お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第3章 『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ-序章 2人の魔術師』
第一奏 『崩壊の序曲』


カルデアが査問を受けている頃。

カルデアに新しく向かう勢力とは別に、1人の少女が今か今かとその時を待っていた。

 

「陛下からもらった礼装のおかげでこの寒さには耐えられるけど、もう少し暖かい服でくればよかったなぁ。“彼”に逢えると思っておしゃれしてきたのが間違いだったかも」

 

南極の寒さには到底考えられないほどの軽装だった。

一眼見るだけなら可憐なお嬢様、といった出立ち。

時代が時代なら名のある騎士の家系のお嬢様が夜会に出るような美しさすらある。

 

しかし、ここは雪吹雪く極寒の土地。

寒さに弱い彼女は自身が仕える王から賜った魔術礼装を持ってしても視界から感じ取れる寒さには抗えなかった。

 

だが……それでも彼女の心はとても軽やかだった。

まるで恋する少女のように彼女はにこやかにカルデアの方を見る。

 

「ふふっ、彼は私のことを覚えていてくれるかな?いいや、違うね。私のことを一目見て気づいてくれるだろうか」

 

一抹の不安と、それ以上に彼へと向ける信頼。

大丈夫、きっとあの人なら一眼見ただけでわかってくれる。

 

姿が変わっても、妖精の姿になっても。

 

君はアルビオン(わたし)の存在を感じ取ってくれるだろう?

 

 

でも、もし気がついてくれなくても……

 

「まあ、その時はその時だ。キャメロットに連れて帰ればいつだって君に逢える。“僕”の愛はオーロラのものだけど……“私”の愛は君のものだ」

 

少女は微笑む。

 

この姿で生まれたきっかけはオーロラだった。

だから、“僕”はオーロラを愛するし彼女の力になりたいと願う。

それが、妖精メリュジーヌの生まれた意味だからだ。

 

けれど、それよりももっと前。

君を見つけたアルビオンは君の力になりたいと願った。

もし“私”があの場所にいたなら、君の結末を変えることができただろう。

 

誰も見向きもしない汚れた龍骸の湖。

そんなところに来て、美しい青いリンカーネーションを手向けてくれたあなたに報いたいと、願うのです。

 

「監査、だっけ……いや違った査問?どっちでもいいけど、早く終わらないかなぁ」

 

モルガンに託された合わせ鏡の魔術が刻まれた礼装の短剣をクルクルと右手で弄ぶ。

視線の先には規則正しく動く漆黒の部隊。

明らかにカルデアに襲撃をかけるために派遣されたであろう武装した軍隊。

ここにくる前に、モルガンにはあまり他の部隊と接触するなと言われてきた。

同僚であり妖精円卓の騎士長であるアーデルハイトには無用な殺生だけは絶対にするなと口を酸っぱくして言われてきた。

 

「……でも、“彼”にその銃口を向けるなら話は別だよね」

 

すぅっと黄金の瞳が怪しい光を帯びる。

彼女にとって、カルデアも他の異聞帯も関係ない。

 

正直な話、“彼”さえ手に入れられればあとは全てどうでもいい。

 

だから、目の前の軍隊が滅びようと関係ないのだが。

 

「───でも、それは“彼”が一番嫌う妖精のあり方だ」

 

暗い湖の底でずっと視てきた。

“彼”は妖精を嫌っている。

その身勝手で移ろいやすい存在を嫌っている。

気まぐれで全てを台無しにする存在を嫌っている。

 

───だから、“僕”は彼のような人格を模倣している。

 

価値観も、振る舞いも、この姿を得た時に参考にしたのは“彼”だった。

 

あの世界で一番美しい姿だったのはオーロラ。

 

だけど、あの世界でいちばん美しい精神を持っていたのは“彼”だ。

 

だから、私は彼の嫌うことはしない。

 

「君を守るためなら僕はなんだろうと切り捨てるよ」

 

猛吹雪の南極の空、竜の妖精はゆっくりとその時を待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

「ふははっ!流石は最果ての賢者と万能の天才だ!我々が3日かけてできなかったコフィンの解凍をこうもあっさりこなしてしまうとは!」

 

12/31、16:00。

狭い空間の反省部屋のような場所から連れ出された僕とレオナルドは凍結されていたAチームのマスターたちの解凍作業をこなしていた。

 

「どうだね?2人とも私の秘書になると言うのは?カルデアの発電所の扱いも困難を極めていると言うし、それならば君たちの処遇も検討することができるが?」

 

「いいや、それは遠慮しておくよ。私が興味があったのは以前のカルデアだ。ゴルドルフ氏のカルデアには興味はないからね」

 

「同感だな、そも……いまの責任者は僕だが、スタッフも一新すると言うのならここの組織への義理もない。僕はここのスタッフが無事に日常に帰れるのをオークニーで見守ることにするよ」

 

「……可愛げのない。いや、そんなことはどうでもいい!さあ!真っ先に蘇生するのはヴォーダイムだ!なんせ時計塔では稀代の天才と持て囃された男だからな!私が貴様を救ったのだと声高らかに叫んでやるわ!」

 

スタッフの掛け声と共に、コフィンが開く。

2年ぶりにちゃんとAチームの顔を見られるのならと、ほんの少しの期待感が胸に過ぎる。

 

 

しかし───

 

 

開かれたコフィンの中には“なにもなかった”。

 

馬鹿な、と誰もが目を見開く。

 

「何が起きている!」

 

「コフィンは開けてみるまで中身のわからない箱だ。私たちが開けるまで反応の偽装はやろうと思えば出来る」

 

「……問題はいつから、と言う話だけど」

 

 

しかし、それがわからない。

いったいいつから……?

僕たちよりもこのコフィンに通ずる人間なんてどこにもいない。

 

まして、爆発に巻き込まれた彼らの血ひとつついていないコフィンなんて現実的にあり得ない。

 

それだけでも、厄介だった。

これから先、彼らを探さなければならないという課題が生まれた。

 

だが、それだけで終わるわけがなかった。

 

管制室に警報が響く。

 

『警告 警告』

 

『現時刻での観測結果に ◼️◼️ 発生』

 

『観測結果 過去に該当なし』

 

『統計による 対応、予報、予測が、困難です』

 

『観測値に 異常が検知されません』

 

『電磁波が一切、観測されません』

 

『地球に飛来する 宇宙線が 検知されません』

 

『人工衛星からの映像 途絶 しました』

 

『マウナケア天文台からの通信 ロスト』

 

『現在───地球上において 観測できる他天体は ありません』

 

それは、2年前のあの日を思わせるアナウンスだった。

あの日は現在と未来が消失した。

過去は全てが燃え尽きた。

 

しかし、これはなんだ……?

 

何が起こっている……?

 

カルデアスに亀裂が入る。

 

『擬似天球カルデアスに負荷がかかっています』

 

『観測レンズ シバ を停止します』

 

「カルデアスの電源を今すぐに落とせ!」

 

纏まらない思考を放り捨てて、目下の対応をするための思考を用意する。

スタッフに指示を飛ばしたその瞬間、今度は館内全域に警報が鳴る。

 

「今度は何が起こっているんだい!?」

 

「し、侵入者です!正面ゲート、第三ゲート、第六ゲートに魔力感知!」

 

「なんだ、これ……なんだこれ……!反応がどんどん増えています!」

 

「ボサッとしない!シバが使えなくても普通の監視カメラなら使えるだろう!」

 

侵入者、と言う言葉に管制室が緊張に包まれる。

レオナルドに指示されたスタッフがカメラの映像を映し出すのと僕が千里眼で正面ゲートを視たのは同時だった。

 

「黒い、兵隊?」

 

「……っ!今すぐ隔壁を閉じろ!」

 

「ダメです!ゲートを操作するためのコントロールが全て制圧されています!」

 

その言葉が示す通り、ホログラムモニターに映し出されるカルデアのゲートコントロールの全てに赤く×が記されている。

そして、更に最悪の事態を招いているのは。

 

「そんな……私の部隊が、全滅……?」

 

ムジークが引き連れてきた私兵の部隊が外からやってきた彼らに全滅させられたと言うところだろう。

まさに絶体絶命、まさか査問に乗じて乗っ取ろうとする組織まで出てくるとは…………

 

「───くるぞ!」

 

爆炎と共に、管制室の扉が吹き飛ぶ。

現れるのはつい先ほどゲートに現れた漆黒の兵隊。

 

「……レインフォート、君の魔術でここにいるスタッフたちをコンテナのある場所まで転移させられるかい?」

 

轟音とムジークの悲鳴が響く中、レオナルドが小声で問いかけてくる。

 

「もちろん、しかし君はどうする」

 

「私には立香ちゃんが結んだ縁が記録されている霊基グラフを取りに行かなきゃならない。このタイミングで襲ってくる連中の欲しいものなんてそれくらいだろう?」

 

「場所は……君の工房か?水鏡での転移は……」

 

「いや、必要ない。君と私で戦力を分散させるんだ。幸い、立香ちゃんとマシュのところにはホームズが向かってるはず。だったら、やることはわかるね?」

 

「わかった……。それじゃあ、後で必ず……地下のコンテナで合流しよう」

 

「ああ、必ずだぜ?もっとも、私と違って君は強いから心配はいらないと思うけどね」

 

「手こずっているようなら機を見て助けに行くさ。それまでは出来るだけ残りのスタッフをコンテナに送るようにするよ」

 

「それじゃあ……行こうか!」

 

レオナルドの目の前に水鏡を展開して管制室のすぐ外に飛ばす。

そして、管制室に残っていたスタッフの真後ろに水鏡のゲートを開いた。

 

「飛び込め!!!!」

 

「「「はいっ!!!」」」

 

管制室に残っていた3人のスタッフがゲートの中に飛び込む。

外ではレオナルドが兵隊を引きつけながら遠ざかっていく音が聞こえる。

ムジーク氏に関しては……既にここからいなくなっていた。

死にたくないのなら生き残った私兵たちと逃げればいい、どちらにせよ僕のやることは変わらない。

 

目の前にいる兵士たちを吹き飛ばすための魔術ならそんなに規模が大きいものでなくてもいい。

 

───魔術回路に雨を落とす。

 

選択したのは暗雲より高密度の魔力の雨を矢として降らす魔術。

 

「───雨よ、汚れを祓え」

 

剣がなくとも、杖がなくとも。

自身が創り出した魔術などいくらでも扱える。

 

「目に映るもの、全てを灰に───」

 

魔力の雨が確実に黒き兵士を屠り、さらにそのまま青い炎が彼らを包んで消し炭にしていく。

先ほど通信越しに聞こえた幾ら倒しても復活すると言うのなら、復活しないように消して仕舞えばいい。

管制室の扉の周りを一掃した僕はそのまま廊下へと飛び出して、収監されているスタッフたちの元へと駆け出した。




第二部、はっじまっるよー!!!!

今回から始まります第二部。
そしてようこそ、ブリテン異聞帯。
待ちきれずにやってきたわね最強種。
このあとどうなっちゃうんでしょうね(すっとぼけ)
でも何があってもオークニー時代のお兄様が悪いよね、ウン。

皆さんの感想と高評価。
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読者の皆様にお聞きします。僕の文章は楽しめていますか?(文字数を多くする場合この先の投稿頻度が落ちる可能性がありますが、参考程度にお聞きしたいです)

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