お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
病床で書きながらも終わりが近いことになんだか感慨深くなっておりました。
それではご覧ください。
これが拙作の《星の生まれる刻》です
「だいたいさあ、ここしかないってタイミングで帰ってくるのは流石にどうかと思うよ俺は……モルガンの治世から2000年、エインセルの残した予言の子が生まれたタイミング。使うならこれしかないと思ってたわけ、念入りに準備してさあ始めましょうって時にポツンと現れる。そんな都合のいい話流石に認められないでしょ」
「残念だけど、ブリテン帰還は僕が自分の意思で帰ってきたわけじゃないからな……カルデアと共にきたとしてもお前にとっては最悪のタイミングだったのは間違いないだろう。僕が2年前にアルトリアに出会っていたか、そうじゃなかったかというだけの問題だよ」
「そういう冷静なところが相変わらず腹立つな。わかってる?奈落の虫に呑まれた以上、ここから先は落ちていくだけだ。ここで俺を殺したってそれは変わらない。それがわかってるから俺に攻撃しないんだろ?」
「理由と意味のないことは基本的にしない主義だけど……」
レインフォートの視線が甲板に横たわる立香とマシュに向けられる。
ストーム・ボーダーの機関部分も落ちたままストーム・ボーダーは奈落に落ちていく。
「この子達はすぐに目覚めるさ。7つの特異点を超え、魔神王の神殿すら踏破し、ここに至るまで5つの歴史を乗り越えてきたんだ。今更
「……あっそ。本当にお前のそういうところ嫌いだよ」
「そうかい?僕は君には感謝してるんだ。アルトリアに話しかけていたマーリンは君だろ?」
「───は?なんのこと?」
「あの子から話を聞いた時彼女のいうマーリンが僕の知る
「……うわ、そういうのやめてくれる?お前に感謝されると全身の毛が逆立つような気がする」
あーやだやだと身体を震わせてオベロンは振り払うように手を振った。
「───それに、この時まで時期を見ていたということは……君、トネリコには一度も勝てなかったんだね。ふふっ、ヴォーディガーンともあろうものが情けないと思わないのかい?僕ら兄妹揃って7000年に渡って一度も勝てないなんてさ」
「───は?お前マジでそういうところだぞ。敵が相手なら笑顔で煽ってくるの正確悪いって言われたことない?」
「僕はどちらかといえば優しくて頼りになるお兄さんで通っていてね。性格が悪いなんて一度も言われたことはないんだ」
「この猫かぶり王子が……」
「
非常に性格の悪そうな暗い笑みのレインフォートと青筋を浮かべながら半ギレのオベロン。
見るものが見れば辛口を叩いているだけの友人にも見えなくはないが事実この2人の関係性はこのブリテンの守護者と破滅の意思という対極の存在である。
「……っぅ、レイン、フォートさん?」
「うわマジか、流石に早くない?」
「だから言ったろ、すぐに目覚めるって」
意識を取り戻した立香を見て若干引いたような反応をするオベロンに得意げに答えるレインフォート。
ここから先は再び星見の魔術師にバトンを渡すべきだとレインフォートは立ち上がる立香に手を差し伸べる。
「このブリテンの守護者として奈落の虫に立ち向かおうというのなら、今この瞬間は君の剣となろう。さあ、どうする?星見の魔術師」
「当然です!あの日あなたに背中を押されてここまで来たんですから!」
差し出した手は力強く、しっかりと握り返されたのだ。
「さあ、オベロン。私とも話をしてもらうよ」
「……まあいいけどさ。いいよ、ここまで来た褒美だ。なんでも聞くといい」
星の灯りが、奈落の虫と対峙する。
それと同時にストーム・ボーダーに再び火が灯り、上昇せんとエンジンをフル稼働させ始める。
****
鐘の音を聞いた。
何度も聞かされた強制の音ではなく。
あなたを呼ぶ、あなたを信じる。
懐かしい鐘の音が。
いつも、この嵐の中を歩いていた。
悪性の渦中、本性の坩堝。
汚いドブ川と何も変わらない、暗く、冷たく、つんざくような悪意の言葉の中を。
幼いころのわたしが膝を抱えてなんども“いやだ”と泣き叫ぶ。
無理だと、何度も死にたいと思った。
それでも迷わずに来れたのは、なんとかここまで来れたのは。
ずっと私を照らしてくれたあの光があったから。
幼いわたしが何度も転んでは立ち上がる。
必死に足を動かして、時々立ち止まって、それでも足を進める。
そして、そんなわたしを抱きしめてくれたひとがいた。
わたしが最後まで走り抜けられたたった一つの理由。
たとえ始まりはあの星を追いかけたのだとしても。
わたしがわたしでいられたのはたった一つの“愛”を知れたからなのです。
他のわたしが決して得られなかった、聖剣を抜いたあの子すら最後まで得られなかったただ一つの……この温かい気持ちを……わたしは決して裏切りたくないと思ったのです。
「───ぁ」
でも、この先はないのです。
あの鐘の音を受け入れること、あなたの旅を終わらせること。
これ以上先にあなたの人生はありません。
あの白亜の白の彼女に、自分の幸福がなかったように。
この先に進めば王の名前を唱えていたあなたの存在理由は無くなります。いらなくなります。
できる?
ただひとつの、あんな星のために。
ほんの少し得られた程度の小さな暖かさのために。
“この胸に宿った暖かな愛を裏切りたくない”なんて。
そんなどうでもいい、とるに足らない。
くだらない理由のために?
「ひ───あ。あぁ……ぎいぃ……あぁ、あ」
ブリテンを終わらせたわたしに向けられる怨嗟の声。
楽園の使命を果たしたわたしを恨む声。
それが刃のように鋭く、嵐のようにわたしを切り裂く。
何千、何万もの訴え。
何億ものわたしを責める声。
現実なんてこんなものなのです。
嵐の中で輝く星も、この胸の暖かな気持ちも、所詮はただの気休めでしかないのです。
でも、果たして本当にそうでしょうか。
身体を切り裂くような痛み。
それがほんの少しだけマシになったような気がして、目を開く。
「誰……?誰かがわたしを庇ってくれてる?全然庇えてないけど……」
必死に手を伸ばして、その身体全部を使って守ってくれて。
あなたの気まぐれで命を落としただれか。
あなたがとっくに忘れていた、あなたと何も変わらない最果ての誰か。
その名は───
思い出した。
そう、名前がないことが悲しいと嘆いていた女の子がいた。
あの終わりの森でわたしの名前を使ってと言ったのだ。
あの時の笑顔を覚えている、あの時のあの子の嬉しそうな顔を覚えている。
「───ありがとう。大切に、大切にするね。この、お名前だけじゃなくて、あなたのこころをいつまでも、いつまでも」
祈るようにそう呟いた彼女の優しい顔を覚えている。
彼女の名は───
最後の最後で彼女にとっての星の光を見つけたもの。
みんなに希望を振り撒くのに疲れて、嘆いて……それでも笑顔を決して忘れなかったもの。
あんなただの思いつきの行動一つで、わたしをずっと守ってくれた。
あんなどうでもいいことで、わたしをずっと信じてくれた。
それはきっと、特別なものではないけれど。
他人から見たらどうでもいいことだろうけど。
「ありがとう、大切にしてくれて」
そうだ、わたしとあの子は何も変わらない。
ただ、自分の裏切れないものを信じて進んできただけなんだ。
霞む目で嵐の先を見る。
その中で、ただひとり進む背中が見えた。
誰も支えてくれない、誰も守ってくれない。
そんな中でも真っ直ぐにしっかり歩く背中が。
「───ついて来れますか?」
確かに彼女はそう言った。
誰よりも純粋に、この島を愛した救世主。
わたしを妹と呼んでくれた尊敬できる先代の楽園の妖精。
その背中に追いつかんと、足を進めようとして、たくさんの亡霊に足を掴まれる。
「……っ!この……!」
あの背中を裏切りたくない。
この胸に宿る確かな愛だけは無くしたくない。
そんなちっぽけな理由しかなくても……!
そんなちっぽけな理由だとしても……!
「それでも!前を向いて!歩いて行かないといけないんだ!」
───なら、もう迷うなよ
赤い少女の手がわたしの背中を押した。
───しっかりと顔をあげなさい。アルトリア様
数千年、忠義のために生きた騎士の手が背中を押した。
───それでこそ、私のライバルよね!
自信家な親友の手が背中を押した。
もう、足を掴んでいた怨嗟の声はなかった。
走って走って走って、やがて敬愛する救世主の背中を追い越して
───貴方だけの路を、迷わずに歩きなさい。
最後に、最も尊敬する姉の手が私の背中を押した。
その声に応えるように、大きく頷く。
痩せ我慢でも、自己満足でも。
自信がなくて最後まで答えに迷っても。
ひとから見ればとるに足らないくだらない理由でも。
それだけを信じてる。
それだけが信じられる。
だって、この背中に感じた温もりだけは絶対に嘘じゃないから。
それだけが、今も私をこうして走らせている。
さようなら、幼いあなた。
これまでも、これからも、いつまでも。
胸に宿る星の鼓動。
鐘の音は自らの内に響くでしょう。
そして、あの星の彼方に。
わたしは、再びあなたの元へ。
****
オベロンと藤丸立香、そしてレインフォートの話も終わりが近づき、ブリテン異聞帯における最後の戦いが幕を開けようとしていた。
「でも、こんな状況で本当に聖剣使い1人で大丈夫?こんな奈落の底じゃあ星の灯りも希望の光も届きやしない。聖剣ひとつの灯りじゃどうにもならないってさ」
「……確かに僕1人じゃ難しいかもしれないな」
「だろ?だけど、ここには希望は何もない。ただ一人の明かりじゃ……」
「ああ、だから喚ぶんだよ」
「喚ぶって、何が……」
「そりゃもちろん、僕の愛娘さ」
レインフォートの左手に宿るのは確かに英霊のマスターである証。
その印が青く強く輝き、奈落の底に輝くただひとつの星と呼応する。
「来い!アルトリア!!!!」
星が輝く。
星が飛び込んでくる。
輝きと共に落ちてきた少女は自分を呼んだ男に向けて向き直り、その口を開いた。
「聖剣の王の呼びかけに応じ、召喚に応じ参上しました。ブリテンを諌めるのではなく、世界を救う戦いであれば。例え時の果て、奈落の底であろうとこの剣は貴方の手に」
「アルトリア・キャスター……改めアルトリア・アヴァロン。今再びあなたの元へ帰還しました」
数刻前に別れた時とはその存在が根底から変わった愛娘が、自身の父の呼びかけに応じて再びその姿をブリテンの空に現したのだった。
走り出すその理由が、どんなにくだらなくても。
走り出したのなら、それだけが信じる理由であったとしても。
始まりの気持ちだけは裏切りたくはないのです。
さようなら、幼いあなた。
はじめまして、遥か彼方の君。
あなたを信じて、あなたを見上げて、今も私は走って行きます。
胸に宿る星の鼓動。
最果ての地であなたと再び会えるときまで。
みなさまの【高評価】や【感想】をお待ちしてます
アヴァロン・ル・フェの更新について
-
今まで通り月に3〜4話見れればいい。
-
待ってもいいからストックして放出
-
別に気にせんでええねんで(^ω^)