お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
結果として、僕はマリスビリー・アニムスフィアの話を聞きカルデアという組織に参加することになった。
人類の未来を語る資料館。
人類史をより長く、より強く存在させるために科学、魔術の隔たりなく優秀な人物が集められた研究所にして観測所。
その名を【人理保障機関カルデア】
最果ての地とまで呼ばれたオークニーの森から地球の極点である南極まで連れてこられたのは流石に堪えたが、それも今となってはいい経験だった。
現時点でかなりの数のスタッフが在籍しているらしくキリシュタリアもその一員なんだとか。
「これで気軽にレインさんに会えますね」
と笑っていた彼が何を考えているのかあまり理解はしたくないが、ほんの少しだけ贔屓している子が嬉しそうならまあいいかと軽く流した。
と、まあ僕がこの組織に属してしばらく経った頃。
1人の女性と出会ったのだ。
芥ヒナコ。
お互いに出会った瞬間に何かを感じ取って振り向いた。
「貴方、妖精?」
「そういう貴女は精霊かな」
お互いの間に冷たい空気が漂ったような気がして、それが気のせいではないことに気づくのは早かった。
何せ優秀がデフォルトのこのカルデアの中で人外仲間に出会えるとは思ってもいなかったのだから。
「妖精とは言っても混ぜ物さ。僕の中には人間の血も流れているからね」
「ずいぶん誇らしげに語るのね。純妖精の方が過ごしやすいでしょうに」
「純妖精の生はもう十分に楽しんださ。得難い経験も出来た、悔いがないと聞かれれば素直には頷けないけれどね」
「そう、何か相談があれば少しなら聞いてあげるわ。人がいない時に限るけど」
「それはありがたい申し出だ。是非とも人祓いをすませてから伺うようにするよ」
その時はそれだけの会話だった。
だが、それから少しだけ時間が経ち。
僕は彼女とお互いの話をした。
芥ヒナコの正体。
彼女が恋する英雄の話。
そして、彼女の嫌うもの。
彼女の話を聞いた僕も自分の話をした。
自分の正体。
僕が見送った妹の話。
そして、僕の嫌うもの。
僕たちは端的に言えば“似ていた”のだ。
あの日、廊下ですれ違った瞬間に直感的に人外だと察せたように。
おそらく、おそらくではあるけれど彼女とカルデアで1番話をしているのは自分だろうという自負はある。
まあ所謂、人外コミュニティというやつだろう。
長命種、というより彼女の場合は不死種ではあるのだけれど長く生きるものとして人間とは違う視点を持てるもの同士での会話はなかなかに有意義なものでもあった。
まあそれでも、『外では挨拶以外で話しかけないで』とは言われてしまったけれど。
そして、僕個人としてはウマが合わなかった人間もいた。
ベリル・ガット。
彼は……そう、普通に話している分には不快感をそれほど感じないのだ。
だが、時折見せる破綻したその性格が“あの世界の妖精”を彷彿とされて嫌悪感を覚えていた。
「そう煙たがるなよレインフォート?」
「すまない、故郷の嫌いな奴に似ていて君のことはあまり得意じゃないんだ」
「ずいぶん素直に言ってくれるじゃないか。オレはアンタと仲良くしたいんだぜ?」
「努力はするよ」
それからも彼とのコミュニケーションは極力、極力避けて来たつもりだったが向こうから近づいてくるものだから仕方なく返答しているということが多かったのだった。
せめて、言葉の裏を隠せるようになってから僕の前に現れろ。
ああ、そうだ。
大事なことだから一つだけはっきりさせておきたいと思う。
このカルデアでの僕の役割はアドバイザー兼オペレーターである。
僕には過去に跳ぶレイシフト適正こそあったものの、マスターとしての適性はほぼ皆無ということで落ち着いた。
これにはあのキリシュタリアも訝しんだ表情で再検査を申し入れていたものの出てしまった結果は変わらない。
『君たち旅のサポートをするのならそれで問題ないさ』と口にすれば彼はそれ以上何かいうこともなく引き下がってくれた。
そして、スタッフとして仲良くなった人物もいた。
「今日も特段怪我人も来るわけでもなく穏やかな1日だなぁ。君もそう思わないかいレイン?」
「僕もすっかり君とのサボり部屋に馴染んで平和ボケしていると思うよ。ロマニ」
ロマニ・アーキマン。
彼との関係はカルデアに来て1ヶ月程度経ってから始めて出会った。
出会ったのは確かにこの時が始めてだったのだが、お互いに認知していたという意味ではかなり付き合いが長い。
最初は挨拶程度しかしていなかったのだが、気がつけば空き部屋に押しかけては2人揃って甘味を口にしながら日々の愚痴を言い合うような関係になっていた。
職場の同僚、という意味では彼が1番仲のいい人間ではある。
毎日違う甘味を2人分ちょろまかして来ては毎日同じ時間にこの空き部屋に来ているのだから友人の1人としてはため息モノの話ではあるけれど、人間としての生を謳歌したいと考えていた彼には僕のような友人が1人くらいいたってバチは当たらないだろう。
「それにしてもオルガマリーからの当たりはだいぶキツいようだけど?」
「あはは、それに関してはノーコメントで」
「君ほど優秀な医者だってそういないだろうに」
「ボクが現場にいると空気が緩む、らしいよ」
「確かにそれは一理ある」
「ええっ!?キミもそう思うのかい!?」
「ふふっ、まさかキミ……自覚がなかったのかい?」
「そ、そんなに笑うことないだろぉ!?」
思わず肩を振るわせて笑って仕舞えば、それに傷つきましたと言わんばかりに大きく反応を示した。
「だけど、その独特な緩さがスタッフの緊張を和らげるのも確かだ。キミはそのままでいいと僕は思うけどね」
「それ、褒めてる?」
「もちろん」
今日のおやつとしてロマニが持って来た桜餅を一口齧り、あんこの甘みを楽しみながら緑茶を口にする。
「……和菓子はいい」
「わかる、すごくわかるよレイン」
お茶と桜餅を堪能しながら1時間程度雑談を交えながらサボりを敢行した僕たちは見事キリシュタリアに見つかって業務を再開せざるを得なくなったのだった。
クリプターエミュは間違いなく不可能なので全員が出てくることは(ほぼ)ないです。
許して……許して……
さあ!ブリテン目指して頑張るぞー!
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