お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
アルトリアと出会ってから1週間程度が経過した。
あれからまずやったことはこのティンタジェル近くの林に家を建てた……うん、アルトリアにあんなこと言っておいてなんだけど流石に1週間で家を建てることはできないから其処だけは空想具現の能力でさっと用意した。
「あーっ!家の建て方教えてくれるって言ったじゃん!」
「す、すまない。流石になんの拠点もないまま一から教えるのは難しくて」
そんなやりとりももうすでに1週間前。
中には暖かい布団も薪を使用した暖炉も食事に必要な食器やテーブルセットなどの全てが揃っている。
スプーンもフォークもナイフの使い方すらまともに出来なかったアルトリアだが、1週間の必死な特訓の成果あってか普通に使えるまでに成長した。
食事に関しては、近くの森に生息する動物を狩ってきて解体から調理の仕方まで教えてみたり、野草や作物の育て方を教えながら数ヶ月先の収穫を楽しみに待っていたりする。
そんな成長が目覚しいアルトリアだが。
「あっ!イノシシ!や、やめろー!わたしの一生懸命育てた野菜に近づくなー!」
家の外に作っていた自分の畑にやってきたイノシシに向かって自分の杖をぶんぶん振り回して追い払おうとしていた。
「れ、レイン!イノシシがー!」
「イノシシを追い払うための威力の弱い魔術は教えただろう」
「そ、そっか!やってみる!」
アルトリアの杖がほんの少しだけ輝く。
発射されたのは威嚇程度にはなる比較的威力の弱い魔力弾の魔術。
いわゆる、ガンドの応用のような魔術だ。
放たれた魔力弾は見事イノシシに命中。
この時点で普通のイノシシなら尻を見せて逃げていくのだが……
『フシュー!フゴッ!』
「うわぁー!!!!怒って突撃してきたー!!!」
どうやら、少し強いイノシシだったらしい。
畑を守ろうとしたアルトリアは見事畑を守ることには成功したが、その対価としてイノシシに追いかけ回される結果となった。
30分ほど悲鳴を上げながら追いかけ回されたアルトリアだが、なんとかイノシシを仕留めることに成功して今は絶賛僕に向かって文句を言ってきているところだった。
「別にレインが助けてくれればよくない!?!?」
「いや、すまない。あんまりにも楽しそうに逃げるものだから、ついね」
「楽しそうに逃げてるってなんだー!?わたしすっごい必死に逃げてたんですけど!!」
ぎゃーっ!とアルトリアが吠える。
中型犬が尻尾をぶんぶん振りながら文句を言っているようにも見えるが……それを口にしたら火に油だろう。
余計なことは言わぬが吉ともいうし、ここは穏便に……
「
「本音が見えてるぞぉ!レイン!!!」
まあ、この1週間はだいたいこんな感じで過ごしていた。
それは、そうと。
僕は彼女に約束した通り魔術の鍛錬もしっかりと行った。
彼女はトネリコのようなスポンジの様に吸収していく天才ではない。
しかし、彼女は努力型の天才だった。
初めはできなくとも、持ち前の負けず嫌いの性格が発揮されて彼女はそれができるまで何度も何度も必死に出来る様にする。
しかし、驚いたのは“ある属性”への魔術適性だった。
「なんだかすっごい魔術を教えて欲しい!」
3日目でそう言ってきた彼女だが、試しに見せたのがランスロットの宝具を模した《ルクス・アロンダイト》。
それを見せてたった1時間で彼女は拙いながらもそれを再現してみせた。
その日一日中、ルクス・アロンダイトを練習し続けて彼女はその日のうちに僕と同程度の魔術として習得したのだ。
彼女の魔力量は決して多くはない。
きっとコレに関しては彼女が楽園の妖精としての使命を果たしていくにつれて、その総量は爆発的に増えていくだろう。
なので、魔力の少ない今のうちは一つ解決策がある。
それが、僕が適当に作り出した宝石だ。
現代には“宝石魔術”というカテゴリがある。
宝石に魔力を貯蓄してそれを一時的な魔力リソースとして使用する魔術。
自分にないものを外部から持ってくる、というのは僕やトネリコにこそなかった発想だがそれは基本的に使いきれないほどの魔力総量があるからにすぎない。
非常に理にかなった手段であるのと同時に、それは奇襲や相手の不意を突くことにも扱える。
それから毎晩、アルトリアは使いきれなかった魔力を様々な宝石に蓄積させていくことも忘れずに行う様になった。
初めて宝石を彼女に与えたときはあまりにもキラキラした瞳で「こ、これわたしにくれるの!?」と口にしてきたのもあって、魔術のための道具だよと口にするのが少しだけ憚られたのは内緒だ。
妖精としての空想具現化能力はあまり好きではないが、まあうん。
必要とあれば使うこと自体はやぶさかではない。
そもそも、現代世界が当たり前になってしまった僕の価値観に数世紀どころではないくらい前の文明で過ごすのがなかなか困難という話だ。
今の技術で作れないものは……取り敢えず用意してみることにはしている。
ああ、ちなみにだが。
アルトリアの魔力が少ない、というのはあくまで妖精基準での話だ。
今の最低限の霊基状態のままでも彼女の魔力量は並のキャスタークラスのサーヴァントよりも遥かに多いのは言うまでもない。
なので、アルトリアが毎晩いろんな宝石を眺めるついでに行われている魔力充填が完了した宝石の量は既に数百を超えていた。
……新しい宝石箱用意した方がいいだろうか。
****
罪都キャメロット、女王の私室。
そこにはこの妖精國の女王モルガンと妖精騎士長であるアーデルハイト。
そして、レインフォートに逃げ切られてしまったランスロットの姿があった。
「さて、ランスロット。此度の任務の失敗には確かに私の落ち度もある、合わせ鏡のゲートがブリテンに繋がった瞬間に水鏡を使って逃亡を成功させるのは流石はお兄様、と言ったところだが……」
「……うん、これに関しては僕の責任だ。彼に会えたことが嬉しくて気が緩んでいたのは否定できない」
「……レインフォート殿下のことですから、まずは人気のないところか……いいえ、逆に一般の市民に紛れてどこかの大きな街にいることの方があり得ますか」
「……民とコミュニケーションを取るのが好きな方だったからな。その線は否定できないが、ランスロットは大きな街の巡回を任せる。お前が相手ならばどの妖精であろうとも断らないだろう」
「任せて、今度こそ見つけて連れて帰るとも」
ランスロットの瞳には次こそ逃さない、という強い意志が宿っていた。
やる気は十分、次は慢心も油断もしない。
まずはどの街から回ろうか、と考えていたところでモルガンの口から少し怒気の含んだ声が響いた。
「それはそれとして、だ」
あっ、これはやばいかな?
メリュジーヌは本番はこれからだと言うことを悟る。
「最強の妖精騎士ともあろう貴様が、最重要人物の護衛ひとつ、まともにこなせないとはどういう了見だ?」
女王の私室であるからこそ、この会話ができるというのはある。
しかし、女王の私室であるからこそ、ここには彼女が本気で怒って止めるものは誰もいない。
「えっと、それは……彼と会えて嬉しかったというか」
「……アーデルハイト、今夜の食事に出るストロベリーパフェを抜くように」
「かしこまりました」
「そんな殺生な!?!?!?」
この世の終わりと言わんばかりの声が私室に響く。
しかし、哀しきかな。
この部屋にはモルガンによる完璧な防音の結界が張られているからその声が外に漏れることはない。
「それで?他の理由は何かあるのか?」
「うぐっ……」
モルガンの冷たい視線と声に思わずメリュジーヌの言葉が詰まる。
しかし、この反応は他にも何かあると言っているのと同義で……
「なにか、あるのですね?」
「だって、今回逃げることへの埋め合わせをするって約束してくれたから……」
「…………アーデルハイト、明日のプリン・ア・ラ・モードを抜け。ついでにステーキのサイズを450gから150gに減らすように」
「かしこまりました」
「それはやりすぎだよ陛下!!!!!」
メリュジーヌの悲痛な叫びが再び響く。
大きなため息を一つ、モルガンはついてメリュジーヌをみる。
「お前がお兄様相手に特別な感情を向けていることは知っている。妖精の姿をとって逢いたいと願っていたのは知っていた。しかし、それで任務をこなせないのなら問題外でしょう」
モルガンとて、彼女が騎士になった時に言っていた言葉からレインフォートへの特別な感情を持っていたことは知っていた。
『私は妖精の姿を保つために君と契約する。契約をのんでくれれば私は君の騎士として働くことを誓うよ。けれど、これは君が女王だからするわけじゃない。君が“彼”の妹だからこの契約を持ちかけているんだ』
時間の経った今でも彼女の言葉をしっかり覚えている。
だからこそ、境界の竜としての彼女の能力も考慮して先んじてカルデアへと彼女を向かわせたのだ。
「……この件は終わってしまったからこそ仕方ありませんが、次にお兄様を見かけた時は私にもすぐに報告するように、思念体をキャメロットにおいて私とアーデルハイトも同行します」
「……うぅ、わかった」
妖精國における最強の騎士。
そんな彼女が女王に言葉で負けてシュンと落ち込んでいるなんて誰も思わないことだろう。
モルガン、ランスロット、そしてアーデルハイト。
キャメロットにおいてこの3人以外にこのブリテンの大地にレインフォートがいるということを知っているものはいない。
そろそろみんなモルガン見たいよね!
でも、物語進めるためにアルトリアとお兄様も書きたい。
せや、一本に二つの視点書けばええやん?
というわけで1週間後のアルキャス&お兄様と前回の帰還後のメリュジーヌのお話でした。
序章であるからお兄様とアルキャスの物語が中心に行われますが、そこまで長くも続かないのでもう少しだけ見守ってあげてください。
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