お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
「私とお兄様の物語なのに私がいないのはおかしいとは思わないか?」
人理保障、その意義について48人のマスターへのブリーフィング。
定刻通りに始まったオルガマリーの演説は1人の少女が船を漕いでいたことで中断された。
即座に視線を集める少女だが、少女の様子はどこかおかしい。
「……シミュレーション酔いをしているのかも知れない。さっき入館してきたばかりの新人マスターだ、ここは僕が彼女の部屋まで送っていくよ」
「レイン……まあ、そうね。彼女には貴方の方から軽い説明をお願いできるかしら、戻ってくる頃までにはファーストオーダーまでの準備は進めておくわ」
眉間を押さえながら少女を僕に任せてくれるオルガマリーへ頷くことで合意の合図を出す。
オレンジ色の少女へと近づき、彼女と一緒にブリーフィングルームの外へ出た。
「……それにしてもマリーの演説中にうたた寝とは、君も肝がすわっているね」
「えっと、ここにきた時にやったシミュレーション?のあとから車酔いみたいな感覚がすごくて」
「シミュレーション酔いだろうね。君は日本の普通の学生であったと聞くし、慣れないシミュレーションのせいで意識が朦朧としているんだ」
誰もいない廊下を2人で歩きながら、他愛のない話からコミュニケーションを図る。
幸いにも少女は返答自体はしてくれることから気まずい空気感が流れるということはなさそうなのが唯一の救いというところだろう。
「僕はレインフォート・アーデルハイト。君の名前を伺ってもいいかな?」
「藤丸立香です。えっと、レインフォートさん……アーデルハイトさん?はもしかして結構偉い人だったり……?」
「堅苦しいのは苦手だからレインでいいよ。そうだなぁ、偉い人……かどうかはわからないけど一応、魔術的な観点から見たアドバイザーとして在籍させてもらっているよ」
「……まじゅつ?」
「そこからか、うん。じゃあ君の部屋に案内するまでに軽い説明をしておこうか」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべるような仕草の少女、立香に苦笑いをしながら魔術に対しての軽い説明とカルデアがどのような組織なのかを説明していく。
とは言っても、魔術の説明なんかは簡単なもので済ませた。
カルデアの説明に関しても国連認可の組織であることやオルガマリーがあの会場で話している内容をできるだけわかりやすく説明したつもりだ。
「えっと、つまりここは科学と魔術の最先端の組織で私たち人類が100年先も存続できているかを観測しているところ」
「そうだね」
「そして私がここに連れてこられた理由は観測してる文明の明かりが消えたからタイムワープしてその原因を調査、解決するための人員」
「そう言うことになるかな」
「なる、ほど……?」
「これはあんまりよくわかっていない感じかな」
なんだかんだ説明をしていれば彼女のために用意された一室の前へとたどり着く。
少し前まではロマニとのサボり部屋として使っていた部屋だが今はマスター候補の少女の部屋となることが決定して別の空き部屋に移動することとなったのだが……
「あれ、レイン!?なんで君がここに!?」
「サボり部屋は移動しただろう、なんでまだここにいるんだロマニ」
このゆるふわドクターはなんでマスター候補の少女の部屋で和菓子を食べているのか。
「って、そこの女の子は……ああ、最後のマスター候補の子だね?僕はロマニ・アーキマン、よろしく」
「藤丸立香です…………えっと、ここって私の部屋、なんですよね?」
「そういうことになるね。よしロマニ、その和菓子の出所も含めてゆっくり話し合おうじゃないか。見たところ、それはマリーと食べようと思って除けておいたものみたいだし?」
「うげ、ちょっと高そうなやつだとは思っていたけど君のだったのかぁ……」
ガックリ、と肩を落とすロマニをみて立香は思わず笑みをこぼす。
それを見て僕とロマニも釣られて軽く笑ってひとまずみんなで一度椅子に座って和菓子を食べることにした。
「へぇ〜、立香ちゃんのいたところは東京だったんだ。いいなぁ、ボクも行ってみたいんだよなぁ」
「アイドル、だったか。君の趣味の多く集まる街もあるはずだ」
「秋葉原ですね、楽しいところですよ。私も友達と学校帰りとかによく行ってたりしてて……」
彼女の住んでいたところなんかの話で少し盛り上がったりしたところでロマニの個人端末に通信が入る。
発信元はオルガマリーで“うげ”といった表情をするロマニを見て僕は人差し指を口元に寄せて黙って聴いていようと立香ちゃんに合図する。
『ロマニ!今どこにいるの!?』
案の定聞こえてきたのはオルガマリーからの怒声。
医務室にいるよと誤魔化す彼と“今すぐ来なさい”と急かされて渋々了承した彼は大きなため息をついて立ち上がる。
「……はぁ、取り敢えずボクはブリーフィングルームに向かうとするよ。レインはどうする?」
「僕もそろそろ戻るよ。もともと立香ちゃんをここに連れてくるのが僕の役割だったワケだしね」
「そっか、じゃあ一緒に戻るかい?君がいた方がマリーの怒りも静まるかなって」
「僕をダシに使おうとするな。サボっていたツケは払っておいた方がいい。さて、立香ちゃんはこのまま休んでいて───っ!?!?」
最後までその言葉を言い終える前に大きな爆発音が聞こえた。
そして次の瞬間にはカルデア中に響き渡るアラート音。
そして、耳に入るのはブリーフィングルームで爆発が起きて炎が上がっているということ。
───緊急時マニュアルに従い、隔壁を閉鎖します。
───館内のスタッフはマニュアルに従い避難行動を実施してください。
「ロマニッ!」
「わかってる!立香ちゃんはここにいて」
「待ってください、ブリーフィングルームってさっきの部屋ですよね……!?だったら……だったらマシュが……!」
「……僕とロマニは速いよ?」
「……付いていきます!」
「よし、じゃあ急ぐぞ。閉鎖されていく隔壁よりも早く向かわないといけない!」
部屋から飛び出して徐々に閉まり始めている隔壁を幾つも超えてブリーフィングルームへと駆け抜ける。
「爆発の規模はどれくらいかわからない!レイン!キミの眼でどれくらいか把握できるかい!?」
「見たところでは最悪だ!カルデアスを除いた箇所への破壊が凄まじい!これは偶然起きた爆発なんかじゃないぞ!」
「なんてことだ、状況によってはキミの魔術を当てにすることになる。かまわないね!?」
「消火器の代わりに使われるのは癪だけど仕方ないだろう!」
ほんの少し、10分も離れていなかったのにどうしてこんなことに、なんて考えてしまうがそれは今気にすることではない。
事態の収集、怪我人……いや生き残りを全員集めてなんとか立て直さなければならない。
最後の隔壁を超えて、爆発の勢いで吹き飛んだブリーフィングルームの扉を潜れば、そこにはまさしく地獄が広がっていた。
「マシュ!!!!!」
僕たちの後ろを走ってきていた立香がそのまま瓦礫の下敷きになってしまっているマシュへと駆け寄っていく。
僕とロマニはそれぞれ状況の把握に動くべく生き残りのスタッフを探していく。
「コフィンもダメか……!キリシュタリア、ヒナコ……!」
48人のマスターたちがこれから過去へ……特異点Fと呼ばれる地点まで跳ぶはずだったコフィンも炎に包まれている。
安全装置ごと破壊されていることから彼らの命の保障が出来ない状況で……
「ロマニ!コフィンの凍結機能を今すぐ起動しろ!!」
「もうやってる!」
───動力部の停止を確認。発電量が不足しています。
───予備電源への切り替えに異常 が あります。
───切り替えは 手動で 切り替えてください。
「レイン!僕は地下の発電室へいく!カルデアの火を止めるわけにはいかない!」
───システム、レイシフト最終段階に移行します。
───座標 西暦2004年 1月 30日 日本 冬木
───ラプラスによる転移保護 成立。
───特異点への因子追加枠 確保。
───アンサモンプログラム、セット。
───マスターは最終調整に入ってください。
「マスターなんてもう誰もいないだろうに……!」
カルデアスからのアナウンスに若干の苛立ちを覚えながらも現場に生き残りが1人でもいないか探し続ける。
その中に、見知った少女の服が瓦礫の下から見えていた。
「……………………」
思わず、膝から崩れ落ちる。
どうして……だってこの子は、こんな目に合わなきゃいけない子ではなかっただろう。
ロマニに叱責して直後に足元を吹き飛ばされたような爆発跡とその上に降り注いだ瓦礫が言うまでもなく即死だったことを物語っている。
握った手の力が、自身の肉を抉るほど強く握りしめられる。
───観測スタッフに警告。
───カルデアスの状態が変化しました。
───シバによる近未来観測データを置き換えます。
───近未来100年までの地球において人類の痕跡は 発見 できません。
───人類の生存は 確認 出来ません。
───人類の未来は 保証 出来ません。
青く光り輝いていたカルデアはその姿を真紅に染める。
まるで地球が、人類史そのものが焼却されてしまったかのように赤く、紅く、赫く染まっていく。
───中央隔壁、閉鎖します。
───館内洗浄開始まで あと 180秒です。
───コフィン内のマスターのバイタル基準値に達していません。
───レイシフト 定員に 達していません。
───該当マスターを検索中……発見しました。
───適応番号48番 藤丸立香 をマスターとして 再設定 します。
───アンサモンプログラム、スタート。
───霊子変換を開始、します。
「っ!!!」
カルデアスが再設定したマスターは立香ちゃんだった。
今はオルガマリーの死を悲しんでいる場合ではない。
あの子が冬木に跳ぶ前に伝えなければならないことがある。
力が抜けた身体に無理やり力を入れて立ち上がる。
彼女が向かった方に走っていけば瓦礫に挟まれたマシュと彼女の手を握る少女の姿があった。
「レインさん……」
「レインさん、無事だったん……ですね」
「立香ちゃん、冬木に向かったらまずは霊脈を見つけるんだ!こちらの電気が復旧し次第キミのサポートに回れるように通信を開始してみる。それまでは決して無理をしないで危険な行動は避けること。マシュの治療は僕の方でも全力で取り掛かってみる」
僕の言葉を聞き届けて立香ちゃんはしっかりと頷いてマシュの手をしっかりと力強く握った。
「わかりました。ごめんね、マシュ……ちょっと離れちゃうかもしれないけど絶対帰ってくるから……だからマシュも頑張って」
「……はい、先輩が頑張るなら……わたしも、がんばります」
立香ちゃんの肉体が光に包まれ───
その場に残されたのは何もなかった。
立香ちゃんの姿も、瓦礫に挟まれていたマシュの姿も。
「…………じゃあ、彼女のサポートをするために復旧作業を急がないといけないな。ごめん、みんな……僕がしっかりと“視て”いれば防げていたかもしれないことだった」
あのブリテンとは違って優しい世界だったから、と言い訳するつもりはない。
これは僕の罪だ。
僕がブリテンの時と同じように世界に……この施設内だけにでも眼を巡らせているべきだった。
贖罪になるとは思わない。
せめて、あの子がこれからする旅だけは見届けると誓おう。
深い青色の瞳が赤く燃える世界に煌めく。
「……ごめん、マリー。キミのことは必ず弔うから」
寂しがりの少女が泣いて迷わないように、あの子のいたところだけを最後に見届けて施設復旧のために動き始めるのだった。
オルガマリー……助からなかったよ。
Uちゃんがどんな存在かちょっとはっきりしないとどうにも出来ないと言うか……いやまあこの小説はルフェ完走でその後の物語はやらない予定だからいいんですけどね。
冬木を軽く流してそのあとはダイジェスト、そこから一気にルフェまで駆け上がります。
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バンザーイ!バンザーイ!!!
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