お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
「───マジか。いや確かにそうなれとは言ったけど。本気で『楽園の妖精』のまま英霊に?驚いたなぁ、どこまで王様気質なんだ。いやでもさあ、親子揃ってちょっとみっともなくない?レインフォートも君ももう一度舞台から降りた身だろ?未来の姿だとか本来の姿だとか、ブリテンは滅びてオークニーは終わった。力足らずで舞台を降りた役者が再び戻ってくるものじゃない。そうだろ?」
ブリテンを終わらせるもの、ブリテンを守護するもの、そして再び舞い戻った楽園の妖精が対峙する。
それぞれが普通の妖精よりも格の高い存在。
並の英霊など話にもならないようなそんな存在が一堂に介して言葉を交わす。
「……そうですね。私が守るものはこのブリテンにはもうありません」
「確かに言われて仕舞えばその通りだ。僕が守るべき国も民もこの時代には何ひとつない。だけどね」
「死したモノが生き続ける世界は確かに見苦しい。それを終わらせようとしたあなたの行動は正しいものです」
「だろ?」
「だけど、それを周りに伝播させるのは許されないよ。僕ら妖精に未来はなく、このブリテンにはなんの未来がなかったとしても……未来あるものの道を閉ざしていい理由にはならない」
「それは、滅びから逃げるよりも見苦しい。そうでしょうオベロン、あなたの行いは多少どころか本気でみっともない」
オベロンの表情から一瞬笑みが消える。
レインフォートとアルトリア、親子の息はぴったりで、初めからお互いに考えていることがわかっているかのようにオベロンの意見を2倍、3倍にもして言い返して見せたのだ。
「な、なんか二人ともいつもよりキツくない?」
「そうですか?なら、私も父と一緒にいれるこの瞬間を楽しんでいるのでしょう」
「……ん、うぅ……あれ、ここは……あれ、アルトリアさん!?」
「おや、ひょっこり」
目を覚ましたマシュの顔を覗き込むように身体を彼女の方に向けたアルトリアとそれを見て肩を落とすオベロン。
「マシュも目覚めたのか、まあアルトリアのせいだろうけど……ってことは艦内も全員目を覚ましたな。面倒だけど、仕方ないか」
「マシュ、詳細は後でリツカの方から。貴女はこれよりリツカの守護を。奈落の虫が外部に広がる前に私とレインでその原因を滅ぼします」
「はい……!マスターの守護はお任せを!」
「相変わらず切り替え早いなぁ。まあ、いいけどね。敵は倒すってのがカルデアのモットーだもんな?おしゃべりも飽きたところだ、俺が何者であるかは十分に説明した。これが舞台ならまさにクライマックスだ」
「観客は誰もいないけれど」
「ま、三流の出し物だ。場末の劇場ってことで納得するさ。いいぜ、ブリテンと聖剣の守護者ども。人理を守る戦いってヤツをドヤ顔で始めてみろよ」
「7000年前、お前を終わらせてやれなかった僕の不始末だ。今ここで、再び切り伏せてみせるとも!」
「妖精炉接続、今この瞬間が運命を懸けた戦いであれば」
「ハッ!崩落の咎、黄昏の跡。全ては夏の夜の夢のように。俺はオベロン、オベロン・ヴォーティガーン。人類の脅威にして陥穽の終末装置、獣どもと違い、決して愛を持つことなどないとここに証明しよう。
───さあ!悲劇の幕をブチ上げろ!巡礼の旅はここで終わりだ!」
各々が武器を取る。
闇の鎌、神話礼装マルミアドワーズ、星の聖剣エクスカリバー。
異聞世界ブリテン最後の戦いが、ここに幕を開けた。
****
少し前、ケルヌンノス消滅直前キャメロット上空。
黄昏の空に、身体がほぐれていく。
選定の槍を最大解放して撃ち込んだ青の光は確かにケルヌンノスの神核までの道を切り開いていた。
キャメロットから放たれた2度の攻撃。
1度目は確かにロンゴミニアドだった。
しかし、間髪開けずに放たれたのは間違いなくエクスカリバーの一撃。
汎人類史のアルトリアへの恨みや聖剣への僻みはトネリコとしての自分にはもうほぼ残っていなかった。
今はただ、自分を姉さんと呼んだあの子のことが誇らしい。
きっと、自分の姉も同じ気持ちだったのだろうか。
「ねえ、見ていますかお母様、お姉様。私、妹ができたんです。頑張り屋で泣き虫で、でも決して逃げない。そんな誇らしい妹が出来たんです」
もう指先の感覚がない。
視線を向けるまでもなく足と指がないことはわかっていた。
眼下では青い星の光がケルヌンノスの神核へ向けて放たれていた。
「私、頑張った。頑張りましたよ。みんなを失ってから6000年頑張って、お兄様が祭神を祓うのを見送って…」
トネリコの胸に宿るのは6000年分の万感の想いだった。
やりきった、何度も挫けそうになったけれど、こうして最後の仕事はやりきったと今なら胸を張って大好きな家族に報告できるだろう。
「そちらに行ったら、たくさん褒めてくれますか?またあの時みたいに抱きしめてくれますか?頑張ったねって……きっと……」
意識が霧散していく。
最後の最後、トネリコの視界に映ったのは最も愛する兄の姿だった。
「お兄様、愛しています。私は、貴方が誇れる妹でしたか?」
空から落ちる少女が消えていく。
その肉体が完全に消え去る直前、浮かべていたのは幼い頃と同じ、無垢な笑みだった。
さようなら、私のブリテン。
私の妖精國。
本当はもっと酷い国にする予定でしたが、胸の中にある憧れが拭いきれなかったのでほんの少しだけ優しく設定しました。
笑うことを許します。
楽しいことを許します。
繋がりを許します。
発展することを許します。
どうかいつまでも、続くことを許します。
汎人類史からお客様が来ることもあるでしょう。
私の国はどうですか?
美しい国でしょうか?
夢のような国でしょうか?
そうであったならこれに勝る喜びはありません。
妖精國ブリテンへようこそ、お客様。
どうかこの風景が、いつまでも貴女の記憶に残りますように。
救世主の消滅と共にブリテン北部から崩落が始まった。
でも、それだってきっとなんとかなる。
だって、彼女が誰よりも信頼してずっと心の頼りにしてきた最高の聖剣使いがまだ残っているのだから。
****
最終決戦開始直後、ソールズベリー近郊。
救世主の槍によって胸を貫かれた竜骸が再び起動する。
重たい首を向けた先にはブリテンを飲み込む奈落の虫が視界に広がっていた。
死に体の躯に力を込める。
アレがブリテンを崩壊に持っていくというのなら……。
“妖精騎士”としてアレを止めなくちゃ。
だってこの島は6000年もの間、あの子が泣きながら守ってきた国なんだから。
もう崩壊寸前の翼を広げる。
飛び立って、巨大な崩落へ飛んでいく。
この躯はたとえボロボロになろうとも境界のアルビオン。
たとえ霊核が砕けようとも最後の役目は果たしてみせる。
───ああ、
あの忌々しい虫の中にこの空洞の胸を温めるような存在を感じる。
なら、私が助けてあげないと。
彼をこの世界に連れ戻した私が、彼の道を拓いてあげないと。
魔力を収束させ、奈落の虫に目掛けて最後の一撃を放つ。
アルビオンとしての最後の一撃。
この意識で放つ最後の無垢なる鼓動。
そうして、ストーム・ボーダーの装甲すら容易く切り裂くブレスが奈落の虫に直撃し……半分以上本能で動いている竜骸は砕いた外殻から奈落の虫の中へ飛び込んでいった。
“いま、迎えにいくわ”
いよいよアヴァロン・ル・フェも残すところ2〜3話程度となりました。
長かったこの作品も一区切りまで目前といったところです。
最近は療養に励みながらも皆さんの感想を話毎に見返しながら懐かしさに耽っていたりします。
いただいた感想も徐々にお返ししていくつもりではありますので、是非ともどんどん感想の方いただけるととても励みになります。
贅沢なお話ではありますが、感想のない話が出ると『今回は面白くなかったかな……』とか悪い方向に考えてしまうこともあったり……(苦笑)
とはいえ、最後まで拙作らしいキャラクターたちの物語を楽しんでいただけるように書いていく所存ですので是非、お楽しみいただければと思います!
前話を投稿してから新たに☆10を沢山いただけたおかげでランキングいりしておりました!
嬉しくてニヤついていたのでもしよければ
【高評価】や【感想】をお待ちしてます
アヴァロン・ル・フェの更新について
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今まで通り月に3〜4話見れればいい。
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待ってもいいからストックして放出
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別に気にせんでええねんで(^ω^)