お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
空でカルデアとアルビオンが戦闘を始めるほんの少し前。
レインフォートの姿は劫火に包まれたマンチェスターにあった。
穏やかな村は見るも無惨な姿に変わってしまっていた。
炎に包まれ、妖精も人間も語ることさえ悍ましい状態へと変わり果てていた。
人間は妖精に遊ばれて皆殺し。
妖精は魔犬とその眷属に喰われて皆殺し。
ただ、村の中心にはかつて騎士であったものが残した剣が突き立てられているだけで後に残るものは何もなかった。
燃え盛る炎の中でも、決して傷つくことなく輝く銀の剣を手に取り魔犬が向かって行った方へと視線を向ける。
「……フェイルノートにアロンダイト、それにガラティーンか。まさか僕がこの世界の円卓の騎士の武器をここまで手にするとはね」
冗談まじりにそんなことを言っても返ってくる言葉ない。
オークニーから別れたトネリコはそろそろ空でメリュジーヌを……いや、アルビオンを相手にし始める頃だろう。
ならば、僕の方も出来るだけ早く魔犬の討伐を行わなければならない。
アルトリアが星の内海に向かってそう時間がかからないうちにケルヌンノスの姿が大穴から消えた。
おそらくあの夢魔のことだ、時間だけはあったからとお得意の幻術を大穴にでもかけていたのだろう。
時間がどれだけあるかはわからないが、ケルヌンノスが再び出てくるまでにアルビオンとブラックドッグを倒さなければならないのだから。
世界を観る目が厄災の侵攻した痕跡を見つける。
その先に、魔犬が次に向かっている場所が捕捉された。
「……今はオックスフォードか。次の目標はノリッジかそのあたりだろう」
手にしたガラティーンに大量の魔力を流して調伏する。
妖精騎士が長く使って来た誇りを扱うのだ、自身が扱うためにこの剣に自分を認めさせなければならない。
フェイルノートやアロンダイトのように持ち主から正式に譲渡されたものじゃない、だから少し力技になっても……と思っていたのだが。
思っていた数倍、この手に順応するのが早かった。
まるで自身の主を止めてくれと、剣がこの手に応えるような感覚。
ガラティーンに流れる魔力が僕自身の魔力で満たされる。
「さあ、行こうか」
水鏡で跳ぶその先はオックスフォードから少し離れた『涙の河』。
そこで、『獣』に堕ちた騎士を迎え撃つ。
結局のところ、ブリテンはどこもかしこも焼き尽くされた後だった。
木々は燃え盛り、その炎が空を駆けるアルビオンの影響なのは明白だ。
しかし、それだけではない。
オックスフォードから迫り来る黒き影。
涙の河にレインフォートが現れ、ありとあらゆる魔術を事前に仕掛けて待っていたとはいえ、仕掛けられたのはほんの少しの罠のみ。
迫り来る魔犬とその配下、本体とサシで戦うために配下は全て焼き払う程度の準備しかできなかった。
「魔犬バーゲスト、その配下のブラックドッグ。汎人類史ではヘルハウンド、なんて言い伝えもあったか。その理性と忠誠心、世界のいく先を憂いていたキミには尊敬の念すら抱いていたが……」
いつかの夜の話を思い出す。
自身に課せられた呪いを抑え込み騎士としての役割を果たそうとする彼女に騎士としても1人の女性としても敬意を抱かずにはいられなかった。
だからこそ、そんな彼女を止めてやらなければならないと思った。
この身に宿る使命なんて関係なく、獣のまま彼女が守ろうとしたものを全て彼女の手で破壊させてはならないと感じたから。
魔犬の影がどんどん近づいてくる。
それに合わせるように、周囲の魔力が魔犬に吸われ始めた。
草木が死に、辛うじて生き延びていた小さな妖精たちが消滅していく。
「よし、僕自身に与えられた
魔力喰いの影響を完全にシャットアウトしているスキル。
レインフォートが生まれた時から獲得していた“特殊スキル”。
【最果ての加護:EX】
ありとあらゆる厄災を討ち祓うために与えれた特殊複合スキル。
相手が厄災や人類の脅威と判定された敵である場合、それに応じた特殊耐性やスキルを自動で獲得するもの。
聖剣を所持していない状態ではこのスキルが全力で稼働することはないが、魔力喰いに対する耐性が得られている状態であれば最低限戦闘することは可能だった。
もう数キロ先に魔犬の群れが見えている。
深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、手にしたのはつい先ほど手にしたばかりのガラティーン。
魔犬がここに辿り着く前に配下を全て焼き払う為にいくつも用意したトラップを起動させる。
爆炎、雷撃、嵐、ありとあらゆる魔術が一斉に起動し、魔犬の後をつけていたブラックドッグの群れを駆逐していく。
やはりというか配下の取り巻き自体はたいしたものではない。
問題は配下が殺されてもまったく見向きもせずにこちらへまっすぐ向かってくる本体のほうだ。
近づくにつれてその巨躯に驚く。
その全貌はあまりにも巨大だった。
いや、数キロ離れた場所から観測した時点である程度その大きさにも目星はついていたものの実物が近づいてくると改めて実感せざるを得ない。
深呼吸をして、身体中に魔力を奔らせる。
妖精炉をフル稼働させて迫り来る魔犬を睨みつけた。
数百メートル先にまで迫り、魔犬の足が止まる。
その視線が、この手に握られたガラティーンに一瞬向けられ───
『Grrrrrrrrrrrrrr!!!!』
「───いくぞ、僕の声に応えろガラティーン」
炎と雷、ふたつの
魔犬の攻撃はその姿に見合ったものが多い。
その巨躯を活かした爪や牙での攻撃。
さらに少し離れれば魔力で作り出した牙でこちらを噛み砕こうとしてくる。
厄介極まりない、といえば確かにその通り。
おまけにその肉体に纏った雷が近づいたものを焼くのだから普通ならばどう考えても手が付けられない。
しかし、ここにいるのは厄災に対する絶対的な上位者。
魔犬討伐に適したスキルを次々獲得していくことでその肉体に纏った雷も魔力を吸い上げる魔力喰いも全て無効化して幾度とその肉体に傷を与えていく。
問題はそのどれもが魔犬にとって致命傷になり得ないということ。
レインフォートが最も得意とするのは魔術である。
聖剣使いという役割があったとしても、聖剣による絶大な一撃がない以上は彼にとって1番火力の高い武器は魔術による攻撃だ。
しかし、相手は
レインフォート自身の魔力を吸い上げないとしても、彼が扱う魔術は別だ。
魔術を展開し、形を得るその瞬間に魔犬の餌となってしまう。
無闇に魔術を使えばそれはそのまま魔犬の力を増幅させることにつながってしまうのだ。
故に、今のレインフォートが持てる手段は剣による斬撃のみ。
手にした武器がこのブリテンで最高峰の剣だとしても、戦況をひっくり返すような極大の一撃がレインフォートには足りていなかった。
戦闘を始めてはや十数分。
遠くの空から青い流星が落ちたのが見える。
トネリコがアルビオンを祓ったのだとレインフォートは直感し、ガラティーンを握る手に力を込める。
全身に流した魔力を腕に集中させ、ジェット噴射のような一瞬の加速を持って魔犬を押し返す。
『聖剣使い』でありながら、その資格を得ないもの。
今のレインフォートにはあらゆる『聖剣』を扱えるもののその『真髄』を引き出す能力が備わっていない。
だからこそ、彼は今手にしているガラティーンの能力を最大限に活かすことができないでいた。
無理やり押し返したことで生まれた一瞬の隙。
それを逃すまいと装備をアロンダイトに換装して二振りのアロンダイトを手に魔犬の足を、首を、腹を、背を次々と斬りつけていく。
斬りつけた部位から血飛沫が上がる。
しかし、次の瞬間にはその傷が塞がっている。
何度も何度も何度も、30秒にも満たない時間で数十にも及ぶ斬撃を浴びておきながら魔犬の肉体はいまだに健在であった。
「……魔術師の僕では相性が悪いって、そういう貌をしているね」
魔犬が獰猛に嗤う。
決め手に欠けるレインフォートがいくら斬りつけようとも自身を斃すことが出来ないと判断した魔犬はそれでもここまで無傷のレインフォートを捕食せんと雄叫びをあげる。
「しかし、参ったな。こうなると、トネリコが聖剣を持ってくるまで持ち堪えるしかなさそうだ」
カルデアに向かったトネリコがアルビオンを撃ち落としたのなら、アルトリアが鋳造した聖剣を持ってくるはずだ。
聖剣があれば、間違いなくこの『獣』は討ち倒せる。
問題は、彼女がここに辿り着くまでどれだけの時間を必要とするかということで。
「まあ、全力で止めて見せるさ。その為に、ここにいるんだからね」
もう何度目かわからない仕切り直しの状況。
しかし、娘とした世界を救う約束を果たす為に彼は再び魔犬に剣を向けた。
****
アルビオンを討伐したカルデア一行はその行動メンバーをふたつに分けることになった。
ひとつは現在レインフォートと交戦中の魔犬を討伐するメンバー。
こちらに向かったのはシャドウ・ボーダーの運転役を買って出たカドックとそのサポートでキリシュタリア、いざという時の防衛に虞美人とペペロンチーノ。
そして魔犬討伐のための戦力としてマシュ・キリエライトにそのマスターである藤丸立香。
チームA'とでも呼べる面々に聖剣使いに聖剣を届ける役割のアルトリア・キャスターの7名。
そして、ストーム・ボーダーには賢人グリムと救世主トネリコが残りソールズベリーへ向かうことになった。
ダ・ヴィンチのティフォーネと宿屋で眠ったままのハベトロットの回収。
役割が決まり、作戦の制限時間は30分。
各員が配置につき、ストーム・ボーダーからシャドウ・ボーダーがノリッジ近郊に射出された。
「よし、上手く着地した……!このままレインフォートが戦ってる近くまで走るぞ!」
「運転はカドックに任せて、こちらはブリーフィングにしよう。藤丸が過去に交戦したバーゲストとの戦闘記録から察するに、魔力抵抗の少ない人間は近づくだけで生命力を吸われるだろう。つまり、君は前線に立てない。この車内からの遠隔召喚による戦闘がメインになる」
「確か、魔力喰いの限界範囲での遠隔召喚は1騎……限界ギリギリで2騎って話は覚えてるわね?ナース曰く2騎召喚での戦闘は後で反省部屋だそうよ」
「なるほど、じゃあ2騎召喚で行きます!」
「やっぱそうなるわよねぇ!?召喚に使う魔力は私たちからもバックアップするわ。その代わり全力でやりなさい?」
「マスター、ナースさんに叱られるのは後で私もご一緒しますので……!」
シャドウ・ボーダーが着々と魔犬とレインフォートの交戦地域まで近づいていく。
レーダーとモニターからの情報を頼りにカドックが走らせた先に魔犬の姿が露わになってくる。
「……マジか、なんてデカさだよあれ」
「40mは有るだろうか」
「感心してる場合じゃないでしょ!計器を見なさい!これ以上は近づけないわよ!」
「うーん、撤退……って訳にはいかないでしょ?」
ペペロンチーノが横目でマシュを見る。
それに力強く頷き、マシュは大きく声を上げて返した。
「はい───!行かせてください!あんなもの、恐るるに足りません!前のバーゲストさんの方が強そうでした!」
「え、嘘でしょ本気で言ってる?どう見てもアレの方が強そうじゃん」
「いいえ、よく見てくださいアルトリアさん!あんな、強いだけの姿が……あんな理性を失った獣が怖いわけがありません!」
そう言い切ったマシュはシャドウ、ボーダーのハッチの方へ向かっていく。
止める必要はない、止めても無駄だと分かっていてカドックは最後の確認を立香に取る。
「くそっ!やるしかないんだな!?いいのか藤丸、お前が止めないならマシュは出撃させるぞ!」
「もちろん、マシュ!全力でやってきて!!」
「あっ!マシュ!バーゲストとの交戦が始まったらレインにはシャドウ・ボーダーに来るように伝えてください。彼にこの剣を渡すだけですので時間は取らせません」
「わかりました、現着後すぐにレインフォートさんにはここに向かうように伝えておきます!カドックさん、シャドウ・ボーダーの皆さんはお任せしました!マシュ・キリエライト、出撃します!!」
脚部を強化し、開け放たれたハッチからマシュが出撃していく。
向かう先は2キロ先の魔犬とレインフォートの戦場。
シェフィールドの騎士、マシュ・キリエライト。
無垢な盾の騎士が大厄災の前に姿を見せる。
アヴァロン・ル・フェの更新について
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今まで通り月に3〜4話見れればいい。
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待ってもいいからストックして放出
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別に気にせんでええねんで(^ω^)