お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第十一星 『聖剣抜刀〜魔犬バーゲスト戦〜』

 

レインフォートとバーゲスト。

2人の戦闘は次第に苛烈になっていく。

しかし、あくまで戦況に変化はない。

被害が増えていくという点では苛烈さを増していくが、そのどちらにも傷らしい傷は見えない。

傷がないというわけではなく、バーゲストは傷を負った側から再生していくという最悪の方面でレインフォートの攻撃を“無かったこと”にしていた。

 

バーゲストにあるのは“強者を喰らう”という本能。

その本能に従うのなら、目の前にいるレインフォートは絶好のご馳走だ。

有象無象を喰らい続けるよりも、足を止めて時間をかけてでも極上のご馳走を喰らうのは獣としての原初の渇望と言ってもいい。

 

この牙を、爪を、雷を用いても傷ひとつつかない圧倒的強者。

この死闘を勝ち抜き、その肉を喰らった時どれだけの力を得られるか。

もはや思考すら彼方に消え去った魔犬はそれだけを考えていた。

 

しかし、空から妙なものが降ってきた。

耳障りな駆動音と大地を鳴らす不快なタイヤの音。

そして、そこから現れた目の前の強者とは比べ物にならない矮小な人間。

 

だが、その人間を見た時。

 

どうしても失ったはずの心が揺らいだのだ。

 

それと同時に頭に響く鈍い痛み。

 

矮小な人間が手にした盾の一撃が魔犬の頭を殴ったのだ。

 

 

 

 

 

****

 

「……マシュ!?」

 

「お待たせしましたレインフォートさん!状況の説明は後にしましょう!早速ですがシャドウ・ボーダーへ!アルトリアさんがレインフォートさんの剣を持って待っています!」

 

「いや、だが……魔犬の相手をするには君1人では……!」

 

「いえ、問題ありません!私はシェフィールドの騎士、マシュ・キリエライト!またの名を【妖精騎士ギャラハッド】!厄災を打ち祓い!ブリテンを救う、円卓の1人です!」

 

マシュの声に呼応するように、円卓の盾が輝く。

これまで幾度と見てきた英霊召喚の兆し。

マシュの覚悟、円卓の騎士の縁、それら全てを手繰り寄せてここに2人の騎士が顕現する。

 

「よい口上です。憎悪ではなく、自身を鼓舞する叫び。それを聞いた以上、控えている訳にはいきません。突然の先輩風など煩わしいでしょうが、どうかご容赦を、デイム・マシュ」

 

「まさか卿に先を越されるとはな。美しいご婦人をエスコートするのは私の役割と思っていたが───だが、その必要はなさそうだ。その闘志、その勇気まさに春雷の如し。我らの中でも何人及ぶものがいるか。共に戦う名誉をひとりじめにはさせんよ、サー・ガウェイン」

 

「───ど、どうしておふたりが……?このブリテンでは汎人類史の英霊は召喚されないと……!」

 

「そうか、メリュジーヌにバーゲスト。彼女たちの縁が君たちを喚んだのか」

 

妖精騎士“ランスロット”

妖精騎士“ガウェイン”

このブリテンを守護し続けた2つの存在が今この瞬間、ギ(・)ャ(・)ラ(・)ハ(・)ッ(・)ド(・)の(・)盾(・)に連鎖して姿を現したのだ。

 

「如何にも。さあ、レインフォート……このブリテンに於ける聖剣使いよ。貴公が聖剣を抜刀するまでの時間は我々が稼ごう」

 

「異聞帯の我が王にもどうかよろしくお伝えください。それと、異聞帯とはいえ貴方が身内であることを誇りに思います。是非、無事にカルデアに戻った時には伯父上と」

 

「勘弁してくれ。ただでさえ娘と姪が出来たんだ、これ以上増えるのは困る」

 

「それについてはいずれ詳しく。それでは、この場はお任せください。円(・)卓(・)の(・)騎(・)士(・)が(・)三(・)名(・)揃っているのです。敗北は許されない。行くぞ!円卓の同胞(とも)よ!盾の騎士、聖剣の王の道を我らが拓く!」

 

「おう!ランスロット、参る!!!」

 

「ありがとうございます、2人とも!彼女の名はバーゲスト、このブリテンを守り続けた忠義の騎士。強きものとしての責務を果たし、弱きものが生きていけるように願ったもの……貴女が志した円卓に名を連ねるものとして、その進行を食い止めます!」

 

三名の円卓の騎士が魔犬と対峙する。

一際大きな咆哮、それと同時に円卓の騎士たちが駆け出す。

それと同時に、レインフォートは水鏡で遠方に見えたシャドウ・ボーダーに跳ぶのだった。

 

 

 

 

****

 

マシュが飛び出したハッチに水鏡のゲートが現れる。

中から飛び出すようにレインフォートが出てきて真っ直ぐにブリッジへ走る。

 

ブリッジに辿り着けばそこに居たのはどこか懐かしい面々。

ぺぺと芥はつい最近も会っていたが、カドックとキリシュタリアはあの南極基地でファーストオーダー直前に顔を合わせた時以来だ。

 

見たところ立香ちゃんの召喚のバックアップを行なっているようで僕が入室しても顔を向けて頷くだけに終わる。

 

だが、それよりも。

 

聖剣を抱えた娘の姿が目に入った。

 

「レイン……あはは、帰ってきちゃった」

 

「アルトリア!」

 

気まずそうに笑うアルトリアに駆け寄り、思い切り抱きしめる。

もう会えないと思っていた、聖剣を造る代わりにもう話すことはできないと思っていた。

 

「……村正がね、『親父に会いたいなら会ってこい』って。命を救われたんだから命で返すのが道理だって」

 

「……そうか、義理堅い英霊だったんだな彼は」

 

「うん、カルデアに渡したエッセンスは彼が。そしてこれはわたしがシャスティフォルから正式に造り上げたレインのための剣」

 

アルトリアから離れ、差し出された剣を見つめる。

鞘に収められてはいるが、僕の知っているエクスカリバーとは何かが違うことだけはハッキリとわかった。

魂が引き寄せられる、触れる前からこの手にこの魂に馴染むことが嫌というほど感じた。

 

「レイン、約束覚えてるよね?」

 

「ああ、もちろん」

 

「時間がないから今は一言だけ。バゲ子のこと、止めてあげて」

 

アルトリアの言葉に頷いて、彼女が差し出した聖剣を受け取った。

 

ドクンっ、と大きく身体の奥から魔力が溢れる。

鼓動を刻むたびにこの肉体がひとつ上の段階に昇華されるのを自覚する。

 

 

 

───おかえりなさい。

 

 

───おかえりなさい。

 

 

───おかえりなさい。

 

 

どこからともなく聞こえてくる帰還を喜ぶ声。

この世界で唯一の聖剣使いが、このブリテンで本来王になるべき器が正しき担い手が聖剣を手にしたことでその肉体が《ブリテン島の王》として相応しい状態へ作り変えていく。

 

───聖剣の所持を確認。

 

───肉体の枷を6層全解除。

 

───妖精炉、常時接続及び最大稼働を開始。

 

───最果ての加護、最大稼働。

 

───聖剣を従える《資格》を獲得。

 

───ガラティーン、アロンダイトを適した形へ変化。

 

───『魔犬』討伐の為に適したスキルを4種獲得。

 

───『獣』の討伐の為、霊基情報を書き換え。

 

次々と頭の中に流れてくる情報を処理し、肉体の変化に自然と順応していく。

 

この体が、聖剣使いとして完成された。

肉体の強度、それに伴う魔力の総量。

その魔力を常に最大で保つほどの無制限の供給源。

《ブリテン島を守護するもの》としての姿が今ここに完成した。

 

『ちょっと!?そっちの方に冠位級の霊基が観測されたんだけど!』

 

「気にするな、レインフォートが聖剣を受け取っただけだ!」

 

『聖剣を受け取っただけで冠位級の霊基が獲得できるなんてすごいな!』

 

「すぐに終わらせてくる。話はその後にしよう」

 

受け取った剣を鞘から抜き放つ。

青白く輝く星の聖剣を手に、異聞世界の王は出陣する。

 

 

****

 

ガウェイン、ランスロット、そしてギャラハッド。

円卓の騎士を相手にバーゲストは先ほどとは打って変わって苦戦を強いられていた。

魔力喰いが効かないのは先ほどと同じ。

しかし、雷撃も何もかも効くはずなのに自身はまだひとりも食えていない。

そんな苛立ちにも似た感情が渦巻く、1番のご馳走はどこかへ消えてしまった。

 

いいや、行き先はわかっている。

少し離れたところにある鉄の塊の中にいる。

あそこに一際大きな魔力が現れたのだから間違いない、と直感が告げていた。

 

 

───だが、そう思考した瞬間全身を怖気が襲う。

頭上を見ればそこにあったのは蒼き星の輝き。

まずい、と魔犬のカンが働いた。

アレに巻き込まれれば“傷の再生ができない”と本能が告げている。

 

星が降り注ぐ、辛うじて避けたその一撃の後にあったのは抉り、切り裂かれた大地のみ。

 

獣としての本能が、その星の輝きから逃げろと───。

 

「───魔犬バーゲスト。このブリテンにおいて本来ならば『獣』として覚醒するはずだった厄災の獣よ」

 

しかし、後退しようとした背後から声が聞こえた。

 

「ブリテンは終わりを迎えた。たとえお前を斬り伏せてもこの国に未来はない……しかし、それでも僕には聖剣の主としてお前を斬らなければならない理由がある」

 

先ほどまでは捕食対象として見ていた男が、嫌になる程眩い剣を携えて眼前に立ち尽くしていた。

先ほどとは全く違う生物、もはや妖精と呼ぶのすら烏滸がましい生き物がこの生命を脅かすために立っている。

 

「『獣』を討つため、この身に宿る本来の力を持ってせめて一刀の下に君を葬ろう」

 

眩い剣を男が構える。

逃げろ、と全身が叫ぶ。

逃げるな、と消えたはずの理性が肉体を留める。

 

「星よ集え、厄災を祓う一刀の光となれ」

 

青白く、美しい刀身に光が集う。

それはかつて憧れた円卓の騎士王が持つ星の光のようで。

失ったはずの理性が、感情が、心が戻ってくるような感覚があって。

 

炎に包まれた世界の中に、たったひとつ美しい蒼が輝く。

地上に顕現した汚れなき星の輝き、それを振るうたったひとりの王。

逃げなければ、そう思いながらもその足が動くことはない。

自身を切り裂くであろうその光を見つめることしかできなかった。

 

「聖剣、抜刀」

 

気がつけば、足元にいた騎士たちはいなくなっていた。

 

「そして最果てに至る希望の剣(エクスカリバー・エクセルスス)」

 

これこそ、この異聞世界で唯一の聖剣の輝き。

楽園の妖精がたった1人のために愛を注ぎ込んで鍛造した剣の輝き。

騎士に憧れた彼女がついぞ見ることの叶わなかった理想の王。

物語の主人公であるアーサー王が握ったその光の一撃が振り下ろされる。

振り下ろされた剣から光の斬撃が圧倒的な熱量を帯びて放たれる。

星の光、蒼き光の斬撃が一瞬でこの肉体を焼き尽くしていく。

 

 

───やはり、私を斬るのはあなたでしたか。

 

ああ、そうだ。

 

どうせ斬られるなら本物の聖剣がいい。

 

この理性を失った獣には過ぎた望みであったが。

 

 

 

生まれ変われたら、今度こそ……穢れのない憧れの騎士に───。

 

 

 

 

 

魔犬を包み、その着弾点から溢れた魔力が天に昇る。

圧倒的な光の奔流に呑まれた魔犬は跡形もなくこのブリテンから消し去られた。

 

跡に残ったものはひとつだけ。

 

美しい光の柱が、墓標のように天を貫いていた。

 

 

 

 

 

 

****

 

戦いは終わった。

 

『厄災』は星の聖剣によって祓われた。

散り際、魔犬の目には涙のようなものが見えた気もした。

 

力を貸していた円卓の騎士たちはその姿を霧散させていた。

 

残ったのはマシュとレインフォートの2人のみ。

魔犬の魔力喰いの圧をたった1人で受け止めて2人の騎士を戦わせていたマシュは大きく深呼吸を繰り返し、盾を支えにしてなんとか立っていた。

 

「おつかれさま、マシュ。円卓の騎士として恥じない立派な戦いだったと保証するよ」

 

「あ、ありがとうございます。サー・ガウェインとサー・ランスロットのおかげです。レインフォートさんも、見事な聖剣の一撃でした」

 

辺りを見回せば魔犬の消滅と同時に燃え盛っていた炎も一緒に消え去っていた。

遠くの方からシャドウ・ボーダーが走ってくる音が聞こえる。

呼吸を整え、少し休憩すれば最後の戦いまでに十分回復できるはずだ。

 

「シャドウ・ボーダーが着いたら立香ちゃんと一緒に十分な休息を取るように。今は確か……あの空を飛ぶ船が拠点なんだったね?アレと合流するまで休めれば十分だろう」

 

「ストーム・ボーダーですね。30分程度で合流の予定でしたのでもうそろそろこちらに飛んでくるはずです。トネリコさんも今はそちらに」

 

駆け抜けてくるシャドウ・ボーダーを見つめながらふたりは状況をお互いに確認しあう。

あと2〜3分もすればたどり着くだろうと気を抜き、他愛のない雑談をとマシュが口を開こうとした時だった。

 

咄嗟にレインフォートが剣を振る。

何かが弾かれる音、そして少し離れた場所に何かが着地した音。

目に入ったのは黒き狼、その姿はキャメロットで散った排熱大公と同じ姿。

マシュはその存在を知らない、しかし……レインフォートが忌々しげに彼の名前を口にした。

 

「ベリル……」

 

「───よお、レインフォート。それにマシュもいるとはな」

 

「……ベリルさん?そんな、だってその姿は」

 

「ワケあってウッドワスの霊基を奪ったんだ。オレのままじゃあマシュにもレインフォートにも近づけないからな」

 

その声には喜色が混じっていた。

いや、混じっているなんてレベルの話ではない。

待ちに待ったご馳走を目の前にした獣のような声だった。

 

 

「お前が聖剣を手にするこの時を、ずっと待ってたんだぜ?」

 

 

亜鈴の力を手にした男が、たった1人を見つめてそう口にしたのだ。

 






───なあ、オレを見ろよレインフォート。





ここまで来ました魔犬バーゲスト戦。
異聞世界ブリテンにおいてレインフォートはここまでの描写の通り聖剣を持ち妖精たちを導く【異聞帯の王】の役割を与えられていました。
異聞帯の王である以上、彼はありとあらゆる厄災を相手に戦う必要があり、いずれは【獣】である魔犬を相手にする必要がありました。
それ故に、彼はこの世界において最高峰の霊基を持つ妖精であり、その手に持った聖剣で厄災を祓う冠位の妖精であったワケです。

みなさん驚きですね?


まあお兄様は死んでいないのでサーヴァントのクラスには当てはまりませんが……彼が召喚される場合、当てはまるクラスは剣士ではなく裁定者のクラスであるとだけ。
なぜ裁定者なのかは奈落の虫を討伐したあとのマテリアル公開をお待ちください。

【高評価】や【感想】をお待ちしてます

アヴァロン・ル・フェの更新について

  • 今まで通り月に3〜4話見れればいい。
  • 待ってもいいからストックして放出
  • 別に気にせんでええねんで(^ω^)
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