お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第一旋律 『おわりの村』

 

 

それからしばらくして。

 

アリアと名乗った少女とハーミアと名乗ったカルデアのマスター。

同行していたトリスタンはトリストラムと名乗り、虞美人はヒナコと名乗った。

 

「それにしても、あなたたちはどうして『おわりの村』の入り口なんかで?」

 

「……それがわからなくて、直前のこともぼんやりしてて」

 

「うーん、もしかして霧の海岸に踏み入っちゃったとか?だとしたら大変だよ?今名乗った名前、ちゃんと自分の名前?」

 

記憶が混濁している、と口にしたハーミアやトリストラム、そしてアリアの様子を眺めるかのように黙っているヒナコ。

その3人に向けて、アリアは呆れ半分の視線を向ける。

 

「まあでも、そっちからきたなら仕方ないかぁ。ここにいたらモースが来るかもしれないし、わたしの家までも少し遠いから……行きたくないけど近くの村まで案内するよ」

 

ついてきて、とアリアは立ち上がり先導する。

それに続くように3人も歩き始めるが……

 

「……ハーミア、気がついていますか?彼女の霊基……並のサーヴァントでは手も足も出ないほどに強力です」

 

「……そうなの?」

 

「ええ、少なくとも霊基だけなら私以上というのは確実です」

 

「……たぶん純粋な妖精よ。私と同じような存在だと思えば納得できるでしょう?」

 

「……顔立ちが我が王に似ている、という点で普通の妖精であるとは言い切れないでしょうが」

 

トリストラムとヒナコの言葉にハーミアは頷く。

どちらにせよ、彼女の案内なしではこの森からも抜けられそうにない。

ならば、ひとまずは親切そうな彼女のいうことは聞いておくべきだろうとハーミア……藤丸立香は結論づけたのだった。

 

 

 

 

****

 

「おや、アリアじゃないか。珍しいな、今日はこっち方面の見回りかい?」

 

おわりの村、そこにたどり着いた一行に最初に話しかけてきたのは少し背の高いエルフ耳の妖精だった。

このブリテンにおいては『風の氏族』と呼ばれる種族。

先頭を歩いていたアリアに彼が話しかけて、アリアはそれに応えるように頷く。

 

「そう、今日はこっちに来てて……それに知り合いもいるから今日1日だけ泊めさせてもらえる?この辺りの魔獣はある程度狩ってきたからそのお礼ってことで」

 

「もちろん、アリアの頼みなら村のみんなだって大歓迎さ!後ろの3人はどこから来たんだい?」

 

「ニューダーリントンから逃げてきたんだって。行く宛がないから前に知り合ったわたしのところに来たみたい」

 

「へぇ……そうなのか。あの殺戮劇場の気にやられて逃げてくる奴は多いからな。まあ、その気持ちもわかる。安心しろよ3人とも!アリアはこの辺りじゃ一番強い妖精なんだぜ?」

 

「や、やめてよ。じゃあ、テントひとつ借りるから……いこ、みんな」

 

再び歩き始めるアリアと彼女に手を振るエルフ耳の妖精。

若干機嫌の悪そうなアリアの横顔を見ながら彼女が入っていくテントに入る。

 

「…………えっと、確かこう、だったかな」

 

4人全員がテントに入ったことを確認したアリアは手に持った杖を一振りして魔術を発動させる。

 

「……防音と人避けの結界?」

 

「あっ、わかるんだ。まああなた達の会話は聞かれない方がいいだろうし……それに、あなたが人間だってバレたらまずいから」

 

「……え?」

 

「……そうだなぁ、ひとまずこの村ではさっきのわたしの話に合わせて?詳しい説明は紙とペンを使ってするね」

 

腰にぶら下げていたポーチから紙とペンを取り出した彼女にハーミアは驚きの表情を浮かべた。

それはそうだろう、彼女が持っていた紙とペンは現代でよく使われているボールペンとA4のコピー用紙だったのだから。

 

それはトリストラムとヒナコも同じだった。

何故、そんなものがここにあるのかはいずれ問いただすとして……2人は紙に書き込まれていく情報に視線を向けた。

 

・おわりの村では人間が供給されないから妖精達が飢えている。

 

・飢えている妖精たちに人間であることがバレると何をされるかわからない。

 

・死にたくなければひとまずはわたしの言った通りに行動すること。

 

・試作段階ではあるけれど認識阻害の魔術をハーミアに掛けてくれること。

 

・どうして“供給”という言葉を使ったのかはいずれ語るということ。

 

・なにはともあれ、風の氏族がいるこの村では余計なことは喋らないこと。

 

最後のこれは特に念押しされたことで、3人は頷くしかなかった。

 

しかし、驚いたのはアリアがハーミアのわかる言語で紙に字を書いたことだった。

いったいどうしてこのブリテンに『日本語』が通用しているのか。

礼装やその他もろもろのおかげで言語の壁にぶつかることはない。

だけれど、現地の『文字』だけは別だった。

各地には必ずそこに根付いた文字がある。

これだって礼装が翻訳してくれるからなんとかなっていたが、異聞世界で日本語を目の前にすることになるとは思ってもいなかったのだ。

 

『外の世界の人はこの文字を使うんでしょ?ちゃんと読めた?』

 

スラスラと書き込まれていく文字にハーミアは頷く。

それに微笑んで、アリアはさらに文字を書き込んでいく。

 

『ひとまず、今日はここに泊まって明日はわたしの住んでる家に向かおう。あなた達3人くらいなら匿ってあげても余裕あるから。詳しい話はそこで聞かせて?』

 

紙に書かれた文字にハーミアは頷く。

それに満足したようにアリアも大きく頷いた。

 

「じゃあ、わたしは少し外に出てくるから……さっき言ったこと忘れないでね?」

 

それだけ言い残してアリアはテントから出ていってしまう。

急な情報の量、それに……自分たちを匿ってくれる彼女はいったい誰なのか。

 

どちらにせよ、この村に長期的にいるのは良くない。

ボロが出たら即座にゲームセットだと自覚するまでに時間がかからなかったのはカルデア組にとっては幸いだった。

 

 

 

 

 

 

 

****

 

おわりの村の端、誰も寄りつかない一画。

 

そこにアリアは向かっていた。

用件があるのは1人の妖精。

名を失って、消えゆくのを待つだけの少女の元へと。

 

「あっ、アリア……!」

 

「うん、ひさしぶり」

 

このおわりの村で唯一友人と呼べる少女の元へと来ていたのだった。

 

「わたしのあげた名前……使ってないの?」

 

「うん、アリアがくれた名前……嬉しいんだけど、きっと……私が名乗るのは違うんだって思って」

 

「……でも、そんなことしてたら消えちゃうよ?わたしの名前、アルトリアでもキャスターでもなんならどっちとも名乗っちゃってって言ったはずなんだけどなぁ」

 

「えへへ、ごめんね?でも、嬉しかったのはほんとうだよ?」

 

「だから……私はあなたがくれたこの綺麗な名前も、私に手を差し伸べてくれたそのあなたの心も大切にしたいな」

 

「まったくもう……自分が消えそうなのにわがままなんだから」

 

「そうかな……?」

 

「そうだよ、ほんとうに」

 

もう壊れ掛けの妖精。

名前を失って、存在の価値を失ってもいまだに翅がかける程度の欠損しかない妖精。

 

名前を失う前は、もしかしたら強い力のある妖精だったのかも。

なんて、思うこともたまにあったけれど……

 

名前を失って、力を失って、奴隷のように扱われても。

 

笑顔を決して絶やさない彼女に、手を差し伸べたのはきっと間違ったことではないと思ったのだ。

 

かつて、アルトリア・キャスターがそうして貰ったように。

 

アルトリア・キャスターも誰かに手を差し伸べて、誰かを救ってあげたいと思ったから。

 

でも、差し伸べた相手は底なしの善人だった。

彼女に名前をあげて、私はアルトリアではなくアリアと名乗るようになった。

 

そう、レインにつけて貰った彫金師としての偽名。

アルトリア、から2文字抜いただけの手抜きの名前だろ!とあの頃は噛みついていたけれど今となってはわたしにとっては大切な繋がりのある名前だ。

 

だから、わたしの本当の名前をあげて彼女が生きれるのならそれもいいかと思ったわけだったんだけれど……

 

蓋を開けてみたらこの始末、何回言っても名前は使ってくれないし、こうやって笑って誤魔化すばかり。

 

わたしじゃ、誰かを助けることなんて出来ないのかな……なんていつものウジウジした感情が渦巻いてしまったり。

 

ねえ、もう壊れかけのきみ。

 

あなたの本当の名前はなんですか?

 

底抜けに優しい、あなたの名前を知りたいのです。

 

「……ねぇ、アリア?」

 

「どうしたの?」

 

「村の方、何かおかしいよ」

 

そう言われて視線を向ければ……村人達が大声をあげて叫んでいた。

 

『アリアの連れならアリアに聞こう!』

 

『人間を独占するなんて許せない!』

 

『ちゃんと話し合って平等に分けよう!』

 

『独り占めなんて───』

 

最悪だ、聞こえてくる言葉の全てに吐き気すら覚える。

でも、なんで……?

あれだけ注意して死にたくなかったらいうことを聞いてって念押ししてきたのに……?

 

『初めから人間の匂いがしてたんだ』

 

…………ああ、そういうこと。

 

わたしは初めから選択肢を間違えていたんだ。

ハーミアを妖精であると認識を阻害する魔術、それをテントに入ってから掛けたんじゃなんの意味だってない。

自分の不手際で招いたミスなら、それはなんとしても解決しないと。

少なくとも、わたしを変えてくれた彼ならそうするだろう。

 

「ごめん、わたし行ってくるね……!」

 

「あっ、まって……!」

 

壊れ掛けの彼女の声に、一歩進んだ足が止まりそうになったが迷わず村の方へと駆け出していくのだった。

 

 

 

村に戻ると、目に入ってきたのは想定していた通りの光景。

数年前にティンタジェルで見た一つの村が終わるような最後の光景だった。

 

村人同士で殺し合っている。

 

それはあのハーミアをめぐる権利の求め合い。

 

彼らは生きるために人間を欲する。

 

できるなら独占したい、そうした方が彼らの存在は保たれる。

 

だからこそ、意見が合わない奴は消さなければならない。

 

だって、人数が多ければ独占できる部位が減ってしまうから。

 

最悪だった、そんな思考が見え透いた醜くて、吐き気を催すような生き物。

 

見ていられない、と騒ぎになっている方を避けてテントの裏側に回る。

腰に用意していた短剣でテントを切り裂いて中にいた三人の無事を確認した。

 

「ごめんなさい、わたしのミスでした。ここにいたら取り返しのつかないことになる。すぐにこの村を出てわたしの家へ向かいましょう」

 

「やはり、外の騒ぎはあまり良くない方面に進んでいましたか」

 

「どう考えても物騒な言葉ばかり聞こえていたじゃない。ちょうど良かったわ、私たちもそろそろ動くか話していたところだったから」

 

「なら良かった、最短最速で森を抜けましょう。わたしについて来てください」

 

「わかった、お願いね」

 

テントからこっそりとバレないように抜け出す。

音は出さずに、騒ぎの音でかき消されるような小さな足取りで。

 

しかし、現実はそう甘くない。

 

“たまたま”テントから出た瞬間を村人たちに見られた。

 

「アリアが人間を連れて逃げる気だ!!!!!」

 

「っ!最悪……!」

 

「逃すな!」

 

「せっかくの人間なんだ!」

 

「独占するなんてずるいじゃないか!」

 

「みんなで平等に分けるべきだ!」

 

さっきまで村人たちだけで言い争っていた単語たちが今度はこちらに向けられて叫ばれる。

 

思わず舌打ちをしてしまいそうな気持ちを抑えて、三人を庇いながら森を抜けるために走り始める。

 

少し走って、まだ追いかけてくる音が聞こえて。

 

「……アリア、こっち!」

 

この森で唯一信頼できる友人の声に反応してそっちへと走る。

欠けた翅を持つ少女に導かれるまま、4人は本道から逸れた林の中へと身を隠した。

 

「…………助かったぁ」

 

「えへへ、アリアがこっちにくるかなって思って準備してて良かった。でも、あのひとたちが離れたからまたすぐに走って?ここにいたら、すぐに気づかれちゃう」

 

少女が指さしたのは彼女の住むボロボロの天井の抜けた小屋の先。

確かに、その先は国道へと繋がっているはずだと頭の中の地図が示している。

 

「うん、わかった」

 

「待って、その子も一緒に連れて行こう?」

 

「…………そう、だね。あなたも、ここから出てわたしと一緒に」

 

そこまで言いかけて、翅の少女は首を横に振った。

 

「ダメだよアリア。私が付いていってあげられるのはこの森を抜けるまで……そこから先は私が生きていける世界じゃないから」

 

「…………っ」

 

わかってはいた。

だって、さっきまではなんともなかったこの子の顔に少しの黒いアザが出来始めていた。

 

「はやく行こ?後ろの3人もはやく森から出してあげないと」

 

「……うん」

 

頷いて、少女の後を走る。

時々苦しそうな声をあげて、それでも頑張って踏ん張って。

心配するハーミアとそれを見て怪訝そうな顔をするヒナコ。

背後から妖精たちが追ってきてないか警戒しながら走り続けるトリストラム。

 

なんとか、あと少し。

 

あと少しで森を抜けれる───!

 

 

あと、ほんの数分が彼女には与えられなかった。

 

 

 

「ぁ……ああああああ、ああああああああ!」

 

 

苦しみ、痛み、呪い。

 

名前を失った妖精が最後に辿り着く結末。

 

モース病。

 

ブリテン島の呪い、妖精が許されない罪の証。

 

愛らしかった翅の妖精は苦しみながら、わたしたちを見る。

 

「どうして、私ばっかり……!」

 

「こんなに苦しくて痛くて、我慢ばっかりして……!」

 

彼女から、黒い霧が立ち昇る。

 

「……ぁ、だめ!それ以上はだめ!」

 

「利用されて、捨てられて……許せない……!」

 

「許せない、許せない……!」

 

「みんな、許せない……!」

 

黒い霧が濃くなる。

少女の身体を包み込むほどの大きなものに変わっていく。

 

「アリア……これは……!」

 

ハーミアが、わたしに問いかける。

言葉を返したくなかった、ソレを口にして仕舞えば彼女が成り果ててしまったものにカタチを与えてしまうと思ったから。

 

「……攻撃して、構いませんね?」

 

「確認してる場合じゃないでしょ。どう見たって素通りさせてくれるようなモノじゃないわ」

 

「…………っ!」

 

歯を食いしばる、ここでコレを倒さないとこの森からは抜けられない。

ここでコレを放置していた方がこの南部方面全域が危なくなってしまう。

杖を握り、ポーチの中に忍ばせた宝石を一つ取り出して……。

 

魔術を発動する前に、目の前にいた“ソレ”が消滅する。

 

「ぇ……?」

 

「いやぁ、危なかった!大丈夫かいキミたち!こんなところで妖精たちに追い回された挙句、モースに襲われているなんて驚いたよ!」

 

どこか聞き覚えのある声。

その先にいたのはクリーム色の髪の青年。

白を基調とした衣服に身を包んだ童話の王子様のような羽付きの妖精。

 

「詳しい話はあとだ!ひとまずこの森を出ることを先決にしよう!自己紹介は走りながらしても構わないけど、無事逃げられた時にさせておくれ!」

 

まるで妖精の王子様を思わせる彼に導かれるまま、わたしたちは森の外へと走り抜けるのでした。




皆様方に質問なのですが、アヴァロン・ル・フェ本編が開始したわけですが投稿の頻度についてお聞きしようと思います。

今の月に3〜4話のペースとある程度期間をおいてストックを貯めた後の2〜3日にストック放出の方針だとしたらどちらがいいですか?

今回のあとがきの最後にアンケート置いておくので好きな方に投票してくれるとありがたいです。

それはそれとして、アヴァロン・ル・フェ本編を読み直してお兄様ナイズするために自分の頭の中にある構成と本編を上手いこと合致させていかなきゃならないんですね。
ふふ……シンプルに地獄……。
まあ、アルトr……アリア視点ばかりやっていてもアレだと思うので今回もお得意の視点を変えることでの物語のスキップ機能を使って行こうと思います。
……この物語の主人公はお兄様だしネ!
それはそれとしてアリアちゃんがお兄様に会えるのはどこでしょうねぇ……
皆さんはどこだと思いますか?(愉悦)

それでは次回、またお会いしましょう!
皆様の感想と高評価、お待ちしてます。
お気に入り登録とここすきもお待ちしてます。

アヴァロン・ル・フェの更新について

  • 今まで通り月に3〜4話見れればいい。
  • 待ってもいいからストックして放出
  • 別に気にせんでええねんで(^ω^)
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