お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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祝!モルガンピックアップ!!!!

祝!水着アルトリア・キャスターピックアップ!!!!


第十八奏 『モルガン(トネリコ)レインフォート(お兄様)の休暇 Ⅰ』

結局のところ、着ていく服は魔力で編み外出の準備を完了とすることにした。

汎人類史のモルガンが得ていたカルデアに召喚された時の現代知識からそれらしい服装を選んだつもりではあるものの、このブリテンでは見ることのないデザインであるのは間違いない。

白いセーターに黒いジャケット、深い青色のスカートに厚めのタイツ。

靴は少し明るめのヒールブーツを選んでみた。

お兄様はといえばキャメロットに来てからはワイシャツにスーツスラックスといった現代でいうサラリーマンスタイルであることだ。

水鏡で移動するとはいえ、お兄様の隣に立って違和感のある服装ではないでしょう。

 

「お待たせトネリコ、アルトリアはあの林にある家に一度帰るのに送ってきたところだから……っと」

 

水鏡で私の部屋に跳んできたお兄様が報告と共に私をみて言葉を止める。

私の顔から足先まで一度しっかりとみて、うん……と頷いた。

 

「まさか現代風の服で待っていてくれるとは思わなかった。とても似合っているよ、いますぐにでも2人でロンドンの街にでも繰り出したいくらいだ」

 

「ふふっ、ロンドンという場所で歩くのは難しいかもしれませんがキャメロットならば少しは可能かもしれませんね」

 

「僕ももう少ししっかりした服であればよかったんだが……」

 

「お兄様はジャケットを羽織るだけで様になるでしょう。それに、残念ながら街を歩くことはできないので気分だけでもというやつです」

 

着たことのない服装でしたがお兄様に褒められたことで先ほどまでの落ちた気分から今の機嫌は鰻上り。

本当にこのままキャメロットやグロスターを一緒に歩けるのならどれだけよかったことかと思案してしまう。

しかし、女王の身分でそれは叶わぬ願いだ。

たとえ2人で街を歩くことはできずとも、2人で過ごせるならそれに勝る幸せはないだろう。

叶うならば、バーヴァン・シーも共に過ごせればなおのこと良いのですが。

 

「では、参りましょう。目的地は遠いので水鏡でひとっ飛びです」

 

差し出した手をお兄様はすぐにとってくれる。

長い冬があけて、春が再び巡ってきたかのような心の温かさ。

繋いだ手から感じる温もりが、一度は失ったお兄様が今ここにいてくれるという証明をしてくれる。

 

2人で、水鏡のゲートを潜る。

 

 

 

その、ゲートの先は……

 

 

潮風が鼻腔をくすぐる。

とても懐かしい景色と香りに思わず頬が緩む。

私にとっては100年間泣き腫らした小島にあるログハウス。

そして、お兄様にとっては…………

 

「ああ、懐かしいな」

 

まるで消えない罪を思い出したようなそんな顔をしていた。

 

「ブリテンで私が安全に過ごせるのはこのログハウスとあの図書館だけです。図書館は屋敷の本館自体が壊されてしまっていてまともに扱えないのでちゃんと過ごせるのはここだけになってしまって」

 

「いいや、それは仕方ないだろう。僕たちの住んでいたあの屋敷は相当壊されていたはずだし……6000年も経っていれば形が残っているだけで奇跡みたいなものだ」

 

「そうですね。あの屋敷にも巡礼の旅の度に訪れましたが風化していく実家を見るのはなかなか堪えるものがありました」

 

「いずれオークニーにも寄ってみるつもりなんだ。アルトリアとの旅ではあの場所に訪れる必要がないから行くことはないけどね」

 

「そうでしょうね。湖水地方まで来る必要はないでしょう、王の氏族のノクナレアが治めるエディンバラあたりまで行けばそれ以上北にはなにもありませんから」

 

ほんの少し冷たい風が私とお兄様の間を吹き抜ける。

季節は11月、オークニーよりも北にあるこの小島に吹く潮風は肌寒い。

 

「ひとまずログハウスの中に入ってしまいましょう。風化を抑える魔術はお兄様がかけたものから幾度か掛け直しているので中は綺麗なままです」

 

「ああ、それじゃあ行こうか」

 

繋いだ手は離さないまま、ログハウスへと向かう。

たった1人の妖精がほとぼりの冷めるまで隠れられるほどの小さな島。

この島に入るには船では辿り着けず、水鏡を扱える魔術師でしかこの座標へと立ち入ることはできない。

そう、何故ならばこの島そのものの座標がズラされているからだ。

たどり着くために必要なものは水鏡の魔術。

そして、オークニーに所縁のある妖精か生物。

資格のないものはこの小島へとたどり着くこともなく永遠に見つけることは叶わない。

 

そう、お兄様があの林の家にかけていた魔術の雛形。

そして、もし万が一外敵が侵入してきた場合のトラップの手順も同じものだ。

 

砂浜から森の中へ、島の中心にある湖の畔にある小さなログハウス。

あの頃はまだログハウスの周りの木々もこんなに背は高くなかったが、6000年も経てばもはやジャングルと言えなくもない高く育った木々たちになんとも言えない顔になる。

 

「……もう少し木々の剪定をしておくべきでしたね」

 

「確かに、これは少し伸びすぎというか」

 

「成長を抑制するための魔術でも開発しましょうか」

 

「出来はするだろうけれど、それよりも一斉に剪定した方が楽じゃないかい?」

 

「2〜3時間もあればそのくらいならば作れそうですね。ふふっ、お兄様にも手伝っていただくことにしましょう」

 

もはや見上げるのも疲れるほどに伸びた木々を尻目に、予定の一つを組み上げる。

木々を一斉に剪定する魔術は作ろうと思えばすぐに作れる。

風の刃を制御して斬り倒していけばいいだけというのもあるが、問題はこの物量だった。

思念体を出して一気に片付けるのも良いが、どうせならばお兄様と共同作業をして片付けたいという気持ちの方が強い。

 

どちらにせよ明日以降にやることはいくらあってもいい。

なくてもたった3日しかない2人きりの時間を大切に使うべきだろう。

 

森を進み、湖が見えてきたのと同時に目的のログハウスがだんだんと近づいてくる。

こんなに遠かったか、と思ったもののよく考えたら砂浜からログハウスまで歩いたことなど一度もなかったことを思い出す。

 

思わず、ログハウスへ向かう足取りが軽くなる。

気がつけばお兄様の手を引いてログハウスの扉の前にいた。

魔力を指先に通して魔力錠のロックを外す。

鍵が開く音と共に扉がゆっくりと開いていく。

 

「お帰りなさい、お兄様」

 

一歩、先に私が家の中に入ってお兄様へ向き直る。

6000年間、口にすることが叶わなかったその言葉を今度こそ口にすることができたのだ。

 

「ああ、ただいま。トネリコ」

 

返ってきたその言葉に、私はここ数千年で失ってしまった笑顔を浮かべられていた気がした。

 

 

 

 

 

 

****

 

「しかし驚いた、トネリコからこうして夕飯を振舞ってもらえる日が来るとは」

 

「私だって旅をしてきたんです、料理の一つや二つ作ってみせますとも。まあ、友人曰く……トネリコには花嫁力が足りない、そうですが」

 

「花嫁力……?」

 

「ええ、花嫁力です。まあ私は女王ですのでこうして誰かに振る舞うこと自体がレアケース……最悪妖精なので食べなくてもなんとかなります」

 

ドヤ顔のまま鍋の中身を混ぜるモルガンに思わず僕は苦笑いをする。

ログハウスに辿り着いて数時間、家の中にあった物の確認と間取りの再確認をして一休憩した僕たちは夕食のための準備をするという流れになった。

昔のように僕が食事を用意するつもりでキッチンの方へと向かえば後からついてきたモルガンが僕の袖を引っ張ってこう告げたのだ。

 

『本日の夕食は私が用意します』

 

政務で疲れているだろうと聞いても『問題ありません』の一点張り。

僕の中のトネリコは箱入り娘のお嬢様という概念から抜け出していなかったせいでその言葉には心底驚いたわけだが……こうして手際の良さをみると旅の中で自炊をしていたのも本当らしい。

 

一体いつ用意したのかわからない食材たちを手際よくカットしていき、一体いつ焼くだけまで仕上げたのかわからないパンを焼き、一体どこから取り出したのかわからない野菜たちがサラダに変わっていく。

気がつけばあっという間に美味しそうなシチューと焼きたてのパン、彩りのいいサラダの完成だ。

 

促されるまま食卓につき、振る舞われた料理の前に僕とモルガンは向かい合って座っていた。

 

「どうぞ、召し上がってください」

 

「うん、いただくよ」

 

用意された木製のスプーンを手に取り、まずはシチューから。

スプーンでひとすくいすれば鶏肉と一緒にとろみのついたソースが湯気を上げてもちあがる。

息を吹きかけて少しだけ冷まし、口に含む。

ミルクのコクと野菜から出た旨味、そして鶏肉から溢れる肉汁が絶妙に混ざり合って思わず息をついてしまうほど美味しい。

 

「うん、美味しい」

 

「それは良かったです。もしお兄様の口に合わなければ作り直すつもりでした」

 

「キミが作ってくれた物ならなんだって食べるよ。あの頃、失敗した僕の料理を残さずに食べてくれたキミと同じように」

 

「お兄様らしいと言えばらしいですね。まあ、私も食するものですからどのみち不味ければ作り直しますが」

 

「自信満々に調理を始めたのに不味くなることとかあるのかい?」

 

「私は基本なんでもできる天才ですが、たまには失敗だってあります」

 

そう口にしたモルガンは至って澄まし顔。

なんでもありませんよ、と言いたげな表情のままモルガンは食事を続けた。

僕もこれ以上はあまり言及しないようにしようと話題を変えつつ食事を楽しむことにした。

 

他愛のない話だ。

最近の政務はどう、とか。

カルデアにいた僕のやっていたこと、とか。

 

ああ、汎人類史のモルガンに助けられたことは言わなかった。

後ついでにその時にアルトリア・オルタから聖剣を借り受けていたことも。

 

久しぶりに暖かな部屋で食べた2人きりの食事はとても、とても楽しく僕にとっては懐かしく優しい気持ちになれたことだけをここに記しておこうと思う。




──いくぞ読者たち、石の貯蔵は十分か。

460個の星晶石を用意した作者、まさかまさかの大勝利。
水着アルトリア・キャスター、怒涛の虹回転連発により初獲得から宝具レベル4へ。
そしてメインヒロインモルガン陛下完全体の作者モルガンピックアップに挑む読者たちを高みの見物。

これで楽園の妖精コンプリートだぜ☆
などと浮かれていたのは束の間、圧倒的素材不足に悩まされる羽目になっております。
推しがアヴァロン・ル・フェに集結してるのが悪いよ。
たくさん集めてたはずの小鐘、なんかいつまでも足りない金色の卵、ほとんど使わなかったからスルーしてた貝殻……全然足りなくて泣きそう()

それはそれとして本編の内容をば。
3日分の話を3話でやると言ったな、あれは嘘だ。
今回は休暇の初日、午後からの部をやらせていただきました。
全4話、ないし5話でモルガンとお兄様の休暇を展開していく予定です。
アヴァロン・ル・フェ本編始まる前の兄妹での最後のほのぼの、楽しんでいってください。
プロローグ以来のモルガン&お兄様のお話をやっていきます。

では、次回でまたお会いしましょう。

皆様の感想と高評価、お待ちしてます。
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