お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
「それで、その彫金師アリアという娘が作る装飾品が美しいと?」
「そう、でもこれって
「……ふむ、まあ確かに」
もう恒例となったモルガンの私室での密会。
決して誰にも見られないように、メリュジーヌはその入室方法を合わせ鏡の魔術が記録された宝石を使うことで徹底していた。
初めの頃こそ『別に飛んできたほうが良くない?っていうよりもキャメロットの中なんだから普通に歩いてきたらいいじゃん』と口にしていたが、モルガンはそれを良しとしなかった。
『お前は仮にもオーロラの騎士だろう。風の氏族長にべったりなお前が突然私のところに通い始めたと噂が立てば余計なことが起きないとも言い切れない。面倒ごとが起きないように、出来ることは徹底しておいた方がいいでしょう』
風の氏族長オーロラを慕う妖精騎士ランスロットが女王と懇意にしているとあればそれは風の氏族が女王に取り入って自分たちを優位に立たせようとしているふうに見える、というのはメリュジーヌもここ数ヶ月の間でいやというほどよくわかった。
以前まではあまり興味を示さなかった政治にも少しだけ目を向けてみればややこしい領主同士の睨み合いやモルガンへどう取り入るかの詮索をずっと続けている。
そんなことよりも他にやることがあるだろう、と呆れまじりに領主会議には妖精騎士として参列しているけれど……おいおい必要になるならと無理やり興味を持つようにしていた。
とはいえ、レインフォートをこのブリテンに連れてきてから週に1〜2回程度行っているこの会談はメリュジーヌにとっても有意義な時間であることは間違いなかった。
なにしろここ最近は冷たい女王としての側面よりもメリュジーヌを相手にしているときは“あの頃”の面影がチラつき始めているのだから。
態度が変わるわけではないが、言動の節々に砕けた話し方が入ってきているのだから間違いはないだろう。
以前よりも気軽に声をかけやすくなったという点においてはメリュジーヌからしてもいい変化だった。
それはそれとして、だ。
問題は今日メリュジーヌが南部平原へと向かった時に買ったアクセサリー5点。
純度の高い宝石を使用したジュエリーと丁寧な彫金が施されたネックレスはこの妖精國で造られるには少しばかり作風が違いすぎる。
「最初はあんなところで露店を開いてるから物珍しさで寄って見てみたんだ。そしたらびっくり、グロスターどころかキャメロットでも売ってないようなデザインのアクセサリが売ってるんだから」
「……たしかに、グロスターのオークションにかければ数千万モルポンドは値がつくようなクオリティとデザインではあるが……」
「でしょ?そんなのが数万モルポンドで買えるんだからとりあえず買って来たんだけど、よく考えたらこれっておかしいよねって思って持ってきたんだ。それに、少なくともこんなにすごいアクセサリを造るなら、風の氏族が住むソールズベリーまで噂が届かないのがおかしいでしょ?」
「確かに、私もそのような彫金師がいるとは聞いていない。余程いい師がいるのでしょうが……」
しかし、考えれば考えるほど不自然だ。
あの辺りにある大きな村はつい先日、悪妖精化した妖精たちに因って滅びたティンタジェルとコーンウォールにある名を失った妖精たちが住まう名無しの森。
あとは小さな集落が点々と存在しているだけで、決してそのようなデザインのアクセサリを作れるような職人が住まう場所ではない。
妖精とは自分の持ち得る技術を見せびらかさずにはいられない生き物だ。
そのような、職人気質の妖精がこの世界にどれだけいるというのか。
「……エクターは違う。彼はガウェインの鎧をティンタジェルで製作したと聞いたが、あの村は既に妖精1人、人間の1人すら皆死んだとウッドワスから報告を受けている。事後処理のためにアーデルハイトと女王軍の調査隊に向かわせて同じ報告を得たのだから間違いはない」
モルガンは思案する。
ならば、名無しの森にそれだけの職人がいるか。
答えは否だ、あそこに堕ちる妖精でそのような技術を持つものがいるとは到底思えない。
消滅を待つだけの妖精たちが、わざわざ近隣の村まで自身の作ったアクセサリを売りに来るなどそれこそあり得ない。
そもそも、エクターの亡骸はウッドワスによって森に横たわっていたと報告すら受けていた。
「……ならば、誰が」
考えてみれば、答えは一つしかないだろう。
これまでの10ヶ月間、ランスロットには各地を飛び回らせた。
オークニーに関しては自身で赴き、隅々まで探し回った。
いまだに“あの頃のまま”の図書館、アーデルハイトと再会した領主館の地下。
廃墟同然となった一軒一軒の家も、あの時に逃がされた最果てのログハウスも全て探してもオークニーの周辺にはいなかった。
しかし、どこを探しても見つからなかった。
そして、最後に向かわせたのが田舎なんて言葉でも生ぬるいほど何もない南部平原から下への捜索。
そこでランスロットが出会ったという妖精國では考えられないデザインの彫金師。
「一度、私自身で赴く必要があるか」
「陛下がわざわざ向かう必要ある?」
「お前にお兄様が本気で隠れるために作り出した魔術を見極められるか?」
「……それはちょっと、自信はないけど」
「空間を切り離すのは当然だとして、そのための隠蔽、資格がないと侵入すらできない結界、もし侵入に成功したとしても居住している区画にたどり着くまでに確実に殺し切るための魔術が設置されているとみていい」
おそらく、確実にここまでしてくるという信頼はある。
侵入と共に侵入者を知らせるアラート、進んだ先に無数のトラップ、更に進めば致死級の攻撃魔術、更に生き残るようなら即死級の魔術を順々に設置していくはずだ。
「でも、そこまでするかな」
「間違いなくやるだろう」
「どうしてそんなことがわかるの?」
「私ならばそうするからだ」
そしてそれは最果てのログハウスがあった小さな島にもかけられていた防衛魔術の順番でもある。
「境界の力を持つお前ならばその領域に侵入することは出来ても、その先を無傷で突破とはいくまい。お兄様の魔術の癖を把握している私ならば最低限の被弾で済む。それに、大人数で向かってもむしろ邪魔になるだけともいう」
以前は自分を守護していた結界に挑むとなれば、モルガンであっても多少の覚悟は必要になる。
下手をすれば過去挑んできたどんな相手よりもやりづらい相手でありつつ初めからある程度の癖を把握している相手でもある。
本気で探し、キャメロットに連れてくるのならば多少のリスクは背負うべきだろう。
「……ひとまず目標は決まった。ランスロット、南部平原をはじめとする周辺地域を徹底的に調べ上げろ。違和感を覚えた場所を見つけたらすぐに私に報告するように、キャメロットに思念体を設置してすぐに向かいます」
「……わかったよ。でも、陛下が結界に入っていったら僕は外で待機してるから。結界の中からなら水鏡で呼べるでしょう?」
「ああ、万が一私が負けるようなことがあればすぐに助けを呼ぼう。相手は“あの”お兄様だ、戦力があって過剰、ということはないでしょう」
このブリテンで唯一、なんの予備知識もなく魔術を極めた本当の天才。
この世界にとってたった1人、正しい方向へ導ける星の聖剣使い。
大切な兄だからこそ、モルガンはこのキャメロットへ招致したかった。
いつかに夢見た兄妹力を合わせての統治だって時間をかければ可能なはずだ。
この首の皮一枚つながっているだけの世界だって正しい繁栄をしていけるはずだ。
そのためならば、どんな苦労だって乗り越えてみせる。
だから、もうすぐにお迎えに参りますお兄様。
【速報】モルガン陛下、遂に動き出す。
メリュジーヌにアクセサリを売ったのが運の尽きだったなアルトリア。
どうしてこんな酷いことを平然とできるんですか?
アルトリアには幸せになって欲しい?
それは僕もめちゃくちゃ思います。
それはそれとしてお兄様と離れないとアルトリアはこのまま巡礼の旅とか出ないし。
時間軸的にはもうそろそろカルデアがくる頃だし(無慈悲)
というわけで次回から動き始めますアヴァロン・ル・フェ編
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