お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第二十四奏 『はじまり』

「では殿下にアルトリア様、旅装束と領主たちと会うことになった時用のお召し物に、野宿になった時に備えて一通りの荷物をご用意させていただきました。本来ならば従者の1人や2人つけて荷車を引かせるのですが……」

 

「いいや、そこまではしなくてもいい。何度でも言うけれど今の僕は領主でも王子でもないから」

 

「わ、わたしはいてくれるならその方が楽なんだけどなーとか思ったり」

 

「…………アルトリア」

 

「わ、わかってるよお!!そんな目で見るなあ!!」

 

女王軍の紋様が入った荷車なんか使って旅なんてしてみろ。

この旅が終わったあとまともになんて暮らせないどころか行く先々で余計な騒動を招く可能性が高い。

 

それを考えればある程度の荷物を持ち歩いて自分たちの足で赴くのが1番確実だろう。

 

「……仲がよろしいようで何よりでございます。では、まずお着替えのほどお済ませください。替えのお召し物と野宿用の荷物は陛下が空間拡張魔術を使用したバッグ一つに納めておきますので」

 

「……またとんでもない魔術使ってる」

 

「言っておくけどそれ簡単に使える魔術ではないからね」

 

「……陛下ですから」

 

若干目を逸らしながらそう口にするレイレナードに思わず苦笑いをする。

空間拡張魔術、まあ普通に考えて空間を本来のものよりも拡大するのだから簡単なものではない。

難易度はベースになる空間が小さければ小さいほど跳ね上がる。

普通は部屋の大きさをほんの少しだけ広げたり、工房を作る際に拡張したりというものなのだが、鞄サイズともなるとその難易度は計り知れないんだけども……

 

「…………」

 

ジト目で見てくる楽園の妖精。

おおかた、『どうせレインだってそんなこと言ってできるんでしょ』と言ったところだろう。

あんまりにも、じぃ……と見つめてくるものだから何か言わないとこれは先に進まないだろうな、と渋々口を開いた。

 

「一応言っておくと、出来ないことはない」

 

「だろうね!しってた!!!」

 

ふんっ!と鼻を鳴らしたアルトリアは『どうせわたしはへっぽこ魔術師ですよー!』と悪態を吐きながら着替えのために部屋を出ていく。

そんな彼女を見て、レイレナードは苦笑していた。

 

「あの頃の陛下とはまた違った形で元気ですね」

 

「トネリコとはお転婆のベクトルが少し違うのは確かにそうだ。トネリコはほら……うん、僕相手に魔術の実験をしてきたからね。アルトリアのお転婆なんて可愛いものさ」

 

「……陛下が聞いたら赤面して詰めてきそうなお言葉ですね。それにしても……魔術師としてはまだまだ、と言ったところですか」

 

「トネリコを見ればそう思うだろう。トネリコは魔術においては万能の天才だったけれど、あの子は特化型の天才だ。特に支援魔術と聖剣の名の付く魔術を極める速度はトネリコを凌駕するほどの才覚だよ。本人はなかなか認めないけどね」

 

誉めなければウジウジアルトリアになるくせに長所を褒めたら顔を真っ赤にして「わ、わたしなんてそんな……」と謙遜し始める。

まったく、僕の目から見てトネリコよりも明らかに才覚がある場所なんだから出来るなら伸ばしてあげたい、とは思うのだけれど。

 

「……年頃の女の子の相手は難しいよ」

 

「殿下も多感な時期のアルトリア様には勝てませんか」

 

手渡された旅装束に袖を通しながら2人で笑う。

あの子が望むことならいろんなことを叶えてあげたい。

でも、この旅の果てにアルトリアがトネリコと相対する選択をするのなら……僕はどちらの味方になることもできない。

 

出来ることなら2人で手を取り合う選択が生まれればいいとは思うが……

 

「なかなか、難しいさ」

 

「…………」

 

その言葉にどう感じたのかはわからないが……レイレナードはその後は一言も話すことなく、僕たちの旅の支度は終わった。

 

 

 

 

 

 

「うわぁ、すっごい……動きやすい」

 

「確かに、伸縮性は抜群で着心地もいい。デザインも悪くないし、よく見つけてきたね」

 

着替えを済ませた僕とアルトリアは再び合流して着替えた服の着心地の良さに驚いていた。

 

「陛下からの命で生地は最高峰のものとなっておりますし、靴には魔術による加護も付いています。泥除けに始まり最高峰の履き心地も実現させた完璧なブーツになっていますよ」

 

涼しい顔でとんでもないことを口にする。

レイレナードがこんななのはもう慣れてしまったけれど……

 

「へ、陛下から直々に命令されて作ったやつなんだ……」

 

隣にいるアルトリアは自分が着込んでいる衣服が完全オーダーメイドの魔術礼装だと知って若干震えていた。

 

「殿下の持つバッグの中には夜会にご参加される場合があっても問題ないようにアルトリア様にはドレスを、殿下にはオークニーにいた頃の衣装をアレンジした物をご用意してあります。何かあれば是非お使いください」

 

「よく覚えていたね……それもありがたく使わせてもらうよ」

 

「ど、どれす……田舎娘のわたしが……どれす……」

 

もはやパンクしているアルトリアは放置して話を進めていく。

カバンの中に入っているものの説明を受けながら、横目で彼女の百面相を見て楽しんでいるのがバレたのか気がつけば顔を真っ赤にして僕の背中を叩いていた。

 

「それと、殿下」

 

「どうしたんだい?」

 

「旅に出るにあたり、魔術のみではいざという時に心元ありません。このシャスティフォルを殿下にお返しするべきと、私は判断しましたが……」

 

彼の手には僕が6000年前に彼に託した霊剣シャスティフォル。

その姿は汎人類史における彼の聖剣に酷似しているがその中身は未だに無色の魔力。

差し出されたその剣を、僕は彼に押し返した。

 

「妖精騎士アーデルハイト」

 

「ハッ!」

 

僕の口から出た、彼の騎士名。

妖精騎士アーデルハイトというその名に彼は迷うことなく返答する。

 

「騎士長である君が自身の剣を持たずに何を守れる」

 

「おっしゃる通りでございます」

 

背筋はまっすぐに、僕の瞳だけを見つめ、あの頃よりも忠誠心の強固になったであろう意思からまっすぐに言葉が返ってくる。

 

「僕はトネリコの力になって欲しいと君に剣を託した。もし、その剣を僕に返還する時が来たのなら……それは君の命が尽きた時だ。その剣に、君が誇りがあるのなら……最後までその剣で役割を果たすべきだ」

 

それに、とイタズラっぽく笑った僕は自身の手に光の剣を生み出す。

ルクス・アロンダイトを射出だけではなく剣としても扱えるように改良してみたもの。

エミヤくんの投影魔術の戦い方を参考にして魔術で作り出した剣で戦うというのもアリだなと思ってやってみたのだが存外うまくいったのだ。

 

「その剣の形は……アロンダイト、ですか」

 

「そう、僕が出会った向こうのランスロット卿のアロンダイトを参考にして作り出した魔術を……手で振るえるように改良してみた」

 

「……確かにそれであれば魔獣如き相手にもなりませんね。アルトリア様もいらっしゃるとなれば怪我の心配はなさそうです」

 

一歩下がり、シャスティフォルを帯刀したレイレナードは僕たちを見送るために手に持っていた礼装を起動させる。

現れたのはお馴染みの水鏡。

 

「本来ならば城門から私と陛下でお見送りする予定だったのですが……」

 

「そんなことをしたら一大事だ。キャメロットから出るどころの騒ぎではなくなってしまうさ」

 

「わたしも、たくさんの人に見送られるのはちょっと……」

 

「ランスロットの話を採用して正解でしたね。この水鏡の先はキャメロット城門から出た北部平原に繋がっています。特に順番が決まっていなければガウェインの領地のマンチェスターを目指すのが宜しいでしょう。他の氏族の領主に会うにせよ会わないにせよ、ガウェインと対談するのは殿下やアルトリア様にとってはいい機会になるはずです」

 

「そうか、じゃあそうしようかな。アルトリアもそれで……」

 

「……バゲ子かぁ」

 

「あ、アルトリア……?」

 

「えぁ!?うん、マンチェスターだよね?それでいいと思う!」

 

『それじゃ、はやくいこっ!』と口にしながら家から持ってきた鞄を手に持ってアルトリアは水鏡の方へと歩いていく。

それに倣うように僕も改めてレイレナードが用意してくれた鞄を手に持って水鏡の他へと向かう。

 

「ひとまずトネリコに言われた通り1週間で戻ってくる。夜までには戻ると伝えておいてくれるかい?」

 

「承知いたしました。何か問題ごとなどありましたら……」

 

「自分たちで対応できる範囲ではなんとかするさ。じゃなければ僕たちの旅は面白くないだろう?」

 

「…………そうですね。では、殿下やアルトリア様の旅のご無事をキャメロットから祈っています」

 

「ああ、ありがとう。それじゃあ、行ってくる」

 

「わ、わたしもいってきます!」

 

「はい、行ってらっしゃいませ」

 

レイレナードに見送られて、僕とアルトリアは水鏡の中を潜っていく。

 

 

 

 

そして、その先は……

 

 

見渡す限りの草原だった。

 

 

「……うわ、久しぶりの風気持ちいいー!と思ったけどまず国道に出ないとダメじゃん」

 

「……見る限り国道に出るまでには少し歩かないとダメっぽいね」

 

「陛下ももう少し座標いじってくれればよかったのに」

 

「まあ、妖精たちが歩いている国道に急に水鏡で出てきたら大騒ぎになるのはあっただろうけど……」

 

もう一度、辺りを見回す。

 

何度見ても見渡す限りの草原だ。

 

「……ちょっと待ってね。国道がどっちか今から視るから」

 

ここに来て久しぶりの千里眼。

まさか道探しのために現在視を扱うことになるとは流石の僕も思わなかった。

 

「千里眼、便利だよねー。レインが千里眼使ってる時って綺麗な深い青色の瞳になるって知ってた?」

 

「……ああ、そうみたいだね」

 

他でもない、僕が守れなかった少女が教えてくれた。

今無邪気に笑うこの子にも同じことを言われるとは思わなかったから少しだけ反応が遅れてしまったけれど、それでも僕の瞳はまだ濁っていなかったようで安心した気持ちにもなる。

 

それはそれとして……

 

「道路は向こう側、みたいだね。3kmくらい歩かないとダメかもだ」

 

「さ、3キロ……!?うっわぁ……ちなみに村までってどのくらい?」

 

「うーん、マンチェスターまでに小さな村がひとつ……ここからだと20〜30kmってところかな」

 

「と、とおい……」

 

ガックリと項垂れるアルトリアに思わず僕も苦笑する。

 

「村の近くまで水鏡を使おうか?」

 

「ううん、やめとく。旅ならできるだけ自分の足で歩かないとね」

 

そう口にして、彼女は一歩歩き出した。

まず目指す先は少しというには遠い国道。

 

僕たちの数ヶ月に及ぶ視察という名の旅が始まったのだ。




さて始まりましたアルトリアとお兄様のブリテン視察。
まあ視察という建前のもと2人がブリテンを見て回る旅というのが正しいのですけど。
それはそれとしてアルトリアとお兄様も衣装チェンジ、みんなご存知いなか娘スタイルからキャメロット産のオーダーメイド旅装束へとお着替えです。
…………衣装デザインイメージ?そんなのないです()
なにせ、作者は文章は書けてもお絵描きはできない生き物なので。

それはそれとしてバーサーカー冠位戴冠戦ももう目前ですね。
作者はもちろん女王陛下を冠位にするつもりで初日だけちょっとゲーム配信なんかも……と思ったんですが「あれ?気持ち悪いオタクの声に需要はないな」と思ったところでした。
当日ブルースカイくんに何も掲載されていなければ配信はしていないかもしれません( ˇωˇ )

それはさておき、皆様も冠位戴冠戦の準備は整いましたか?
作者は非ログイン時にはランチTTの女王陛下置いておく予定なのでたくさんフレンドポイント持ってきてくれることを願っています。

皆様の感想と高評価、お待ちしてます。
お気に入り登録とここすきもお待ちしてます。
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