お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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復帰した崩壊:スターレイル楽しすぎ問題。

神速アグライアはいいぞ


第六周遊『異星の使徒』

 

マンチェスターを訪れてからすでに3週間経過して、僕たちは追加で三都市の視察を終えてキャメロットに帰還していた。

アルトリアはあれから妖精眼から見える視界には徐々に慣れて行ったようでマンチェスターの時のような吐き気を催したり体調を崩したりというのは形を潜めていた。

 

訪れた都市は最初のマンチェスターを含めて四つ。

初週に訪れたマンチェスター。

翌週に訪れたエディンバラ。

次に訪れたのはオックスフォード、そしてついさっきまで居たのがソールズベリーになる。

 

エディンバラは領主……というよりも(自称)女王であるノクナレアと会うことはできなかった。

というよりも、戦の準備をしているとかなんとかでエディンバラ自体に入ることができなかったのだ。

 

「そっかー、ノクナレアには会えなさそうだね」

 

なんて、少し落ち込んだ様子のアルトリアはなかなか堪えた。

友人に会えるということもあって、1番楽しみにしていただろうにとちゃんと下調べをしておけば良かったと若干の後悔も僕の中に残る結果となった。

 

オックスフォードに関しては特筆することは何もなかった。

いつも通りの妖精がいて、何事も無いように生活している。

しかし、驚いたのはオックスフォードにおける食文化の発達具合だ。

ブリテン全土で見てもモルガンやレイレナードの尽力のおかげでだいぶマシな食べ物が出てくるようになっているようだが、ここの食事だけは他の領地とは一線を画すほどのレベルだった。

なにせレストランの多さが他の都市や領地の比ではない。

しかも、味も悪くない……というよりは普通に美味いのだ。

これには流石のアルトリアもニッコリ、財布の中身が軽くなるのを自覚しつつも久しぶりに笑っている彼女を見れたので十分だろう。

 

そしてソールズベリー。

ここではメリュジーヌが街に入るなり駆け寄ってきた。

風の氏族長オーロラの治めるブリテン唯一の自由都市。

隠蔽の魔術を掛けていたにも関わらず、ソールズベリーの門を潜ってすぐに僕とアルトリアの前に現れたのだ。

 

「待っていたよ、レインとアルトリア」

 

ブリテンで最も美しいと呼ばれる竜の妖精。

満面の笑みで現れた彼女を前に、周囲にいた妖精たちの視線が一気に集まったのだった。

結局、彼女が何をしにきたかと言えば僕やアルトリアのために用意していた宿への案内とこのソールズベリーにおける有名店への紹介状を幾つも持ってきていて、それを渡しにきただけだという。

 

「せっかくソールズベリーに来たんだ。どうせなら君たち2人には楽しんで欲しいからね」

 

そう言って手を振って出て行ったあと、メリュジーヌはキャメロット帰還の日まで現れることはなかった。

それもそうだろう、メリュジーヌは表向きには風の氏族長であるオーロラを守護する最強の騎士という肩書きを持つ。

オーロラもそれを疑わないし、彼女のいうことならメリュジーヌは行動してしまう。

それが、オーロラのために生まれた彼女の存在意義だからだ。

もっとも、その前提すら覆すための妖精騎士ランスロットというギフトを被っているというのが彼女の主張だったけれど。

 

自由都市というその名に違わず、他の都市と明らかに違うのは街の景観と市民の表情だろう。

風の氏族が主な住人ではあるけれど、それ以外の氏族の姿もかなり多く見えた。

 

「すっごぉ……ソールズベリーでこれならグロスターはどれだけ凄いんだろ……」

 

「ブリテン一の商業都市だったか。翅の氏族のムリアンが統治してるっていう」

 

「そう!キャメロットのお店も凄いところばっかりだったけど、グロスターはもっと凄いお店がいっぱいあるんだー!…………ってノクナレアが言ってた」

 

「…………あれ、君自身も行ったことがあるんじゃなかったかい?」

 

「まあ、一回だけね。でもその頃なんて今みたいに彫金出来るわけじゃなかったからお金もなくて、お店の中見るのも出来なかったし……」

 

「じゃあ、今回の旅ではたくさん見て回るといい。アルトリアさえ良ければ僕も一緒にいかせてもらおう」

 

「うんっ!楽しみにしてる!」

 

と、そんな会話があったのが数日前。

都市を回る旅も折り返しを迎えて、次に行くのはグロスターかニューダーリントンかそれとも反女王軍組織の都市であるロンディニウムかといったところ。

 

疲労で眠ってしまっているアルトリアを彼女に与えられた部屋に残して、僕はモルガンへの報告も兼ねて玉座の間へと向かっていた。

彼女から聞いていた予定ではこの時間は謁見はなく、妖精騎士たちとともに会議をしていると言われた。

 

…………なぜそこに僕が呼ばれたのかは甚だ理解できないけれど、この國の最高権力者である女王陛下の言を無下にするわけにもいかない。

あまり気乗りはしないけれど、女王の間の扉に待機する衛兵達に軽く挨拶をすれば、話が通っていたのかすぐに扉を開いてくれる。

 

開いた扉から玉座の間に足を踏み入れ、視線を玉座に向ければそこにはもう見慣れた面々の姿が揃っていた。

妖精騎士ガウェイン、妖精騎士トリスタン、妖精騎士ランスロット。

そして妖精騎士長アーデルハイトに、女王であるモルガン。

 

だが、ひとり。

見慣れない男の姿があった。

いいや、正式にいうならば僕はその姿は知っている。

赤い髪に鍛えられた肉体。

亜種特異点・下総国で立香ちゃんが遭遇したという刀鍛冶のサーヴァント。

その名を───

 

「千子村正……?」

 

呟いた声と彼がこちらへ無理向くのは同時だった。

間違いない、彼は僕の記憶にある通りの青年の姿をした刀匠だ。

しかし、彼がこの世界にいるのはどういう理屈なのだろうか。

このブリテンでは“汎人類史におけるサーヴァント”の召喚は不可能だ。

理由はいくつか存在するけれど、そういうものなのだから彼がここにいる理由が見当たらない。

 

「……あー、こりゃしくじったか。まさかここでカルデアのやつと鉢合わせるとはな」

 

頭を軽く掻き、村正は視線を僕からモルガン、そして妖精騎士達へと向ける。

 

「出来れば穏便に済ませたかったんだが……」

 

「…………」

 

妖精騎士達が村正を見つめる視線が鋭くなる。

なるほど、想定していたよりも彼は招かれざる客というわけだ。

 

「君がどうしてここにいるのか、聞くことはできるかな?千子村正」

 

「そういうアンタはコッチ側ってわけかい?」

 

「質問を質問で返さないで欲しいんだが……返答によっては無事では帰せないな」

 

僕と村正の距離が一歩、また一歩と近くなる。

 

「キミがなんのためにここにやってきたのか。どうして僕の姿を見ただけで警戒してしまったのか……なにもやましいことがなければそんな対応はしないだろう?」

 

ゆっくりと、距離を詰める。

彼の背後からはガウェインがさらに距離を詰めていた。

しかし、どうやってここに来たかという話にはまだ答えられないけれど、どうしてここに来たかという問いをした僕はある程度の目算はつけていた。

 

「僕はずっと思っていた。汎人類史に降り立った異聞世界、それを管理する存在がいるのではないかと」

 

「ああ、異聞世界に遣わされたカルデアのマスター達のことではないよ。いくつか存在するであろう異聞世界を渡り歩く使徒のような存在」

 

「異星の神、といったかな。その存在に従属するサーヴァントが幾人か召喚されていても不思議ではない」

 

「君が仮称、異星の神の使徒だとすれば……わざわざモルガンに会いに来たのは……親交を深めるため、ではないだろう?なにせ彼女は単騎で別の世界にまで攻撃を仕掛けられるような魔術を構築しているんだ。君たちにとっては邪魔者でしかないだろうね」

 

「…………そう推測した上で問おう。千子村正、君は何をしにブリテンへ来た?」

 

彼との距離が数メートルのところで立ち止まる。

妖精騎士たちはモルガンを守るためにその道を閉ざしている。

城下へ戻るための道は僕が閉ざしていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

玉座の間に沈黙が流れる。

誰かが一歩を踏み出そうとした、その瞬間。

 

鈍色の刃が村正の手に現れて風を切る音が玉座の間に鳴る。

それと同時に水鏡を展開、レイレナードの隣にゲートを開いてその腰に吊るしているシャスティフォルを抜き放ち、村正の刃を受け止める。

 

「───チッ、やっぱり簡単にはいかねぇか」

 

「当然だ、僕の目の前で妹の首を落とせると思うな」

 

「へぇ……そういうワケかい」

 

ほんの一瞬の鍔迫り合い、それをすぐに弾き飛ばしてすぐにシャスティフォルへ風の魔術を纏わせる。

汎人類史の騎士王がその聖剣を隠すために扱っていた風王結界(インビジブル・エア)、そしてそれを撃ちだす風王鉄槌(ストライク・エア)

魔術としての原理は極めて単純、本人ほどの出力は出ないかもしれないが、それでも相手を吹き飛ばすだけであれば十分すぎる出力だ。

 

「───風よ、荒れ狂え……!!」

 

瞬時に村正との距離を詰めて風を纏わせた剣を村正に叩きつける。

瞬間、荒れ狂う大嵐のような風が村正に向けて放たれ、その身体を一気に玉座の間の外───つまり、キャメロット背後の大穴へ向けて投げ出した。

 

「ありがとうレイン、追撃は任せて」

 

僕の横をメリュジーヌが通り抜けていく。

この妖精國で唯一『翔べる』妖精である彼女は大穴に落ちていく村正を追いかけて飛び出して行った。

 

「……後はランスロットに任せればいいでしょう。どの道、空戦で彼女に勝てるものなど居ません」

 

モルガンが玉座に再び腰掛ける。

村正をひとまず撃退したことで玉座の間の緊迫した空気が和らいでいく。

 

「それはそれとして、ありがとうございましたお兄様」

 

「ああ、いや……僕が居なくてもこれだけ騎士が集まっていれば問題なく対処できていただろう。シャスティフォルも勝手に抜いてしまってすまない」

 

アーデルハイトへとシャスティフォルを返還し、ランスロット……メリュジーヌの帰還を待つ。

大穴へ落ちていくサーヴァントの霊核を砕くこと自体は彼女にとって容易いだろうが、問題はしっかり仕留め切れたかどうかというところなのだろうが。

 

トリスタンとガウェイン、アーデルハイトとモルガン。

そして、僕はランスロットが飛び出していった先を見つめる。

瞬間、ジェットエンジンじみた轟音とは裏腹に静かな着地音と共に竜の少女は降り立つ。

 

「……霊核は貫いたけど、手応えが薄かった。流石の僕でも大穴に近づきすぎるのは危険だから引き返してきたけど……」

 

「いえ、霊核を貫いたなら後は時間の問題でしょう。再び私の前に現れるならその場で消滅させればいいだけのこと、お疲れ様でしたランスロット」

 

「うん、それじゃあオーロラに呼ばれたから僕はこれで」

 

「円卓会議も今日は中止です。アーデルハイト、彼をここに通した衛兵への処罰は任せます。トリスタン、ガウェイン、お前たちもあの男の顔は覚えたな?見かけ次第、徹底的に潰すように」

 

その一言でこの場は解散、という形になった。

報告のために帰城したはいいものの、女王に対しての襲撃となれば今日は報告どころではないなと僕は踵を返す。

 

「あ、お兄様……報告は」

 

「時間をおいてまた来るよ」

 

それだけ言い残して玉座の間から立ち去る。

 

「………………さて」

 

視界を世界を見渡す瞳へと切り替える。

千里眼、この世界の全てを見渡す瞳が紅い下手人を探しだす。

時間はそこまで経っていない、大穴に落ちたか……それとも近くに這い出してきたか……

 

「───見つけた」

 

世界を見渡す瞳が村正を捉える。

座標なんて確認するまでもない、すぐさまその場に開くゲートを開いてその中に足を進めた。

 




おっっっ久しぶりでございます。
作者の住処である北海道は幾度の降雪により真っ白になったり地面が見えたり……はたまたアイスバーンになったりと既にえらいことになっています。

それはそれとしてFGOでは冠位戴冠戦も残すところキャスターのみ、作者の冠位はトネリコで確定ですが終章・序で実装されるサーヴァントが誰なのかも気になるところですよね。
年内は後一話から二話投稿できればと思いますが終章終わったあたりで投稿して皆さんの反応も伺いたいです。

では、また次回にお会いしましょう!

皆様の感想と高評価、お待ちしてます。
お気に入り登録とここすきもお待ちしてます。
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