お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
───え?何やってるのモルガン陛下。
最初に思ったのはそんなことでした。
いや、だってそうでしょう。
私の眼は人の言葉の真偽を見抜く。
それは目の前のモルガン陛下がついた“通りすがりの妖精”という言葉にも働いた。
だって、モルガン陛下はレインにトネリコって呼んでって言ってたし。
レインだってモルガン陛下のことをトネリコって呼んでた。
……だから、最初は本当に何やってるの……って感想だったんだけど。
でも、話してるうちに『ああ、この人も嘘は言わない人なんだ』ってわかった。
流石はレインの妹だよね。
兄妹揃って嘘をつかないなんてちょっと筋金入りだと思うのです。
自称通りすがりの妖精さんは楽園の妖精の使命についても本気で“どうかしてる”と思っているようだったし、わたしにとってはとても話しやすい人でした。
きっと、女王の姿だとわたしが萎縮してしまうから姿を変えてきてくれたのかも。
この姿で私と話してくれるモルガン陛下は明るくて優しくて、きっとレインと一緒に過ごしてたときのモルガン陛下ってこんな子だったんだってわかった。
じゃあ、こんなに明るい人だったモルガン陛下が今の陛下に変わるくらいの旅ってなに……?
だって、妖精國の女王のモルガン陛下は冬の女王と呼ばれるくらいブリテンの臣民に恐れられてる。
その理由は簡単で、恐怖による支配を2000年以上も続けているから。
でも、でもこんなに明るく笑って優しいこの人が擦り切れてしまうような旅の果てに今の陛下に至ったのたら……それは……
「……どうして、立ち止まることを選ばなかったの……?」
「………………そうですね」
つい、口から出てしまったそんな問いかけ。
その言葉に、モルガン陛下は微笑んで答えたのだ。
「大切な人が、生きた土地だったから」
返ってきたのは、そんな単純な答え。
この人は、どんなに辛くて苦しくても……ただそれだけを頼りにしてここまで進んできたのだと理解して、思わず言葉が詰まる。
「大好きな人が、私のために犠牲になって……私もどうしたらいいかわからなくなったこともたくさんあったけれど、それでも“その理由のため”に私はずっと歩いてきた。きっとこれからも、私は“その理由のため”だけに戦い続けられる」
強い人だなあ。
きっとわたしにはそんな生き方できない。
きっと何度も足がすくんで、立ち止まってしまう。
最後まで走り抜ける勇気なんてきっとない。
でも……わたしがずっと追いかけているあの青い星は───
「走り出すための理由なんて、なんだっていいんだよ。どんなにくだらないことだってそれが、あなたの理由になるのなら」
「どんなに、くだらないことでも……?」
「そう、だって……私の理由だって他の誰かには取るに足らないくだらない理由でしょ?その過程とか始まりの理由なんて誰も気にしてない、みんなが見てるのは結果だけで、その人がどんな気持ちだったとか……きっと考えることなんてないんだと思う」
その言葉の重みが、どれほどのものなのか。
まだなにも知らないわたしにはまだわからないけど。
少なくとも、こうして話すことがなければわたしがモルガン陛下の気持ちを理解することなんてなかったと思う。
「巡礼の旅をする選択をあなたがするかはわからないけど、もしその選択をしたのなら……決して後悔をしないように。誰かのために戦うのか、自分のために戦うのか……それとも譲れないなにかのために戦うのか」
「なんのために、戦うのか……」
「もちろん、戦わない選択肢だってある。辛くて嫌な現実から逃げることだってみんなに与えられた権利だもの」
だけど、と彼女は翡翠の瞳を私に向けてまっすぐに口にする。
「アルトリア・キャスター。あなたにも、決して裏切れない何かがあるでしょう?」
その言葉が、胸の深くにすとんっと落っこちた。
わたしが、裏切れないもの。
わたしが、いままで頑張れた理由。
嵐の中で、それでもずっと輝いていたあの星を……
誰かになりたかったわけじゃない。
誰かになれるなんて初めから思ってない。
そりゃあ、モルガン陛下みたいになんでもできる人になりたいとは思っていましたが、でも……それが正しいことではないとわかっていた。
ああ、鐘の音が聴こえる。
幼い頃からずっと聴こえていたどこか遠くから聞こえる鐘の音。
いつだって、わたしに進めと言い続けているような嫌な音。
生きる意味を決めつけられたわたしが何かのために頑張れるのなら。
それは……
それは…………
「わたしの大切な人が……笑える世界が……」
「それでいいと思うよ」
やっと絞り出したその言葉に、彼女は優しく微笑んだ。
「私は、もう何もかも手遅れだったけど……あなたが立ち上がることで守れるものがあるなら……それは、あなたが頑張る理由になるよね。そのために世界を見て、女王の統治が間違ってると思うなら……」
「思うなら……?」
「マジマッチ、するしかないよね!私にも譲れないものがあるわけだし、あなたにも譲れないものがあるのなら戦うしかないとおもう」
両手をグッと握って彼女はそんなことを口にした。
さっきまでの知的な姿は一体どこへ、唐突に脳筋思考になったモルガン陛下に困惑しているとそんな私を見て彼女は笑った。
それにつられて、わたしもほんの少しだけ笑うことができた。
「ありがとう、ございます。わたしもやらなきゃいけないこと、わかった気がする」
「そっか、なら……通りすがりの妖精の役割はここまでだね」
モルガン陛下はそれだけ口にして、手を翳す。
ほんの少しの魔力の放出と共に、その姿はわたしのよく知る姿へと戻っていた。
「ならば、まずは自分の足で世界を知りなさい。出立の予定は追って知らせる。そのための準備は……明日以降に進めればいいでしょう。まずは旅の始まりとしてキャメロットで旅の支度をするといい」
秘密の邂逅はここまで。
モルガン陛下は踵を返して扉の方へと歩いて行き、扉に手をかける直前でその歩みを止めた。
「……そういえば、あの時足の指が壊死したと言っていたな」
「……あ、えっと……はい」
「何本だ?」
「に、2本くらい?でも、こうして歩くのも普通にできるし……走ることだって問題なく……」
「……明日の深夜に私の部屋へ来なさい。ブリテン中を駆け回るならそれはかなり堪える」
それだけを言い残して、モルガン陛下は今度こそ扉の先へと消えていった。
…………モルガン陛下の部屋に行ったところで何になるんだろう。
新しい靴をくれるとか……?
確かに今履いてるブーツはたまに痛くなったりするけれど、旅をするにはこれで十分じゃない?
こう見えてこのブーツは頑丈だし、結構走りやすかったりするんだけど。
「まあいっか、言われた通り明日の夜にモルガン陛下の部屋にいこう」
そんな、いつも通りのわたしを振る舞える程度にはメンタルが安定しているのです。
今日出会えたのは、幼い頃のモルガン陛下。
レインの妹として滅ぼされたオークニーで生きていた頃の少女。
きっと、もう出会えることはないと思うけれど。
許されるならば、旅を終えて答えを出したその先でもう一度会えることを願っている。
そのとき、胸を張ってわたしの選択を報告できるのなら…………
トネリコとアルキャス帰っちゃった……(遠い目)
水着アルキャス今日からじゃなくてよかった……!(歓喜)
ルフェが始まってもうすでに14話。
まだお兄様とアルトリアの冒険始まってないってマジ……?
そろそろ読者の皆様にド突かれるんじゃないかと震えてる作者です。
もう少し、もう少しだけキャメロット編続けさせてください。
そうしたらお兄様とアルトリアの冒険始めるので……!
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