お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第六奏 『10がつ24にち』

ティンタジェルの近くの林に居を構えて既に10ヶ月が経過した。

正直に言おう、アルトリアの才能はすごい。

さすがは汎人類史におけるアーサー王、と言ったところだろう。

教えた基本的な魔術をはじめとしてその応用や円卓の騎士の宝具を模した魔術もフェイルノート以外の全てをあっという間に習得した。

逆に言えばフェイルノートはどれだけ必死に練習しても習得できなかった、ということでもあるわけだが。

 

まあこれは彼女の適性の問題もあるのだろう。

おそらく剣に属するような魔術、とくに聖剣にゆかりのあるものなら彼女はどこのどんな魔術師よりも最速で習得できるだろう。

その点においては、非常に言いにくいがトネリコよりも才覚がある。

攻撃魔術においては、彼女は聖剣の名を冠した魔術を得意としている。

サポートという面に関しては広範囲の味方を強化できる支援魔術持ち、そして守護の面ではまさかの対粛清防御を展開できるという、現代の魔術師が1000年かけてもその一つすら再現できないほどの能力の持ち主だった。

 

まあ、そのうち僕が教えたのは攻撃魔術なのだが、支援魔術や魔術の基礎となるものを教えたのはアルトリアのいう“マーリン”という男なのだろう。

 

トネリコのようになんでも高水準で熟せる天才、というスタイルではなく。

他のことはある程度こなせるがどちらかと言えば一芸特化、という形だ。

 

今となってはあんなに追いかけ回されていたイノシシも楽々追い払ったり手加減して倒して食材にすることもできるようになった。

 

さらに言うならばここ最近はアルトリア1人でお使いのために近くの街に行くことも多くなった。

 

とはいえ、近くの街とはいってもティンタジェルから一番近いのは風の氏族が治めるソールズベリーだ。

自由都市の名の通り様々な氏族が街を出入りしているが、どちらかと言えば富裕層の街、と言うのが正しいだろうか。

 

今日はアルトリアが近隣の村にここで作った妖精には珍しいものを売りに行っている。

魔力を込める練習のために使っていた宝石の中から古いものを選んでアクセサリを作ってみたり、彼女がやってみたいといった彫金なんかも上手くできたものは売りに行っている。

田舎の妖精、というのはソールズベリーやグロスターで売っているような高いアクセサリを買うことはできない。

しかし、品質の良くて安いものならば小金持ちと言うのを自慢したくてよく買うのだという。

 

なにせ、この10ヶ月の間にアルトリアは旅をするには十分すぎるほどのモルポンドを稼いできていた。

 

最近は魔術の鍛錬、畑のお世話、趣味のジュエリーデザインや彫金をこなしながらも僕と一緒に食事の用意をして日課の宝石への魔力貯蔵も行っている。

 

正直な話、ここまでこの10ヶ月で成長するとは思っていなかった。

近隣の村に向かう、といっていたからコーンウォールを通り過ぎて南部平原にあるいくつかの村を訪ねてくるはずだ。

朝一番に出て行って、きっと戻ってくるのは夕方か日が暮れた夜だろうか。

ついでに遊んでくるといい、といつもいってくるのだけど……なかなかそういうのはしてこないのが僕としては不服なところだ。

 

意外なことではあったが、アルトリアは王の氏族の長であるノクナレアとは友人関係にあるらしい。

いつ知り合ったのか、は教えてくれなかったが『ほ、ほんとはノクナレアと一緒に歩けるような自信が付いたらいいなって、思ったりするのです』なんて、以前恥ずかしそうに語っていたことがある。

 

しかし、アルトリア曰く『友人、っていうのはわたしが思ってるだけかも……話したのも随分前だしもしかしたら忘れられたりして……』と次の瞬間にはいつものウジウジアルトリアに変わってしまっていたのも記憶に新しい。

 

とはいえ、だ。

いくらアルトリアが友人だと思っている相手とはいえ、相手は王の氏族の長。

僕のいた当時はまだブリテン島に上陸していない種族だったはずだが……流石に6000年も経つとその辺りにも変化があるのだろう。

 

だが、そんな彼女が友人だというのならアルトリアの旅だってきっといいものになる。

友人であれ、ライバルであれ……旅に必要なのは本音で話せる関係のある者だというのは間違いないのだから。

 

そう、考えていたところに家の中に設置した結界がアルトリアが僕らの住む林に帰ってきたことを知らせる。

まだ、夕暮れにもなっていないのに今日は随分早いなと思いながら扉の方を見つめていれば、元気よく扉が開かれる。

 

「たっだいまー!!」

 

「おかえり、アルトリア。今日は随分と早かったじゃないか」

 

「うん、持って行ったアクセサリなんだけど、全部買ってくれるって人がいてね。じゃじゃーん!全部で30万モルポンド!えへへ、自信のあった可愛いネックレスも高く買ってくれたんだー!」

 

「それは良かったじゃないか。ちゃんと鉄製品だってことは説明したかい?」

 

「うん、鉄で出来てるから肌とかにそのままつけないでって説明したんだけど、その人ったら『大丈夫、私が付けるわけじゃないから。でも、プレゼントするひとにはしっかり説明するよ』ってすっごい綺麗な顔で言ってた」

 

「……そ、そうか。ちなみになんだけどちゃんと偽名は使ったよね?」

 

「え?それはもちろん。街に行く時のレインとの約束だし、彫金師アリアって名乗ってきた」

 

「それならよかった」

 

アルトリアのお客さんはどこか既視感のある喋り方だった。

すっごい綺麗な顔(アルトリア比)で10ヶ月前に聞き覚えのある喋り方。

南部平原の近くに現れるには少し場違いとも思えるような所持金の持ち主。

 

…………十中八九、メリュジーヌで間違い無いだろう。

 

「ああでも、その人『キミ、レインフォートという妖精に心当たりはあるかい?』って聞かれた」

 

「まさか、知ってるとは答えてないよね?」

 

「うん、レイン最初に追われてるって言ってたし。余計なことは言わないようにしてるから普通に知りませんって答えたよ?宝石に記した刻印も真っ直ぐにソールズベリーに進んで行ったし、多分ここには来ないと思うけど」

 

強力な認識阻害のローブを彼女に与えていて良かったと心の底から安堵した。

あのオークニーの最後に使った姿を変える魔術。

それの応用でローブを身につけている間はアルトリアの姿を認知できない。

誰がどうみても一般の妖精にしか見えないし、魔力のパターンも歪めているから楽園の妖精だと認識されることもない。

どこからどうみても“普通の妖精”としか映らないようになっている魔術だ。

 

「それに帰ってくる時は国道を歩いて来なかったし、キノコとか使えそうな綺麗な石とか拾ってきてたから。それに私だってバレても時間が経ったら探せないよ。この林、レインがかけた結界のせいで空間歪んでるもん。普通に入ったら何回も迷って入り口に戻されるか名無しの森につながる道に放り出されるし、わたしとレインが持ってるカギがないとここに来れないじゃん」

 

「それはこの家を作るときに他の妖精が入れないように空間を切り抜いたからね……」

 

「いや、『空間を切り抜いたからね……』じゃないから。そんなのレインかモルガン陛下にしかできませんー!魔術師ならみんなできます、みたいな感じで言うのやめて?」

 

「そんなつもりはなかったんだけど」

 

「いや、あったね!はあ、まあいいや!それよりもなんか美味しそうな食べ物買ってきたんだー!キャメロットからたまーにくるスイーツ屋さんのケーキなんだって!」

 

じゃじゃーんっとドヤ顔で取り出したのは小粋なケーキ屋特有の箱。

もう待ちきれなかったのか、アルトリアはそれをテーブルに置いてお皿を撮りに小走りで戸棚の方へ向かう。

 

「いちばんのおすすめはアップルパイらしくて、レインもそれでいっかって二個買ってきた」

 

「アップルパイか、もうしばらく食べていないな」

 

「レインは食べたことあるの?」

 

「ああ、妹が好きでね。昔はよく作っていたんだが……最近は作る暇も素材もなくてね」

 

「ふぅん、これが美味しかったらレインにも作ってもらおー」

 

そう口にしながら箱から取り出したアップルパイを皿に載せて、一つを僕の方に渡してくる。

皿を受け取って、手元にあった紅茶をアルトリアが用意してきた彼女用のカップに注ぐ。

 

「おいしそう……いただきまーす!」

 

フォークを手に取ってアップルパイを口に運ぶ。

『おいしい!』とキラキラした瞳で食べる彼女に倣って僕も一口頬張る。

そして、咀嚼した瞬間、思わず手が止まった。

それが、あまりにも僕が焼いたアップルパイと同じ味だったから。

 

「ふふっ、さては美味しすぎて固まってるな!」

 

アルトリアは固まったままの僕をみてドヤ顔で僕を見つめる。

 

「ああ、これはちょっと驚いたな」

 

「これキャメロットのお城で作られたやつを売ってるんだって。でもよくこんなところまで売りにくるよね」

 

「こんなところから近隣の村まで歩いて行くアルトリアと同じじゃない?」

 

「あっ!?そういうこと言う!?もう今度からレインのおやつ買ってきてあげないんだから!」

 

「それは勘弁してくれ、今のところ日々の楽しみの一つなんだ」

 

わいわい、と軽いお茶会を済ませたアルトリアは彼女の私室となっている部屋へと戻って行く。

村や街に出向いた日にはその日の修練はなし。

宝石に魔力充填だけをして終わりなのが彼女の決まりだった。

 

「あっ!お風呂にお湯溜めるの忘れてた!!!」

 

バタンっ!と勢いよく扉を開けて浴室へ駆け込んでいく彼女をみて、まだ旅には出せないかもしれないと思ってしまったのは……許してほしい。

 




アルトリア、書いてて楽しいけどみんなの反応どうかな……

などと戦々恐々している作者です。

なんと連続投稿10日目、もうはちゃめちゃに褒めてください。

というのもですね、本格的にルフェが始まるとある程度読み返さなきゃいけない都合上、今よりも格段に投稿ペースが落ちちゃうので、いまの自由な話をやってるうちに読者の皆様の心をグッと掴んでおきたいなと言う心持ちでして……

何はともあれもう少し続くよアルトリアとのブリテン異聞帯序章。
皆様の感想と高評価、お待ちしてます。
お気に入り登録とここすきもお待ちしてます。

それでは次回、またお会いしましょう
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