お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第4章 『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ 第1章-雨と星のブリテン周遊』
第一周遊 『マンチェスター』


 

「そして、意気揚々と旅に出たわたしたちはかれこれ3日歩き続けたのでした」

 

「……一体誰に話しかけているんだい」

 

「なんか話しておかないとかなって」

 

アルトリアと旅を始めてから3日。

僕たちはキャメロットから出立したその日のうちに村に辿り着き、そこで一泊をしたのちマンチェスターまで移動を始めたわけだが……なかなか辿り着かずに2日が経過した。

 

人生初の野宿には若干ワクワクしたものの、アルトリアがこの手のことは慣れていたみたいで手際よく火を起こして食事の準備やテントの設営などをこなしてくれたのだった。

 

そしてかれこれ歩き続けること2日、僕たちは国道を雑談を交えて歩いている。

 

「でも考えてみてよ。あの村からマンチェスターまで2日歩いても着かないなんて誰も教えてくれなかったじゃん、レインが食料買っておいてくれなかったら今日のお昼の時点でお腹と背中くっついて動けなくなってたかも」

 

「それは困った、アルトリアが動けなくなったらおぶっていくしかない」

 

「別に今からおぶってくれてもいいんだよ?」

 

「2人分の荷物も一緒に?」

 

「…………歩きます」

 

かれこれ歩いて3日。

僕とアルトリアの旅はこんななんてことない雑談を交えての旅になっていた。

 

 

「ブリテンを移動するならせめて自動車くらいはあった方が良かったか」

 

「じどうしゃ……?ってなに?」

 

ふと呟いた独り言にアルトリアが首を傾げて問いかけてくる。

確かにこのブリテンには移動の手段として自動車は存在しない。

文明レベルが現代世界と違うことを考えたら当たり前なのだが、首を傾げて問いかけてくるアルトリアへ僕は手のひらに小さな模型を創り出して答えることにした。

 

「こういう見た目のとても速い乗り物のことだね。これの中に乗り込んで座りながら走らせることができるんだ」

 

「ほえー。すっごい、これって速いの?」

 

「速いやつだと200〜300kmくらいの速度で走るらしい」

 

「にひゃっ……!?」

 

「まあ毎年これに轢かれた人が亡くなる事故も多いけど、便利な道具ではあるね。なにせ今みたいに足を使ってトボトボ歩かなくてもマンチェスターまでなら数時間で辿り着けるはずさ」

 

「えぇーいいなぁー!レインそのじどうしゃ?って創れないの?」

 

「創れないことはないだろうけど……僕も詳しく中身を知ってるわけではないから、走行中に空中分解なんてしたら2人とも大怪我間違いなしだね」

 

「うぇっ、これはちょっといやかも……」

 

「楽をしようとせず一歩一歩歩くのが一番というわけだ」

 

いい話風に会話を区切ったものの、自動車の原理と構成自体はすでに理解していた。

なにせ、第六特異点で使ったあの装甲車の組み立てを真横で見ていたのだから、興味本位でレオナルドに原理と魔力をエネルギーに変換する装置の仕組みも教えてもらっていたし今すぐ空想具現化で創り出すことは出来るのだが。

 

(この世界では明らかに文化的な違いがありすぎる)

 

見慣れないものに対する妖精の興味はとてつもない。

戦争のための武器にもなりえる“車”という概念をこのブリテンに持ち込むわけにはいかなかった。

仮に僕がこの旅で車を使ったとして、そこから戦車や戦闘機へと発展していってしまったらどうなるか、なんて考えたくもない。

 

それゆえに、このブリテンで扱うものは制限している。

そうしなければ、この世界が……モルガンの守護しようとするブリテンがどんな地獄に早変わりするかわかったものではない。

 

「楽に移動できる手段はやっぱりないかぁ……マンチェスターまででこんなにかかるんならエディンバラなんて1週間じゃあ行けないよぉ……」

 

「確かに湖水地方方面に行くのなら流石に遠いからね……オークニーからなら多少近いけれど、船がなければオークニーから本土へは渡れないし」

 

「水鏡使おうよぉ……流石に1週間でエディンバラはむりだよぉ」

 

「……まあそれもそうだね。エディンバラに行く時は近くまで水鏡で跳んでしまおう。他に街がないのもあるし、そのくらいなら仕方ない」

 

「ほんとっ!?じゃあその調子でマンチェスターまで……」

 

「それはもう少し頑張ろうか」

 

ガックリと肩を落とすアルトリアを見て笑いながら足を止めることはない。

そうして追加で30分も歩いたころ、やっと目的地であるマンチェスターが見えてきた。

 

「あっ!もしかしてアレがマンチェスター?」

 

「僕の記憶通りの位置にあるならそうなるかな」 

 

「長かったあ……本当に長かった……やっとベッドで休めるー!」

 

「ひとまずは宿の確保をしてから旅のものとして町を見てみよう。領主である妖精騎士ガウェインは……」

 

「いんじゃない?多分わたしたちの事なんてそんなに気にしてないよ」

 

つーん、といった表情でアルトリアが言葉を遮る。

 

「ちょっと生まれが良くて騎士としては完璧で強いからって調子に乗っちゃってさ」

 

「彼女と関わったことがあるみたいな口ぶりだね」

 

「エクターのところでちょっとね。あの鎧、エクターが作った奴だから」

 

「エクター、というと……ああ、アルトリアが以前世話になっていた鍛治師の妖精だったか」

 

「そうそう!わざわざキャメロットから特注の鎧の発注書が来ててね。あの時はエクターも忙しかったからなかなか構ってくれなくて……」

 

ぶつぶつ、と文句を垂れるアルトリアの様子から見るにそのエクターという妖精との時間をなかなか取れなかったことから不貞腐れているのだろう。

本当になんというか、僕が騎士団に呼ばれて立ち去って行く時のトネリコと同じ様な不貞腐りかたをしているのだから内心笑ってしまう。

まあ彼女の場合はそれにプラスしてネガティブ思考と劣等感が織り混ざった複雑な感情になっているのだろうが。

 

「って、レイン聞いてる!?」

 

「もちろん聞いているよ」

 

「その顔の時のレインは話聞いてない時の顔だ。眼で見なくてもわかる」

 

「そんなバカな……僕ほど君の話を真剣に聞く妖精だっていないだろう」

 

「今度はバカにしたなー!!!!」

 

ギャイギャイとアルトリアの怒声と僕の笑い声が草原に響いて、その足取りは先ほどよりもずっと軽く目的地のマンチェスターまで進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

「ようこそいらっしゃいました、レインフォート殿に予言の子」

 

「うっそぉ……」

 

「これは驚いたな」

 

『妖精騎士ガウェインは忙しいだろうから出迎えてくれることはないだろう』とタカをくくっていた僕たちの前にはレイレナード仕込みであろう美しい騎士の礼をして僕たち2人を出迎えるガウェインの姿があった。

 

「本来であれば迎えをよこすべき、と考えていたのですが……陛下からの命によりこうして出迎えるだけに留まったこと、お許しください」

 

「ああ、いや頭を上げてほしい。元々は僕たち2人が彼女の統治するブリテンを見るための旅だ。妖精騎士ガウェイン卿がこうして出迎えてくれただけでも光栄だよ」

 

「立場はどうであれ、陛下の兄君に御足労いただいたのです。領主である私が出迎えねば無礼というものでしょう」

 

互いに一歩歩み寄り、互いに差し出した右手を握る。

軽い挨拶はここまででいいだろう、と思ったところだったのだが……

 

「それで……私は何かしてしまったでしょうか……?」

 

「…………」

 

「ああ……アルトリアのことは気にしないでほしい。絶賛多感な時期でね、こうして君の様な立派な騎士を見ると劣等感やらなにやら複雑な気持ちが浮かんでくるものなのさ」

 

「なるほど……そういうこともあるのですね」

 

深く何か考え込むかの様にガウェインはアルトリアと僕を何度か見つめ、そして思考がまとまったのか、すぐに口を開いた。

 

「マンチェスターは外面的には穏やかな町ですが……ここに住まう妖精たちの本質は貴殿が感じているものと変わりありません。陛下の兄君と予言の子とバレて仕舞えばなにをされるかわからないのも事実です」

 

「……まあ、そうだろうね」

 

「なので、このマンチェスターに滞在中は我が館をお使いください。あそこであれば妖精騎士ガウェインの客として何者であっても手を出すことは出来ませんし……なにより、旅の疲れを取るのなら良質なベッドのほうがいいでしょう」

 

「それはありがたい申し出だ。僕たちも数日慣れない歩き詰めでね、今夜の宿はどうしようかと考えていたところなんだ。今は僕の後ろで縮こまっているアルトリアも一眠りすれば君への態度も軟化すると思う」

 

「そ、そんな子供みたいな扱いするなよぉ……」

 

「……なるほど、そうと決まれば私の館へ案内します」

 

ガシャ、ガシャと踵を返しながら歩き出したガウェインに続いて歩き始める。

 

「……ほら、アルトリア。お言葉に甘えて彼女の館にお世話になろう」

 

「……うぅ、わかった」

 

納得はしてはいないけど、リスクを考えたら理解はした……といった感じだろうか。

彼女に対してのコンプレックス的なものがアルトリアの中にあるのはわかるが、僕がどうこうできる問題でもない。

もう少し自分に自信を持てれば、アルトリアも胸を張って彼女と相対することが出来るだろう。

 

どちらにせよ、このマンチェスターにいる間はウジウジアルトリアのままかな、などとこの時の僕は思っていたのだが……

 

 

「うっわーすっごーーーい!キャメロットのベッドと同じくらいふかふかだあーー!!!」

 

案内された客間のベッドに飛び乗るアルトリアを見て先ほどまでの心配は杞憂だったなと大きくため息を吐いたのだった。

 




お久しぶりですねぇ!(気さくな挨拶)

みなさん、箱イベお疲れ様でした。
作者は大きなモチベーションダウンとリアル都合でのメンタル低下により50箱しか開けられませんでしたが読者の皆様は如何だったでしょうか。
あとインドラ様が数年ぶりに男性キャラでブッ刺さりました。
ちょっとカッコ良すぎるんよ……

今回からアルトリアとお兄様の都市視察という名の旅が始まりました。
それに伴って章も切り替わり第4章がスタートしました。
まずはマンチェスター、妖精騎士ガウェインの治める町から始まります。
予定としては10〜15話くらいで第4章は終わってカルデア入り&巡礼の旅が始まる予定ですが……まあ作者がその場のノリと勢いでなにをするかは分かりませんからね……
なにせ、途中で村正襲撃イベントもこなさないといけないので……

それはそれとしてまた新しくなった章を楽しんでいただければと思います。
バゲ子エアプなのは許して、弊カルデアにバゲ子いないの(絶望)

皆様の感想と高評価、お待ちしてます。
お気に入り登録とここすきもお待ちしてます。
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