お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第九周遊 『邂逅Ⅱ』

 

6日目の朝。

僕とアルトリアは宿で朝食を済ませてニュー・ダーリントンの街を散策していた。

 

「歓楽街というだけあって、街並みは流石なものだ」

 

「どこに行っても見える悪趣味な劇場さえなければだけどね」

 

吐き捨てるようにアルトリアが口にする。

朝から機嫌が悪かったけれど、それも仕方ないだろう。

何せこの街の妖精達は特に言葉の裏表が激しい。

表面上は賑わって見えるこの街もその裏ではトリスタンによる支配を恐れて過ごしているようだ。

 

しかし、彼女はどうしてあのような振る舞いをしているのだろう。

僕が話して知った彼女は努力家でまっすぐで素直な子だった。

だが、この妖精國で知られる彼女は真逆の側面だ。

悪虐で残忍、悲鳴と悪趣味な殺戮を愉しむ人格破綻者。

 

彼女がモルガン……トネリコの娘として引き取られた時に何があったのだろう。

或いは、彼女自身が生きるためにそれが必要な行為だったのだろうか。

 

「……たぶん、そうしないと生きれないんだよ」

 

「アルトリア?」

 

「レイン、今トリスタンのこと考えてたでしょ」

 

「そうだね……」

 

「この街並みを見ればわかるよ。多分、生きるために自分の本来の属性すら変えないとこの世界じゃ生きられなかった。レインや陛下と話してる時のトリスタン、多分わたしと全然変わらないもん」

 

大きくため息をついて、アルトリアはもう一度街を見つめる。

綺麗に並べられた住宅や店、几帳面さが目立つほどに管理の行き届いた公園や噴水、そしてその中で一際目立つ国立殺戮劇場。

 

「なにが、そこまで変えちゃったのか。多分わたしは理解できないし、しちゃいけないんだと思う」

 

「たとえそれが、アルトリアにとって大切なことでも?」

 

「うん、真実はきっと陛下が知ってる。でも、それを聞いたことでわたしが彼女にできることは何もないんだよ。同情も憐憫もきっと向けていい感情じゃないから。だってわたしがそうだもん、ティンタジェルで受けた仕打ちを誰かに共感して欲しいわけでも哀れんで欲しいわけでもない。そんなことされなくたって、わたしがその果てにレインに出会えた事だけは……」

 

そこまで口にして、アルトリアの言葉が止まる。

言いかけた言葉を咄嗟に止めて、『なんでもない』と首を振った。

 

「だからわたしたちに出来るのはこの街を見て、感じて、考える事だけ。たとえその裏がどんな醜悪な感情に塗れてても、きっと目を逸らしちゃいけないんだ」

 

「……キミがその選択を選ぶのなら僕は尊重しよう。何があっても、僕はキミの味方でいるからね」

 

「うん、ありがとう。さて!こんな暗い話してても仕方ないよね!あんまり趣味じゃない街だけど来たからにはちゃんと見て行こ!」

 

アルトリアに手を引かれて、ニュー・ダーリントンの街の中へと歩いていく。

出来るだけ殺戮劇場を避けつつも、陽の昇っている時間はアルトリアとニュー・ダーリントンの街並みを楽しみながら買い物や妖精達の暮らしぶりを観察するのだった。

 

 

 

そして、陽が落ちて松明の明かりが街を照らし始めた時間。

 

『うおおおおおお!!!!』

 

喝采が街の中央に建つ国立殺戮劇場に響き渡る。

ローマにおけるコロッセオ、と聞けば僕にとっては認識はあれどここの醜悪さは噂に聞く以上のものがあった。

 

妖精達が捕らえた人間達を殺し合わせる遊戯場。

これを本当にあのトリスタンが建造して運営しているのかという疑問も残る。

 

選手として出場した人間は当然だが生き残るために対戦相手の人間を殺す。

どんな手段でも構わない、生き残りさえすればまた明日を見ることができる。

 

選手達はそんな希望を持って対戦相手を殺す。

 

だが、現実はそうではない。

悪逆に染まった妖精達に捕らえられた人間達は紛れもなく玩具だ。

ここにいる奴らにとってはいい見ものだろうが、ここに嫌悪感を持つ妖精だって少なくはない。

 

その理由はただ一つ、優勝者にとっても明日なんてやってこないのだ。

自由を名目にして彼らは奴隷という立場から解放される。

 

その命を散らすことで。

 

初めてそれを聞いた時は全身に悪寒が走るほどだった。

それを黙認しているのがモルガンの娘であると知って本気で困惑した。

しかし、あの子と関わって知っていく中で“コレ”を運用しているのは彼女ではないと確信した。

 

「よぉ、いい趣味だろ?コレ」

 

隣に、男が立っていた。

赤いズボンに特徴的なヘアスタイル、それに薄い顎髭。

軽薄そうなその表情とは裏腹に腹の底では黒いものが渦巻いている人格破綻者。

 

「コソコソこの異聞帯を嗅ぎ回ってる奴がいるとは思っていたが、おまえだったなら納得がいくぜ。なあ、そうだろ?レインフォート?」

 

「…………」

 

「なに、獲って喰おうってワケじゃない。オレだって今ここでおまえと戦って勝てると思うほどバカじゃないつもりだぜ?」

 

「なら、どうして僕に声をかけた」

 

「知り合いがいたら声の一つくらいかけるだろ?それが職場の同僚とあれば尚更だ。オマケに、おまえは出向先でも大物と来たもんだ」

 

「ずいぶんと僕のことを調べたらしいな。その勤勉さに呆れるよ、殺すためのターゲットの情報収集は万全ということか?」

 

一切気を抜かずにベリルの一挙手一投足に目を配る。

だが、それは僕の隣に立つこの男だって一緒だろう。

 

「オイオイ、勘違いしてもらったら困るぜ?オレがお前に声をかけたのは殺し合おうってワケじゃない。このブリテンを一緒に守ろうって話さ」

 

「お前、よくその口で僕にそんなことを話せたな。言葉の裏が見え透いているぞ快楽殺人者」

 

「オレはただ殺せればいいってワケじゃない。そこのところ間違ってもらっちゃ困るんだけどな」

 

軽薄そうに笑うベリルへ僕はただため息をつく。

ここでコイツを殺しておけば後顧の憂いはないに等しい。

致命的な何かをしでかすという確信めいたものが僕の中には間違いなくある。

だから、殺すなら多少荒事になってもここで為すべきだと……

 

「……どうだっていいんだが、オレのサーヴァントはこのブリテンの女王様でね」

 

「……それがどうした?」

 

「少し調べたところ、そいつは昔オークニーの王女様だったらしいじゃないか」

 

「…………」

 

「そいつの兄貴が実質的に国の実権を握ってたらしいぜ?文献に残ってる話によると、そいつはおまえと名前も姿もそっくりらしい」

 

無言の時間が続く。

妖精達の歓声の声だけがやけに大きく聞こえた。

 

「妹の國を守ってやるのがお前の役割だろ?レインフォート・アーデルハイト王子殿下?」

 

「お前が、僕をその肩書きで呼ぶな。オークニーは滅びた、あの日、あの時、僕の判断で全ての民は命を投げ出した。僕をそう呼んでいいのは僕が愛して僕を慕った雨の国の臣民達だけだ」

 

「イイ顔してるぜ、今のおまえ」

 

ケラケラと笑いながら、ベリルは一歩引く。

 

「今日はトリスタンが女王様と銀の騎士からの言いつけを破ってオレに近づいてきたんだ。別れた後探し回って正解だったぜ」

 

カツカツ……と嫌でも聞こえてしまうヤツの足音に注意して僕もヤツの方へも向き直る。

 

「今日は軽い挨拶程度、おまえが望むならティーパーティーの準備でもしての再会を期待してるぜ?」

 

劇場の通路へと消えていくベリルの背を襲うことなく、僕の指は行き場をなくして宙を彷徨う。

 

ベリル・ガット、ここで殺せば後顧の憂いは絶たれる。

しかし、ここで殺して仕舞えば決定的な見落としが存在するという確信もある。

 

それがモルガンにとっての災厄なのか、僕にとってのものなのか。

アルトリアや他の親しいもの達に降りかかるものなのかはわからない。

 

 

だが、この判断が正しいことだったのかどうかはそう時間を待たずに知ることとなるのは知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

****

 

 

「あっ!いたいた!アルトリア・オルタ!」

 

「マスターか、どうした?私は見ての通り食事中なのだが」

 

ストーム・ボーダーの食堂。

その一角に大量のハンバーガーと共に鎮座する黒き騎士王。

カルデアにおいてレインフォートと特に親密な関係を築いていたサーヴァントであり、彼に聖剣使いとしての資格を見出し、聖剣を貸し与え、その扱い方を教え込んだ聖剣の担い手である。

 

「それに、今日は随分と賑やかだな。マスターにマシュ、それにクリプターの3人組」

 

「みんなは私とアルトリア・オルタの話を聞きに来ただけなんだけど」

 

「おまえ達が聞きたい内容は理解している。ここ数日ヤツの話をしていたのは聞こえていたからな」

 

手に持っていたハンバーガーをぺろりと平らげてアルトリア・オルタは立香に向けて視線を向けた。

 

「私からヤツのことを話せることは多くない。なにせ雑談をしていただけだからな、だが……私とレインフォートの中に縁があるとするのならば」

 

彼女はそこで一度区切って、新しい包装紙に手を伸ばす。

ペリペリと包装紙を剥がしながらその言葉の続きを口にした。

 

「世界は違えど、私たちは立場的には兄妹ということになる。なにせ、世界は違うとはいえ、奴はモルガンの兄だからな」

 

「……モルガンってアルトリアのお姉さんの?」

 

「そうだ。ガウェインやアグラヴェインの母であり、我が姉でもある。人を呪うことでしか生を実感できない愚かな女だが……ヤツの妹であるヴィヴィアンは違ったようだな」

 

「つまりレインさんは亜麗っていう特別な超すごい妖精で、エクスカリバーを扱う資格があって、アーサー王の宿敵のお兄さん……?」

 

カルデアにとって、爆弾的な発言がハンバーガーの包装紙を剥がされながら投下されてしまった瞬間だった。

 

「……?なんだ貴様ら、聞かされていなかったのか。水鏡なんて最たる例だろう。あの魔術はこの汎人類史でただ1人しか扱えない。まさしく神域の天才とまで謳われたあの魔女にしか扱えないシロモノだ」

 

「ですが先輩、確かにレインさんにはその片鱗がありました。円卓の皆さんの宝具を模した魔術を即興で作り上げたり、それを幾重にも展開したりと……」

 

「……ヒュッ」

 

マシュのその言葉に立香の喉から細い風切り音が聞こえた。

なんという人物を今まで慕っていたのだろう。

オマケに親子丼まで作らせてしまったあの決戦前夜に思わず具合が悪くなる。

 

「しかし、あの男も無礼な男だ。散々談笑した私に別れを告げずにいなくなるとは」

 

立香を心配したキリシュタリアやカドック、マシュの様子を尻目にアルトリア・オルタは呟く。

いつも包装紙を剥いて食べるハンバーガーの向こうにいた銀髪の男を幻視して思わず微笑んだ。

 

 

 

「精々、励むがいい。聖剣の資格はその手にあるのだから」

 

 




冠位戦全クラス無料と日替わり全鯖ピックアップとか何考えてるの?(褒め言葉)
どうも、終章開幕まで青リンゴ農家の作者です。
皆さんは冠位戦進めてますか?キャスター戴冠戦が終わって箱イベもひと段落……と思ったところで突如発表された戴冠戦ラストスパート週間。
リアルタイム攻略していた作者にはお休みとなる期間ですが今追いついている読者の皆様には必至の1週間ですね。
グランドスコア全開放して自分のグランドで終章に挑みましょう!

と、いうのはさておき。
今年の更新は来週いっぱいの更新でおそらく終了予定です。
終章や年末の多忙さでなかなか難しいかなと判断しました。
でも、終章終わったタイミングで1話くらい投稿して皆さんの感想も聞きたいですね(貪欲)
ちなみに、年間ランキングの方でもまだギリギリ300位以内に残ったりしてます。
読者の皆さんの応援のおかげで年間ランキング入りできたりもして嬉しい限りですね。

あっ、まだ評価おしてないよっていうそこのあなた!
是非とも10とか9とかくれたりしてもいいんですよ?(チラッチラッ)
みなさん、作品に対してのコメントとかくれても……いいんですよ?(チラッチラッ)





PS.ベリルに違和感あったら寛大な心で許してください by.今井綾菜
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