お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
ベディヴィエールと語り明かした最後の夜はあっという間に日が登り始めた。
決戦当日、聖都キャメロットの城門前では苛烈な戦闘が繰り広げられていた。
初代山の翁による【不夜】のガウェインの足止め。
押し寄せる粛清騎士たちとの死闘。
玄奘三蔵の宝具によるキャメロット城門の突破。
聖都内における【暴走】のモードレッドと【反転】のトリスタンとの戦闘。
キャメロット城内におけるガウェインとの再戦。
ランスロットや山の翁をはじめとするサーヴァントたちの奮戦のお陰でカルデアとベディヴィエールは獅子王の玉座へ辿り着くことに成功する。
幾らかの対話を終え、カルデアと女神ロンゴミニアドとの戦いが幕を開ける。
その霊器からわかっていたことではあったが、彼女の力は単純に英霊としての枠組みを超えていた。
ただの威圧、ただの刺突、その全てにおいて常軌を逸した力を持っていた。
最果ての極光、世界の楔、それを十全に扱うということが……いいや、それに身を染めるということがどういう事なのかを僕たちカルデアはその身を持って知ることとなった。
ああ、もちろん僕だって戦ったさ。
円卓の騎士たちの宝具を元にした魔術で対抗したし、トネリコ相手に鍛えられた回避スキルで彼女から行われる光による攻撃を逆に彼女の頭上に水鏡で展開したりと小細工はいくらでもやったとも。
だが、それでも状況を打破するのは僕の役割ではなかった。
ましてやレオナルドでもなく、寝返ったランスロットでもない。
女神ロンゴミニアドを打倒するために必要だったのは、盾の騎士と銀椀の騎士だったのだから。
何者にも打ち破ることのできぬ白亜の城、その城壁。
汚れを知らず、無垢で純粋であった彼女はその真名を己の物とした。
それはつい先程僕たちが突破してきた白亜の城壁であり、邪悪を寄せ付けず、使用者の心の強さに比例して堅牢さを増すまさに絶対の守り。
その城壁は、女神の一撃さえも……
伝説に謳われる聖槍ロンゴミニアドさえも防ぎ切ってみせた。
そうして……そうして……
「王よ、今こそ……私の罪を償いましょう」
「…………なに、を…………」
「この
長きに渡り精神を、命を、身体を酷使してこの一瞬のために駆け抜けた銀の騎士の腕はたった一振りの、星の聖剣へと姿を変えて…………
「ああ……ベディヴィエール」
「…………」
「長きに渡る忠誠、誠に見事であった」
「すこし、疲れただろう。今は責務を果たした己を労り、休むといい」
もはや、銀の騎士には応える力はない。
光に消えゆくその身体で、彼は己の王への忠誠を果たし……
《ありがとう、レイン殿》
最期に……その言葉を残して光へと消えていった。
****
聖槍を手放し、聖剣を手にした獅子王は幾許かの情報をカルデアに託して僕たちを見送る。
立香ちゃんやマシュ、レオナルドがカルデアに帰還したところで最後に残ったのは僕だけになった。
「汎人類史では最果ての賢者、と呼ばれているのだったな」
カルデアに帰還する前の僕を彼女の言葉が止める。
聖槍の守護者となっていた彼女がついに僕の方を見た。
「我が姉、モルガンの縁者だろう。いいや、正確には湖の乙女ヴィヴィアンの方が適切だっただろうか」
「彼にも言われていたけれど、やっぱり見抜いていたんだね」
「私がわからない、という方が不自然です。“アルトリア”である限り我が姉の気配に気が付かない方がおかしい」
鎧を鳴らしながら、彼女は僕の方へと歩み寄ってくる。
「最高位の千里眼に最高位の妖精眼、妖精としてのランクは亜麗といったところでしょう。
彼女は神へと至ったその眼で僕を観察する。
そうして少し経った頃、なるほど……とため息をこぼした。
「貴方から聖剣の情報が得られません……つまりは、エクスカリバーの鍛造されなかった世界からの漂流者、というわけですか」
「正確には漂流というよりは転生に近いだろうか、純妖精だった頃よりは肉体のスペックもだいぶ落ちてはいるし戦いも今の所はあれが限度さ」
「聖槍の一撃を魔術で防いでおいてよく言う。まあいいでしょう、ならば私から貴方へも助言を」
最果ての女神は僕の手を取って言葉を紡ぐ。
「いずれ貴方は彼の世界へと至るでしょう。それは必然、なんて優しい言葉ではなく運命として……聖剣鍛造の不履行、その罪の清算を行う旅に貴方は立ち会うはずです」
「…………それは、どういう」
「ですので、大切なのは貴方の選択。あの世界で貴方の望む結末を得られることを私は願っています」
獅子王……アルトリアはほんの少しだけ微笑む。
「私にも、兄がいました。今はもう朧げですが……不器用で言葉はキツくて……でも、優しい兄でした」
“どこまで”僕を見通したのかはわからないが、カルデアへの強制退去が始まった僕へ彼女は言葉を続ける。
「モルガンにもそういう相手が必要だったのでしょう。不器用で言葉足らずで、おそらく私と同じようにめんどくさい女でしょうが……」
「貴方なら、彼女の心さえ救ってくれるのだと……
「さようなら、遠い世界で私の兄であったかもしれない人。その旅路に聖槍の加護があらんことを」
消えゆく視界と感覚の中、彼女のその言葉だけがしっかりと僕の耳にも届いていた。
****
第六特異点の作戦終了後、カルデアにはあの場で対決した円卓の騎士たちと聖槍のアルトリアが召喚された。
もちろん、聖槍の彼女は第六特異点で邂逅した彼女ではない。
聖剣ではなく、聖槍を主武装とした世界線のアルトリア・ペンドラゴンだと彼女は先に僕たちへ説明してくれた。
円卓の騎士、特にガウェイン卿はあの特異点での事を記録として保持している……いいや、保持しているのではなく英霊の座に刻みつけた状態でカルデアに召喚されたのだという。
僕たちが到着する前に犯してしまった罪を、決して忘れることのないように……そして、その罪を贖うために人理の修復に全力を尽くしてくれると語っていた。
何はともあれ、第六特異点の攻略はこれを持って終了とする。
僕本人としても彼らが召喚されたのは都合がいい。
即席で組み上げたあの魔術たちを実践で使えるように改良もしていきたいからね。
「あっ!レインさん!こんなところにいたんですね!円卓の騎士の皆さんが召喚されたと言う事で少しご相談があるのですが……!」
もしかしたら声をかけられるかも、と思っていたところに僕たちの知る騎士王とはだいぶ雰囲気が違う騎士王の姿があった。
「不肖このリリィ……!円卓の皆さんに剣の稽古をつけてもらいたく!」
まだ幼い白百合の騎士姫はその瞳を輝かせながら僕の前に立っていた。
「口添えをしてほしい、ってことかな?」
「いえ、口添えというほどではありません!稽古をつけてもらうためのお願いは私がするので、皆さんに会う機会を作って欲しいというか……端的にいうと自信がないので後ろにいて欲しいといいますか!」
どこか懐かしいようなそんな彼女の言い回しに思わず笑みが溢れる。
どうもこのアルトリアには僕は弱いらしい。
「ああ、構わないよ。僕もちょうど彼らに声をかけようと思っていたんだ」
「そうなんですか!?ナイスタイミングでした!」
えへへっ、と笑う彼女にトネリコの影を見た。
やはり、姉妹というのは嘘ではないんだなと心のどこかで思いながらも僕は円卓の騎士たちがよく集まっているという場所へと歩みを進める。
ああ、トネリコ。
いずれ僕が君と再会できるというのなら。
君をおいていってしまった僕は君に会う資格なんてあるのだろうか。
でも願わくば、また君と話せる日が来る事を心の底から願っている。
これにて第六特異点終了です。
たった2話の本編にはほぼ触れないという無謀ぶりでしたがまあいいでしょう(殴)
あと数話程度でブリテンに入りたいなー(願望)などと思っていますがこの後の端折り方次第ですね。
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