お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第二章 『やがてキミへと至る協奏曲(コンチェルト)
第一湖 『キミはいま……』


微睡みから覚醒する。

小鳥の囀りが耳に残る中“また”夢を見ていたのかと悟った。

 

ここはオークニー諸島の端に存在する名もなき島、さらにその森の中にある湖畔。

 

1人の青年がルッキングチェアに身を委ねて湖を正面にして数時間前に読み終えた本を近くにあったテーブルに置いた。

 

「…………モルガン・ル・フェ、ね」

 

銀糸のような美しい髪に透き通る湖のような青色の瞳。

とても整った顔立ちに180cmに届くかというスラリとしたルックス。

憂げな声は何処か遠くにいる誰かに語りかけるかのように誰もいない空に消えていく。

 

「トネリコ、君はいま……どう生きているかい」

 

レインフォート・アーデルハイト。

かつて雨の国、オークニーでその命を散らした彼は汎人類史のオークニーに妖精と人間の混血として生まれ変わっていた。

 

 

 

 

汎人類史に生まれ変わってすぐに分かったのは母も自分の知る母であったこと。

そして2年後に生まれた妹もあの世界の記憶を持って生まれた。

父に関してはルクレティアが生まれてすぐに他界してしまった自分の知る父で間違いもなかったわけだが、自分たち以外の雨の氏族ももしや、と思い探してみたもののこの世界に生まれ変わったという確信は得られなかった。

 

僕がこの世界に産まれて、純妖精だったときとほぼ同等の能力を使えるようになったのはほんの数年前という体たらくだった。

産まれた時に備わっていた妖精眼(グラムサイト)、そして数年かけて戻ってきた千里眼、魔術に関しては徐々に取り戻していくしかなかった。

 

そして千里眼を取り戻してすぐにこの世界を見渡した。

もしかしたら、トネリコも生まれ変わっているかもしれないと。

だが、それもとっくの昔に終えていた。

結果として彼女は汎人類史に生まれ変わっていることはない。

少なくとも、昨日までのこの時代には。

 

さらにそこから始めたのは自分たちがいた“あのブリテン”がどういう存在だったかということ。

 

おおよそ、どんなものかは想定はしていたものの実際に調べてみて分かったのは僕たちが産まれたあの世界は【剪定事象】と呼ばれる世界であること。

本来なら生まれるべきだった星の聖剣、エクスカリバーが鍛造されなかった世界の終わりが確定した世界。

 

だとするのなら……あの時の選択は。

 

「いいや、それを考えても仕方ないだろう」

 

もしも、あの後トネリコが立ち上がり巡礼を終えたのなら。

少なくとも聖剣がトネリコの旅の果てに鍛造されたのならあの世界はいまだに続いているだろう、と今までずっと信じてきた。

 

トネリコが進むにしても立ち止まるにしても、その選択を尊重すると決めたのだ。

あの果ての小島だってそのために用意したのだから。

 

 

そして、ここ数年で始めたのが【アーサー王物語】に関する調べ物。

伝説の聖剣、僕たちのブリテンで鍛造されなかった星の聖剣の担い手。

彼の物語だって知らなければならないと思って調べ始め、そしてたどり着いたのがアーサー王の仇敵であるモルガン・ル・フェ。

アーサー王を貶めた魔女、円卓の騎士たちの母、ブリテン崩壊をもたらした悪女。

そんな評価が概ね正しい彼女の名前。

彼女には三つの人格が存在していたとされている。

人間としての【モルガン】

ブリテン島の化身としての【モルガン・ル・フェ】

そして湖の妖精、乙女としての【ヴィヴィアン】

 

ヴィヴィアン、という単語に思わず時が止まったかのような錯覚を覚え、そこからひたすらに彼女の伝承について調べ上げた。

だが、調べるにつれてわかったことはただ一つ。

 

“トネリコに知識を渡したのは彼女で間違いはない”ということ。

 

一体どうやったのか、どういう魔術を使ったのかは今の自分には理解できないと判断した上で、トネリコに別の世界の知識……つまりこの汎人類史の知識を渡したのだと結論つけた。

理由はいくつかある。

一つは彼女が時折あのブリテンでは知り得ない知識を持っていたこと。

一つは如何にトネリコが天才といえども教えた魔術を事前に知っていたかのようにあっさりと使ってみせたこと。

そして最後に、彼女が眠っている時に『モルガン』という単語を口にしていたこと。

 

「……ダメだな。結局のところこれを知り得たところでどうしようもないというのに」

 

トネリコが汎人類史のモルガンに託されたであろう知識と魔術。

それが彼女の征く道に有益なものであるなら構わないが、よくない影響を受けていないか心配でならなかった。

 

しかし、千里眼(この眼)で見通すことのできない以上何を考えたところで自分にはどうすることもできないのだから仕方のないことだろう。

 

結局、生まれ変わっても尚……この心は最愛の妹を心配する事しかできないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、その後も何かに手をつかることもなく。

ただ、湖を見つめていると森の中に人の気配がした。

 

ああ、ここにくる人間なんて限られている。

 

この小さな島は僕と僕の家族の個人的な所有物で、僕がこの島に立ち入ることを認めている人間ともなればただ1人だった。

 

「今日も湖畔を眺める優雅な午後をお過ごしですか?」

 

「キミこそ、よくも飽きずにこんな辺境の地にやってくる」

 

「貴方が貸してくれた通行証があってこそですよ」

 

椅子から立ち上がって“彼”の方へと向き直る。

 

「本日、ロード・アニムスフィアが貴方への謁見を賜りたいとのことでした」

 

「アニムスフィアは君の師だろう?時計塔で新しく学科を作り上げられると噂の君の師が半妖精の世捨て人にどんな用が?」

 

「新設組織である《人理継続保障機関フィニス・カルデア》への参加要請ではないかと見てはいますが……」

 

「……カルデア、か。星見屋とは僕には似合わないと思わないかい?」

 

そんな言葉に目の前の美しい金の髪を持つ青年は軽く笑った。

 

「まさか。貴方ほど星見がお似合いな方もなかなかいませんよレインフォートさん」

 

「あまり笑いながら言うことでもないと思うけどねキリシュタリア」

 

ひとまず座るといいと前の世界から使えた空想具現化の能力で彼の隣に自分のものと同じ木製の椅子を用意する。

特に驚いたような仕草もなく彼は『ではお言葉に甘えて』と口にして腰掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリシュタリアとの関係は大したものではない。

数年前に死にかけていた彼をほんの数ヶ月ここに置いて指導をしたと言うだけ。

 

無駄に長く生きている半妖精の僕と今を生きる人間の彼とはあまり関わるべきではないと思っていたのだが彼の語る魔術の理論をはじめとした話はとても面白く、またその才能も最愛の妹を想起させるものだったことからほんの少し……ほんの少しだけ彼に特別な通行証を渡してしまっただけなのだ。

 

「それにしても何度使っても私には習得できそうにありませんね、この転移魔術は」

 

「君がそんなものを覚えたら大変だろう。今のところ僕と僕の妹だけが使える魔術なはずだよ」

 

「最果ての賢者の妹君とは……ルクレティアさんのことではないでしょう?彼女は妖精としての能力こそ高くても貴方のように魔術に秀でたわけではないはずです」

 

「正解だ、それはそれとしてなんだい?その《最果ての賢者》とは」

 

「言葉のままの意味ですよ。オークニーの最果てに存在する森に生きる半妖精。現代魔術師では侵入すらできない結界を張っていることから貴方の森に入れたものはそれだけで魔術師には栄誉ですらある……んだとか」

 

時計塔では数百年前から話題ですよ、などと笑って見せた彼に思わず頬が引き攣る。

 

「僕が時計塔にいたのなんて200年ちょっと前だぞ、時計塔から離れて久しいのになんでそんなことに……」

 

「『あなたの心を一雫』だったかな。有名な人が残したセリフだとか」

 

「やめてくれ、頼む。頼むからやめてくれ」

 

くすくす、と笑う彼はひとしきり笑った後席を立った。

 

「おや、もう帰るのかい?」

 

「ええ、これでも抜け出してきているので。それでカルデアの件はどうします?話を聞くというのであればここに案内してきますが」

 

「ああ、構わない。君の信用できる人なら連れてきてくれていいとも」

 

「ではそのように、ルクレティアさんとレティシアさんにはよろしくお伝えください」

 

それだけ言い残して彼は森の中に消えていく。

どうやら今日は来客が多くなりそうだなと思いながらも再び視線は湖に戻したのだった。

 




キリ様のエミュが出来ません許してください。

今話からほんの少しだけカルデア入所変をやってめちゃくちゃざっくり人理修復編をやっていく予定です。
真面目に冬木からやってると一生モルガンに会えないのでブリテン異聞帯まではサクサク進めていきます。
いろいろ場面が飛びますがお許しください。

赦されよ赦されよ、ブリテン異聞帯まですっ飛ばす作者を赦されよ……
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