お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
事前に伝えておくことで自身のダメージを軽減しておこうというわけですね。
3日連続更新になるのでまだ追いつけてない方は前話、前々話の方から読み進めていただければ幸いです。
第一節『その手にある資格』
作戦の決行時間が既に決まり、あと数十分後には立香ちゃんとマシュ……そして僕がソロモンが待ち構える特異点へと突入することになっていた。
ブリーフィングはもう既に終了している。
ここにきて何かをしろ、なんて指示はもうなかった。
魔術王ソロモンの打倒、ただそれだけがカルデアに与えられた最後の試練だった。
「おそらく、向こうにたどり着いたら君たちが今まで戦ってきた魔神柱がかなりの数いるはずだ。僕はそちらの殲滅に回ることになるから直接的な支援はほぼ出来ないと思ってもらっていい。ただ、マシュと立香ちゃんが帰って来れるように全力を尽くすよ」
「はい、レインさんも気をつけてくださいね」
「必ず3人で帰ってきましょうね」
「ああ、必ずね」
マシュと立香ちゃんの元から離れて、僕は自分の使うコフィンの元へと向かう。
あの事件から、やっとの思いで修復できた一基。
今でも思い出すだけで血が出てしまうほど拳を握りしめてしまうような凄惨なあのファースト・オーダーの日。
長いようであっという間の一年だった。
殲滅戦、ということであれば……僕は自分の妖精としての主義を捨ててでもあの子達を守るために戦える。
雨の氏族は戦いを好まない。
ああ、そうだとも。
だから、あの日……僕たちは滅びを受け入れた。
僕たちが滅びた先に、未来が待っていると。
その命を賭して、彼女を守ると誓ったからだ。
だが、今は違う。
僕が死んだところであの子たちの未来が続くと証明できない。
戦わなければ、この先の未来がないというのなら。
「守ってみせるさ、あの子達も……あの子たちの進む未来も」
身に纏うのはいつものカルデアでの制服ではない。
この世界に生まれ落ちてすぐに作り出した魔術師としての礼装。
効果は……まあ、それなりに盛っているといったほうがいいかもしれないけれど。
「全く、精が出るな。最終決戦なのだから、確かにそのくらい気合が無ければ困ると言ったところか」
「アルトリア・オルタか……今はサーヴァントの現界は制限されていたはずだけど、どうしてここに?」
「私くらいになれば自分の魔力で現界できる。何しろこの心臓は竜のものだからな。お前のように妖精炉をフル稼働できるわけではないが、少しの現界くらいなら大したものではない」
そう云いながら僕の前に現れた彼女はいつものドレス姿。
戦闘に赴くための装束ではないことだけは確かだったのだが。
「君のことだ。このタイミングで来たからにはただ雑談しにきただけというわけではないだろう?」
「鋭いな。確かに如何に貴様がジャンクフード仲間とはいえ、私とて王であった女だ。決戦前の空気というものは弁えている、ただ雑談しにきたわけではない」
「ジャンクフード仲間……?ハンバーガーを共に食べた記憶は残念ながらないんだけどね」
「馬鹿者、共に同じものを食さなくとも食事を共にするだけで仲間にはなるものだ。それに、貴様がよく食べているカレーや丼ものだってジャンクフードだろう」
「それは作戦が終わった後にゆっくり話し合う必要がありそうだね」
そこまで勢いで口にして、抑えめな笑い声が2人の間に響く。
とにかく、作戦開始も後数分後に控えているのは彼女も理解しているだろう。
雑談をしにきたわけではない、ということは何かアドバイスでもくれるのかとほんの少し期待していたのだが……
「マスターが各地の特異点で紡いできた絆は、間違いなくお前たちのために働くだろう」
アルトリア・オルタは静かに、それでいて核心を持った言葉でを紡ぐ。
「だが、一つだけ言っておく。おそらく、聖剣を持った私は絶対に現れない。これは本来の私であろうと反転した私であろうと同じだ。エルサレムで出会った私の影かロンドンで現れたという私の影ならばあり得るだろうが、これだけは確実に言える」
「そうか、ならば……星の光はアテにしない方がいいということかな」
「ああ、私が扱う聖剣には期待するな」
態々、それを云いにきてくれたのだろうか。
確かにこの人理の危機という状況においてアーサー王が現れないというのはいささか疑問に思うところはあるが、それでも間違いなく本人である彼女が“来ない”というのだからそれは本当なのだろう。
「だが、星の光がアテにならない……とは言っていない」
「…………なにを?」
「私もお前も、その起源を辿ればヴィヴィアンに縁のある者だ。片や竜の因子を持って生まれた人間で片や亜麗として生を受けた妖精という違いはあるが……湖の乙女は頑固でな。一度こう、と決めたことは決して曲げない性格だった。この剣を託された時もそれはもう散々文句を言われたものだが……」
彼女の持つ反転した漆黒の聖剣。
その柄を僕の方へと向けて、差し出していた。
「互いにヴィヴィアンに認められたもの同士だ。お前にもその資格があるだろう」
「いや、待ってくれ。僕にそれを握る資格なんて……」
資格なんて、あるわけがない。
あの聖剣が鍛造されなかった世界で、その罪を背負っていた僕たち妖精が……
目の前にあるこの星の輝きに触れていいわけがなかった。
その剣に触れるだけの価値も資格も、何も持ち得ていないのだ。
「資格、か。いいことを教えてやろう、この剣は持ち主の属性で聖剣の光が変わる。本来の私であれば眩いばかりの旭光、今の私であれば漆黒の暗星……星の内海で鍛えられ、ヴィヴィアンから託されたこの聖剣……貴様にはどんな光を見せてくれるか、気にならないか?」
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべながら彼女は一歩下がった僕との距離を2歩縮める。
聖剣の柄がほんの少し、僕の身体に触れる。
「この世界に生きるもの、それを守護するための聖戦。この世界がどんなものであれ、今は貴様たちが人理の防人たり得る。ならば、この剣が仮初とはいえ私でないものを聖剣使いとして認めることもあるだろう。なに、元より星の聖剣使いとは私だけを指す言葉ではない。一番有名な聖剣使いが私というだけの話だ」
「だからと言ってその資格を僕が持っているわけがないだろう……!」
「時間がないのだから何度も言わせるな。私はこの剣を持っていけ、と言っている。なに、他の聖杯戦争では宝具をマスターに埋め込んだり自分の存在をとしてホムンクルスを救ったりした物好きもいるらしい。エクスカリバーの一時的な貸付程度大したことではないだろう。帰ってきたら間違いなく私に返せ、それでいい」
何を言っても訊かない僕に痺れを切らしたのか、彼女は僕の手を取ってそのまま聖剣を握らせる。
「ああ、貴様は何度も資格がないと言ったな?一つだけ教えてやろう」
漆黒の聖剣は、確かにその色を変えた。
漆黒の刀身はそのままに、紅く刻まれていた紋様が蒼く光り輝いていた。
「聖剣使いの私が、その資格がないものに貸してやってもいい……などというわけがないだろう?」
自身の魔力が、聖剣と馴染んでいくのが嫌でも理解できた。
それと同時に、自分が扱うことのできる真名も自ずと脳裏に浮かんでくる。
「
「ふっ、よほどヴィヴィアンから好かれていると見える。私の用事はそれだけだ、作戦から帰還したらしっかり返しにくるように」
カツカツとヒールの音を響かせながら彼女はその姿を消していく。
手に残された聖剣を呆けた顔で見つめていると、ロマニからコフィンに搭乗するようにとの通信が入った。
記録名【冠位時間神殿ソロモン】
人理を取り戻す、最後の作戦が幕を開ける。
今回のソロモン編はトネリコの厄災祓い編と同じように章分けして何話かちゃんとやって参ります。
人理修復をめちゃくちゃスキップしておいて何を今さらって感じですが、ロマニとの最後の別れはしっかりやっておかなければなりませんよね。
あっ、エクスカリバーについては石投げて来ないで……
何処かで見た名前ですが決して水鉄砲の先端に聖剣くっつけて射出したりしませんからね。
皆さんの感想と高評価、お気に入りとここすきお待ちしてます。