お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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なんだかとんでもない伸び方をしていて困惑している作者でございます。
皆様のおかげで9/29日のランキング更新で総合日刊8位にまで上らせていただきました。
若干、たくさんの方に見ていただいてることに震えながら文字数少ねえけど大丈夫かな……と投稿をしにきた感じでした。

感想と高評価、お気に入り登録をしていただいたみなさま本当にありがとうございます。
今回からトネリコのお話を数話続けていく予定ですのでお付き合いいただければ幸いです。


第1章『救世へ向かう為の前奏曲(プレリュード)
第一救世 『はじまりのあしおと』


───あのオークニーの崩壊から100年が経った。

 

あの日から私の時間は止まったままで、お兄様が水鏡の転移先に指定していたオークニーから少しだけ離れた小島のログハウスでまだ歩き出す為の決意を固められずにいた。

 

『旅なんてしなくてもいい』

 

『トネリコが幸せならそれでいい』

 

『出来るならとびっきりの笑顔で』

 

『キミのことを、誰よりも愛してる』

 

100年前のあの言葉が、優しい家族との最後の別れが脳裏に刻みついて離れない。

 

「どうして、私が幸せになれるのは……オークニーだけだったのに……!」

 

ぽろぽろ、ともう何万回とも分からない涙が溢れてくる。

何度も何度も、このログハウスに残されたオークニーの意匠が施された家具や建築方式、ましてや見覚えしかない小物たちを見るだけでオークニーでの日々が甦り涙が止まらなくなる。

 

「わたしも……!一緒に連れて行って欲しかった!」

 

もう何度も何度も同じ言葉を口にした。

叶わない願い、誰にも八つ当たりすることもできず、お兄様が残したこのログハウスに傷なんて与えられるわけもなく。

ただ、ただ……100年間この暖かい家で泣き続けることしかできなかった。

 

そうして、更に数日経った頃……

ログハウスよりもずっと遠く、オークニーを超えてブリテン本土の方におおきな、おおきな影が見えた。

 

「なに、あれ……」

 

こんなに遠くから見てもわかる。

あれは呪いを振り撒くものだ。

ブリテンに存在する妖精たちを呪って呪って殺していくものだ。

 

「……妖精なんて、滅びればいい。私から大切なものを奪っていったお前たちなんて……滅びれば……」

 

滅びればいい、心の底からそう思っていたのに。

 

あの影を見て、オークニーが滅びる数年前にお兄様と一緒に世界の大穴に行った時の感覚を思い出した。

 

 

『ここに近づくことを、妖精は恐れていてね。僕たち妖精が犯した罪の一つ、その被害に遭ったモノがこの下で眠っているんだ』

 

『被害にあったモノ……?』

 

『ああ、僕たちの罪は消えることはない。恐らく妖精という生物がいる限り赦される日は来ないだろう』

 

『赦されない罪などあってもいいのですか……?だってそれは……お兄様のようにこうして祈りを捧げる妖精だっているのに』

 

『僕は少しだけ特別な眼を持っているからね。そのおかげでこうして身が震えるような威圧感を耐えてここに来ることができるけど……』

 

紫のヒヤシンスの花束を持った手は無意識に震えているのがほんの少し見ただけでもわかる。

押し寄せる威圧感に隣に立っているだけの私ですら脚の震えが止まらないのだ。

 

『だからねトネリコ。100年に一度の厄災はここに眠る彼の影、罪を犯した僕たち妖精を裁く呪いの厄災と呼ばれるもの。もし、キミがそれに立ち向かうことがあるならば、それは憎しみや恐怖ではなく───』

 

脳裏に浮かぶのはあの時言われたこと。

100年に一度の厄災、その陰に立ち向かうことがあるならば。

 

「慈しみの心と勇気を持って立ち向かうんだよ」

 

そっと、そんな言葉が口から溢れていた。

アレに立ち向かうなんて冗談じゃない。

そもそも私を、オークニーを排斥した妖精たちを許すことなんてできない。

 

だけど

 

それでも

 

アレを放置していたらこのログハウスだって危ないかもしれない。

 

気がつけば、100年ぶりに杖と槍に手をかけていた。

今思えば、これをお兄様は見越していたのかもしれません。

私がどれだけ挫折していても、目の前に現れる理不尽に立ち向かうための勇気を振り絞ることを。

だってそうでしょう?

私がお兄様から託されたものを、お兄様からの願いを。

お姉様やお母様から貰った優しい心を。

それを結局裏切ることなんて、出来ないのだから。

 

「まずは目の前のアレを撃退します。後のことは帰ってきてから考えればいい。水鏡で跳べるのは一度だけ連れていってもらったソールズベリーの近郊まで、その為には一回マンチェスターを経由しないとだけどそれ自体は問題ない」

 

あの影に立ち向かうための戦法を頭の中で組み立てる。

この100年間、ただ泣いていただけではない。

 

……いや、ほぼ泣いていたけれど魔術の鍛錬だって欠かさなかった。

 

水鏡で間の跳躍は今の練度ではまだ一発でソールズベリーまでは跳べない。

お兄様なら一度の水鏡でどこへでも跳べたけれど、まだその域には達していない。

 

「……まだまだお兄様には敵わないけど。それでも、このログハウスを壊されるわけには……いかないから」

 

それは、明確な一歩目。

 

今はまだ、救世主の資格(明確な目的)がなくても。

 

いずれ、巡礼の鐘を鳴らす為の一歩目を……

 

「……マントよし、帽子よし、ワンドよし!身だしなみOK!トネリコ、参ります!」

 

そうしてトネリコは家を飛び出した。

目指すのは街を蹂躙せんとする呪いの影。

1人を転移させるには十分すぎる水のゲートを作り出して彼女は飛び込む。

 

「いってきます!お兄様!お姉様!お母様!」

 

自分の記憶と遺された隠れ家を守る為に。

 

楽園の妖精は、一歩……はじまりのいっぽを歩き出した。




ランキングに乗ってちょっとだけ調子に乗っているのですが。

みなさん、お気に入り登録と高評価、感想は常にお待ちしてます。

文字数は少ないかもですがその分更新できるようには頑張るので是非。
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