お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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難しい事は考えないで頭空っぽにして読んでください。
作者も「あー、こういうの見てー」で書いてます。


序章『雨の国での練習詩(エチュード)
第一雨


雨の国、オークニー。

雨の氏族が収めるこの土地の領主の城、その一番奥にある1人の妖精の為の書斎/自室。

雨の国で大切に育てられているお姫様。

暖炉がパチパチと音を立てて燃えるそのすぐそばで彼女は今日もたくさんの物語を読み耽っている。

 

「……お兄様、今日は遅いなぁ」

 

いつもならとっくにこの部屋にやってきていろんなことを教えてくれる彼女の兄、この国オークニーにおける次の氏族長たる第一後継者。

家族はみんな大好きだけど、その中でも兄は特に大好きだった。

読書に耽る時間ももちろん大好きだが、兄と一緒に過ごしていろんな話をする時間の方が、彼女は何よりも好きだった。

 

そんなことを考えていたらコンコンッと彼女の部屋の扉からノックする音が聞こえる。

 

「っ!はーい!」

 

ちょっと不機嫌気味だったお姫様の顔色もノックの音で掻き消える。

近くにあった鏡で身だしなみを軽くチェックして彼女は扉へと走り出した。

 

「お待ちしてました!お兄様!」

 

「おや、僕たちのお姫様は今日も元気いっぱいみたいだ」

 

満面の笑みで彼女は兄を迎え入れる。

今日はどんな話を聞かせてくれるのだろう?

楽しみで仕方ない彼女は上機嫌のまま兄をいつもの椅子まで案内する。

 

「ふふっ、トネリコは今日は一段と機嫌がいいね」

 

「そ、そうでしょうか……?お兄様の気のせい、では?」

 

「そういうことにしておくよ。じゃあ、今日はどんなお話をしようか」

 

「うーん、あっ!あれ教えて欲しいです!お兄様が移動に使ってる“魔術”!」

 

「ああ、水鏡のことかな?もちろん、教えてあげるとも」

 

彼女の兄は妖精である。

だが、彼女の兄は妖精でありながら“魔術”を修めている。

王族として強力な神秘や権能を有していながらも彼は独学で魔術を解明し、それを自分の力として修めた“未知を解明した天才”でもあった。

 

「それじゃあ、魔術の基本からおさらいしようか」

 

「はい!」

 

そうして彼女にとっての特別な時間が始まる。

後に、彼女が得意とする転移魔術『水鏡』を教わることになる。

ここで一つ、追加しておきたいのは天才の妹は彼をも超える“神域の天才”であることだ。

教えた事はスポンジのように吸収してすぐにそれを一流と呼ばれるまでに昇華させることが出来る。

教えがいのある妹であるのと同時に“彼”が妹に魔術を教えることが無くなるまでそう時間はかからなかった。

それは楽園の妖精、“ヴィヴィアン”がオークニーで育てられて15年目の雨が降り頻る春の出来事だった。

 

 

 

 

 

雨の国、オークニー。

そこに住まう雨の氏族は楽園の妖精である“ヴィヴィアン”が流れ着いた時、ひどく怯えた。

自分たちの犯した罪、それを暴かれることをひどく恐れた。

だが、彼/彼女たちはまだ赤ん坊であった彼女を憐れに思い、他の氏族から彼女を守るという選択をとった。

 

オークニーは最北に存在する世界樹の麓に存在する静かな国だ。

雨の氏族の王妃は楽園の妖精に世界樹トネリコと同じトネリコという名を与え、愛し、知識を与え、大切に育てた。

すくすくと愛らしく、そして心優しい少女に育った。

雨の氏族たちは楽園の妖精を王妃様の娘として扱い、そして雨の氏族の王族たちは末妹となったトネリコを深く愛した。

 

雨の氏族の王妃様のレティシアはいずれ旅立つ娘にいざという時に困らないようにとたくさんの知識を与えた。

雨の氏族の王女のルクレティアはどこに行っても恥ずかしくないようにと厳しくも優しく彼女に接した。

雨の氏族の王子であるレインフォートは誰よりも妹を溺愛し、彼女に戦うための力を、身を守るための術を教えた。

 

そして、そんな家族が、雨の氏族のみんながトネリコは大好きだった。

オークニーの市街に出ればみんなが笑って話しかけてくれる。

読書好きなトネリコにおすすめの本を手渡してくれる。

トネリコの大好きな家族がどんなことをしてるか教えてくれる。

 

だからこそ、心優しく成長したトネリコはこの心優しい妖精たちを救うための手段はないのかと考えるようにもなっていた。

みんな幸せで、罪の意識を感じなくなるくらい優しい理想の國があったら、なんて思っていたのだ。

 

灰色の空に優しい雨だれの音、兄から教わった火の“魔術”でランタンに火をつけて本に視線を落とす。

 

「お兄様、まだかなぁ……」

 

そして恋焦がれる少女のように、楽園の妖精は大好きな兄を図書室で待つ。

今日はどんな話をしてくれるだろう、どんなことを教えてくれるだろう。

いつも兄の来る時間が近づくと、そわそわしながらその時を楽しみにしているのだ。




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