今ので激減だ!次がきたら避けられないぞ!どうするキャプテン!」
ムニエルが叫ぶのも無理はない。
結局、無理をすると言うことはそれに伴う代償だって大きい。
機関部を賄う魔力リソースに莫大な負荷を掛けたと言うことはそれだけ大量のリソースを消費すると言うことだった。
つまり、次に同じことをされれば回避行動は取れない。
それはカルデアの敗北を意味すると言うことで───
「ひとつ、いいでしょうか」
声を発したのはシートから立ち上がったアルトリアだった。
「今のわたしならあの熱戦を防げます。とはいえ、この艦全域は守れないのでその機関部……というところだけなら数分だけの気休めでも対粛清防御を展開できます。それで、凌げますか?」
「それは頼もしい、しかしアルトリア・キャスター。そもそもアレはなぜ我々を襲う?厄災が滅ぼすのはブリテンの妖精だ。我々は敵対対象ではないのでは?」
「え?それはちょっとわからないというか……いくら聖剣の守護者とはいえわたしもその……半人前なので」
ホームズの問いかけに思わず口籠もるアルトリア。
しかし、それに答えたのは成り行きを見守っていたグリムだった。
「オレたちが世界を救う『武器』を手にしたからだ。カルデアに納めた汎人類史の為の聖剣のエッセンス。それに聖剣使いに渡すための異聞帯の聖剣。その2つがあるんだから厄災そのものが『予言の子』と『敵』を本能で察したのさ」
「……なるほど、つまりアレはアルトリア・キャスターを狙っていると言っても過言ではないと」
ホームズの言葉にブリッジが沈黙する。
その視線がアルトリアに向き、嫌な気配を察したのかほんの少しアルトリアが後退りする。
「……本当にどうかと思うけど、ホームズさぁ」
立香が思わずそんなことを口にする。
それにホームズはパチンっと指を鳴らし若干の微笑みと共に口を開いた。
「そう。アルトリアを甲板に出すだけでアルビオンからの狙いを絞れる、ということさ」
「はあ!?」
嫌な予感はまさに的中。
アルトリア1人を甲板の最先端に立たせてアルビオンが来た隙を狙って敵に攻撃を仕掛けるという人の心が感じられないとんでもない作戦だった。
「名付けて『タイタニック作戦』、如何かな諸君?」
「とんでもないこと言い出したんですけど!?どんだけ畜生なことを思いつく英霊なんですこの人!?」
「つよつよ探偵だよ」
「聞いたことない単語ですね!やっぱり汎人類史滅ぶべし!」
小刻みのいい漫才を繰り広げつつ、その表情はすぐに引き締まる。
「いえ、100歩譲ってわたしが囮になるのは構いません。ですが、その場合艦全体を護るのは絶対に無理です。囮になってアルビオンを引き付けるか、ブレスから船を護るか、どちらか一方だけです。両方やるのはわたしには出来ません」
「くっ……!ここまではっきり無理だと言われてしまうとは!」
「わたしではなくレインやモルガン陛下ならどちらも熟すでしょうが、あくまで対粛清防御は強力な守りですがそのぶん範囲はどうしても広範囲には展開できません。それに……アルビオンを振り切らなければこの聖剣も本来の持ち主に届けることも叶いません」
アルトリアが星の内海から戻ってからずっと抱えている鞘に収められた聖剣、その真の持ち主に届けるためにもアルビオンは突破しなければならない障壁であった。
「その腕に抱えた聖剣は使えないのかね?本来の持ち主でなくともほんの少し能力の片鱗くらいは……」
「すみません、この剣は“彼”のための聖剣なので他の方にはおそらく使えません。汎人類史でこの剣を持っている“あの子”ならわかりませんが……今ここにいる中で使える人はひとりも」
「む、むう……そうか、それならば仕方あるまい」
「まあ、アルトリアは無理なものは無理っていうからね。仕方ない、この案は無かったことに……」
「いえ、可能です。囮役がいればいいのでしょう?」
無かったことにする前に、それを止めるものが現れた。
声がしたブリッジの入り口を見るとそこには医療室で治療を受けているはずのパーシヴァルの姿が困惑した様子のマシュと共にあった。
「すみません、パーシヴァルさんがどうしてもブリッジに行きたいと……」
「申し出はありがたいが、君では代わりになれないんだパーシヴァル」
「いいえ、“代わり”であれば務まるのです」
ホームズの言葉にまっすぐに少年はかえした。
楽園の妖精ではない、ましてや『予言の子』ではない。
だが……その肉体には確かにその資格があった。
「私の槍は『選定の槍』。かつて『楽園の妖精』が使っていたもの。つまり、私は人工的な『予言の子』なのです。私ほど、この役割にふさわしいものもいないかと」
この場の誰よりも落ち着いた少年の声が、ブリッジに響いた。
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「……よし、身体にまだ力は入る。これならなんとかなりそうだ。見ていてくれるかな、みんな」
ストーム・ボーダーの艦首。
そこに強風に煽られながら『選定の槍』を手にした少年が立っている。
思い出すのはほんの数分前のブリッジでの会話。
別れの言葉のつもりだったけれどほんの少し偉そうに話してしまったようにも感じる。
でも確かに、この世界は美しかった。
妖精に善悪があるのは当然だ、だって正しい歴史に存在する人間にだって善悪が存在すると言うのだから。
ただ、ほんの少し……間違えてしまっただけなのだと。
自分たちの世界は滅びる。
悪い世界だったからではなく、残るべき世界が残るという当たり前の結末が目の前にきているだけ。
きっと、藤丸やマシュが生きる世界が……本当の意味の楽園に続いてくれると信じるからこそ、少年は最後の力を振り絞ってここに立っていた。
「さあ、やるぞ。円卓の騎士パーシヴァル!これが最後の防衛戦だ!その名に恥じない活躍を───!」
心を奮い立たせる。
これが最後の戦いだと悟って……そして、今自分のいる場所を今一度しっかりと見回した。
幼い頃に夢見た空を飛ぶ大きな船。
少年なら誰もが夢見た空の上にいま“僕”はいる。
「……ほんとうにすごいところまで来た。空飛ぶ船なんて御伽話の主人公みたいだ。うん、うまくいったら円卓のみんなやガレスに思いっきり自慢しよう」
ロンディニウムで力尽きた仲間たち。
キャメロット攻略戦で犠牲になった騎士たち。
そして、厄災に呑まれてモースと化してしまったものたち。
妹分のような大切なあの子に話せば……きっといつものように羨望の眼差しを向けて『ずるい』と笑ってくれるだろう。
『───適性生物接近!これより当艦は最大船速で敵機と並行する!燃料の残量から見てこの作戦を実行できるのは一回きりだ!
『接敵まであと10秒!『厄災』との初戦だ、諸君らの健闘を祈る!』
雲海の中から黒い機竜が姿を現す。
その視線はこちらに向いていて、自ずと気が引き締まった。
やれることはない、ただここに立っている事しかできない。
だが、この命が終わるその時まで倒れてやるものかと覚悟を決める。
──達者でね、パーシヴァル。
姉から受け取った最後の言葉を守れそうにないとほんの少しの笑みをこぼして槍を持つ手に力を込める。
円卓の騎士、パーシヴァル。
その命を散らす時が来た。
アヴァロン・ル・フェの更新について
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今まで通り月に3〜4話見れればいい。
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待ってもいいからストックして放出
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別に気にせんでええねんで(^ω^)