お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
人間工場への攻撃から数日後、グロスター。
結局わたしは立香たちと行動を共にすることにして、次の目的地であるグロスターまで足を運んでいた。
草原を移動していた際に襲撃してきた謎の馬……馬?
ひとまず、レッド・ラビットと名乗る自称馬の妖精を仲間に引き入れてブリテン随一の商業都市で夜に行われるオークションに参加するために招待状をなんとか入手しようと躍起になっているところだった。
手分けしてなんとか手に入れるということでわたしは立香と一緒にグロスターを見て回ることになったのですが……商人から逃げ出したネズミを捕まえることになり一苦労してお目当ての招待状ではなくS&Cの割引券を手にしたりしたり、結局そこは店じまいしていて代わりにあったのは定休日の看板がかけられた洋服屋さんだったり。
店名は『伯爵』ってことだったけどすごく素敵なデザインの服や靴、鞄や帽子が置かれていて少しだけテンションが上がってしまったりして。
思わず立香に似合いそうな靴を見つけてはしゃいでしまったのは少し反省点、と思っていたのだけど。
ショウウインドウから離れて歩き出そうとした時、ドンっと誰かに当たってしまった。
「あっ、ごめんなさい。背後見てなくて……」
「あんまり騒がないで、私いまお忍びで……って」
ぶつかった妖精と目が合う。
赤い髪に灰の瞳、わたしのことを田舎妖精と呼ぶモルガンの娘。
「お前、なんでこんなところにいるんだよ」
「なんで……って言われても今日のオークションに参加するためで」
「ふぅん……?それで、隣にいるのがお母様が言ってた異邦の魔術師、ってワケ?」
妖精騎士トリスタン。
こんなところで出会うなんて思ってもいなかった少女の存在に思わず足が一本後ろに下がる。
「別に取って食おうなんて思ってねぇよ。言っただろ?お忍びだって」
「…………」
「ダンマリかよ。それより、オークションに参加するのはいいけど招待状は持ってるわけ?アレがないと参加どころか会場にすら入れないけど」
「……招待状がないと入れないって知らなくて」
「呆れた、服屋のショウウインドウ見て目を輝かせてる場合じゃないだろ」
こいつ大丈夫かよ、とでも言いたげな顔で大きなため息をつく彼女に顔を合わせることができない。
「チッ、これを見越してってことかよアーデルハイト……」
「……?」
「チケット、余ってるからくれてやるよ。元々私が取ったものじゃなくて余分に渡されたやつだし」
「えっ、いいの!?」
「泣いて喜べよ?っていうかお前、結構金持ってるんだからそこら辺の成金妖精からチケットくらい買えただろ」
「…………あ」
言われてみればそうだ。
とは言ってもわたしが持ってるお金なんてアクセサリを売って貯めた3000万モルポンドくらい。
オークションのために残しておきたかった資金だったから除外していたけど入場するだけなら確かにお金で解決できた。
「まあチケットはくれてやるからせいぜい大人しくしておけよ?」
「うん、努力する」
「確約しろって言ってるんだけど」
「わたしだって欲しいものあったら競り合うんだからそれは無理!」
トリスタンが差し出していたチケットを受け取り、呆れたといった顔の彼女はさらに大きなため息を吐く。
何かを言おうとしたけれど、それを飲み込むように一つ咳払いをして彼女は手を振って歩き去っていく。
「せいぜい、競り負けないといいわね」
ほんの少しだけイヤミを言っていったのはカンに触ったけれど、思わぬ形でオークションのチケットが手に入ったのは助かった。
「……でも、一枚かぁ」
「でも持ってないよりは全然マシだよ。アリア、上級妖精の知り合いいたんだね」
「あー、知り合いというか……なんというか」
「……?チケットくれるような関係なんでしょ?」
立香のキョトンとした表情に思わず口籠もる。
言えるわけがない、わたしは数ヶ月前までキャメロットから旅に出ていて妖精騎士全員と顔見知りで、モルガン陛下から旅費すらもらっていたなんて。
「それに関してはちょっと今は言えないっていうか。なかよしゲージがちょっと足りないっていうかぁ……」
「そっか、それならもっと仲良くならなきゃね」
「うわっ、まぶしい!」
キラキラの笑顔でそんなことを言われてちょっと戯けたようにそう返す。
そんな反応を見た立香は吹き出して笑って、つられるようにわたしも笑みが溢れる。
……なにがなかよしゲージだ。
本当の名前すら教えていないのによくそんなことが言えたなと心の内で自分のことが嫌になりながら。
時間は経過してオークション開始の1時間ほど前。
虞美人はもう少しこの街を回ってくるらしく、オークションには来ないことになっていて合流したのはオベロンとダ・ヴィンチのふたり。
「え?招待状?もちろん用意してるけど?」
当たり前じゃん、とおもむろに取り出した4人分のチケット。
席はかなりの特別席のようでムリアンから融通してもらったとドヤ顔で語っていた。
「あ、わたしの分は大丈夫。自分で用意できたから」
「え……!アリア、上級妖精の知り合いでもいたのかい!?」
「おんなじ質問さっき立香から受けたなぁ」
若干大袈裟なオベロンの反応に苦笑いをして持っていたチケットを見せる。
「一体誰からチケットを…………は?」
「ん?どうしたんだい?」
「いや、本当に誰から貰ったんだいこれ……?」
「誰って、それはちょっと言えないっていうか」
「これ、妖精騎士長アーデルハイトに贈られたチケットだぞ!」
「ッスウゥゥゥゥ……」
思わず天を仰いだ。
これ完全にしてやられたと一瞬で理解した。
あのトリスタンがなんの算段もなしに招待状をくれるなんておかしいことだって理解しておくべきだった。
妖精騎士トリスタンが持っているチケットがキャメロット宛に贈られたのは間違いない。
おそらく女王とその騎士たち全員に向けて贈られたはずだ。
“余っている”のではなく“利用する”ために持っていたのだと気がついた時には遅かった。
「……これ、誰からもらったんだい?」
「……赤い髪の妖精だった、よね」
「赤い髪……?赤いドレスを着て灰色の瞳だったかい?」
「あっ、うん。かなり強気な子だったとおもう」
「…………マジか」
立香との会話で今度はオベロンが天を仰ぐ番だった。
「……妖精騎士トリスタン。この間のガウェインと同じ妖精騎士の座に着く妖精、女王モルガンの娘で次期女王候補の後継者だ」
オベロンの言葉に場の空気が凍りつく。
わたしとトリスタンの会話を聞いていた立香はわたしを二度見どころか三度見くらいしていた。
「……アリア、このオークションが終わったら少し話してもらうことあるかな」
「…………そうだね」
若干重苦しくなってしまった空気感の中、わたしたちはオークション会場に入っていくのでした。
───お集まりの紳士淑女の皆様方。
グロスターのオークションにようこそいらっしゃいました。
明日の夢より
氏族の
そんな皆様の欲望に応えるべく、今宵も数多の品物をご用意させていただきました。
これは!と感じた品物には出会えましたか?
素晴らしい!皆様はすっかり夢中の様子。
前口上はここまでといたしましょう。
それでは───レディ・ムリアンの展覧会、存分にお楽しみくださいませ!
会場全体に響くような芝居のかかった前口上。
それに釣られるように口笛や拍手が会場を満たす。
1番 キャメロット伝説の彫金師による至極のネックレス
2番 鏡の氏族から押収した領主館の鏡
3番 シェイクスピアの没原稿
4番 コーンウォールから発掘された謎の石板
5番 救世主トネリコの冒険録(4)
6番 妖精騎士長アーデルハイト直伝ブリテン料理改革第6巻
7番 湖水地方で発掘された溶けない氷
8番 南部平原で発見された大粒のエメラルド
9番 予言の子
オベロンが3番のシェイクスピアの没原稿でテンション上がっていてダ・ヴィンチと何やら会話しているが、わたしの目に映ったのは別のもの。
5番の救世主トネリコの冒険録だ。
「5番の冒険録、欲しいなぁ」
「えっ!アリアもかい!僕はダ・ヴィンチから肖像画を描いてもらう約束をしたから少しくらい使ってもいいんじゃないかな!」
「ダメダメ!目的は予言の子なんだから我慢しなさーい!」
後ろ髪を引かれる思いのまま、オークションが進行していくのを指を咥えて見ているしかなかった。
ちなみに3番の没原稿は400万モルポンド、5番の冒険録は1000万モルポンドの一人勝ちだった。
そして、オークションも最後の一品まできた。
今回のメイン、今夜のオークションが盛り上がる最大の理由。
それでは本日、最後の品物を紹介しましょう!
これなるは最も熱い噂!我らの女王を脅かすにっくき反逆者にして、あの尊きエインセルに“ブリテンを救うもの”と約束された勝利の子!
見たこともない“鉄の武器”を手にキャメロットを襲撃し、大穴に落とされながらも這い上がり、『名なしの森』から生還した勇者!
果たして予言は真実なのか!?
それは皆様の目でお確かめくださいませ!!
ロットナンバー・ファイナル!!
『予言の子』でございます!!!
照明の落とされたステージに、一気に光が広がる。
そこに現れたのは檻に閉じ込められた赤髪の青年だった。
「おじいさんだよ!!!」
隣に座っていた立香が思わず叫ぶ。
「おう、爺いで悪かったな!!!」
会場のボルテージが最大になる中、立香のお爺さん発言に反応するのはどれだけ耳がいいのだろうと思いつつも立香たちに視線を向ける。
「えっと、ひとまずあの人はマシュさんではない……ですよね?」
「あっ、うん。マシュではないんだけど。放っておけるほど他人でもないというか……」
「じゃあ予定通り買いの方向で行きましょう!」
「この“なんか思ってたのと違う”という空気感なら僕の用意した7000万で十分に競り落とせる。まずは100万からの様子見といこう!」
オベロンのその言葉から落札が始まっていく。
「100万からスタートです!200万……300万……400万……500万!アリア様御一行、500万モルポンドです!他に手を挙げる方いらっしゃいますか!?」
「どうしてわたしの名前なんですか!?」
「さっきの招待状の意趣返しさ!これくらいで済ませたことを感謝してくれたまえ!」
「オーーベーーローーンーー!!」
オベロンとそんなやりとりをしていくと司会の声が次に進行していく。
「では500万でストッ───でました!1000万!1000万です!盛り上がってまいりました!!1000万、他に手を挙げる方はいらっしゃいますか!?」
「あっ、やめやめ、ここまでにしておこう。おーりた」
オベロンがそんなことを呟いているが関係ない。
どうせわたしの名前でオークションに参加して他の人たちが代理で行けないならわたしに決定権がある。
「2000万!2000万モルポンド!!あーもうめんどくさい!7000万モルポンド!これでどうだー!」
「7000万!7000万モルポンドです!これはもう決まりか!?今落札のハンマーを……」
「1億モルポンド。どこの成金妖精か知らないけど身の程をわきまえなさい。この私に競り勝とうなんて、ブリテンが滅びるくらいありえないわ」
「な、なにおう!ま、まっけないぞー!それならわたしの私財とオベロンの土地を担保にして1億1000万モルポンドだー!」
「ちょっ!狂っているのか!僕の土地を担保にしても1000万もならないぞ!」
隣で真っ青な顔をしているオベロンを放ってオークションは進んでいく。
「おお、おおっ!これはわたしの手には余るオークションとなりました。ムリアン様、どうかお言葉を……!どちらの買い手に、より確かな支払い能力があるのでしょうか!」
司会を務める妖精がステージの上で見つめていた妖精へと問いかける。
かつてないほど高額なオークションに会場の熱気は最高潮だった。
「いいでしょう、オークショニアは下がりなさい。判断の難しいものとなりましたので、ここからは私、ムリアンが取り仕切ります」
「真偽はともあれ、今夜のオークションの目玉は『予言の子』です。これを買い上げるには相応の品格も求められましょう」
「最後まで残られたお二人。どうぞ、ステージにお上がりください」
「ふうん、そういうこと。わかってるじゃないムリアン。品格で私が負けるわけがない。下品な成金妖精の公開処刑ってワケ」
なんとなくだけど、相手が誰なのかはわかっていた。
気がつけば立香の手を取ってステージの方まで走っていたのだ。
観客席から全ての客の目が集まるステージの上へ。
向こうからヒールの音を鳴らしながら歩いてくる相手の方を見つめる。
「な、なんで私まで?」
「1人で戦うのは心細いので、一緒に戦ってください!」
そんなやりとりをしている間にステージには見覚えのある赤い妖精がいた。
「では、あなたから名乗り上げをどうぞ?レディ・スピネル。いえ、妖精騎士トリスタン様。とお呼びするべきですか?」
「ええ、そっちの名前で構わないわ。女王モルガンの娘にしてこのブリテンの正統後継者。あなたの名前はとっくに知ってるけど、みんなに自己紹介してくださらない?」
先ほどまでとは違う女王の子として相応しい所作のトリスタン。
口の悪いあの子の方がわたしには馴染み深いけれどそれでも名乗れと言われたからには“今の名前”を名乗るべきだろう。
「わたしの名前は───」
「いっとくけど、
「っ───」
「お前がなんなのか、私は知ってる。そりゃそうだろ、お前つい最近までキャメロットにいたんだから」
妖精騎士トリスタンが笑う。
この場の全ての妖精に聞こえるように、わたしがみんなに隠していた本当の名前を告げる。
「アルトリア・キャスター。お前あのエインセルが告げた予言の子なんだって?」
「えっ……?」
「っ!」
「お母様とアーデルハイトからしっかり聞いておいて正解だったぜ。その手にもつ杖が楽園の妖精の証、ソールズベリーに救世主トネリコが納めた選定の槍と同等の選定の杖……そうだろ?」
「なるほど、そうなれば彼女の隣にいるのはエインセルの予言にあった異郷の魔術師。ブリテンを救う星となるべく現れた予言の子の道標になるもの」
「私のこともしっかりバレてる!」
「……最悪。招待状を渡したの、これのためでしょ」
「だから言ったろ?“大人しくしてろ”って。私の忠告を破ったのはお前な?」
「イヤミにも程があるでしょ。そんなにわたしをキャメロットに戻したいってこと?」
「さあ?私はアーデルハイトにあいつの分のチケットもらったのをお前にくれてやっただけ。こんな状況になったのはお前自身のミスってワケ」
「……このぉ」
一触即発の空気。
どちらの手にも魔力が集まり、あとはその魔力を解放するだけで。
「お二人とも、この場での戦闘はお控えください。このような場になった以上、お二人には品物を買っていただく義務があります。妖精騎士トリスタン様に予言の子アルトリア・キャスター様。お二人の価値はこの場において対等であるとこの私が判断します」
「自分で言っておいてあれだけど、この田舎妖精と同等扱いされるのはムカつくって話。品格も強さも私の方がどう考えたって上だろ」
「では、魔術では?あなた様は女王モルガンの娘、女王陛下と妖精騎士長から賜った魔術の腕前と予言の子との魔術の勝負なら文句のつけようもなく結果ははっきりするでしょう」
「このブリテンにおいて、必要のないものである魔術という学問。それを真に学び修めるあなた方においてはそれこそが本当に価値のあるもの。魔術に関する姿勢だけは、あなた方2人において嘘偽りのないものではなくて?」
「「───」」
ムリアンの言葉に、わたしとトリスタンの言葉が止まる。
確かにそうだ、わたしとトリスタン。
2人に共通するのは魔術を修めた魔術師という共通点。
トリスタンはモルガン陛下とアーデルハイトから。
わたしは基礎を教えてくれたマーリンと実用的なものと戦うための魔術を教えてくれたレイン。
これだけはこの子には負けられない、と心の中で確かな火が燃える。
「まあいいわ、魔術だけでこいつを倒せばいいってワケ。どのみちお母様がブリテンに出していた予言の子をキャメロットに連れ帰れという命令自体は16年も前から発令されたまま。ここで適当に痛めつけて連れ帰ってやるよ」
「ふん、魔術での勝負でだけは負けられない!モルガン陛下の娘がなんだ!妖精騎士長の愛弟子がなんだ!わたしはレインからより実践的で実戦的な魔術をしこたま教わってきたんだ!田舎妖精の根性、舐めるなー!」
互いに再び魔力を操作する。
今思えば、レインに教わった時を除いて初めての魔術師との戦いだ。
「わたしはアルトリア・キャスター!妖精騎士トリスタンに魔術師として勝負を挑む!」
「いいぜ、かかってこいよ!お前のその自信ボロボロに叩き折ってやる!」
こうして、グロスターのオークション会場においてオークションよりも盛り上がる予言の子と女王の娘の魔術戦が幕を開けたのだった。
色々ぶっ飛ばしてきましたがやってきましたアルトリアvsバーヴァン・シー。
次回はこの小説ではかなり久し振りとなるカットなしの戦闘描写になりますね。
……で、出来るかな(震え)
流石に細かいところを思い出すためにストーリーを読みながらやってると時間かかりますね。
冒頭の方は本当に思い出せなくて困り果ててます。
まあこの小説の本番はどちらかといえばモルガンが出てくるところと崩壊編の方なのでアルトリアの巡礼の旅も原作準拠の所は今までのようにカットしていきますのでそこはなんとなく皆様で保管していただければ。
では次回でまた会いましょう。
皆様の感想と高評価、お待ちしてます。
お気に入り登録とここすきもお待ちしてます。
アヴァロン・ル・フェの更新について
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今まで通り月に3〜4話見れればいい。
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待ってもいいからストックして放出
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別に気にせんでええねんで(^ω^)