お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第五周遊 『帰城 Ⅰ」

 

 

翌日、ガウェインに見送られて僕たちはキャメロットへと帰還していた。

予定としては昼頃に出立の予定だったのだが、アルトリアが思いの外早く出てきた……というよりもおそらく眠ることができなかったのだろう。

誰よりも早く外に出てレイレナードが連れてきていた馬の世話をしていた。

 

「……まずは初めの1週間、お疲れ様でした。マンチェスターは比較的治安の良い大人しめの町でしたがどうでしたか?」

 

「……意地の悪い質問だ。まあ、君も知っての通り僕やアルトリアが観たものの感想を求めるならわかりきっているだろう?」

 

「そうでしょうね。帰還するなり部屋に駆け足でいなくなったことを考えれば妥当と言ったところでしょう。この旅の目的はそこにあるのですから」

 

玉座の間、その中央に設置された大魔術式が込められた冬の玉座。

そこに腰掛けたモルガンは思案したように瞳を閉じて言葉を続ける。

 

「しかし、アルトリアがどの道に進むにせよ、この旅で見聞きしたものが自身の判断材料になるはず。見て、聞いて、感じて、考えて……妖精國に住まう妖精たちをみて、それでも私の敵となるのならば……」

 

「殺すのかい?」

 

「そこまではしません、精々歯向かう意思を徹底的に砕くだけです」

 

女王としてのモルガンは冷徹で残酷な判断を下せる為政者だ。

しかし、その本質には隠しきれない甘さが見え隠れしている。

 

「楽園の妖精、私を保護して愛してくれた雨の国のようにとはいかずとも……この國で1人くらい彼女が最後に帰れる場所を残しておいても良いでしょう」

 

「汎人類史の円卓の騎士が聞けば君を二度見どころか三度見くらいするだろうね」

 

「汎人類史の私、妖姫モルガンですか……確かに私はモルガンという名こそ使っていますが、どこまで行っても私は私、トネリコでありヴィヴィアンであるのです……どちらにせよ、私にとって一番大切な名前はお兄様からいただいたトネリコという名であることはお忘れ無く」

 

2人きりの玉座の間にほんの少しの沈黙が流れる。

さて、とその沈黙を破りモルガンは玉座から腰を上げてこちらへと向かって歩いてくる。

彼女の履くヒールの音がこの広い空間に響いてやがて僕の前へと止まる。

 

「……いまはその、誰もいないので少しだけ」

 

控えめにモルガンが僕のことを抱きしめる。

それに返すように僕も彼女のことを抱きしめた。

 

「女王の責務は重たいだろう」

 

「ええ、ですがこうしてお兄様がいるのです。守りたい娘とずっと仕えてくれた騎士、そしてランスロットやガウェインと言った信頼できる部下にも……幸い恵まれています。だから……以前の私よりは少しだけ弱いかもしれませんが、私はみんなを守るために頑張れるのです」

 

「本当に、頑張っているさ。こうすることで君が立ち上がれるなら、いくらでも力になるよ」

 

「ありがとうございます、お兄様」

 

その言葉と共に、身体を締め付ける力がほんの少しだけ強くなる。

どれだけ大きくなって強くなっても、姿が変わって立場が変わっても。

やはりこの子は僕にとって最愛の妹なのだと、頑張り屋で誰かのために必死になれる優しい子だと再認識するのだった。

 

 

 

 

****

 

その後、レイレナードが控えめにしてきたノックのお陰でモルガンの政務の始まりの時間であることを知らされて僕は玉座の間を後にした。

相変わらず、僕が使うことを許された部屋は彼女の部屋だったけれど、ひとまず彼女の戻る昼までそこで過ごさせてもらうことにしたわけだが……

 

「………………」

 

「………………」

 

目の前には深紅の少女。

互いに沈黙をすること数十分。

いま僕は、レイレナードに呼ばれた一室で妖精騎士トリスタンと2人っきりでテーブルを囲み、ティーセットを前に相対していた。

どうしてこんなことに、と思ったのだが先に口を開いたのは彼女の方だった。

 

「アンタ、結局お母様とはどう言った関係なのよ」

 

「彼女の兄、であることに変わりはないけれど……そうだな、彼女の娘である君には話しておいた方がいいかもしれないが……」

 

「なに?喋れない理由でもあるワケ?」

 

「君、ベリル・ガットとは今も関わりがあるのかい?」

 

「はあ?ベリル?どうしてそんなことを聞くのかわかんないけど……そうね、アーデルハイトにあまり関わるなと言われてからは極力会うことは避けてる」

 

「なるほど、それならひとまずは安心だ」

 

ひとまずの安心感に胸を撫で下ろして、僕はトリスタンへ再び視線を向ける。

彼女はそれが何よ、と言わんばかりに首を傾げていたけれど、それを込みで説明しなければならないだろう。

 

「初めに言っておくと、僕とベリルはあまり仲が良くない。僕がこのブリテンにいることを彼はまだ知らないだろうからね」

 

「あー、なんだっけ。そう、カルデア……とか言ったかしら?ベリルがいた組織。お母様から少しだけ聞いたけれど、アンタもそこにいたって事よね?」

 

「そうだね、僕はその組織でアドバイザーとして在籍していてね。彼とはそこで知り合ったんだが……どうもウマが合わなくてね。そして、ここに僕がいることはできるだけ知られたくないわけだ」

 

「嫌いなやつだから会いたくないとかそういう感じってこと?ナニソレ、お母様の兄とかいう割には小さいこと言うのね?」

 

「まあ、それを言われると痛いわけだけど。僕がいることを彼に知られるのは僕にとっても君のお母様にとっても都合が悪いんだ。だから、まずは僕の事は黙っていてくれることを前提に、君の知らない昔の彼女のことを話してあげられる」

 

どうかな?と悪戯っぽく問い掛ければトリスタンはアゴに手を当てて思案する。

 

今の彼女自身は悪属性であることは間違いないだろうが、レイレナードやモルガンが入れ込んで娘として引き取ったりベリルから引き離すように仕向けるような子だ、きっと元の彼女はもっと別のあり方であったのだろうと考えれば……僕だって彼女に歩み寄ることを諦めるつもりはなかった。

 

それに、彼女が僕の予想通りの子であるならば……アルトリアとはいい友人になることだってできるかもしれないと一抹の期待すら寄せている。

 

「───いいわ、その提案呑んであげる。私はアンタのことをベリルに話さない。その代わり、アンタは私にお母様のことを教えてくれる。これって私にとってもアンタにとってもwin-winってやつよね?」

 

「そう、なんなら誓約書を作ろうか?僕は決して君との約束を違えない、その代わり君も僕との約束を決して違えない。お互いの魂を介した“魔術師らしい契約”なんてどうだろうか」

 

「いいじゃんか、そういうの嫌いじゃないわ」

 

ふわっと指を振るい、作り出したのは『自己強制証明(セルフギアス・スクロール)』。

記した内容は普通に過ごしていたら絶対に破れないであろう簡単なもの。

 

①妖精騎士トリスタンはレイレナード・アーデルハイトに関する一切をベリル・ガットに話さない。

 

②レインフォート・アーデルハイトは妖精騎士トリスタンに女王モルガンの過去のことを話せる範囲で話すこととする。

 

お互いの署名をして、契約は成立した。

 

「それにしても汎人類史?にはこんな魔術もあるのね」

 

「ああ、本当ならもっと重い制約をお互いに課して互いの非になることを犯さないための魂を使った契約なんだ」

 

「破ったらどうなるの?」

 

「そうだな、身体の内側から呪われて苦しみながら死に至る……と言う感じかな」

 

「……へぇ?めんどくさい手順はともかくとして私好みの魔術じゃんか」

 

少し温度の下がった紅茶を口にして彼女は悪戯っぽく笑う。

 

「それ、教えてよ」

 

「悪用するつもりなら教える事はできないな」

 

「はぁ?アーデルハイトなら即答で教えてくれるわよ?」

 

「なら僕からも一つ教えておこう、君のお母様とアーデルハイトに魔術を教えたのは僕だって事、あの2人の魔術の師としては悪用する魔術を教える事はできないな」

 

「優等生気取りってコト?」

 

「正しく使われない子に教える魔術はないってことさ」

 

軽く突っぱねればこれ以上は食い下がっても意味がないと察したのかトリスタンはため息をついて椅子に深く背中を預ける。

 

「まあ、その辺りはおいおいってことね。それよりも、さっそく聞かせなさいよ、お母様の昔の姿ってやつ」

 

「ふふっ、いいだろう。言っておくが僕の妹談義は長いぞ?」

 

あのアルトリア・オルタにすら若干引かれたくらいだ。

あの時は一度話し始めたらストップかけるものがいなかったから暴走してしまったが、流石に今回の相手はモルガンの娘。

娘に知られて恥をかくような内容を話すつもりはないとも。

 

…………まあ、あの時も世界は違うとはいえモルガンの妹という立場の彼女に色々話してしまったわけだが。

 

トリスタンが自分の領土に帰るための時間になるまで、僕のトネリコ談義は止まることを知らず、そしてトリスタンもその話を興味津々と言った表情と態度で聞いてくれたおかげで僕の口はこのブリテンに来てから一番達者に回ったとここに記しておこう。




前回のお話で久しぶりにランキング掲載されていました。
新しくお気に入り登録と高評価をしてくださった方々に感謝とご挨拶を申し上げます。

私作者、モルガン/トネリコが最推しの一般マスター兼作者でございます!

さて、現在始まった新選組イベントはまだ手をつけていないのですが。
シルエット黒崎一護にしか見えない方は友人と話していた通り近藤勇っぽいんですが、作者の中の近藤勇が銀魂の近藤勇と薄桜鬼ってゲームの近藤勇なせいであのほっそい近藤さんに違和感を感じているところです。

それはそれとして新鯖の河上彦斎ちゃん、まさかの和メイド。
新しき妻属性という恐ろしい子が出てきましたね。
☆3礼装のライダーさんの新撰組衣装もめちゃくちゃ似合っていてニコニコでございます。

今年は魅力的なキャラが多い反面、ガチャを回すための石が来年に増して枯渇しがちですし、ここいらで一度クールタイムというか手加減をですね……え?ない……?そっかぁ……。

それではみなさま、残りのイベント期間もぐだぐだしながらやっていきましょう。

皆様の感想と高評価、お待ちしてます。
お気に入り登録とここすきもお待ちしてます。
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