お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
小説書くのにテキストを読み返そうと思っていたんですけど「映画見たことないからこっち見るか」という軽い気持ちで見たんです。
「うぅっ……ロマニ……」
9年越しにロマニショックに襲われています。
夢を見た。
誰もが幸福で、尊重しあって、終わりのない生命が育む終末の世界。
「お前にとって、この光景こそが最大の幸福。争いのない、奪う意味がない、永遠の生命と幸福の楽園」
誰もが笑っていた。
誰もが悲しみを失っていた。
「私たちはこの世界で幸せです」
誰かが、僕の目の前で口にした。
「この世界は奪われることがない」
「この世界では怖いことがない」
「この世界には罪がない」
「この世界ではみんなが平等で」
「この世界ではみんなが自由だ」
誰もが、笑いながらそう口にする。
「貴方の世界は辛いでしょう?」
「貴方の世界は怖いでしょう?」
「貴方の世界は苦しいでしょう?」
「だから、みんなで幸せになりましょう?」
誰かが、僕に手を伸ばす。
知らない誰か、なのに……その手はひどく蠱惑的で。
「みんな平等な世界なら、人間や妖精なんて関係ない」
「みんなが平等な世界なら種族の壁なんて必要ない」
「誰しもが幸せな世界ならきっと、あの子も幸せになれる」
笑顔の絶えない世界だった。
誰もが平等で差別なんてなくて、争いもない幸せな世界だ。
そんな世界があるなら、誰だって欲しがるだろう。
そんな世界があるのなら、僕は今もあの国にいただろう。
そんな世界があるなら、僕はこうして剣を握っていることはなかっただろう。
誰かの夢、誰かの望み、誰かの希望。
そんな夢のような世界があるなら、僕は今もあの雨の国で笑っていたはずだった。
そんな夢のような世界があるなら、立香ちゃんは今も故郷で笑っているはずだった。
そんな夢のような世界があったとしたら…………
「でも、そうはならなかったんだよ。ソロモンを騙る術式」
「だからこそ、我らはこの偉業を成す。汎人類史の外からやってきた妖精よ、お前ならば我らの計画、この偉業の意味を理解してくれるはずだ」
「確かに、これは大偉業だろう。人類の生命としての限界を撤廃し、全てを平等にすることで争いのない世界を創る。確かにそこには死の恐怖がない、争う意味も、奪い合う意味も、傷つけることの理由も何もかもが消えて無くなる……ああ、確かにそんな世界があれば幸福だろうね」
「そうだろうとも、お前ならば……」
「だけど、それは停滞と何の違いがあるというんだい?」
その問いかけに、いつの間にか隣に来た彼の言葉が詰まる。
「無限の生命、尽きることのない幸福、人の欲と創造性を失った世界は……いずれ淘汰されるべき歴史へと変わる」
正しき繁栄、正しき滅び、正しき創造、正しき欲。
きっと管理された世界では誰もが“自分”という個を失っていく。
無限の生命というのは人類にとっての理想だが、理想を叶えてしまった人類は緩やかに、確かに衰退していく。
「お前はきっと死のある世界に絶望してしまったんだろう。何度も繰り返す争い、一握りのものだけが与えられる幸せ、平等を謳いながら差別と支配が横行するこの世界を見限ってしまうのは仕方ないのかもしれない」
死のある生命を憐れんだ、優しきものたち。
本来ならば起動することはなかったかもしれない憐憫の獣。
「でもね、人を愛するからこそ……僕はその結末を否定する。人類がどうしようもなく愚かな生き物だとしても、死に囚われ、その果てに地獄を生み出す生命だとしても」
これまで出会ってきた全ての人間と生命を思えば。
「僕たちは、それだけじゃないことを知っている」
「それが、お前の結論か」
「そう、これが僕の結論だ」
世界が晴れる。
目の前にあった何もかもが消え去った。
今この場には、たった2人。
妖精と魔神の首魁のみ。
「私を打倒できるのはおそらく貴様のみだ」
「いいや、それを成すのは僕じゃない。“今を生きる人類”の立香ちゃんさ」
「なぜそうだと言い切れる、あの無力なマスターの小娘1人に何ができる?」
「君こそわかっていないな、世界の脅威を倒す役割はいつだってなんの変哲もないちっぽけな人間の役割なのさ」
夢から醒める。
この領域からどんどん意識が遠のいていく。
「どのみちお前たちではこの偉業を阻止できん。星の聖剣を手にしたところでお前1人では何もできまい」
ただ、そう言い残す魔術王……いや、魔神の王は冷たい瞳で僕を見つめていた。
意識が繋がる、身体の感覚が戻ってくる。
コフィンからの転移を経て、僕たち3人は特異点への侵入を完了した。
「調子はどうだい、立香ちゃん、マシュ」
「こっちは問題ありません、いつでも行けます」
「私も大丈夫……目的地は、あの門みたいなところかな」
視界の先に見えるのは白亜の門。
そこから通じるゲートの先に次の領域があると予測されている。
『こちらでも観測した。目的地はあの門だ、それを越えて行った先に魔術王の魔力を観測している』
「了解だ、じゃあ取り敢えず……あの門の手前まで跳んでしまうか」
『いいや、それは待ちたまえ。君はカルデアにおける最大戦力だ、移動なんかで魔力を使う必要はないよ!』
レオナルドの声と共に崖の上から豪快なエンジン音と共に一台の車両が落ちてくる。
どこかで見たデザインの車だと思っていれば、立香ちゃんたちがエルサレムの地で乗り回していたレオナルド印の車両だった。
「これ!第六特異点で乗ったやつ!」
「ダ・ヴィンチちゃん流石です!」
『運転は立香ちゃんが慣れてるだろう?目標までは約20Km程度だ、かっ飛ばしていくといい!』
本当なら水鏡で3人まとめて飛んだ方が効率はいいはずなんだが……いいや、せっかくの好意だ……僕もこれに乗ってみたいと少しだけ思っていたことだしありがたく乗せてもらおうじゃないか。
立香ちゃんが運転席に、マシュが助手席に乗って僕は後方に座り込む。
運転席についている計器は全てカルデアでよく見るホログラム式なのがどこか近未来感を覚えさせるがレオナルドのことだ、彼女でも使いやすいように簡単な操作性にしているのは間違いない。
「それじゃあお願いします!マスター!」
「頼んだよ立香ちゃん」
「まっかせて!目的地まで飛ばすよー!」
アクセル全開、急な加速と共に鋼鉄の鉄騎が駆け抜ける。
遥か彼方まで見えるのはまるで宇宙のような世界。
いくらかだが魔神柱の存在も見え隠れしている。
「レインさんは予定通りなら魔神柱の迎撃に当たるんですよね」
「そうだね、だから君とマシュが魔術王と戦っている時は一緒にいてあげられない。僕が分身の魔術でも使えるなら、話は別だったんだけど」
「レインさんでも冗談をいうんですね、分身の魔術なんて流石に最果ての賢者ですら生み出せないでしょう。あっ、でも水鏡は空間転移の術ですし……もしかしたら、生み出せてしまうかもしれません」
「ははっ、レインさんならやりそう!気がついたら「出来ちゃった」とかいってさ!」
「君たちは僕をなんだと思ってるんだい?」
「「最果ての賢者(です)」」
「その名前はやめてくれと……」
20kmの距離を詰めるために走行する時間はそう長くない。
ましてや妨害するものがなく、唯一の欠点は悪路というだけ。
15分も走れば……奴らが迎撃してくる範囲に入るのは分かりきっていた。
肉柱が蠢く、大地が割れる。
人としての感性がアレを見つめることを拒んでいる。
あの柱一つに宿る無数の瞳、そこから放たれるのは純粋な魔力の放出。
「マスター!」
「立香ちゃん!!!」
「まっかせて!!!!!」
一体どこでそんなドライビングテクニックを手に入れたのか。
迫り来る無数のビームを避ける、避ける、避ける。
当たりそうなものを僕が魔術で迎撃して、それを抜けたものをマシュの盾が防ぐ。
そうして残りの5kmを走破したところで……
門の前に、見慣れた緑の男が立っていた。
「やあ、久しいなカルデアの諸君」
胡散臭いいつもの笑みを浮かべ、こちらを挑発するような声音が僕らの耳へと届いた。
月内に終局特異点を終わらせたいなーなんて思っていたり。
28日はみなさん知っての通り、例のゲームの新作が解禁ですからね。
「お兄様、このもんはん?というゲーム一緒にやってみませんか!巴御前さんから面白いからお兄様と一緒に遊んでみたらいいと教えてもらいまして!」
「もちろんいいとも。ところでトネリコ、それをするための機械はあるのかい?」
「ばっちりです!その話を聞いていた黒髭さんが2人分のセットをくれました!」
「黒髭が……?な、なるほど?僕の方からもあとでお礼を言っておくよ」
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