お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第十一奏 『旅のあしおと』

 

キャメロットに連れて行かれた翌日。

 

『いやです、離れたくありません』

 

などとモルガン……トネリコがひっつき虫になっていたところをレイレナード。

もとい、妖精騎士アーデルハイトが引きずって行ったのだがものの見事に僕はやることを失っていた。

とはいえ、時刻はまだ朝の9:00。

 

『女王である私が一番先に玉座の間にいなければならないと他のものに示しがつかないといつも言っているのはモルガン陛下ではありませんか!』

 

妖精騎士アーデルハイトにそう言われていたモルガンのことを思いだして、ほんの少しだけ笑ってしまう。

 

生来の生真面目さは健在なようで、変わらないところもあることにほんの少しの安堵を得る。

 

しかし、今僕がいるのはモルガンの私室。

昨日の爆弾発言から若干記憶が飛んでいる気がするが、それだけショッキングな発言だったのは間違いない。

少なくとも、思いだしたくないほどにはキツイ発言だった。

 

……いや、トネリコに夫がいるのは辛うじて許せる。

 

僕の手を離れて6000年だ、その間に愛を育んだ男がいてもギリギリ許せる。

 

やっぱり僕に魔術戦で勝てるくらいでないと許すことはできないかもしれない。

 

しかし、しかしだ。

 

ベリルはダメだろう。

 

いや、本当にどうしてベリル……?

 

あいつが僕の義弟になるということ……?

 

チェンジ、チェンジだ!!!

 

少なくともキリシュタリア程の誠実で生真面目でそれでいて生意気な青年ならば僕だって許せた。

 

ロマニのような頼りなさげだけどいざという時はやるような男ならば僕だって許容できた。

 

しかし!

 

ベリルは!!

 

ダメだろう!!!

生まれて初めてここまで頭を抱えているかもしれない。

 

正直、僕が汎人類史における所謂《シスコン》というカテゴリに入ることはわかっていた。

ロマニにもよく『あぁ、レインは間違いなくシスコンだね』と笑われたものだ。

 

正直に言おう、僕はトネリコを目に入れても痛くないというほど溺愛していた。

 

もちろんすぐ下の妹であるルクレティアだって可愛い。

僕にとっては2人とも目に入れても痛くないほど可愛い妹だ。

 

そんな2人のどちらかに夫ができるなど考えたくもなかったが……

 

よりによってトネリコの相手が、ベリル……????

 

頭がパンクしそうだ。

並列思考で別のことを考えようとしてもどの思考にもこの現実が焼きついて離れない。

 

「………………だめだ、いくら考えても頭から離れない」

 

千里眼でブリテン中を探してベリルのいる位置が見えたのはニュー・ダーリントン。

認識阻害か何かの術がかけられているのか、ベリル以外の風景がノイズが走ったように見えにくい。

何か良からぬことを企んでいるのか、と覚束ない頭で思案する。

 

「もう殺したほうが早いか……」

 

しかし、仮にも妖精國の女王たるモルガンの夫…………夫…………

 

 

 

 

 

思考が無限ループに入りそうになったその時、扉を叩く音が聞こえた。

扉の外から聞こえてきたのは聞き馴染みのある低い男性の声。

つまり、妖精騎士アーデルハイト……レイレナードだろう。

 

「……殿下、楽園の妖精……アルトリア様がお目覚めになられたのでお連れいたしました。陛下から食事の手配をするように、とのことでしたのでこのお部屋に運ばせていただきます」

 

「ああ、わかった」

 

「お、おはよう……レイン……」

 

用件だけを伝えて退室していくレイレナードとその場に残されたアルトリア。

昨日のことがまだ尾を引いているのか、いつも通りの朝の挨拶とはいかなかった。

 

「おはよう、アルトリア」

 

「…………その、ごめんなさい」

 

開口一番、謝罪。

やはりというか、なんというか。

気を失うほどの衝撃だったのだからこうなるとはわかっていた。

 

「……いや、いいんだ。ランスロットが僕のことを探していたのなら、どのみち僕たちは見つかっていた。むしろ、お互いに痛い思いをしなくて済んだんだからラッキーくらいに思っておけばいいさ」

 

「で、でも……!」

 

「……それよりも、アルトリアの今後を考えることが先決だ」

 

「…………ぇ?」

 

「きっと、君のことを排斥するような事はしないはずだ。でも、君の選択次第ではどうなるかわからない。僕はもしかしたらキャメロットから出られない可能性が高い」

 

「…………」

 

いつかのように、彼女の前で膝をついて彼女と目線を合わせる。

いつかとは違って触れても彼女は怯えて震える事はなくなった彼女の手を取って。

 

「モルガンはキミに幾つかの選択を迫るだろう」

 

「そのとき、キミは自分の信じる道を進みなさい」

 

「大丈夫、アルトリアはもう1人でも生きていける力がある」

 

「もうあの時のような無力な少女じゃない」

 

「例えそれが与えられた選択肢でも必ず乗り越えられる」

 

「もし、モルガンがその選択に対してその場で罰を与えるなら……必ず僕がキミを守る」

 

「だから、キミは自分の選択をするんだ」

 

「でも……でもそこにレインはいてくれないじゃん……!」

 

僕の言葉をちゃんと聞いて、それでもアルトリアは幼い子供のように涙を流しながら小さな声を溢した。

 

「いやだよぉ……だってまだ教えてもらってない事いっぱいあるもん……!」

 

「……そんな事ないさ、これまで教えた事を思い出して自分で考えてキミは新しい事だってできるようになる」

 

「出来ない……!出来ないもん……!」

 

ガクンっと膝をついて、アルトリアは泣きじゃくる。

僕の手を強く握ったまま、大粒の涙を流して僕の胸に顔を埋めた。

 

「…………」

 

「モルガン陛下がわたしに何もするなっていうなら何もしない!巡礼の旅をするなっていうならしない!それでレインと一緒に入れるならそれでいい……!」

 

「生まれてからずっと我慢してきた……!辛くても苦しくても、ずっと我慢してきた……!足の指が壊死してなくなるくらい我慢したんだから……わたしから……わたしから……大切なものを、時間を取らないでよ……」

 

それはきっと、なんでもない少女の心からの叫び。

一度でも大切で好きなものを手に入れた少女の幸せを無くしたくないというなんでもない普通の心だった。

 

「…………なにも、お前から全て取り上げるとは言っていないでしょう」

 

執務に行っているはずのモルガンが水鏡のゲートから現れる。

泣きじゃくった顔のまま、アルトリアはモルガンを見つめた。

 

「……私にも、お前と似たような経験がある。私の場合は文字通り全てをなくしたが、それでも前を向くための経験もあった」

 

「裏切りも迫害も差別も、一通り悪意と呼べるものは経験してきた。だからお前はこのブリテンを見て回るがいい。この世界を見て回って、私の治世が間違っていると思うならば、己の使命を全うするがいい」

 

モルガンは未だ涙の拭いきれないアルトリアに告げる。

楽園の使命を果たすも果たさないも自分次第だが、その前に世界を知れと。

 

「でも……ひとりで旅なんてきっと出来ない……そんなの、やり方も何も知らない」

 

アルトリアは、モルガンからの言葉に自信無さげに応える。

その回答にモルガン自身も大きくため息をついて妥協案としての答えを出した。

 

「…………ならば、仕方ない。お兄様を一緒につけてやる、週に一度はキャメロットに帰還するように……ブリテンにある全ての街を回ってくることを楽園の妖精アルトリア・キャスターに命じる」

 

「世界を知り、この國に住む妖精たちの姿を知るがいい。お前が全ての街を回ってきた時、改めてどうするかの答えを聞こう」

 

その言葉を告げたその瞬間、再び扉を叩く音が聞こえる。

レイレナードが“3人分”の食事を持って部屋に入ってきたのだ。

 

「何はともあれ、泣き止みなさい。旅の支度の前に朝食を食べてしまいましょう。お兄様の服もお前の涙で酷いことになっているではないか」

 

呆れたように、モルガンは配膳が始まったテーブルの方へと向かう。

 

明らかにそんな雰囲気ではなかったものの、レイレナードが用意した朝食の香りはオークニーで僕が振る舞っていた朝食と同じ香りがしたのだった。

 




余談ですが、作者はモルガン完全体だったりします。
あと絆レベルが15にするだけでLv120、フォウ2000、宝具レベル5(6)、スキルマ、アペンド全開放Lv10、コマンドカードフル強化済みだったりします。

そんなに強くないけれどフレンド募集とか需要……ないですねハイ。

それはそうと本編の方はまた物語が動き出しそうです。
拙作のモルガン陛下はお兄様がいた影響でアルトリア・キャスターには原作よりもかなり甘い判定になってます。
同じ楽園の妖精、同じ使命を持ったもの。
同じくお兄様に育てられたもの(アルトリアは10ヶ月自分は16年)として出来るだけ自分の味方につけたいと考えているわけですね。
お兄様に育てられたことで、初手から排斥するのではなく。
出来るだけ言葉をつかっての対話をすることを心掛けているようです。

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