お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第九奏 『アルトリアvsモルガン(1)』

「では、ひとつめ……陛下とレインの関係は?」

 

「先ほども言った通り兄妹だ。もっとも、6000年以上前にお兄様は私を庇って亡くなってしまいましたが」

 

「それって、次代に生まれ変わったってこと?」

 

「そんな生やさしいものではなかった。いくら田舎にいたといっても6年前のオーロラに唆された()()()()()()()()()()()()()()は知っているでしょう。それと同じことが6000年前に最果てのオークニーで起こったのだ」

 

「…………」

 

一つ目の質問から、特大の地雷を踏み抜いた自信はあった。

正直なはなし、ここから沢山質問をしようというのに出だしからこんなやばい話題を振ってしまったことに頭を抱えたくなる。

もしかして、モルガン陛下とレインってとんでもなく重たい過去を持っているんじゃないかとこの質問からアルトリアは察した。

……ていうか、オークニーって“あの”オークニー?

だってそこってもうずっと前に滅びた国でしょ?

モルガン陛下とレインがそこの出身?

それに隣にいる妖精騎士アーデルハイトもそうってことだよね。

 

「……楽園の妖精以前に6000年生きてるとか大妖精どころの騒ぎじゃないじゃん」

 

おもわず、そんな言葉がぼそっと溢れる。

人間と違って妖精の命は長い。

数百年は当たり前として1000年生きれば大妖精、それ以上を生きれば強力な現象を起こす存在にすらなり得る。

重ねた年月に比例して妖精の強さが決まっていくといっても過言ではない。

……たまに、亜鈴返りとかいうイレギュラーはあるみたいだけど。

 

「ふたつめ。仮にレインが本当にモルガン陛下のお兄さんだとして、どうしてあなたから逃げていたの?」

 

「……それは、本人から聞いたほうがいいでしょう。お兄様、これについては私も聞きたいところです。どうして、ランスロットと共にキャメロットへ来てくれなかったのですか?」

 

「本来ならば、君が治める国を見て回る予定だった。このブリテンに繋がった時、瞳の光を失った今の君を見た。表情を失った君を見た。全てを諦めたような顔の君を見た」

 

苦しそうに、何かに悔いるように、苦悶の表情を浮かべながらレインは答える。

 

「君が救うだけの価値がある世界だったか、自分を失ってまで守る価値のある国だったか。あの時、君を送り出した僕たちは間違いを犯したんじゃないか。キミの心が壊れてしまったのなら、それは……間違いなく、僕の罪だろうと……そう思った」

 

それは、誰かに赦してほしいという顔ではなかった。

罪の告白、それを行うにしては罪に罪を重ねてしまった重罪人を思わせるような酷い顔だった。

 

「千里眼だけではない、キミがこんなになってしまってまで変わらない妖精たちなら……僕は……滅ぼしてしまってもいい、と本気で思ってしまったんだ」

 

彼は、心の底からそう思ってしまっていた。

わたしの眼が、それを真実だと見抜いてしまっていた。

 

「この世界を実際に見てまわって、一度キミに会いにくるつもりだった。教えてくれ、トネリコ。僕たちの選択は、僕のあの選択は……オークニーは間違えたのか……?」

 

「…………」

 

その問いかけは、あまりにも苦しい問いかけだった。

いま、自分を助けてくれた大切なひとが苦しんでいるのを、わたしは見ることしかできない。

モルガンも、妖精騎士アーデルハイトもレインの言葉に返す言葉を持たない。

彼が全てを手放してでも守ったもの。

それが間違いだったというのなら、それは……あまりにも残酷だろう。

 

「……間違いだった、わけが、ありません」

 

モルガンが、か細い声でその問いかけに答えた。

先ほどまでの芯の強い、凛とした女王の声ではなく、わたしとなんら変わらない1人の少女のような……

 

「……いいえ、この話は後ほど2人でするとしましょう。アルトリア、先程のお兄様の答えでお前への回答にはなったか?」

 

その問いかけに、頷く以外に手段がなかった。

聞きたいこと、モルガン陛下に問いかけるたびにものすごく重たい過去がのしかかってくる。

これは本当にわたしが踏み込んでもいいことなのか、わからなくなる。

しかし、彼女相手にこんなに時間を使って質問をする機会などこの先一度だってないだろう。

だからこそ、聞けることは聞いておきたかった。

 

「3つめ、どうしてあの結界を見つけられたの?」

 

「それについては簡単だ、たった今……お前の疑問についての答えが返ってきた」

 

「ただいま……あれ、なにこの空気。レインも陛下も彫金師の子もなんでそんなに終わった感じの空気なの?」

 

その声は、アルトリアにとって聞き覚えのある声だった。

つい数日前に、自身のアクセサリを売った綺麗な妖精の声。

 

「…………え、うそ」

 

「どうして、あの結界を見つけられたか。と、問いかけたな」

 

モルガンが、わたしの前に立つ。

最悪だ、よりによって、一番最悪な形でその真実を知ることになった。

 

「お前が数日前にアクセサリを売ったのはそこにいる妖精騎士ランスロットだ。お兄様の捜索のために南部平原の調査を任せていたところにお前が作ったアクセサリを見つけたといってな」

 

「まあ、実際綺麗だったしね。すごいよキミ、グロスターのオークションに出せば一気に上級妖精入り出来るほどの資産を得られるレベルの品々だ」

 

「……ぇ、それって、つまり」

 

目の前が真っ暗になるような錯覚を覚える。

なんとか気丈に振る舞うために入れていた力が抜けていく。

ガクン、と膝から崩れ落ちた。

 

「わ、わたしの……せい……?」

 

あの日、浮かれていた自分がこの状況の全てを引き起こしていた。

生まれてから、いちばん幸せな日々だった。

教えてもらうこと、好きなことを自由にやらせてもらって。

そして、それを売っては買ってくれた妖精が笑顔になって、レインも褒めてくれて。

 

それを、ぜんぶ、わたしが、こわした……?

 

「───ぁ、やだ……ご、ごめん、なさい」

 

足元にまるで穴が空いたような気分だった。

自分のせいで、あの幸せな時間を壊してしまったことに絶望した。

 

「ごめん……なさい……レイン……ごめんなさい……」

 

ボロボロと、大粒の涙が床に落ちる。

涙が溢れる、生まれて初めて、ここまで泣いているかもしれない。

でも、それくらい、わたしにとっては失いたくない時間だった。

そして、なにより……今まで培ってきた全てが無駄になってしまったことに……

 

パタン、と少女の身体が地面に横たわる。

 

「っ!アルトリアッ!」

 

ショックのあまり、気を失ってしまった少女をレインフォートが受け止める。

 

「……気を失っているだけでしょう。その少女の気持ちは、私もよくわかります」

 

モルガンが、気を失ったアルトリアを見て深く頷く。

ショックのあまり、意識を飛ばしたことなど何度あったかわからない。

悲しみで涙を流しすぎて、防衛本能として深い眠りについたことも何度もある。

 

だから、目の前で気を失った少女の気持ちは……わかるのだ。

 

「レイレナード、彼女を寝かせる部屋を用意しろ。私の部屋の隣で構わない」

 

「御意、2000年ぶりですねあなたにその名を呼ばれるのは」

 

「…………今日くらいはいいでしょう。私も、女王としての仮面が剥がれかけているようです」

 

「……ひとまず、今日は此処でお開きかな?じゃあ、私は彼とお茶会でも……」

 

「こんな真夜中にお兄様の負担も考えなさい。ただでさえ私たちが少なくない負担をかけているのだ。茶会の約束くらい別日にしなさい」

 

「むー、まあ……陛下が言うなら仕方ない。今日は私も近くに控えてるよ。何かあったらすぐに呼んで?」

 

各々、好きなように振る舞っているが、それでも此処からアルトリアを連れて逃げられるような雰囲気ではなかった。

それに、先程モルガンに語った言葉だって……全て真実だったのだ。

情けない姿を見せてしまった。

トネリコにも、レイレナードにも、アルトリアにも。

 

「……お兄様にも、思うところはあるでしょう」

 

メリュジーヌとアーデルハイトに連れられてアルトリアが別室に移動させられていく中、モルガンと僕だけが玉座の間に残った。

 

「しかし、ベリル・ガットからお兄様のことを聞いた時……心の底から嬉しかったのです」

 

「……ベリルが、此処にいるのかい?」

 

「……ええ、お兄様はとっくに気がついているかもしれませんが。私には汎人類史のモルガンの記憶があります。そのキッカケになったのがベリル・ガット。異星の神とクリプターと名乗るカルデアのマスター。カルデアに所属していたというお兄様には、話すべきことが沢山あるのです」

 

そう口にしながらモルガンは水鏡を開く。

今度は一体どこに飛ぶつもりなのかを聞くだけもはや無駄だろう。

 

「ここでは、少し…話しにくいことでもあります。いくら人払いの魔術をかけているとはいえ、私としても安心できるところで話をしたい」

 

「わかった、それと一つ聞いておくけれど……今の僕はそのカルデアの職員な訳で、拘束とかしなくていいのかい?」

 

「それこそ、あり得ません。だって、今は私の方が強いですもの」

 

くすり、とモルガンが笑う。

それはそうだろう、今の彼女は僕が妖精炉を接続した時と同等以上の魔力をその身に宿している。

おそらく一度の巡礼の旅ではそこまではいかない。

モルガンに宿る魔力制限のリミッターはすでに何度も突破されているのだから。

 

「聡明なお兄様なら、このどう考えても不利な状況で抵抗なんて……しないでしょう?」

 

「……そうだね。少なくとも今この状況でキミに逆らうほど僕も愚か者じゃないよ」

 

「……では、参りましょう。ランスロットに護衛を任せている形になるのでキャメロットから出ることは叶いませんが、私の私室であれば早朝の執務までにある程度のことは話せます」

 

モルガンに手を取られ、誘われるままに水鏡のゲートへと進んでいく。

 

 

 

 

 

 

アルトリアとモルガンの最初の対峙はアルトリアの惨敗。

しかし、それは……始まりに過ぎないのだ。

これから、幾度と顔を合わせ……そして、さまざまな形で戦っていくだろう。

 

言葉で、魔術で、己の意思で。

 

そして、そのたびにきっと、少女は強くなっていく。

 

だから………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、10ヶ月もどこにいるかわからないと思ったら、急にキャメロットに現れるとかどうなってるわけ?」

 

 




アルトリア、ショックのあまりに気を失う。
これで0勝1敗です(鬼畜)
皆様、お待たせしました。
次回、お兄様とモルガン2人きりのお話です。

まあ、決して明るい話題ではないので手放しで喜べる状況ではないのが玉に瑕ですけど……

ついでにお知らせを。
今回の話を以てアンケートの締め切りとさせていただきます。
たくさんの投票、ありがとうございました!

皆様の感想と高評価、お待ちしてます。
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