お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
『聞こえるかいレインフォート、藤丸ちゃんとどんな奇跡が起きたのかマシュは無事にカルデアに帰還した。あとは君が帰ってくれば作戦は終了だ』
「ああ、わかった」
レオナルドからの通信を受け取り、目の前に立つモルガンへと改めて向き直る。
彼女は役割を終えたと言わんばかりの表情で僕の方を見つめていた。
「おそらく私とあなたの縁はここでまででしょう。ヴィヴィアンという存在が縁となり今回は私が馳せ参じましたが、ふむ……まあ、あなたが望むならもう一度くらいは力になっても構いません。あなたが気まぐれにでも呪うことしか出来ない魔女の力を望むなら、私を呼びなさい?その時は眼前にある悉くを呪い殺してあげます」
「物騒だね、どうせ縁があるならゆっくりとお茶会でもした方が建設的だと思うくらいに」
「……それも、一つの案として覚えておくように」
その手があったか、と言わんばかりの表情と共にモルガンは頷いた。
退去の光がどんどん強くなっていく、ほんの少しだけ思案したような彼女は最後に口を開いた。
「そちらの私は……どのような女でしたか?」
それは純粋な問いかけ、
ただ、それを最後に問いかけたかったのだ。
「優しい子だったよ、聡明で好奇心旺盛で読書が大好きなオークニーの民に好かれる立派な王女だった」
「そう、ですか……そうですか……世界が違えば、こんなにも……」
その答えに満足したかは、わからなかった。
ただ、消える前に見せた彼女の最後の表情は笑っていたようにも見えた。
最後にこの領域に残ったのは、僕の姿だけ。
カルデアに帰還する前に、ひとつこの場に残していってもいいだろう。
目の前に水鏡のゲートを開き、向かった先は……
「まさか、こんな別れになるとは思っていなかったよ」
ソロモン王の玉座、魔神王が鎮座していたはずの玉座には天へと還されたはずの10の指輪が遺されていた。
この領域が閉じれば、もう何人たりともこの領域に辿り着くことはない。
もう誰も、この指輪を手にすることはない。
「1人で逝くのは、寂しいだろう」
首からかけていた職員章を玉座の上にそっと載せる。
ロマニ・アーキマンの生きた証、カルデアに存在した証は僕が大切に保管する。
だが、例えともに進めなくても……
「お前の生きた証と共に僕が初めて友人と認めたキミヘ」
どうか、輝かしい星を見送ったキミヘ。
あなたが歩いていく最後の旅路に、美しい水の祝福があらんことを。
「さようなら、ドクター・ロマンティック……キミはこんなことを言えば照れてしまうかもしれないが、僕にとって唯一の親友はこの先もキミだけだ」
忙しなく、休まる暇のない人生だっただろう。
だが、それでも……ほんの少しの間でも楽しいと思える時間があったのなら。
それを僕は、この先も守っていけるように尽くすと誓おう。
「ありがとう、ロマニ。お疲れ様、そして……また会おう」
最後にそれだけを言い残して、再び水鏡をカルデアへ繋げて……
「ただいま」
「ああ、お帰り。キミの帰還を以てしてこの作戦は終了だ!未帰還者一名、カルデアにとっては完全勝利とは言えない結果だが……勝利は勝利だ!」
司令室に戻ればレオナルドがレイシフトから戻るための指揮をとっていた。
司令室の雰囲気は決していいとは言えない。
原因は言うまでもないだろう、だが……それでも手を止めないのは彼に託されたから、というのは間違いなかった。
やがて、レイシフト特有の独特な感覚を経て、カルデアは南極に帰還した。
「南極への帰還を確認、さて……観測は私が行うから休めるものは休んできたまえ!魔神柱による攻撃もあったから所々壊れているかもしれないから気をつけて館内を歩くように、何か見つけたら私に報告してくれよ?」
レオナルドの号令で数名の職員たちが司令室を後にする。
何人かはその目尻を赤くしていたところを見ると泣いていたのだろう。
職員を見送る立香ちゃんとマシュへと、僕も近づいていく。
「人理修復、その任務の完遂お疲れさま」
「あ……ありがとうございます。でも……」
「ロマニのことならキミが悔やむことじゃないよ。僕たちが彼の選択を悔やむことは……許されないんだから」
「はい、そう……ですよね」
「ああ、だから……キミたちはカルデアの外に出てみるといい。きっと今日ならいい景色が見れるはずだ」
「…………?」
「いい景色、ですか?」
「うん、キミたちが取り戻した世界で……そして、彼がキミたちに繋いだ世界だ。マシュにとっては……初めての世界かもしれないね」
少女たちは大きく頷いて手を取って走っていく。
人理修復、その完遂を僕たちはたった1人の男の人生を犠牲にして終了した。
「すまないレオナルド、僕も少し休ませてくれ。2時間後には観測のために戻ってくる」
「ああ、キミもしっかり休みたまえ、2時間なんて言わずに今日1日はゆっくりとね。あと……これはキミが持っていくといい」
投げ渡されたのはロマニの職員章。
僕が代わりに置いてきたものも後で発行しなければならないが、まさか置いてきたものと同じものが彼の遺品となっているとは思わなかった。
それをしっかりと受け取ってポケットにしまい、司令室を出る。
いくつかの曲がり角を超えて、自室へと続く角を曲がった時。
「無事に帰ってきたようでなによりだ」
黒い騎士王が、いつものドレス姿で待ち構えていた。
そうだ、彼女から預かっていた聖剣を返す約束があったのだ。
作戦の終了と共に返す約束だったのだから自室の近くで待っていてくれたことは正直助かった。
「ありがとう、この剣のおかげでずいぶん助かった」
「それは何より、ところで貴様……あの女、モルガンに会ったな?」
「鼻がいい、と言ったほうがいいのかな……?最後にヴィヴィアンでの縁で駆けつけてくれたよ」
「あの女が自発的に?冗談では……なさそうだな」
珍しい、彼女の本気の困惑。
それだけ彼女の知るモルガンと異なっていたのか、それともそういう側面を知らなかっただけなのか。
「ああ、いや……気にしても仕方ないな。どちらにしても聖剣が役にたったのならいい」
「本当に助かった、ありがとう」
感謝の言葉と共に蒼く輝いていた聖剣を彼女へと返還する。
迷うことなく受け取った彼女の手元には再び黒と赤の聖剣が収まっていた。
「それで、聖剣使いとしての自覚は身についたか?」
「あれほど、その剣に同調されれば流石の僕でも自覚するよ。今思えば、僕の持っていた剣もそう言う類の剣だったのかもしれない」
「ほう?その口ぶりから随分な銘剣を手にしていたと見える」
「僕が妖精として生まれた時から携えていた剣でね。霊剣シャスティフォル、という銘の剣だった。剣に秘められている神秘こそ莫大だったけどその色があまりにも無色透明でね、ここにいる英雄たちが持ち合わせる宝具と比べても大した能力は持っていなかったかな」
それでも、その形だけは今彼女が持っている聖剣に似ていた。
漆黒の刀剣でもなく、本来の黄金の剣でもなかったがなにしろその姿だけはエクスカリバーに似ていたのをふと、思い出す。
「シャスティフォル、か……また懐かしい銘を聞いたな」
「キミにも縁のある剣だったのかい?」
「縁があるも何も、シャスティフォルは私が手にしていた剣だぞ。もっとも、カリバーンを扱っていた武者修行時代にほんの少し手にした程度だが」
アルトリア・オルタは笑う。
どうにも、僕が手にしていたあの剣はこの世界ではアーサー王の手にしていた武器であったことが判明してほんの少し動揺してしまう。
「まあいい、その辺りの話はまたおいおいするとしよう」
彼女はまた面白いものを見つけたと言わんばかりの怪しい笑みを浮かべていたが、それもすぐになりを潜めて背を向ける。
会話はここで終わりだと、彼女が見えなくなるまで見送ろうとしたところでほんの数歩歩んだところでその足を止めた。
「……よくやった」
「ああ、ありがとう」
たったそれだけの短い会話。
だけど、今はそれだけで十分だった。
彼女のヒールが床を叩く音が聴こえなくなるまで見送って、僕は部屋へと戻る。
きっとこの疲労も一睡し終えたら無くなっている。
きっとこの心に空いた穴のような感覚も時間が癒してくれる。
ああ、大切な友人に遺される気持ちは……こんなにも辛いものなんだな。
人理修復、完遂。
最終特異点。
記録名『冠位時間神殿ソロモン』
未帰還者一名。
ロマニ・アーキマン
マスター・藤丸立香とマシュ・キリエライトは無事帰還。
同伴で作戦に参加したレインフォート・アーデルハイトも無事帰還。
また、最高責任者であったロマニ・アーキマンの殉職を以て、その後任を現職の最高職であるレインフォート・アーデルハイトとする。
この領域で起きた出来事は不思議なことが多く、記録に残すためには少々時間がかかるかもしれない。
だが、人類にほんの数十人だけ残された人間たちは、確かにその大任を果たしたのだ。
「───ベリル・ガット、貴様……いまなんて?」
「はぁ?ああ、レインフォートだよ、レインフォート。あいつ、カルデアでは俺のこと目の敵にしててなぁ!そりゃ酷いもんだったぜ?」
運命の歯車は、ここに───
第一部、完(大勝利エンド)
やっと終わりました人理修復。
そして始まるよ2〜3話のアフターストーリーとブリテン異聞帯。
皆様の応援のおかげで一部完結できました!ありがとうございます!
そしてもう少しで評価値の色が変わりそうなのがふたつくらいあったりして……(チラッチラッ)
また、今回もランキングで20位以内とかに入れさせてもらったりしてて嬉しかったです、もっと作者を甘やかしてください。
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モルガンの話だから見てる(不満)