お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第六節 『決別の時来たれり』

第七の領域、そこに足を踏み込んだ時には既に決着がついた直後だった。

 

「ああ、やっときたねレインフォート」

 

声をかけてきたのは天の鎖。

美しい緑のヒト、ギルガメッシュ王の唯一の盟友()であるエルキドゥだった。

 

「この領域は見ての通り、たった今片付いたところだ。他の領域とは根本的な存在の強度が違うからね。キミの負担を減らせたのは幸いだった」

 

「困ったな、ただの冷やかしに来てしまったみたいだ」

 

「キミのそういう冗談を言えるところは好ましいね。カルデアで少し話をしただけだけど、キミとはいい関係を築けそうだ」

 

ほんの少しの雑談。

そして、粒子となって消えていく彼らはすぐに次の領域に再召喚されることだろう。

 

 

第七の領域・生命院サブナック、閉廷。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

星の内海、遥か遠い湖の底で乙女は隔絶された最後の特異点を見る。

目に映るのはたった1人の妖精、この世界の生まれではない異分子の一つであるはずの青年。

 

振るわれるのは彼女が彼の王に託した星の聖剣。

もう数えるのも遠いほどの古に湖の乙女がアルトリアという少女に託したこの星の決戦兵器。

それを今、本来ならその権利を失ってしまった妖精がその剣の輝きをあの領域で煌めかせている。

 

「……聖剣が鍛造されなかった異聞世界における聖剣使い」

 

神秘は薄れ、現代にはもう現れることのできない乙女は遠く離れた聖剣使いへ視線を向ける。

 

「……あちらの私があなたにずいぶんお世話になったようですし、たった一度くらいなら、と思っていましたが」

 

乙女は恍惚とした表情で微笑む。

 

「そのように勇ましく貴方の聖剣の輝きを見せられては、私の近くにいてくれなかったことに嫉妬してしまいそう」

 

しかし、彼女はこの感情が醜いものだと知っている。

その感情を向けていいのが自分ではないことを知っている。

彼に対しての恋心は、遠く離れた世界の自分のものだと知っている。

 

ああ、例えそうだとしても。

 

「たった一度でいいから、貴方に会ってみたいわ」

 

湖の乙女、ヴィヴィアンは微笑む。

たとえ自分には届かない美しい星だと理解していても、そこに向かって手を伸ばすくらいは許されるだろうと願いながら。

 

「世界を救う戦い、その結末が貴方の勝利で終わることを心の底から願っているわ」

 

願わくば、ヴィヴィアン(湖の乙女)の加護が貴方へと届きますように。

 

 

 

 

***

 

 

第八の領域へと辿り着いたレインフォートはそこまで一緒に戦ってきた英霊たちと力を合わせて底の見えない最後の魔神狩りを開始していた。

 

幾度となく使った円卓の騎士たちの宝具の名を持つ大魔術、数えるのも億劫になる程行った聖剣の簡易解放と真命解放。

数十の英霊たちの力を借りてもまだ底の見えぬ相手は確かにその名の通りの廃棄孔なのだろう。

 

この領域に突入してから十数分、遠くの領域……立香ちゃんたちが向かった領域の方から莫大な魔力の放出を感じた。

 

『───良かった、これなら防げそうです』

 

そんな声が、通信の先から聞こえてくる。

立香ちゃんの彼女を止める声が、嫌というほどハッキリと聞こえる。

 

『───先輩にはたくさん、助けられましたから。たった一度くらい、あなたの役に立ちたかった』

 

鳴り響く轟音と爆音の中で、彼女の最後の声がしっかりと───

 

 

 

『マシューーーーー!!!!!!』

 

 

 

その声が示す答えがどんなものだったか、離れていても理解できてしまった。

 

 

『数多の英霊の妨害あれど、我ら魔神を倒さなければその先に向かう資格なし……廃棄孔アンドロマリウスの役目をもって、星の聖剣使いの足止めをここに完遂する』

 

「……………………」

 

聖剣を握る手に血が滲むほどの力が入る。

 

気がつけば、ここに集っていた英霊たちはその姿を魔力の残滓へと変えていた。

 

ずっと、あちらの会話は通信越しに聴いていた。

ゲーティアがマシュに賛同を求め、立香ちゃんへとどうせ滅びるならマシュの延命ができる選択を取るべきではないかと問いかけていたことも。

 

だけどその上で、彼女たちは否定した。

 

そうして、戦い。

 

抗って。

 

マシュはその命を大切な少女のために使った。

 

その選択を僕たちは誰1人として責めることなんて出来ない。

 

ましてや、その選択を後悔することも許されない。

 

ただ、彼女が命を賭けたのなら…………

 

『「───臨むところだ」』

 

この別の領域にいる2人が、同じように駆け抜けようとしたその時だった。

 

 

「いやいや、そこは落ち着こうよ2人とも。玉砕は君たちらしくない、そこはもう少し力を溜めておいてくれ」

 

 

理性の鎖が弾け飛ぶその直前に友の声が聞こえた。

 

 

『ドクター……?』

 

「ロマニ……」

 

『おいしいところを持って行くようで悪いけどね……』

 

『貴様……その霊基……その指輪は……』

 

『ああ……たった11年前の話さ』

 

それはただ1人の全能者が呼ばれた魔術の儀式。

 

冬木にて起きた聖杯戦争の結末。

 

その結末に彼が願ったのは『人になりたい』というありふれた願い。

 

ただ1人の人間としてこの世界を生きていたい。

 

そんな願望は、叶えられたようで叶えられなかった。

 

彼の持つその瞳がそれを許さなかった。

 

『この作戦が終わればみんなで祝賀会、とも思っていたんだけどね。だけど、そうもいかなくなった』

 

『君とマシュが、臆病だった僕にこの選択を選ぶ勇気をくれた』

 

現在を視るこの瞳が、彼らのいる領域へと視点を向ける。

それはロマニ・アーキマンという個人が、本来の姿へと戻る瞬間だった。

 

魔術王ソロモン、カルデアの敵として立ち向かってきたゲーティアが姿をとっていた名前の本当の持ち主。

そしてそれは、間違いなくこの状況における切り札そのものでもあった。

 

『状況を反転させる切り札、そういうのは最後まで取っておくものだろう?』

 

『だって、そんなの今まで一言も……』

 

『ああ、僕はきっと機会が来なければ最後まで言うことはなかっただろう。でも……うん、こんな僕でも護りたい君たちと……大切な友人がいるんだ』

 

『……バカな!やめろ!貴様がやろうとしていることがどんなことか!本当に分かっているのか!!!』

 

ゲーティアの怒号、それを真っ直ぐに見つめ返してソロモン(ロマニ)は語る。

 

『分かっているさ、ゲーティア。だが、例えボクが居なくなったとしても、その先を託すことのできる親友がいる。ああ、今だからわかる。人は確かに弱くて、不完全で……でも、だから託すんだ』

 

『そして、託された人間は……その志を胸に歩き続けてくれる』

 

『なら、過去の存在は今を生きる彼らに未来を選んでもらおう』

 

『そのための未来(ミチ)はここでボクが開こう』

 

『ゲーティア。おまえに最後の魔術を教えよう。“ソロモン王にはもう一つ宝具がある”と知ってはいたものの、その真名を知り得なかった───いや、知る事のできなかったおまえに』

 

『おまえの持つ九つの指輪。そして私の持つ最後の指輪。

 今、ここに全ての指輪が揃った。ならあの時の再現が出来る。』

 

『ソロモン王の本当の第一宝具。私の唯一の、“人間の”英雄らしい逸話の再現が』

 

遙かなる過去の時代において、かの王は万能の指輪をただ一度のみしか使用せず、最後には天に還したという。

人間の愛を理解できなかった獣の主として、そして魔術王として。彼は“最後の魔術”を再演する。

 

『第三宝具『誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)

 第二宝具『戴冠の時来たれり、其は全てを始めるもの(アルス・パウリナ)

 

 

そして───

 

神よ、あなたからの天恵をお返しします。

 

……全能は人には遠すぎる。

 

私の仕事は、人の範囲で十分だ

 

 

『第一宝具、再演。───『訣別の時きたれり。其は、世界を手放すもの(アルス・ノヴァ)

 

10の指輪が、彼の手を離れ、天へと昇る。

それと同時に起こるのは奇蹟の破却、魔術王ソロモンが残した全ての痕跡がこの地上の全てから消え去る。

 

目の前に蔓延る魔神たちの存在が脆弱になって行くのがすぐに理解できた。

それはまさに、カルデア側が持ちえた魔神王ゲーティアに対する最後の切り札。

 

だが、その代償は───

 

 

『全く、こんなのガラじゃないんだけどなぁ』

 

『でも、不思議と気分は悪くない。立香ちゃん、悪いけどボクの後始末頼めるかな?』

 

『……はいっ!』

 

『うん、いい返事だ』

 

ソロモン王の完全消滅。

光の粒子となってその存在を確かに消して行く彼を、僕の瞳は間違いなく写していた。

 

『聞こえているかい、レインフォート』  

 

「ああ、聞こえているよ」

 

『見ての通り、作戦前にした約束は守れそうになさそうでさ。その約束は、ナシってことで』

 

「……また今度、ってことにしておくさ」

 

『ハハハッ、そうだね。じゃあまた今度ってことで…………』

 

 

 

 

 

 

『ボクがいなくなった後、みんなを頼むよレインフォート(親友)

 

「ああ、任された。ロマニ・アーキマン(親友)

 

その言葉を最後に、ソロモン王(ロマニ・アーキマン)はこの世界から完全に消滅した。

 

 

ギュッと、歯を噛み締める。

聖剣に篭る魔力が限界を超えて蓄積する。

 

「───ッ!」

 

視界の先では、ゲーティアと立香ちゃんが言葉を交わしている。

マシュがいなくなった、ロマニがいなくなった。

ならば、僕があの場所に行くしかない。

 

彼女1人にするわけには、行かないのだ。

 

『サーヴァントのいないマスターに何が出来るっ!』

 

ああ、そうだろう。

誰もがそう思った。

だがしかし、この場における彼女は……正真正銘人類最後のマスターだ。

 

『出来るよ』

 

その一言が全てを覆す。

 

『霊長の世が定まり数千年。神代は終わり、西暦を経て人類は地上でもっとも栄えた種となった。我らは星の行く末を定め、星に碑文を刻むもの。そのために多くの知識を育て、多くの資源を作り、多くの生命を流転させた。人類をより長く、より確かに、より強く繁栄させる為の理――人類の航海図

これを、魔術世界では人理と呼び、カルデアはそれを尊命として護り続けている……!』

 

 

『私は藤丸立香……!多くの人に支えられ、多くの人たちの代わりにここにいる……!カルデアのマスターだ!!!!』

 

それはまさしく人理の防人。

 

ただ1人、なんでもなかった少女に与えられた重責と共に得たどんな英雄にも成しえなかった()()()()()()()()()()()()()

 

ヒカリが、世界を超えて、次元を超えて、英霊の座へと届く。

 

再び人理を守護するために現れたるは無数の英霊たち。

 

救国の聖女・ジャンヌ・ダルク

 

ローマ皇帝、ネロ・クラウディウス

 

太陽を落とした女、フランシス・ドレイク

 

叛逆の騎士、サー・モードレッド

 

影の国の女王、スカサハ

 

銀椀の騎士、サー・ベディヴィエール

 

天の鎖、エルキドゥ

 

共犯者、エドモン・ダンテス伯爵

 

彼らをはじめとする百を超える英霊たちが今一度、人類最後のマスターの元へと集う───!

 

 

「なんてことだ、ああ……見ているかいロマニ!」

 

 

『勝負だ!ゲーティアァァァァアアアア!!!』

 

「君の見送ったマスターは、人類最高のマスターに育っていたよ」

 

たった1人の少女の言葉をきっかけに、人類を取り戻す最後の戦いが幕を開けた。

 




さようなら、ドクター・ロマンティック。




前回の投稿から評価値爆上がりしてて震えてます。
震えてるだけでまだまだいただけるのでもっとください(強欲)
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作者ページに載せてるブルースカイでこの小説のプチ設定なんかも呟いたりしてます

読者の皆様にお聞きします。僕の文章は楽しめていますか?(文字数を多くする場合この先の投稿頻度が落ちる可能性がありますが、参考程度にお聞きしたいです)

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