お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第二十奏『モルガン(トネリコ)レインフォート(お兄様)の休暇 Ⅲ』

僕とトネリコがこの北の小島に来て2日目。

いつものように彼女よりも早く目が覚めて、隣のベッドで眠るトネリコの頬に軽く触れる。

大切で愛おしい、僕にとって一番の宝物。

 

そう思っていたのだけれど、果たしてこれは僕が抱いていい感情なのかという葛藤は今でも確かに存在する。

“僕の宝物”というのは確かに間違いはない。

しかし、この感情は……この独占欲にも似た醜い感情は僕が最も嫌うこの世界の妖精たちと変わらない感情なんじゃないか、と考えてしまう。

 

あの雨の国で過ごしていた時ならば曇りのない目で彼女を見れた。

僕にとっては守るべき対象で、命を、国を、国民を懸けて守るべき守護の対象だった。

 

僕にとって大切で愛おしい“全てを捧げてもいい”妹。

 

文字通り全てを使って彼女の未来を繋ぎ……そして僕は死んだ。

 

そして、僕は人間という属性をほんの少しだけ得て汎人類史へ生まれ変わった。

“間違いを犯した世界”の僕が“正しい歴史を歩んだ”世界へと。

千年と少し、もはや数百年程度では誤差の範囲だが僕が彼女に向けていた愛はほんの少しづつ現世と関わることで変わっていった。

 

「…………醜い感情だぞ、これは」

 

僕が今彼女に向けてしまっている愛。

昔のような純粋で何も知らなかった頃の僕と同じとは言えないカタチ。

汎人類史で生きていたからこそ、この感情があってはいけないものだと理解している。

 

「トネリコは妹だ。人間のように血は繋がっていないし、一度死別したとしても……その事実だけは変わらない。その醜い感情を彼女に向けるな」

 

今僕が彼女に向けてしまっている感情は……僕たちの兄妹という感情を壊してしまうものだ、それだけは僕も彼女も望まないだろう。

 

すやすや、と眠るトネリコの頬にもう一度触れる。

無防備に蠱惑的な寝巻きの彼女に視線を向けることなく、僕はキッチンへと向かうのだった。

 

 

 

 

****

 

朝食のメニューは簡単なものだ。

今日は日本食で攻めてみることにして、白米に豆腐の味噌汁、鮭の塩焼きにおろし付きの卵焼き、ほうれんそうのおひたしにたくあんといったもの。

カルデアではこの手の朝食を好んで食べていたこともあり、僕にとってはもはや馴染み深い朝食のメニューではあるが、トネリコには少し珍しいかもしれない。

 

材料がどこから出てきたか……は聞かない方向でよろしく頼む。

 

朝食が出来たタイミングで起きてきたトネリコが顔を洗って歯を磨き、キリッとした表情で食卓に戻ってきたのは数分後。

教えていないはずの箸の持ち方もほぼ完璧な我が妹は僕の食べ方を見習って朝食を綺麗に食べていた。

 

「箸の持ち方も完璧とはね」

 

「ブリテンではナイフとフォークでの食事が一般的ですが……女王ですので、どこに赴こうとも現地での食の作法で食べれるようにはしています」

 

そう告げる彼女の皿の上を見ると綺麗に骨を抜かれた鮭とこれまた綺麗に食べ進められる身の姿。

昔からこのあたりの作法に関しては文句のつけようがなかったもののそれも変わらないようで安心をしつつ笑みが溢れる。

 

「それにしてもこのスープ……味噌汁と言いましたか」

 

「口に合わなかったかな?」

 

「いえ、ブリテンでは口にする機会のないものですが……なぜか安心する味だなと思ったのです」

 

「そっか、それはよかった」

 

鮭の身をほぐして、白米と共に口の中へ。

鮭の塩分と白米との相性が抜群で、これを初めて食べた時から僕は日本食の虜になったといっても過言ではない。

エミヤから教わった日本食の作り方、それがまさか妹に振るう機会が来るとは夢にも思っていなかったけれど。

 

言葉にはしないけれど、食事を進めるトネリコの表情は僕がブリテンにやってきた時に視た時の何倍も柔らかい表情をしていた。

 

(こんな時間が、ずっと続けば……)

 

思わず、そう考えてしまったのも……仕方ないだろう。

 

 

 

 

 

兄妹揃って、ずっと一緒にいる。

その行為自体が僕とトネリコにとって当たり前と思っている人がいるかもしれないが、実はそんなこともない。

オークニーにいた頃は僕は基本的に執務をこなしていたし、その合間を縫ってトネリコに会いに行っていた。

他氏族との会合や街の視察、住民からの相談事やレイレナード率いる騎士団への訪問。

祭神やアルビオンへの追悼だってそこに挟まってくるのだからトネリコのために時間を割けるのは実のところそんなに多くはなかった。

ティータイムや政務が終わった夜の時間、その辺りが彼女と共に過ごした時間が一番長いだろう。

 

まあもちろん、トネリコから一緒に過ごしたいと言われれば後のことは全て後日に回して最優先にしたけれど。

 

だからこそ、一日中共にいるこの状況で“なにかする”こと自体がそこまで思いつかないわけだ。

 

「穏やかですね」

 

「そうだね……」

 

2つの椅子を隣に並べて紅茶とスコーンを供に読書に耽る。

時折、なんでもない会話を挟みながらただ時間だけが過ぎていく。

街に出かけよう、なんて言おうとしてもここは僕がトネリコのために用意したオークニーよりもさらに北にある小島。

街どころか僕たち以外の生命すら存在していない。

原理はわからないけれど食材だけは欲しいものが揃っているし、目下やらなければならなかった木の伐採も昨日のうちに終わってしまった。

 

こんな日々が続けばいいとは思ったが、3日しかないうちの2日目だ。

明後日からは彼女はトネリコからモルガンへと戻るし、僕だってアルトリアとブリテンを見て回る旅に出る。

こうして2人で過ごせる時間だって下手をすればしばらくはないかもしれない。

 

なにか、彼女の思い出に残るものを……とは思うのだけれど。

 

 

「……私はこうして2人で過ごせるだけで幸せです」

 

僕の思考を読んだかのように、手にしていた書物から僕へと視線を向けて彼女はそう呟いていた。

 

「6000年頑張ったのです、たった3日とはいえ……このように穏やかな日々をお兄様と過ごせるだけで夢のような時間というもの。政も他の氏族も何も関係ない、ただこうしているだけの時間が……どうしようもなく幸せなのです」

 

「トネリコ……」

 

「それに、再びこうして2人で過ごして……こうしてトネリコと呼ばれるだけで十分です。女王モルガン、冬の女王と畏れられる私が……」

 

そこまで口にして、トネリコから小さな寝息が溢れる。

久しぶりの読書、それに暖かい暖炉の前でブランケットを膝に乗せながらならば、眠気も誘うだろう。

 

すぅ……すぅ……と規則正しい寝息を立てる彼女の頬に一度触れる。

 

「……どれだけ時が経っても、キミは僕にとって」

 

そこまで言いかけて、口を閉じた。

膝の上に乗っている本を机の上に置いて、ブランケットを身体全体にかける。

 

「おやすみ、トネリコ。見れるかどうかはわからないけれど、あたたかくて幸せな夢が見られますように」

 

時刻は体感的には昼の14時頃だろう。

昼寝をするにはちょうどいい時間だ。

 

彼女の目が覚めるまで、僕は海岸沿いにでも向かおうと家を出た。

 

 

「………………まったく、お兄様も相変わらず難儀な性格ですね」

 

 

残された彼女が、ぼそっとそれだけを口にして再び微睡の中へと意識を飛ばしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

今でも、たまに夢に見る。

 

あの日の出来事。

 

雨の降り頻るオークニー、美しい街並みが赤く染まっていくあの光景を。

 

お兄様に手を引かれ、屋敷から見える街並みが赤く染まっていく。

 

私の手を引くお兄様は片腕を失っていて、よく見れば普段は腰に吊るしていた剣があの時はなかった。

 

霊剣シャスティフォル。

後にレイレナードに託されたと知った時はどこまで先を読んでいたのかと声を大にして叫びたかったがそれももうあとの祭り。

 

空想樹に手を伸ばした時、私が知ったのはこの世界においてお兄様がたった1人の聖剣使いの役割を与えられた妖精であったこと。

トネリコ(わたし)が造った聖剣を携えて、この間違ったブリテンを導く役割を与えられたのがお兄様、妖精アーデルハイトの存在する意味だった。

 

そんな救世の妖精すら惨殺してしまうのだから本当に妖精という存在は救えない。

 

お兄様の作り上げたオークニーというブリテンで最も繁栄したあの街を目指した私は……結局のところどれもこれも失敗に終わり、今のキャメロットと妖精國ブリテンという形でしかこの世界を守れなかった。

 

それはそれとして、霊剣シャスティフォルのことについて話そう。

あの剣は私がオークニーに流れ着いた時に持っていた選定の祭具と同じようなもの、私が持っていた杖と槍。

お兄様はこのブリテンに生まれた時にあのシャスティフォルと共に生まれたのだ。

 

この世界における聖剣使いの証。

 

やがて旅をする楽園の妖精が、集めたエッセンスを基に真の聖剣として完成する星の聖剣の金型。

それがもし紛失した時のために、楽園の妖精には聖剣の金型となるための機能も備わっている。

 

いまは無垢な剣だけれど、楽園の妖精が注ぐその心と思い出が美しいものであったなら、それは星の聖剣として真の主の下で輝くでしょう。

 

あの日の悪夢を何度も見る。

何もできずに俯瞰するしかできない私にはあの頃の私を責めることもただ殺されるしかない雨の氏族を守る事も、大切な家族を連れ出す事もできない。

 

「…………ああ、最悪です」

 

思考が悪夢の内容よりもシャスティフォルの方へと向いていく。

 

たとえ旅をして聖剣を……エクスカリバーを鍛造したとしても。

お兄様という聖剣の王がいない以上、この国に……世界に未来はない。

存続することはできても、その先がないのならそれは確かに停滞と剪定の対象になるでしょう。

妖精という無垢な存在、無垢故に悪意がなく……絶対悪と呼ばれるような行為をしてもそれが悪だという認識がない。

 

だからこそ、オークニーという街が異常だったのはいやでも理解できた。

 

善良な市民たちだった、悪意が立ち入る隙がなかった。

人間と妖精が笑顔で手を取り合っていた。

互いを尊重して目覚ましい発展を遂げていた。

きっと6000年もあれば、あの街は今のキャメロットと同じようなブリテンの中心になっていたに違いない。

 

それほど、あの街は理想の街だった。

 

視線の先では過去の私が泣きじゃくりながら家族との別れを行っている。

お母様、お姉様……私ではお二人の期待に応えられる国は作れませんでした。

 

でも、もし叶うのならば……

 

 

 

 

 

 

 

「…………コ…………リコ…………」

 

悪夢に落ちていた私を呼び起こす声が聞こえる。

 

 

「…………ネリコ…………トネリコ……!」

 

 

ああ、しっかりと聞こえた。

悪夢もちょうど終わりを迎える頃だ。

いつものようにひどい目覚めとはいかなかったようですね。

 

微睡から意識が戻る。

瞼をひらけば、そこには少し心配したような様子のお兄様の顔。

 

「魘されていたけれど……」

 

「……そうですね、ひどい悪夢を見ていたはずです」

 

夢の内容までいう必要はないでしょう。

こうして心配してくれているお兄様を陰らせる必要はありません。

 

「……ホットミルクを用意したけど、飲めそうかな?」

 

「ええ、いただきます。はちみつは少し多めに」

 

「わかっているよ」

 

手渡された温かいマグカップに口をつけてミルクを一口飲む。

はちみつの甘味とミルクの優しい味わいが先ほどまで悪夢で強張っていた身体をほぐしてくれる。

 

やはり、眠るべきではなかったでしょうか。

外を見ればもう暗くなっていて、夕食の準備を既に終わっていた。

 

「夕食の準備を終えて戻ってきてみればひどく魘されていたから焦ったよ」

 

「すこし、昔のことを思い出していたみたいです。最近は見なかったんですが……気が緩んでいるからかそういう事もあるでしょう」

 

気にしてもしょうがない。

もう何百と見た悪夢だ、いまさら一度二度見たくらいで大したことではない。

 

「それよりも、夕食はなんでしょう?」

 

「キミの好きだった具沢山の野菜スープだよ」

 

「まさか覚えているとは……」

 

「忘れないさ」

 

ミルクを飲み干して、食卓へと向かう。

今はただ、この幸せな時間を出来るだけ長く享受したいとそう思う。




ここ最近、なかなか小説を書く時間がとれなくて困り果てている作者です。
お仕事の方が忙しい時期に入ってきて、さらに深夜の短時間アルバイト。
なかなか作品と両立させるのは難しいですね……。

まあこんなどうでもいい話は部屋の隅にでもおいておいて。
先日、我らがモルガン陛下が絆15になったことで真の完全体陛下が完成しました!!!
今月はアルキャスのお高いフィギュアもくるのでもうにっこにこです。

それはそうと、セイバー全騎ピックアップはなに……?
まさか毎月当該グランドクラスピックアップするつもり……?
第二回バーサーカーだよね?水着アルキャス……完凸しろってこと……???

やってやらぁ!!!!!!!

えー、というわけで(たぶん)来月アルキャス宝具6チャレンジ(あと2人)開始します。

世間はリリス?最速は金時?関係ねぇ!!!俺はアルキャス推しなんだよ!!!!

というわけで次回、陛下とお兄様の休日最終日でお会いしましょう。

皆様の感想と高評価、お待ちしてます。
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