お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
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今日はトネリコにとって特別な日。
何を隠そう家族全員で食事をできる週に一度の晩餐会の日。
とは言ってもそう格式ばったものではなく妖精にとって不要な食事をレインフォートが家族の団欒は大切だとみんなに力説して習慣化させたものだ。
もちろん、調理をするのは言い出しっぺのレインフォートで、このブリテンにおいてまだ調理というものが定着していないことから初めの方は四苦八苦はしていたが今ではかなり美味な料理を出してくるまでになった。
「今日のお兄様の料理はなにかな〜」
ふんふん、ともはや読書など手につかないレベルで楽しみにしているのがもう誰が見ても一目瞭然で、そんな浮かれに浮かれたトネリコの部屋にノックの音が聞こえた。
「あっ!はーい!」
「お邪魔するわね」
「お姉様!ようこそいらっしゃいました!」
「ふふっ、今日も元気いっぱいでよろしい。見たところお兄様の料理が楽しみで仕方ない、と言ったところかしら?」
部屋に入室してきたのは王妃様の実の娘であるルクレティア、トネリコにとっては順番的に一つ上の姉であり、厳しくも優しい大好きな姉である。
「でも、お姉様だってお兄様の料理は楽しみにしてますよね?」
「それはもう、このブリテンで一番美味なのはお兄様の料理なのは間違いなくてよ?」
「流石お姉様……!わかっていますね!」
ここで一つ、補足説明をしておくが……
この姉妹、揃いも揃って兄が大好きである。
この姉妹が揃うと大抵は兄の話で持ちきりで下手をすると他の領主との会合の直前まで時間が押すことも一度や二度ではなかった。
オークニーきっての“天才”と持て囃される彼女たちの兄、オークニーの王子レインフォートは妹たちに好かれまくっているのだ。
もっとも、姉の方は公私は分けることが出来るし可愛い妹が自分以上に兄にべったりなのを見て後方腕組みお姉様面をしていることが多いのだが。
『お兄様とトネリコの距離が近い?いいじゃない!私は一向に構わないわ!』
このお姉様、もはや現代におけるカプ厨である。
そんなルクレティアはもちろん妹と話す時間が楽しみでもあった。
普段は兄のあの溺愛っぷりからなかなか会いに来れないが素直で純粋で心優しいトネリコがいろんな本を読んで憧れる冒険の話が好きなのだ。
「そういえば、最近お兄様から魔術を習ってるんでしょう?どうなの?上手にできてるのかしら?」
「うーん、そうですね。お兄様の使う水の魔術はほぼ教えてもらったと思います。ここのところは童話魔術に手をつけ始めてて……」
「童話魔術……?それってどんな?」
「私の持っていた選定の槍に童話の属性をエンチャントするんです。竜を倒した逸話を乗せれば竜に対して強い力を持つ、というようなものですね!お兄様に教えてもらった水鏡で相手の真後ろに飛び出してエンチャントした槍で殴るのがそこそこ強いんじゃないかと!」
「な、なるほどね?でもそれなら芋虫が出てもバッチリ対応できるんじゃない?」
「冗談でもやめてください、それを言ったら戦争ですよお姉様」
「急に感情殺すのやめて?怖いから」
くすくす、と2人でひとしきり笑ってそれでもトネリコは胸を張って大好きな姉に告げるのだ。
「でも、これでお姉さまがピンチになったら私が助けてあげられます!今の私、それなりに強いので!……たぶん」
「バカな子ね、助けるのは私たちの方よ。ただでさえ好奇心旺盛で今でも芋虫が出たらお兄様に片付けてもらわないと半泣きのくせに」
「むっ、それ以上はいけません!芋虫は……ちょっと無理かもだけど、でも魔獣とか他の氏族からとか、そういうのは私がきっと力になりますから!」
「ふふっ、そうね。その時は頼らせて貰おうかしら?」
「ええ、なにせお兄様とお姉様の妹ですから。ドンと大船にと乗ったつもりで頼ってください!」
むふーっ!とそんな擬音が見えそうな妹にルクレティアは思わず笑みをこぼす。
本当に可愛い子、と今日何度目になるかわからない感情を感じながら部屋に近づいてくる気配に気がつく。
「トネリコ、お兄様がくるわよ」
「っ!本当ですか!髪型変じゃないかな……」
「大丈夫、いつも通り可愛い」
「かわっ……!も、もう!お姉様!」
そんなやりとりをしていたら部屋の扉が軽くノックされて扉が開かれる。
「トネリコ、ルクレティア、食事の準備が出来たよ。みんなで母上を呼びに行こう」
「あっ!はーい!ほら、行きましょうお姉様!」
「はいはい、引っ張らないの」
ルクレティアの手を引っ張って立ち上がらせたトネリコにレインフォートとルクレティアは顔を見合わせて微笑んだ。
オークニーの末娘は今日も元気いっぱいでよろしい、願わくばこんな日々が続きますようにと心から思うばかりだった。
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