お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
つづく第七特異点、記録名【絶対魔獣戦線バビロニア】
今回の特異点は僕は不参加、というよりも特異点側から弾かれてしまったため同行できなかったわけだ。
その理由もすぐに明らかになった、というか。
千里眼持ちが三人も同じ時代にいることがよくないことだと理解できたというか。
しかし、カルデアとバビロニア。
そこには立香ちゃんを通じて通信が通っていたこともあって僕は他の千里眼持ちの“彼ら”と通信越しに対面することになった。
『ようやくここまで辿り着いたか、カルデアの』
『一応、初めましてと言うべきかな。やあ、レインフォートくん』
彼女たちが謁見したギルガメッシュ王と花の魔術師マーリン。
この世界に来て千里眼を持つもの同士はお互いを認知していると理解していたが、こうして顔を合わせるのは初めてだった。
『この眼を通して貴様のことを識ってはいたが……ふむ、なかなかどうして難儀な定めの持ち主よな』
『そうかい?私はなかなか愉快な成り立ちだと思うけどね。いや、これは少し不躾な言葉だったかな?』
「ギルガメッシュ王と花の魔術師マーリン、直接では無いけれど顔を合わせることができて光栄だよ。そしてキミの身内から聞いた通りの問題児なようで安心したよマーリン殿」
『あははっ、それは一体誰かな?ランスロットかトリスタン?それともアルトリアかな?』
「あるいはその全員かもしれないね」
『くそうっ!なんとも言い返せないのが辛いところだぞう!』
僕とマーリンの他愛のない会話を終えて本題に入る。
ギルガメッシュ王が言った内容を要約するならばこうだ。
・この時代の問題はこの時代における人間で解決する。
・ウルク側からわざわざ要請してまでやってもらうことはない。
・どうしてもと言うのならばこのウルクの民から認められる仕事をしろ。
結果として立香ちゃんやマシュ、おまけにマーリンと現地で合流したアナと呼ばれるサーヴァントはウルクの民の仕事を手伝うこととなったのだった。
ああ、この特異点において僕が関わったものはほとんどない。
この時代における人々と呼び出されたサーヴァント、立香ちゃんやマシュが紡いだ現地での絆とギルガメッシュ王のカリスマ。
数々の女神たちとの激戦と原初の母ティアマトとの開戦。
ウルクの全てを使って、時代の全てを賭けて戦い、滅び……
そして最後はたった一人の人類によって討伐された、原初の母。
僕はただ、カルデアの職員として彼女たちのサポートを行なっただけにすぎない。
ただ僕は、そんな彼らの生き様を。
その時代の全てを持って立ち向かった彼らウルクの民を、バビロニアの民を。
なによりも、美しいと思ってしまったのだ。
***
「それで……?あのとき馳せ参じなかった理由を申してみよ」
そうしてバビロニア攻略から数日後。
最後の戦いである特異点、魔術王ソロモンを騙る者が用意した決戦場へ向かう準備が整えられるカルデアの一角。
賢王ギルガメッシュが立香ちゃんの呼びかけに応じて召喚されたわけだけれど僕はこうしてとっ捕まってしまったわけだ。
「それは私も気になるなぁ、だってキミ……時代遡行とか余裕でできるタチだろ?モルガンと同じ魔術、水鏡を使えるんだからそのくらいは余裕なはずさ」
そして、もう一人。
自分をグランドキャスターだと称して散々レオナルドを煽り散らかしたグランドクソ野郎こと花の魔術師マーリン。
ロマニ曰く
「げぇ!?マーリン!?!?どうしてここに!?」
とのことだった。
「僕の使える水鏡はそこまで便利なものじゃない。せいぜいが迫り来る致死級の魔術をどこかに飛ばすくらいさ」
「そんなものかい?だってキミ、魔術の腕ならモルガンと同等だろ?」
「
「ええい、同じような声で言い合いをするな!」
賢王からの静止の声で僕ら二人の会話が止まる。
そもそも彼の質問に答えるのが先だっただろうかと思案して口を開いた。
「実際、レイシフトしようにも時代から弾かれたんだ。僕たち千里眼持ちが三人同じ時代に揃うのが良くないのか、それとも僕という異物が紛れ込むことが許されなかったのか……」
「それならおそらく後者であろうな。あの人類悪、ティアマトは人類が乗り越えるべき厄災の一つだ。それは半神の我でも夢魔のマーリンでも妖精の貴様でもなかろうよ。なるほど納得がいった、なるほど魔術王めなんとも抜け目のない」
「まあどちらにせよ、一つの時代にこうして三人揃ってしまったわけだ。いや、正確には
マーリンの瞳がほんの少しだけ光を灯し、この部屋にはいない誰かを見つめる。
「やめておけ、今やつはこの眼は持っていないだろう。この先、その眼を取り戻すときが来たなら……それは奴が終わりを受け入れたときであろうよ」
「私はそういうのあんまり好きじゃないんだけどなぁ、物語はハッピーエンドで終わるのが一番美しいと思わないかい?キミもそう思うだろう?レインフォート」
「それは僕に対しての当てつけかな?それとも宣戦布告?」
「ははっ、まさか!だってキミ、やろうと思えば
「どうしてお前は一言二言多いのだ。それとも同郷の妖精が相手だからといつもよりも饒舌になっているのか?」
「勘弁してくれ、花の魔術師に絡まれた人間はその巧妙な言葉で騙されるって聞いたからあまり関わりたくないんだ」
「でもキミ、人間じゃなくて妖精だろ?」
「そういうことじゃないんだよ」
大きくため息を吐き、ギルガメッシュ王が哀れみを持った瞳でこちらを見つめてきている。
僕を揶揄っている当の本人は楽しそうに笑っているばかりで『どうしてこうなった』と思わず額を抑えてしまった。
「それに、勝負をするにも円卓の宝具を魔術に落とし込むなんて離れ業をしているキミと戦いたい魔術師なんてほぼいないと思うよ?」
「天才の基準は人それぞれというが……貴様の才は間違いなくその域にあるというのは否定できそうにもないな」
「第一、その水鏡はあの円卓の生きた時代ですらモルガンにしか使えない空間転移の魔術だ。悔しいけど無論、私にも扱えないものだしね。それを現代で使える者がいること自体が特異なことなんだよ?」
「……とは言っても、これは誰に教わったわけでもなく必要だから編み出したものだったからね。モルガンしか使えなかった、と言われても僕には関係のない話だとおもわないかい?」
「それでもキミはヴィヴィアンの縁者なんだろう?あの黒いアルトリアから聞いたから間違いないと思っていたけど?」
もきゅ、もきゅ、とハンバーガーを頬張るあの黒き騎士王がこっちをみてサムズアップしている姿が脳裏に浮かんだが、それを振り切るように軽く頭を振る。
「貴様の出自もなかなか興味深いものよな。剪定事象となる異聞世界からの来訪者。いや、来訪者というよりも生まれ変わり……とでもいうべきか」
「異なる世界のブリテンの産まれの妖精がこの世界に生まれ変わったこと自体が珍しい、というよりも前例のないことだ。それも亜麗として生まれながらキミは役割を持っていない。まるでこちらの世界ではなく向こうの世界にやり残しをしてきたみたいだ」
「そんなことは……ないはずなんだけどね」
唯一のやり残しがあったとすればトネリコの行末を見届けることができなかったことだけれど、それはあの時納得してあの場に置いてきたはずのことだ。
だから、やり残しなんてあるはずがなく……
「やり残しのないものなんてこの世界のどこにもいないだろうよ」
ギルガメッシュ王の言葉があまりにも耳に響いた。
「この我とてやり残しなどいくらでもある。後悔など微塵も存在しないが、我にとってウルクへのやり残しなど数えきれぬほどあるわ」
「まあ、そうだろうね。やり残しがない生命などない、実にその通りだと思うよ。だから、キミの心にある強いやり残しの気持ちが向こうの世界に残っているのだろう」
椅子の背もたれに深く腰を預ける。
大きく深呼吸をして、それがなんなのかは考えるまでもなくすぐにわかった。
───お兄様!
脳裏に浮かぶのは一度だって忘れたことがない最愛の少女の声。
僕のやり残し、それはきっと……
「ああ、間違いなくあるだろうね」
きっと、いずれ果たせる日が来る。
キャメロットで聖槍の彼女に言われたことが真実なら。
僕は再びあの大地の土を踏むことになる。
「それがなんであるか、あえては問うまい」
「そうかい?私は気になって仕方ないけど」
「君は人の問題に首を突っ込みすぎて結局破滅を迎えたのを忘れたみたいだ」
「くそう!痛いところをついてくるじゃないか!」
他愛のない会話をしながら、このあと数時間は千里眼を持つものたちの会談は続いていった。
人理修復、その結末はもうすぐそこまできている。
本当はバビロニアもお兄様出陣させようかと思ったんですよ。
でもほら、あの特異点はお兄様の出る幕がないというか……入り込む余地がないというか。
“人間が乗り越えなければならない厄災”に対して妖精であるお兄様が出向くのは違うのかなと思った結果、冒頭数百文字でバビロニア編終わりました(殴)
次回からは終局特異点を挟んで一気にぶっ飛びます。
来るぜアヴァロン・ル・フェ、オークニー兄妹の再会。
胃をキリキリさせながら作者自身も頑張りますので何卒応援よろしくお願いします。
あと、あらすじ欄に各章のイメージソングなんかも追加しておきましたのでよければ聴いてみてください。
みなさんからの感想と高評価、ここすきとお気に入り登録めちゃくちゃお待ちしてます。