お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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おそらく年内最後になるかもしれない投稿になります。
いやでももしかしたら終章終了後にもう一話出すかもしれないです。


第十周遊 『決断までのカウントダウンⅠ」

 

 

ベリルと邂逅した次の週、ロンディニウムへ向かって反女王軍への勢力を密かに見て回った僕たちは最後の視察先であるグロスターへとやってきていた。

 

「わぁ……!見て見てレイン!グロスターだよ!ブリテン1の商業都市のグロスター!」

 

アルトリアのテンションはこの旅を始めてから1番の絶好調。

それもそうだろう、年頃の女の子ともなれば1番の楽しみはショッピングと言っても過言ではない。

このグロスターにはブリテン中のありとあらゆるものが集まる。

衣服や食料はもちろん、娯楽、奴隷となんでもありだ。

 

「……ここの氏族長は翅の氏族長のムリアンだったか。挨拶に伺うことはないけれどここならなんの気兼ねもなくゆっくり過ごせそうだ」

 

「あっ!あそこに彫金屋さんだ!向こうには鍛治師の工房……!すっごぉ……!グロスターやばすぎ……!前来た時はちゃんと見る余裕なかったけど今はいろんなものがキラキラして見える!」

 

アルトリアに関しては最早僕のことなど視野にも入ってきないような興奮の仕方である、興味を引くのが服飾やスイーツではなく彫金や鍛治なのはちょっと年頃の娘とはかけ離れているかもしれないが……

 

「うーん!もう待ちきれないや!いこっ!レイン!」

 

「おっと、興奮しすぎて他の妖精や人にぶつからないようにね」

 

「わかってるってば!まずはあの彫金屋さんに───!」

 

アルトリアに手を引かれるまま、僕はグロスターの街を散策することになる。

1番最初に寄ったのは彫金工房。

素人の僕から見ても練度の高いであろう高価なアクセサリが立ち並ぶお店の中に入り、アルトリアが興味深そうにそれを見つめる。

一つ一つの意匠に感嘆の声を漏らしつつ時には店主と楽しげに会話を弾ませて、店から出てきたの1時間以上あと。

商品を買うどころか店主にせがまれて自作のネックレスの一つを店に売る形で出てきた。

 

実際にあのメリュジーヌがアルトリアの作るアクセサリーはこのグロスターで一気に金持ちになれるくらいの価値があると口にしていた。

この子の未来の選択肢としてはそんな道もアリだろうと考えていたのだが。

 

(でもたぶん……この子は使命を果たすんだろうな)

 

好きなものを見てキラキラと瞳を輝かせる君。

無邪気に笑う今の君がこれからその命を枯らすために歩き始めることを考えるとこの胸が張り裂けそうになる。

 

グロスターの1日目はアルトリアに手を引かれてたくさんのアクセサリ店や武器や防具のお店を見て回った。

 

 

 

 

***

 

罪都キャメロット・女王の間

 

「殿下とアルトリア様の旅も今回のグロスターで終わり、アルトリア様の選択はどうなるでしょうか」

 

女王モルガンと妖精騎士長アーデルハイト。

執務のほんの隙間時間、たった2人しかいなくなった玉座の間にてアーデルハイトの口からそんな言葉が溢れる。

その言葉にモルガンはほんの少しだけ考える素振りを見せて、口を開いた。

 

「あの娘は巡礼の旅に出るだろう。かつての私がそうであったように、お兄様と関わり、たくさんの経験をしたのなら……聖剣を作り出すその使命に殉ずる道を選ぶ」

 

モルガンにとってそれはほぼ確信と言っていい。

どんな理由、どんな結果であれ、かつての自分がそうしたのだから。

 

「アルトリアはこの旅の中でこのブリテンの醜さをその眼で見た。かといって私の統治を、恐怖と力で支配するこの統治を認めるような娘でもあるまい。たった一年と数ヶ月とはいえお兄様に育てられたのなら、それは間違いないでしょう」

 

「……しかし、陛下のこの統治は」

 

「───それ以上は、口にしないで下さい。私だって、出来るのならばこうではない國を作りたかった。あの夢のような、妖精と人間が笑って手を取り合える雨の国を目指していたのです」

 

でも、それは叶わなかった。

自分が想定したよりも妖精にとって自分達は邪魔な存在だった。

平和で豊かで誰もが笑い合えるそんな未来は、受け入れられなかったのだ。

 

「ああ、古い鏡を見ているようだ。何も知らず、夢を見ていた頃の私。その始まりこそやつの方が過酷であったが……旅に出るまでの過程にお兄様と出会ったのなら……」

 

そこまで口にして、モルガンの言葉が詰まる。

アルトリアの旅の果て、聖剣を作り出したその先の未来を。

自分とアルトリアは必ずぶつかり合う。

聖剣を作るということは、この妖精國を終わらせるということ。

この國の女王として、2000年以上に渡って守護してきたこのブリテンを黙って終わらせるなどあり得ない。

 

ならば、いずれ決着をつける必要だって出てくる。

 

「陛下───」

 

「わかっています」

 

きっと、今自分はひどい顔をしていたに違いない。

自分の後継型の楽園の妖精、私の本来の姿を知る娘。

お兄様が大切にしている無垢な少女。

なによりも、自分自身があの娘に肩入れしてしまっているのが嫌でもわかる。

 

きっと、戦うことになっても殺す勢いでは戦えない。

一度心を許した相手に非情になれないのは自分の悪い癖だとわかっている。

 

「わかって、いるのです」

 

それでも、失った指を取り戻した時の涙を。

 

レインフォートと離れたくないと、何も望まないからその時間だけは奪わないでと懇願していた時の涙を。

 

自分が原因で大切な人との時間を失ってしまうかもしれない絶望を。

 

その全てが自分にも痛いほどわかってしまうのだ。

 

だからこそ、きっと最後の最後で躊躇ってしまう。

 

その確信が今の時点であるのだから。

 

「巡礼の旅に出るのなら、彼女を敵とみなします。みなしますが……」

 

「わかりました。それが女王陛下のお望みであれば」

 

願わくば、手を取り合える未来を望む。

2人の楽園の妖精とこの世界でたった1人の聖剣の騎士であるお兄様ならば、汎人類史に特異点として組み込むことに成功したこのブリテンを正しい道に導けるはずなのだから。

 

 

 

***

秋の森で、たったひとり。

白く美しい翅、誰よりもキラキラした王子様。

たくさんの(こくみん)たちのなかでひとり、世界を見るのです。

 

「それにしても困ったな。まさか予言の子が女王の元にいるなんて」

 

秋の森の王子様は困り果ててしまいました。

世界を救うたった1人の女の子。

それが邪悪な女王の手元にいるのです。

 

「それに、雨の王子も一緒ときた。さて、どうしようかな」

 

王子様には時間がありません。

チャンスはたった一度、女王を倒すためには針の穴に糸を通すような繊細な作戦が求められてしまうのです。

 

昔なら予言の子に話しかけられたのですが、今の王子様にはその力はありません。

悪い悪い別の王子様に邪魔されてしまっているようです。

 

でも、そんな難しい状況でも諦めません。

 

王子様はどんなに難しい使命でも成し遂げるために頑張るのです。

 

「何かもう一つ、ピースがそろえば」

 

王子様は笑います。

 

王子様は微笑います。

 

王子様は嗤います。

 

いずれ来る星を待つのです。

 

いずれ現れる、協力者を待つのです。

 

いずれ手に入れる、道具を待つのです。

 

「さーて!それまでは有益な情報を得ようじゃないか!なに、僕は妖精王オベロン!得意の話術でどうにかしてみせるとも!」

 

純白の王子様は森の中を歩きます。

まずはよく向かう馴染みの街に向かうのです。

 

 

 

 

 

 

 

全ての運命が絡み合うまで、あと───

 




明日、遂に決着。
終章前に最後の投稿です、公式からお出しされる数々の情報に若干吐き気を催してる作者です。

死なないよな?藤丸……?

それはそれとして前回からのたくさんの高評価ありがとうございます!
新しくポチッと押してくださった方々、これまでに押してくださった方々の期待を裏切らないように励んでいきたいですね。
でもでも?まだ押してないよっていう読者の皆皆様方?
実は来週ってクリスマスらしいですよ?
感想とか高評価とかいただけると作者はニッコニコになれます。





遂に迎えた終末の地。

全てが始まり、旅の終わりの地。

燃え盛る土地に、あなた達は再び降り立つ。

全ての決着を付けるために、全ての過去を救うために。


『あなたは世界を救えないけど───きっと最後は目の前の“誰か”を救うでしょう』

あの時、救世主に告げられた言葉。

その意味を、あなたはまだ知らない。

願わくば、全てを超えた先で、全ての過去に、新しい明日をみんなで迎えられますように。
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