お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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まさかの2日連続投稿です


第十二湖『決戦前夜』

人理保障機関カルデア。

七つの特異点を超えて、残すのはソロモンを騙る者が根城にしている最後の特異点へと向かう準備を整えている。

作戦の決行は明日へと控えたカルデアではスタッフは交代で休息をとり、立香ちゃんとマシュにはしっかりと睡眠をとるように言っていた。

 

「キミもそろそろ一度休んできたらどうだい?」

 

「ロマニ……」

 

マグカップをふたつ持ち、片方を僕のデスクの上に置く。

こんな時間だからコーヒーかと思ったが、甘い香りから察するに中はココアだろうか、それもロマニ好みのミルクたっぷりの甘いやつだ。

 

マグカップを手に持ち、軽く一口啜る。

もう飲み慣れたとはいえ、かなり甘いココアのおかげでほんの少しだけ身体から力が抜けるような錯覚を得る。

 

「いよいよだな」

 

「ああ、長いようで短い一年だったよ」

 

つい数日前に終えた七つの聖杯探索。

たった一度だが、僕も現地入りしたからこそわかる過酷な現場での聖杯探索。

ほんの一年前までは普通の学生だった立香ちゃんだって本当に頑張ってくれた。

 

「まったく、立香ちゃんには頭が上がらないな」

 

「本当にその通りだよ。この作戦が終わったらちゃんと家族の元に帰してあげないといけない」

 

「それに退職金だってたんまり給付して、ね」

 

「ははっ、それは大事だね!」

 

軽くそんなふうに笑い合って、再び一息つく。

 

「こんな状況じゃなかったら、ここから和菓子でも持ち出してお茶でも……と思うんだけどね」

 

「この作戦が始まってからそんな時間は取らなかったからね。なに、未来を取り戻せたらそんな時間いくらでもあるさ」

 

「そうだね、一度日本に行って本場の和菓子も食べにいかないとだ。その時はレイン、キミも来るだろう?」

 

「もちろん、家族への土産も兼ねて同行させてもらうさ」

 

ロマニ手製の甘いミルクココアを飲み干して、僕は席を立つ。

 

「食堂に行って何か摘んでくる。食事を摂らなくてもいい身体ではあるけど……やはり食事を摂ることで満たされたりするのは変わらないからね」

 

「それがいい、今は食堂を手伝ってくれるサーヴァントたちは居ないけれど……まあキミなら問題ないだろう。1〜2時間くらいゆっくりしてくるといい」

 

「少しの間席を外すよ。帰り際に片手で食べれるものでも作ってくる」

 

「あっ、それならおにぎりがいいなぁ!エミヤ君が食べさせてくれてからハマってるんだよね、あれ」

 

「ああ、あれはいい。彼の作るおにぎりは一つの芸術とすら思えるね」

 

「僕のは鮭と昆布で頼むよ」

 

ロマニのそんな言葉を背に、司令室から出て食堂へと向かう。

道中、休憩上がりのスタッフとすれ違って軽い挨拶をしながら食堂へ辿り着くとわかっていたことではあるがそこは無人であった。

 

「……ああ、ご飯は炊いてくれているんだね。流石はエミヤだ、作戦前だから現界してもらうことはできないと伝えていたと言うのに準備万端で助かるよ」

 

炊飯器を開けると艶々の白米が美味しそうに炊けている。

ある程度のお供は用意してくれていたのだろうけど、職員たちの休憩を重ねるうちに残りは少なくなってしまっている。

 

「ふむ、残りのスタッフのことも考えると……ここは自分で作ったほうがいいか」

 

と、なれば……と食材庫の方へと歩いて行き。

 

「鶏肉に玉ねぎ、卵っと」

 

調味料は厨房の方に揃っているから持っていかなくてもいいとして、一食分……と、思ったがなるほど。

 

「お腹が空いたのかな?」

 

「あっ、レインさん」

 

食堂の方へと顔を出せばそこにはそろり、と食堂へと忍び込んでいた立香ちゃんの姿があった。

 

「僕もこれから夕食……もはや夜食だけど、親子丼を作ろうと思うんだけど……立香ちゃんもどうだい?」

 

「親子丼…………」

 

彼女は小さく呟いて食堂に並ぶ幾つかのご飯のおかずを見て、僕の方へと向き直って大きく頷いた。

 

「食べたいです!」

 

「ふふっ、了解。すぐにできるから座って待っててくれるかい?」

 

「はいっ!」

 

「元気な返事でよろしい」

 

食材庫から2人分の食材を持ってきて調理に取り掛かる。

砂糖と白出汁、三つ葉も用意して手早く作っていこう。

2人分とはいえ、やること自体は何も変わらないし手慣れた手つきで鶏肉を一口サイズに切り分けて、玉ねぎを切り、フライパンで炒めていく。

 

「レインさんってイギリスの人なんですよね?親子丼って向こうでも食べられてたんですか?」

 

「いや、僕が住んでたところではほぼ食べることはなかったかな。そもそも丼ものという概念がなかったというか……昔、時計塔に在籍していた時に当時の後輩が日本の子でね。日本食を食べさせてもらったのが始まりだったかな」

 

もっとも、時計塔にいたのは1800年代頃。

今から200年くらい前なのは黙っておこうか。

 

「最近はエミヤ君に教えてもらってね。もともと僕自体も料理は好きだからね、彼から料理を教えてもらう時は楽しくて仕方ないんだ」

 

「エミヤのご飯美味しいですもんね!なんでも世界中の有名シェフとメル友になったとか言ってたんですけど、それも本当なのかなとか思っちゃったりして」

 

そんな雑談を交えながらいい感じに出汁が飛んで味が入ったあたりで2回に分けて卵を回し入れる。

ふわふわっとした半熟になるまで20秒くらい火を入れたら事前にご飯をよそっておいた丼に具を載せて三つ葉を散らせば完成だ。

ついでに食堂に用意されていたお味噌汁をお供にして2人分の親子丼を持ってテーブルへと向かう。

 

「おまちどおさま」

 

「わあ!美味しそう!」

 

箸とスプーン、どちらで食べてもいいようにと持ってきたけれど勢いよく箸を持って口へ運ぶ彼女を見て思わず笑みがこぼれる。

 

「ん〜!おいしいです!」

 

「それは良かった。彼に教えてもらったレシピ通りに作ったから美味しくないわけがないんだけどね」

 

「これで明日の作戦が終わったら他のスタッフさんに自慢してきます」

 

「やめなさい」

 

僕も自分の分の親子丼を口に運ぶ。

うん、彼に教わった通りの優しい味になっている。

作り置きされていたお味噌汁も相待って素晴らしい夜食だ。

 

「レインさんとこうしてゆっくり食事しながら話すのって、初めてですよね」

 

「そうかもしれない。君が食事をしている時間はなんだかんだ走り回っているからね」

 

「す、すいません……」

 

「ああ、いや……悪い意味ではないんだ。マスターである君には本来なら僕たちが背負わなければならない苦悩や責任を負わせているというのはわかっているから」

 

互いに食事をとりながら、ではあるけれど今まで話せなかったようなことを話してしまおうとポツリポツリと言葉をこぼす。

 

「確かに最初は、なんで私が……って思ってました。特異点の攻略とか、世界を救う戦いとか……だって、私ってただの学生だったし……戦争とかそんなのわからなかった」

 

「そうだろうとも、本当なら僕かマシュがその役割を負うべきだった。いや、僕が特異点に赴くべきだったんだ」

 

このカルデアにおける魔術師としての格は僕が一番上だということは理解していた。

それでもマスターとしての資格がないからと同行をしていなかったのは事実だった。

 

「しかし……キミでなければバビロニアは踏破できなかった。あの人類悪を……原初の母であったあの神を打ち倒せたのは、君がこれまで必死に築き上げてきた知識と経験、そして絆があってこそだ。改めて君に感謝を、ここまでの特異点攻略は君じゃなかったら出来なかった」

 

「あ、あはは……ありがとうございます。でも、面と言われるとちょっと恥ずかしいかも……」

 

「君が行ったこれまでの旅はこの世界でたった1人しか得られない、たった1人しか成し得なかった偉業だよ。恥ずかしがることはない、君はドンと胸を張っていればいいのさ」

 

そんな話をしながら気がつけばお互いのどんぶりの中身も空になっていた。

彼女が淹れてきてくれた緑茶で一息ついて、軽い雑談に花を咲かせた。

彼女が過ごした街や学校のこと、友達や放課後にどんな風に過ごしていたか。

彼女がこの忙しない非日常の中で大切だったはずのなんでもない日常を忘れてしまわないように。

これからの戦いの先に、きちんと元の世界へ帰れるように。

彼女にとって大切なものを、楽しそうに話すのを僕はずっと聴き続けたのだった。




次章【冠位時間神殿ソロモン】

「みんなを頼むよ、レインフォート」

「ああ、任された。ロマニ・アーキマン」
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