お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
終局特異点を踏破したあともカルデアの仕事が終わったわけではない。
あの領域から逃げ出したと思われる数柱の魔神柱の反応が観測されたのが数箇所あったため、そのための作戦を何度か行っていた。
かくいう僕は、ロマニの抜けた穴を埋めるように現状の最高指揮官としての役割をなんとか果たしている。
スタッフとの関係も概ね良好、立香ちゃんとマシュの一時的な日本への旅行もなんとか漕ぎ着けることまでできた。
移動手段……?そんなの水鏡で1発だよ。
座標が詳しくわからないと難しいんだけど、それは現代技術最高、インターネットの地図アプリで1発だったよ。
……?
ああ、パスポートのことかい?
そんなの、どうとでもなるよ。
あと変化のあったことといえば立香ちゃんに『
本当ならもっと位の高い階位をあげてもいいくらいの事をしたんだけど、公にできない事情というものもあるからね。
最低限の階位さえあればそれを盾に少しは身を守れるというのもある。
ちなみに今回の東京への立香ちゃんの帰還は1週間、現地への同行サーヴァントはエミヤとクー・フーリン、メディアの三騎だ。
どうやら、カルデアの特殊な召喚式のおかげで以前に召喚された際の記憶を持ち越しているらしく、現代日本とは縁がある事を聞いていたためにこのメンバーとなった。
「しかし、この私をあのメンバーから外すとは何事だ」
「キミは少し前に新宿で召喚されていただろう」
「アレは私であって私ではない、特異点の記録こそあれどあそこで実際に召喚されたのはこの私ではないからな」
「それは確かにそうなんだが……そもそもキミのその剣は現代都市では使えないだろう」
「…………」
司令室に嫌な沈黙が流れる。
時刻は深夜の25:40分。
立香ちゃんのいる東京の観測と彼女のバイタルデータを記録している為、スタッフは僕1人がここに残りみんなには休んでもらっている。
ロマニが座っていた指令の席に腰掛けてモニターに目を向けていたところに彼女……アルトリア・オルタが来たわけだ。
「ふん、確かにあの3人ならば護衛には最適だろう。私のような大量破壊兵器みたいな宝具は持っていないからな」
「何もそこまで言っていないだろう」
「どうだか、もしかしたら最果ての賢者とやらは親しい相手には口が悪いというのもあるかもしれん」
「それこそどうかな?相手があまりにも突っ込んだ話をしてくる騎士王相手だからというのもあるかもしれないよ?」
互いに冗談めかして軽い言い合いをしていれば“くすくす”っと小さな笑いが溢れる。
「ありがとう、正直あの時から気が滅入ったままだったからこういう会話は本当に助かるんだ。今のカルデアで僕にそんな話し方をするのはキミしかいないからね」
「マーリンと賢王もいるだろう。千里眼を持つもの同士、話が合うのではないのか?」
「千里眼を持つもの同士だからこそ、価値観が合わないんだよ。僕らはあまりにも人に対して、世界に対してのスタンスが違いすぎる」
「そういうものなのか」
「そういうものなのさ」
中身のあるようで特にない、そんな会話がポツリポツリと出ては消えていく。
アルトリア・オルタは普段はジャンヌ・ダルク・オルタと仲良く……本人は否定するが、仲良く言い合いをしている。
いや、彼女がジャンヌ・オルタをイジって振り回しているだけ……とも言えるが。
そんな彼女だが、ほかの誰かと関わるかと言われるとそのメンバーはそこまで多くない。
それこそ、今も東京にいる三騎とアサシン・佐々木小次郎、ライダー・メドゥーサくらいのもので円卓の騎士とはほとんど関わりがない。
聖槍を持つアルトリアともほぼ見ないし、ましてや武者修行中というリリィとなんて顔を合わせたことがあるのかも怪しい。
しかし、カルデアで見かける頻度で言えばかなりのもので食堂でハンバーガーを貪っていることも多く…………
いや、僕が食事をするその瞬間を見計らって来ていることが多いのだろう。
なにせ、彼女とのファーストコンタクト以来かなりの頻度で僕が彼女と食事をとっているのは確かだ。
その度に他愛のない雑談をしながら、というのも多い。
「正直な話、私には基本的に人と関わるつもりはない。マスターのサーヴァントとして力を貸してくれ、と言われれば力を貸してやるがそれ以外のコミュニケーションは求めていない」
「その割にはずいぶん僕には関わってくれるように見える」
「貴様は特別だろう。ヴィヴィアンの縁者であるのなら私にとっては身内と言ってもいい。ああ、モルガンに聞かれたら嫉妬と憎悪で私を殺しにくるから絶対に言うなよ?」
めんどくさい女だからな、アレは……と続けて彼女はドレスのまま僕の椅子に背中を預ける。
「兄妹、というのは違うな。私にはケイという兄がいるからな、曲がりなりにも私を愛してくれた家族だ。死後とはいえ今更兄を変えては流石の兄上も怒鳴ってくるに違いない」
「ケイ卿か、僕もほんの少しならアーサー王伝説で目にしたことがあるよ」
「ふん、まあ大したことは書いてないだろう。ランスロットやガウェインに比べたらその武功は大したものではない。と、なればだ。私にとって貴様はどんな扱いになるのか、と言う話しだが」
「ああ、そこに戻ってくるんだね」
「当然だろう、どうせ夜は長い。このような話でもしないよりはずいぶんマシだと私は思うが」
彼女の黄金の瞳が僕を見つめる。
それは僕を心配している、というよりは暇つぶしの雑談に付き合え、というわがままのようなものにも見えて。
「まあ、確かにそうだけどね。立ちっぱなしは疲れるだろう、ひとまず椅子にでも座るといい」
「ほう?空想具現化か、妖精としての能力を使うとは珍しいものを見た」
「あんまり好きじゃないんだ、この能力は」
「妖精としての特権をそんな風に言うのは貴様だけだぞ。よし、話を戻すが私にとって貴様の扱いがどうなるか考えたわけだ」
アルトリア・オルタが僕の用意したそこそこ座り心地の良さそうな椅子に腰掛けて言葉を続ける。
その表情はこれまでの雑談の中ではそれなりに真剣な表情で思わず聞く側の僕もしっかりと聞く体制に入ってしまっていた。
「親戚のおじさん、というのは流石に哀れだと思ってやめた」
「その判断に今すごく感謝しているよ」
「そうだろう、過去の私に感謝するがいい」
思わず心臓が飛び出そうになる程強烈な言動だったが、今猛烈に彼女の判断に感謝していた。
知らない間に親戚のおじさんと言う不名誉すぎる立ち位置を与えられなくて良かったと心の底から安堵していた。
「無難なところで従兄妹というのが一番妥当だろうと落ち着いたわけだ」
「…………まあ、それが一番安牌だろうね」
僕が
「
「なる、か……?なるかなぁ?」
「そういえば、貴様は私に大きな貸しが一つあったな」
「なると思います、はい」
「そうだろう、いい返事だ」
思わず出た即座の手のひら返し、僕も人間の価値観……というかいやな処世術ばかり身についたなと内心ため息をつく。
しかし、確かに
いや、文句があるわけではなく純粋な疑問として……
…………考えるのはやめておこう。
「ではそんな従兄妹殿に向こうのヴィヴィアンについて聞いてみるとしようか」
「ふむ、彼女の話かい?話せば長くなるけどそれでもいいかな?」
「夜はまだ長いんだ、スタッフが来る5時間程度の暇つぶしにはなるだろう」
「いい事を教えてあげよう、僕は妹の話になると長いよ。じゃあ、手始めに彼女をオークニーの海岸で拾った時の話から」
「まて、早速おかしいだろう。なんだ、海岸で拾ったというのは」
アルトリア・オルタのツッコミから始まった
時折、彼女の熱烈なツッコミと呆れたような表情が話し手の僕には新鮮な気持ちになったわけだが、それはそれ、汎人類史に来てから話すことのなかったトネリコの事を十分に話せたはずだ。
「……私の知るヴィヴィアンとは何もかも違った」
話を聞き終えたアルトリア・オルタはそう言い残したのだとか。
アルトリア・オルタ、絶対にその言葉をモルガンの前で口にするなよ……!
幕間第一弾はなんだかお兄様とそこそこ仲のいいアルトリア・オルタでした。
なんか、作者としてもこのなんとも言えない軽い感じのノリの2人が書いてて楽しくてとても好きです。
なんだか、最近よく言っている気がするのであまり言わない方がいいのかなとか思い始めましたが。
みなさん、感想と高評価で僕を甘やかしてください(厚顔無恥)
みなさんが見てくれて面白いと思ってくれているからこそ僕も頑張って書いていけます。
昨晩のランキングでも18位くらいまで登って来てニコニコです。
もう少しだけ、ちょっと平和なカルデアをお楽しみください。
読者の皆様にお聞きします。僕の文章は楽しめていますか?(文字数を多くする場合この先の投稿頻度が落ちる可能性がありますが、参考程度にお聞きしたいです)
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この調子でモルガンに会いに行って(満足)
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まあそこそこ?(やや満足)
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文字数を増やしてほしい(やや不満)
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モルガンの話だから見てる(不満)