お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
流石に完全体となった陛下を引きにいくほどの余力はありませんが、読者の皆様のカルデアに我らが女王陛下が降臨なされることを切に願っております。
結局のところ、わたしが観る妖精たちなんて醜いとか残酷だとかそんなもので片付けられてしまうのです。
レインと一緒に今日はマンチェスターを散策した。
もちろんレインの言っていた通りに認識阻害の魔術がかけられていたし、他の妖精たちにはわたしたちは予言の子と雨の国の王子ではない姿で見えていたはずだ。
だからこそ、この村の……いや町の歪さに気がつくのは早かった。
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「アルトリア」
吐き気を催すようなそれに何度もレインが声をかけてわたしの正気を保たせてくれる。
こんなのを何度も続けることを考えるだけで吐き気がするし、嫌で厭でいやで仕方ない。
ティンタジェルで妖精の醜さには慣れたつもりだった。
雑な扱いをされて無垢な私利私欲のために浪費されるだけの扱いにも慣れたつもりだったけれど。
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そんな言葉が見えたのが一番辛くて苦しくていやだった。
バーゲスト。
妖精騎士ガウェインの真名。
レインが教えてくれたものによるとその名前は鎖を引きずり、角と鋭い鉤爪を持った赤い瞳の黒き犬。
そんな彼女が、自分の衝動を抑えてブリテンを守護することに全力を賭しているというのに……その心は、その意志はこのマンチェスターという狭い町ですら伝わっていなかった。
───妖精なんて、所詮こんなものだろう。
わたしの眼にはそう映ってしまっていて。
トンッと、視線を落としていたわたしに誰かがぶつかる。
謝ろう、そう思って視線を自分にぶつかってきた妖精へと向ける。
「ご、ごめんなさい!お怪我はありませんか!?」
自分が謝るよりも先に、深々と頭を下げて謝罪をする少女の妖精。
「あ、えと……うん、大丈夫」
「…………」
わたしの言葉を聞くや否や手に持っていた小さな紙袋から溢れたリンゴをはじめとした果物や野菜を拾い集めていく。
わたしも自分の足元に転がってきていた野菜を一つ手に取り、少女へ手渡したのだが…………
「すいません!すいません!私どんくさくてご迷惑おかけして……!」
表裏のない純粋や謝罪だった。
いいや、そうではない。
この子は恐怖しているのだ。
その言葉の裏には何も見えずとも、あの表情、あの瞳、この言葉の震え方。
その全てが自分にも覚えがある。
だってそうでしょう?
それは自分が通ってきた道。
幼いころから自由がなくて、大切なものは奪われて。
何もしないことが、いちばんの自由だった。
反抗しないことが、何よりの安全だったのだから。
わたしが手渡した野菜を手にした彼女はもう一度深く謝罪をして立ち去っていく。
ざわざわ……とわたしたちを見ていた妖精たちがコソコソと話し始めた。
「……また、シューリンのところの奴隷か」
「本当に使えないわね、ガウェイン様のお客様に迷惑をかけるなんて」
「そもそも、落とした野菜をどうするつもりなんだ?」
「シューリンにそのまま出すなんてこと出来ないじゃないか」
「自分の食い扶持を稼ぐためにわざとやったんだろ」
「そうだ、そうに違いない」
「やはり薄汚い下級妖精程度ではそんな程度の知恵しか働かないのでしょう」
「全く、奴隷があれでは主人の格も知れるな」
「次の副領主の採決でやつを引き摺り下ろそう」
「そうだそうだ、それがいい」
「じゃあどうやって───」
コソコソと、こちらの耳が腐りそうな言葉ばかりを並べる妖精たちにうんざりする。
ほんの少しぶつかっただけ。
ほんのちょっと野菜が転がっただけじゃん。
「───これが、彼らの本質さ」
「わかってる、わかってるもん……」
でも、それでも。
たったそれだけの事なのにあそこまで醜く言葉を吐けるのがわたしには信じられなかった。
それから町を歩いていても、店を訪ねても。
彼らの対応はあくまでバゲ子の客人というものは崩さなかった。
耳障りのいい言葉に貼り付けたような笑顔。
だけどその言葉の裏は最低最悪ドブ以下の思考ばかりだった。
「最悪……本当にこんなのあと何回も続けるの?」
「そうだね、僕も予想していたけれど思いの外疲れてしまった」
わたしたちの妖精眼。
生まれつき持っているわたしやレインには言葉の裏側にある真実が視える。
それが善であれ悪であれ、わたしたちには本当の言葉がわかってしまう。
「こんなの……モルガン陛下もずっとやってきたのかな」
「そうだね……彼女の目がいつ濁ってしまったのかわからないけれど。他の誰よりもブリテンを救おうとした子だ、本当に絶望してしまうその時までこの瞳を捨てることはなかったはずだよ」
「…………すごいなぁ」
本当に、すごいと思ったのです。
レインや妖精騎士アーデルハイト、モルガン陛下の言葉を信じるならオークニーがあったのは約6000年前。
そして今が女王歴2017年、陛下がいつまでこの眼で世界を見ていたのかなんて想像すらしたくない。
苦しくて、裏切られて、欺瞞に満ちた世界を……どこまで信じられるというのだろう。
こんな生き物が作り出す剣にどれだけの価値があるのだろうか。
よくない考えだと思う。
でも、こんな奴らのために自分自身を賭けるなんて馬鹿馬鹿しいと思う。
やったらやった分だけ報われない。
陛下も、レインも……それにバゲ子だって。
そんなの、間違ってると思うのです。
そんなの、報われなさすぎると思うのです。
ほんの一握りの頑張りが報われる日がくるって信じられないくらい。
領主館に戻ったのはそれからすぐだった。
湧き上がる気持ち悪さに耐えきれずに、私はレインに残りの視察をお願いして部屋に戻ってきてしまったのだ。
最近は嘘をつかない人たちのそばにいたから忘れかけていたのだ。
そうだ、妖精なんてこんなものだった。
欺瞞、裏切り、無垢な悪意。
誰かを蹴落とすなんて当たり前。
誰かを捨て去るなんて当たり前。
自分の為に誰かを地獄の底に叩き込むのなんて当たり前。
酷い世界だと思う。
残酷な世界で、悲しい世界だと思う。
いつだって吐き気がするような世界だと思う。
………………でも、そんな世界を救いたいと願う人たちがいる。
モルガン陛下もそう、レインだってきっとそうだ。
何も知らない頃のわたしなら、いやだと言いながらでも旅をしたのだろうけれど。
「……何も知らない、なんてそんなこと言えないじゃん」
何も知らない、というには優しい人たちに出逢いすぎた。
そんな人たちが必死に守っている國の臣民がこれじゃああまりにも救われない。
明日、わたしたちはキャメロットに帰還する。
その時、どんな顔で陛下の顔を見ればいいというのだろう。
ぐるぐる、ぐるぐる。
頭の中には答えのない問いかけばかりが巡る。
どうしたらいいのか、どうしなければいけないのか。
わからない、わからないよ……レイン。
辛い、苦しい、怖い。
そんな感情だけが、わたしの中で渦巻くのでした。
はやく、かえりたいな。
そう、思わずにはいられなかったのです。
***
「……やはり、アルトリアには負担を強いてしまったかな」
領主館に帰って行ったアルトリアを見送って、僕は視察の続きを行っていた。
妖精たちの本性、それをダイレクトに観てしまうアルトリアにはこの視察の旅は辛いものになるかもしれないことはわかっていた。
けれど、モルガンがアルトリアにそれを命じたのはただ単にこの國の現実に打ちのめされてこい、というだけの話ではないのだろう。
ひとまず、マンチェスターを一回りした頃には陽が暮れていてあちこちで街灯かわりの松明に火が灯る。
人気のない、誰もいない高台。
そこから見下ろす景色は確かに美しくこの瞳に映るのだ。
「いくら世界が美しくとも、そこに住まう生命がこうも醜くてはね」
誰にも拾われないひとりごと。
それに対する解答は返ってくるはずはなかったのだが……
「何も変わっていないのです、あの頃からずっと」
耳に馴染んだ男の声が背後から帰ってくる。
いつの間に現れたのか、いいや……気配は殺していたけれど僕が1人になった時には彼が僕を視認できる距離にいたのか。
「キャメロットを離れていいのかい?レイレナード」
「モルガン陛下から殿下とアルトリア様を迎えに上がるように命じられました」
「そうか、僕たちの帰還は明日の予定だったけれど」
「必要であれば、と思い馬車をご用意いたしましたが……」
「心配には及ばないよ、元よりキャメロットへは水鏡を使って帰る予定だったからね。その馬車ごと、明日の朝にはキャメロットへ向かおう」
「では、明日の早朝……はアルトリア様には難しいでしょうか」
「……そうだね、明日は特に厳しいかもしれない」
久しぶりに体験する無垢な悪意。
それを数時間にわたって見てしまったのだからほんの少しくらい休む時間は必要だろう。
もっとも、この後はそれに慣れてもらわなければならないし彼女が生きていく上で必要なものでもある。
ほんの少しだけ冷たい風が、僕とレイレナードの間を吹き抜ける。
風に揺られる草花たちの香りがふわっと鼻腔をくすぐり、世界はこんなにも美しいんだと主張してくるようだった。
「……もう少しだけ、話し相手になってくれるかな?」
「もちろんでございます」
ほんの少しの落胆と明日以降のスケジュールを頭の中で詰め込みながら、マンチェスターの丘から2人の姿が消えるのは数時間後の話となる。
夏も終わりを迎えて朝晩は冷え込んでくる季節になりましたね。
とは言っても作者の住処は北の大地、最低気温はすでに一桁を記録しているような大地であります。
内陸や首都圏はまだまだ熱い日が続くのでしょうか。
季節の変わり目、体調の崩しやすい方々はお気をつけくださいね。
さて話は変わって最近のFGOくん。
イベント生き急ぎすぎじゃないですか????
レイド、宝箱、ボックス……その間にとことん挟まってくる戴冠戦。
作者は若干……いいえ、だいぶ疲れております。
アサシン戴冠戦がくるなか、弊カルデアからは虞美人先輩が暫定冠位でございます。
「私がグランド……?あなた、ついに頭までおかしくなった?」
そんな罵声が聞こえてきますね。
そしてまた朗報が。
なんとFAいただいたお兄様。
衣装の三面図までいただいてしまいました。
いやすごいですね、やっぱり衣装に散りばめられている装飾が見えると感嘆の意しか出てきません。
あと、解説の文章にクスッとしてしまうところも多かったです。
やっぱり衣装のデザインかなりいいので皆様もスマホの画面に穴が開くくらい見てください!
【挿絵表示】
それでは次回でまたお会いしましょう!
皆様の感想と高評価、お待ちしてます。
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