お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第二奏 『邂逅と離別』

「助けてくれてありがとうございます!レインさん!」

 

「ああ、君はこのままそのゲートを潜ってみんなと合流してくれ。生き残ったスタッフはキミで最後だ。あとはレオナルドと立香ちゃん、マシュと合流してここを脱出するだけ……」

 

生き残った最後のスタッフが水鏡の先に消えていく。

後はこの兵隊たちを少しでも減らして地下へと向かうだけだが……

 

「あっ、やっと終わった?」

 

背後からかけられた可憐な声からの言葉に反応が遅れた。

 

「陛下から聞いてた通りで、私が識っているキミのままで安心したよ」

 

圧倒的な威圧感。

魔神柱など比にならないほど大きな存在が僕の背後にいる。

振り向くことを選びたい、しかし……いますぐ水鏡でどこかへ跳んだほうが賢明かという思考が何度も巡る。

 

「ああ、水鏡で逃げようとしても無駄だよ。キミが何をするよりも私が動いたほうが速い。なるべくキミを傷つけたくないんだ。その選択は私も陛下も、アーデルハイトも喜べないな」

 

カツカツ……と、この場に相応しくないヒールの音が響く。

 

一歩、二歩、三歩。

 

その存在が僕の背中へと近づいていく。

 

「せっかくこうして“また”逢えたんだ。キミの顔を見せてほしいな……いや、妖精の姿として出逢うのは初めてだったね」

 

鼓動がうるさい。

今まで一番感じたことの何ほどの存在の圧に押しつぶされそうになりながら僕はゆっくりと声の主の方へと振り返る。

 

「───ぇ?」

 

「ああ、やっぱり!僕の知っているキミと同じ深い青色の瞳だ!」

 

銀糸の美しい髪。

全てを見通すような黄金の瞳。

なにより、この世のものとは思えぬほど整った顔立ち。

まるで騎士の夜会に出る令嬢のような美しいドレスにハーフケープを纏った少女は僕の顔を見て満面の笑みを浮かべる。

 

しかし。

 

しかしそれどころではない。

 

───勝てない。

 

この、目の前の少女にはどんな手を使っても今の僕には勝機がない。

 

時間神殿で聖剣を扱っていた僕ですら、きっと勝てない。

 

理屈や精神的な話ではないのだ。

 

生命としての本能が、彼女と戦うことを拒否している。

 

一眼見ただけで理解した。

 

彼女の正体を、僕は間違いなく知っている。

 

「ああ、自己紹介がまだだったね。キミになら全ての名を名乗ろう」

 

少女が笑う。

きっとこの場の誰よりも可憐に笑う。

 

こんな惨状の中でも、誰よりも美しい妖精の少女は満面の笑みで名乗った。

 

 

「“僕”の名は、妖精騎士ランスロット」

 

 

「“私”の名はメリュジーヌ」

 

 

「───そして、キミが知っている“私”はアルビオン。あの暗い湖でキミが花を手向けてくれた醜い龍骸から生まれた竜の妖精だ」

 

息が詰まる、というのはこういうことなのだろう。

 

アルビオン、汎人類史においては彼の竜の骸は大きなダンジョンと化している。

 

霊墓アルビオン。

魔術世界において知らぬものはいないほどの知名度を誇る境界の竜アルビオン。

 

竜種に於ける冠位(グランド)、最強と呼ばれる竜種の中でも最も強いとされる本当の最強種。

 

それが、それが妖精にスケールダウンしたとしてもその性能が低くなったわけではない。

 

「驚いて言葉も出ない、って顔かな?ごめんね、私はまだ妖精になって時間がそんなに立っていなくて感情への成長がまだそこまで進んでいないんだ」

 

更に、二歩こちらへ進む。

 

彼女の手が、僕の手を握る。

 

何度も何度も、存在を確かめるようにしっかりと触れる。

 

「さあ、私と一緒に来てくれる?それともまだ用事があるのかな?さっき逃した人間たちがここから出ないと一緒にいけなかったりする?」

 

「……もし僕が」

 

「ん?」

 

「もし僕がキミといけない、と言ったら……?」

 

「そうだね。強引な手は使いたくないけど無理やり連れていく」

 

「それで、抵抗をすればどうなる?」

 

「殺すよ。ここにいる人たちみんな、でも……キミはそれを望まない。私もキミを傷つけるような選択はしたくない」

 

わかっていた、その答えが出ることは分かりきっていた。

しかし、それでも目の前の彼女には僕が知っている妖精とは違う何かが存在しているとハッキリと理解できる。

 

「取引がしたい」

 

「……取引?うん、他ならないキミの頼みだ。一つくらいなら構わないよ」

 

アルビオン……いや、メリュジーヌはこくんと頷いて僕の言葉を待つ。

どのみち、もう彼女に捕まった時点で僕に逃げ場はない。

僕はどうやっても彼女に抵抗を許されない。

 

ならば、せめて───

 

 

「僕が逃したあの子達を逃すだけの時間が欲しい。そうしたら、僕はキミについていくよ」

 

「ふぅん……?大事なんだ、あの子たちのこと」

 

「大切な友人と交わした約束がある。だから、どうか……それだけの時間を僕に与えてほしい」

 

「まあ、そのくらいならいいよ。その代わり、あの子達がここを出たら私と一緒にブリテンに来てもらう」

 

「ああ、約束する」

 

「じゃあ、約束」

 

僕の返答に満足したのか、メリュジーヌは頷いて一歩下がる。

廊下の先からは無数の足音が響いてくる。

取引はひとまず成立した。

立香ちゃんとマシュ、人理修復を成し遂げたスタッフさえ生き延びれば僕がいなくてもこの先はきっとなんとかなる。

魔術回路を起動させ、すぐやってくるであろう黒の兵隊を出迎える準備をしたところで、メリュジーヌが僕を守るように立ちはだかる。

 

「いい機会だし、私の実力を見せても構わないよね。マスターとサーヴァント、だっけ?それの真似事、してあげる」

 

いつのまにか、彼女の両腕に大きな剣の鞘のような装備が現れる。

彼女の纏う空気が変わる、戦闘用の研ぎ澄まされた殺気。

それが今、自分に向けられていないことに安堵すら覚える。

 

「瞬きの間に終わらせる。私に任せて」

 

その言葉と共に、最強の騎士の名を冠した妖精が駆け出す。

廊下の先から見えた兵士は数十程度、しかしその程度は彼女の敵ではない。

駆け出すのと同時に鞘のような装備から精製された剣が兵士たちとのすれ違いざまに次々に首を落としていく。

まさにほんの一瞬、彼女が通り過ぎた刹那の間に全ての兵士の首が落とされていた。

 

しかし、首を落とした程度では彼らは止まらない。

即座に起き上がった兵士たちはその標的をメリュジーヌへと変える。

 

「へぇ……?首を落としたくらいじゃ死なないんだ。嫌いだな、君たちみたいな曖昧な生命は」

 

「生半可な攻撃じゃあ、そいつらは倒せない。やるならその存在を消し去るくらいの事はしないと殺し切れないんだ!」

 

「ふぅん?なるほどね。じゃあ、私が斬るからあなたがトドメを刺して?大丈夫、何があってもあなたには弾丸一つ近づけさせないわ」

 

立ち上がり、今度は明確に彼女を狙った兵士たちへメリュジーヌは疾走する。

 

圧倒的な速度、目にも留まらぬ速度での剣撃。

刃の通ったその場所を青い閃光が後を追うように流れる。

こんな状況でなければ見惚れてしまうほどの流れるような斬撃に合わせるように両断された兵士たちを燃やし尽くす。

青い炎が爛々と燃え盛る中、メリュジーヌは何もなかったように僕の目の前に着地して、精製していた刀身を魔力へと還す。

 

「さあ、次へ行こう?大丈夫、今ここにいる敵なら全部を相手にしても負けない」

 

「……わかった、地下室へ向かう道にいる敵を一掃する。キミの力、貸してくれるかい?」

 

「もちろん。ああ、妖精國の誰よりも早くキミと共闘できるなんて夢みたいだよ」

 

相変わらず、気になる単語をいくつか言葉にしているが今はそれどころではない。

急いで地下室へと向かう。

地下にあるコンテナがなんなのかは、理解しているつもりだ。

 

だからこそ、何が始まるのだとしても生き残ったスタッフたちは逃さなければ…………

 

メリュジーヌと共に地下室へと進んでいく。

会敵した兵士たちの全てを殲滅して、僕たちはあっという間に地下室の扉の前へと

 

 

 

 

 

 

扉を開いたその先、目に入ったのは……

 

 

 

 

 

 

査問会のメンバーとして来ていた言峰神父に、背後から胸を貫かれたレオナルドの姿だった。

 

「───っ!!!!!!!!!」

 

「私のことは構うな、レインフォート……!」

 

レオナルドの苦し紛れの声が響く。

 

「託す、ものは、託した。ははっ……アレさえ渡らなきゃ、私たちの、勝ちだ」

 

満足げに、レオナルドは最後まで笑う。

強がりの空元気などではない。

英霊として、今を生きる彼女たちへ先を繋いだのだ。

光の粒子となって消えかけている中でも言峰神父の腕を離すことなく、最後まで引き留めるつもりなのだろう。

 

『レインさん!早くこっちに……!』

 

コンテナから立香ちゃんの声が響く。

しかし、それについていく事は僕には出来ない。

 

「すまない、僕はこの先の旅路に同行する事はできない」

 

『…………』

 

「ここにいる彼女との契約で君たちを逃す代わりに僕は彼女に捕えられることになる」

 

『そんなの、ダメです!レインさんを置いて逃げるなんて……!』

 

「聞き分けてくれ!彼女には勝てない、それは冗談でもなんでもなく本当のことなんだ!」

 

千里眼がコンテナの中に収容された人間たちを捕捉する。

僕が逃した人員、立香ちゃんにマシュにホームズ。

自力でここに辿り着いたスタッフたち。

 

そして、彼女たちに救われたであろうムジーク氏。

 

「行け!星見の子たち……!どんな困難でも、君たちなら踏破できる。ロマニが信じ、レオナルドが託した君たちなら……!」

 

ガコンッとコンテナが開き、その中から真実の姿を現す。

レオナルドとホームズが秘密裏に開発していたカルデアに万が一があった時の最後の切り札。

 

虚数潜航艇シャドウ・ボーダー。

 

その疾走を阻むものはここにはいない。

彼らを見送るために、彼らの邪魔をするゲートへ魔術を放ち吹き飛ばす。

 

操縦席に乗っていたムニエルがアクセルを踏み込んで彼らはカルデアの外へと走り去っていく。

 

 

「まったく、キミも……難儀な、性格だ。よりによって……アルビオン(そんなもの)に目をつけられる、なんて……さ」

 

「それはお互い様だろう」

 

「はっ……それも、そうかも」

 

シャドウ・ボーダーが走り去っていくのを最後まで見送り、レオナルドはその言葉を最後に光の粒子となって消えていった。

 

「それで、どうする?この神父、ここで斬ってもいいけど?」

 

「ははっ、ご冗談を。我らは共に異星の神に選ばれた異聞世界の仲間。その使徒たる私に剣を向ける必要はないだろう」

 

「残念だけど、私……そういうの興味ないから。彼が望むならキミを斬る。捨て置くならそのままでも構わないけど……」

 

「……いや、僕とキミとの取引はここまでだ。彼女たちがここから脱出したなら僕を連れていくといい」

 

「…………そう、キミがそれでいいならそうさせてもらう」

 

メリュジーヌが、ずっと腰に差していた短剣を手に取る。

短剣に魔力が宿り、砕け散った瞬間に見覚えのある魔術が目の前に展開させる。

 

「陛下から貰った妖精國へと繋がる合わせ鏡の魔術だ。ちょっと世界を超える魔術らしいから変なことだけはしないでね」

 

「…………」

 

「……ちょっと信用できないって顔してるね。でも、約束だから一緒に来てもらうよ」

 

メリュジーヌに腕を掴まれてそのまま水鏡のゲートへと引き摺り込まれる。

コンテナの残骸だけが残る地下室にはもう誰の姿もなかった。

 

 

 

 

 

 

人類未踏の冒険(オーダー)が、ここに幕を開ける。

 

————空想の根は落ちた。創造の樹は地上に満ちた。

宇宙(そら)からの星光(しんごう)は途絶え、地表は漂白され、

地球(このほし)はあらゆる関連から孤立した。

人理修復の大業は見るも無残に棄却され、2017年より先の文明の灯は一つ残らず吹き消された。

 

我々の人理は、未来は————「敗北」した。

歴史を見据える眼は既に無い、人を守護する英霊はもういない。

すべては次元の淵に沈み、進退も贖罪も赦されず消滅するのみ。

 

だが、それを否定するなら、浅ましくも運命に抗い「生きたい」と願うのなら。

旅立て、そして戦え。「まだ終わらない」と、「本当の闘いはこれからだ」と叫び続けろ。

 

最期の希望は虚空の中に————

 

 

 

 

 

 

 

5つの異聞世界を超え、再び出会うその時まで。

 




やっぱり、お兄様には退場してもらわないと、ね?
ただ、すぐにモルガンと再会できたら面白くないですよね。
わかりますわかります、だってみんなカルデアのみんなの前で脳破壊されるお兄様とか見たいですよね(鬼畜)

さて、次回から章タイトルにもある通りお兄様は先んじてブリテン入り。
カルデアは必死で追いついて来てね。

よぉし、ここからが長いぞぉ……(オベロン戦までのテキスト量を見つめながら)

読者の皆様方におかれましては高評価と感想のほどお待ちいたしておりますので是非是非軽い気持ちでポチッと来てもらえるとニヤニヤしながら次話が生まれます。

それでは、また次回……お兄様の運命がどうなるかなどの予想などをしながらお待ちいただけると幸いです。

読者の皆様にお聞きします。僕の文章は楽しめていますか?(文字数を多くする場合この先の投稿頻度が落ちる可能性がありますが、参考程度にお聞きしたいです)

  • この調子でモルガンに会いに行って(満足)
  • まあそこそこ?(やや満足)
  • 文字数を増やしてほしい(やや不満)
  • モルガンの話だから見てる(不満)
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