お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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祝、モルガンピックアップ!!!!!


第十奏 『モルガンとレインフォート』

水鏡を抜けた先はモルガンの私室だった。

どことなく、見覚えのあるデザインの室内。

来客が来るのを想定したわけではないだろうが、数人が座って話せるようなテーブルと椅子も存在している。

一際大きな天蓋付きのベッドはただ一つのシワすらなく、敷かれたカーペットは女王の私室ということもあって当然だが最高級の品質だ。

 

「……ここ最近はランスロットとレイレナードがこの部屋に出入りしていました。お兄様を探すために、次はどこを見て回るという話ばかりでしたが」

 

それも、やっと功をなしました。と、モルガンは微笑みながら繋いでいた手を離して再び僕の目の前に立つ。

僕にとっては千数百年ぶりの再会になる。

しかし、彼女にとっては……6000年ぶりの再会となる。

向かい合うように立っていた彼女は、僕の顔を何度も確かめるように見つめてゆっくりと、こちらに歩み寄ってくる。

 

まるで壊れ物を触れるかのように、少しだけ手を震わせながら彼女は僕の頬を、手を、何度も、何度も触れる。

 

「…………やっと、会えました」

 

「……すぐに会いにきてあげられなくてすまない」

 

「いいのです…………ほんとうに、いいの、です」

 

返ってきた言葉は、震えていた。

モルガンの瞳からは小さな雫が流れ落ちていた。

 

「生きていてくれただけで…………ほんとうに……!」

 

「トネリコ…………」

 

彼女の細い腕が、僕の背中まで回る。

小さく、出来るだけ聞こえないように嗚咽を溢す彼女を抱きしめ返すことしか、僕にはできなかった。

 

「つらくて、くるしくて、あきらめそうになった旅でした……!」

 

そうだろう、あれだけ希望に溢れていた君の今の瞳を見ればわかる。

 

「お母様のいうとおり、たくさん……仲間が、できました」

 

「でも、何度も裏切られて、見捨てられて、私自身何のために戦っているのかわからなくなって……!」

 

「支配することでしか、私にはブリテンを守れなかった……!!」

 

「お兄様のように、笑顔の溢れる国に……でき、ませんでした……!」

 

「オークニーのように、人間と妖精が手を取り合って……正しい発展を遂げることは、できませんでした……!」

 

()()()()()()()()()()、私はどうしたら良かったんですか……!」

 

それが、トネリコ(モルガン)が6000年に渡って必死に戦って、たどり着いた問いかけだった。

誰もが笑顔で優しく、正しい発展を遂げたオークニーを目指した。

人間と妖精が手を取り合って、お互いを尊重しあった故郷のような国をつくりたかった。

でも、それはできなかった。

何度も何度も裏切られた。

後一歩で平和になるという寸前で、いっつも壊された。

大切な仲間も、大事だった友達も、みんなみんな、壊された。

 

だから、妖精は救わない。

 

絶対に許さない。

 

言ってわからないなら、理解してくれないのなら。

 

支配して、苦しめて、いうことを聞かせるしかない。

 

でも、それが……自分がやりたかったことではない。

 

本当に欲しかったのは……故郷のような、優しい国だったのに。

 

 

 

「……本当なら、僕が君についていけば良かったんだろう」

 

僕の胸で涙を流す妹へ、言葉をかける。

出来るだけ優しく、彼女の背中をゆっくりと叩きながら。

 

「……だけれど、本当ならあそこで終わっていたはずの僕が……こうしてまた君に会えて、こうして触れ合える。それが、なにより……嬉しいんだ」

 

「生きていてくれて、ありがとう。トネリコ、苦しくて辛いだけのこの世界で、それでも生きていてくれてありがとう」

 

ぎゅっと、ずっと触れ合えなかった温もりを確かめるように。

僕とトネリコ(モルガン)はお互いを抱きしめて離さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

それからお互いに落ち着くまで少し時間がかかったが、一旦吐き出す感情を吐き出した後ではさすがは女王として生きてきたモルガンだ。

今となってはコホン、と一つ咳払いをして椅子に座り向かい合う形になっていた。

 

「……すみません、お兄様と2人きりになったと思ったら。つい、その……」

 

「いや、僕も君に会えたことが嬉しかったから……」

 

互いに何とも気恥ずかしい雰囲気が流れるが、ひとまず話さなければならないこと、聞かなければならないことがいくつもある。

さっき、彼女が言っていた“異星の神”と呼ばれる存在。

そしておそらくコフィンから消失していたAチームのマスターたちが名乗っているであろうクリプターという存在の話。

 

「……まずは異星の神と呼ばれるものの目的ですが、これについては私の口から語ることはできません。()()()()()()()()()()()()()()のです」

 

「なるほど、君ほどの魔術師であっても抗えない程の呪いか枷がかけられているのか」

 

「ええ、そして二つ目。それは空想樹と呼ばれる大樹……お兄様にわかりやすく伝えるならば世界樹トネリコのことです。空想樹としての名は“セイファート”、汎人類史では確か……銀河の名でしたか」

 

「ああ、そうだね。大質量ブラックボールが中心にある銀河だったはずだ。僕もそのあたりは専門ではないからあまり詳しくはないけれど」

 

なるほど、とモルガンは頷いて。

空想樹についてもやはり少しだけ首を振った。

 

「これについても、私から詳細に語ることはできません。ただし、これは独り言ですが……空想樹とは異星で作られた宇宙を閉じるための針。その設計思想こそ美しかったですが、私には関係ありませんでした。天球に、宇宙はくれてやりましたが、私がいるこのブリテンだけは私のものにしました」

 

「……多くは語れない、とはいってもなるほど」

 

何となく、重要な単語は理解できた。

“異星”“宇宙を閉じ込める針”“天球”。

おそらく、針というのは空想樹の在り方を示しているのだろう。

銀河の名を冠した空想樹。

僕らが世界樹トネリコと呼んでいたあれには確かに膨大な魔力が内包されていた。

 

おそらくその中に内包してきたのは擬似銀河、ということだろうか。

それだけの魔力があるのなら、剪定される運命にあるこのブリテンをいまだに存続させるだけの力はあるだろう。

ならば、それを針として扱うならば一体どこに……

 

「汎人類史に空想樹を差し込むことで異聞世界を確立させている……?」

 

「……さすがはお兄様です。その推察力は衰えていないようでなにより。空想樹とは剪定事象になった世界の未来をエミュレートしているのでしょう。私はその状態から脱するために空想樹を枯らし、そのエネルギーを使うことで一度滅んだこのブリテンを再生し、ブリテン全土に戦争を仕掛けて統一したわけですが……」

 

思いもよらぬ方法でのブリテン統一の話が出てきて思わず言葉が詰まる。

いやしかしなるほど、彼女の話を聞く限りこのブリテンは一度新生しているということだ。

一度滅びた大地を復活させるほどの魔力を溜め込んでいたとなれば相当なものだが、それが銀河級だというのならば納得もいく。

 

「空想樹の話はとりあえずわかったよ。なら、ベリルの話をしようか」

 

「……あの男の話はお兄様にはあまりしたくないのですが」

 

「何かされたのかい!?」

 

「いえ、そういうわけではありませんが……その……」

 

どうも歯切れの悪い彼女に首を傾げる。

何かされたわけではないのに、あまり話したがらない。

単に僕のように生理的に無理、という話ならば強要はしないけれど……

 

「ええと、君が彼のことを話すのも嫌というくらい嫌いだったなら申し訳ない。これに関しては僕の配慮が足りなかった」

 

「……汎人類史のモルガンを召喚したのはベリル・ガットです」

 

「…………」

 

「その汎人類史のモルガンが“既に終わったブリテン”を見て願ったのが、『このブリテンなら私のものに出来るかも』でした」

 

「ええと、それがベリルにどんな関係が……」

 

「そうして、彼女の知識を与えられたのが今目の前にいる私です」

 

「うん、わかる。でもそれが……」

 

嫌な予感がする。

正直に言おう、今まで生きてきた中で一番冷や汗をかいている。

モルガンから出る次の言葉が素直に怖い。

聞いてはならないと身体中が警鐘を鳴らしているようだった。

 

「……ベリル・ガットは正直、信用できません。お兄様と犬猿の仲であったと奴から聞いた時、すぐに拘束して記憶を抜き取り廃人にして捨てるつもりでしたが……それではお兄様を迎えることができない。かといって何の拘束もなしに野放しにもできませんでした」

 

モルガンの言葉はつづく。

彼女もいよいよ覚悟を決めたのだろう。

大きく深呼吸して、背筋を伸ばした。

 

「ベリル・ガットは……」

 

「ああ……」

 

 

 

 

 

 

 

「この妖精國において私の夫という立場にあります」

 

 

「ベリルだけはやめなさい!!!!」

 

 

 

 

女王の私室に悲鳴に近いレインフォートの声が響いたのだった。




「ブリテンが認めてもお兄様は許しませんよ!!!!!!!」


ついにやってきました、衝撃の告白。

モルガンは今限りなくトネリコに近い精神性なのでお兄様と一緒にいる時はトネリコのような話し方になっています。

終わりの足音は確実に近づいているけれど、少しの間だけでも幸せになってねモルガン。


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