お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第五旋律 『予言の子vs女王の娘』

 

このブリテンにおける初の魔術師同士の戦い。

それは奇しくも数百人にも及ぶ観客に見守られながらのものとなった。

妖精たちにとっては必要のない学問であり、技術であり、神秘である。

しかし、その不要なものを修めた女王がこのブリテンにおける最強の存在であるのも事実。

故に、オークション会場に集った妖精たちは見定める。

“ソレ”が自分たちの興味をそそるものなのか。

“ソレ”が自分たちに何をもたらすものなのかを。

 

 

「っ!弾けて!シャスティフォル!」

 

「てめぇ、その名を軽々しく口にするんじゃねぇ!」

 

「ふんっ!悔しいなら真似てみれば!?」

 

光の剣がトリスタンに向けて放たれ、それを危なげなく相殺する。

魔術につけられたその“霊剣”の名にトリスタンは憤るがアルトリアはどこ吹く風、むしろ煽り散らかす始末である。

 

しかし、トリスタンとてやられてばかりではない。

呪いを帯びた魔術を起点としながら様々な攻撃魔術を繰り出し続ける。

流石は女王の娘であり妖精騎士長の愛弟子と言ったところか。

アルトリアは次々に放たれる強力な呪いに対して“一撃当たったらまずい”という直感じみた感覚に従って的確に防御、あるいは回避を選択して攻撃をいなし続けていた。

 

(宝石のストックはまだ沢山ある。あの子もかなり強いけど、魔術のバリエーションと完成度ではまだわたしの方が上。たぶん、礼装を使い分けることでたくさんの魔術を使うタイプなんだ。それなら、この杖を触媒にして聖剣魔術をたくさん使うわたしの方が取れる択は多い……!)

 

アルトリアにとっての唯一の自信。

それはレインフォートに教わった攻撃魔術の多さとその実用性。

そして、彼を驚かせた“聖剣の名を冠した魔術”に特化したその完成度である。

 

(当てる必要なんてない、倒す必要もない。ただあの子が追いつけない速度でたくさんの魔術を撃ち込めばいい……!予備の魔力はまだ沢山あるんだから!!)

 

魔術に対して掛けた時間。

大好きな人に教わって認められた唯一の繋がり。

それだけはアルトリアにとって唯一誰にも負けられないものだった。

 

(……こんなことになるならアーデルハイトに無理言って礼装持ってくるんだった。フェイルノートは使えない、私の使う魔術は呪い特化でどちらかと言えば念入りな準備をして行うものだってのに)

 

アルトリアから放たれる煌びやかな数々の魔術。

流石は楽園の妖精、生まれながらにして魔術の素養を与えられた存在だと妖精騎士トリスタンは内心で舌打ちする。

絶対的なセンスの差、このブリテンに生まれた自分には本来必要ないはずの魔術を無理やり使っているのだから本来生まれ持って使えるものとの差が明確なのは誰よりもわかっていた。

 

しかし、負けられない。

個人的に気に食わないというのはもちろんあるけれど、モルガンの娘としてこの國を継ぐものとして、なにより“こんな自分”を大切に育ててくれたあの2人の面目のためにも、負けるという選択肢は存在しなかった。

 

それに呼応するようにトリスタンの放つ魔術も苛烈さを増す。

ありとあらゆる呪いの魔術を以て、目の前に対峙する輝かしい光の魔術に対抗する。

 

轟音。

爆撃じみた炸裂音が魔術同士を相殺するたびに生まれ、ステージの上に次々と爆発痕とクレーターを作り出していく。

しかし、アルトリアもトリスタンもまだ応用の利いた魔術は何一つ使っていない。

アルトリアはレインフォートから教わったクラレント、ガラティーン、アロンダイト等の技は使っていないし、トリスタンとて破壊力の高い魔術は出来るだけ避けていた。

 

だが、トリスタンの放つガンドをはじめとした呪いの付与された魔術は連射性能が高く、アルトリアの使う魔術も速度重視のものが中心だ。

戦況は互いに様子見という形をとっていることで未だ数分という時間が経過していても有効打が得られない状況にあった。

 

(……やっぱり、手札が少なくても使い方が上手い。ガンドを応用して直射砲として扱うなんて全然思いつかなかった!速度も速いし精度だっていい、本人が飛ばしてくるガンドの数も威力も高いから相殺するので手一杯になってる!)

 

(手数では私の方が上、多分今の状況を続けるなら相手の粘り次第ではすぐに決着がつく。でも、ここで油断しちゃダメよバーヴァン・シー。最後まで気を抜かないんじゃなくて、最後だからこそ気を抜かない。アーデルハイトに口を酸っぱくして言われたこと忘れるものですか)

 

トリスタンのアルトリアを観察する視線が鋭くなる。

自分のものと比べて輝かしい光の魔術を、まだ使ってきていないであろう奥の手だって必ず見切って───

 

「───は?」

 

視界の外、気がついた時に自身の周りにいくつか転がっていた宝石。

ルビー、サファイア、エメラルド、アメジスト、トパーズ、オパール、ガーネット。

どうしてこんなところに?なんて考えるよりも早く一瞬停止したその隙を見逃さないと言わんばかりに、対峙する相手から声が聞こえてきた。

 

「───告げる(セット)

 

それは魔術の起動のための詩。

やばい、とトリスタンの中で焦りと共に散らばっていた宝石の配置を見て愕然とする、大きく自分を囲むように設置されていた7つの宝石。

その一つ一つが輝きを放ち、その内に秘めた魔力を解放せんとその光を強くしていく。

 

避けられない。

 

ならばせめて術を発動させる前に相手の意識を奪って───!

 

放った呪詛は、アルトリアの周囲に展開された不可思議のバリアに阻まれた。

 

何発も、何十発も、百を超える呪詛の弾丸、収束砲をぶつけてもその護りを抜くことは出来ない。

 

それこそ、楽園の妖精であるアルトリア・キャスターに与えられた究極の特権。

ありとあらゆる攻撃から身を護る、究極の概念防御兵装。

ワールドエンド級の攻撃すらその防御を破ることができないとされる守護における最強の盾。

 

アルトリア・キャスターが生まれた頃から使えた彼女にのみ許された宝具(魔術)

 

対粛正防御、『きみをいだく希望の星(アラウンド・カリバーン)

 

いくつかある彼女の宝具の効果の中で、最も強い効果を持つ最強の守りが無数に襲いかかる呪詛の嵐からアルトリアを守っていた。

 

「私は願う、私は祈る」

 

「天から降り注ぐ光の刃、曇天の空を切り裂く神の剣よ」

 

「輝ける王剣に内包された神秘の雷撃よ」

 

「我が道を阻むものに、裁きの雷を───!」

 

宝石が砕ける。

瞬間、周囲に霧散した魔力に指向性が与えられ、それは空を切り裂くような轟音と共にヒカリとなってトリスタンへ向かう。

 

「レイン・クラレント……!」

 

号令と共にステージに無数の蒼雷が落ちる。

それは、円卓の騎士モードレッドの宝具を魔術に落とし込んだ雷。

レインフォートが時間神殿で使用した対軍用殲滅魔術。

今のアルトリアには自前の魔力だけでは展開できないものでありながら、宝石7つを消費することでその雷を呼び起こすことができる。

逃げ場をなくすように彼女の周囲に小規模な雷を落とし、アルトリアの号令と共にターゲットへと降り注ぐ。

 

獲った。

 

アルトリアの中に宿った確かな手応え。

早撃ちの魔術に織り込んで設置していた宝石と完全に不意をついた雷撃。

相手は対応できてない、直撃すれば決着がつくくらいの威力は間違いなくある。

 

一際大きな轟音とステージに落雷で焼き切れたステージの破片と煙が立ちこめる。

 

油断することなく、直撃させたであろう相手の姿をその場から動かずに確認しようとして、煙の先に別のシルエットがあるのが見えた。

 

 

「素晴らしい魔術です、流石はあのお方から魔術を教わっただけはある」

 

聞き覚えのある低い声がアルトリアの耳に届く。

煙が晴れたその先にいたのはトリスタンの前に立つ金髪の男性の姿。

右手にはかつて彼の主から託された聖剣の原型である“霊剣シャスティフォル”が握られていた。

 

「っ!アーデルハイト!」

 

「宝石に気がつくのが遅れましたねトリスタン。アツくなるのは構いませんが、もう少し周囲への視野を広めるべきでした」

 

「それは……いや、そうよね。アーデルハイトの言う通り」

 

アーデルハイトに嗜められ、反論しようとするがすぐに彼の言う通りだとトリスタンは頷く。

それを見てアーデルハイトはアルトリアと彼女の陰にいた藤丸立香へと視線を向けた。

 

「アルトリア様、モルガン女王陛下より言伝を預かっています。『我が軍に刃向かうのは構わないが、鐘だけは鳴らさないように』とのことでした。あと『あまり厄介ごとを首を突っ込んで“彼”に心配をかけないよう』と」

 

「…………」

 

「魔術戦の勝敗についてはアルトリア様の勝ち、妖精國初の魔術戦観覧の対価として此度の金銭については私が持ちましょう。1億1000万モルポンド、後日早駆けの騎士に持たせてムリアン殿に届けさせます」

 

「妖精騎士長アーデルハイト様がそう仰るのならそれに従いましょう。金銭に関してはそのように。では、この勝負につきましては予言の子アルトリア・キャスター様の勝利で閉幕とさせていただきます」

 

ムリアンの締めの言葉に、会場から歓声が上がる。

妖精騎士トリスタンにとってはプライドを賭けた戦いだった。

アルトリア・キャスターにとっては師の教えを証明するための戦いだった。

だが、彼らにとっては未知の見せ物であった。

 

「ああ、それと───」

 

立ち去る直前、アーデルハイトの視線が千子村正に向く。

 

「私たち妖精騎士は女王陛下より貴方の抹殺命令が出ています。此度はアルトリア様が“購入した商品”として見逃しますが……もし、女王軍に牙を剥くようなことになるのなら、その時は容赦なく斬り捨てますので」

 

「儂だって買われた命だ、そう簡単におっ死ぬワケにはいかないんでな」

 

「……貴方に関してはわたしっていうより立香にお礼言ってよね」

 

「あはは……でもなんとかなってよかった」

 

「あなた方も、これ以上余計なことをすれば我が軍の討伐対象であることをお忘れなく。今は女王陛下の慈悲によって見逃しているに過ぎません。あなた方はあの海岸に停っている船ごといつ吹き飛ばされてもおかしくないのですから」

 

「…………」

 

アーデルハイトから発せられる圧倒的なプレッシャー。

今まで異聞帯を数多く切り抜けてきた立香にとって最も多く感じてきた最上位英霊から感じる特有の圧力。

翡翠の瞳から感じる殺気にも似た圧力に思わず足が一歩下がりそうになるがそれも一歩耐えて、彼女は妖精騎士長アーデルハイトへ口を開いた。

 

「私たちの目的はあなた達と争うことじゃない。しっかりと話をして、お互いに納得できれば私たちはそのまま立ち去ることにする。だから、モルガンに会わせてほしい」

 

立香がそこまで言い切った瞬間。

彼女の横を斬撃の後が通り過ぎた。

目に見えぬまさに神速の一撃、風切り音すら置き去りにしたその斬撃の後に、驚愕の表情を浮かべながらも立香はアーデルハイトへ視線を向ける。

話ができると思ったから、言葉を尽くそうとした。

しかし、目の前に立つ金髪の騎士の瞳には明確な怒りの感情が宿っていた。

 

「モルガン“女王陛下”と呼べ小娘。我らが臣民でもない異郷の魔術師風情が女王陛下を呼び捨てにするなど万死に値する」

 

「り、立香はまだそんなにブリテンに詳しくないの……!今回は大目に見てあげてほしい……かなって」

 

「…………いいでしょう。しかしアルトリア様……女王陛下への無礼、その小娘とその仲間ともども二度目はないと思ってください」

 

「うん、ごめんなさい。それから、ありがとう」

 

「いえ、私は私の役目を果たしているだけですから。では、帰りますよトリスタン」

 

「あ、ええ……。わかったわ」

 

モルガンが彼に与えている水鏡の応用魔術が込められた合わせ鏡の短剣。

それが空間を切り裂いて現れた水のゲートに2人は消えていく。

 

ムリアンの雇っているスタッフ達の案内で気がつけば観客席の妖精達は姿を消していて、残されたのは予言の子と星見のマスターと仲間達だけ。

ひとまずの安堵となんとか乗り切ったという気持ちが、アルトリアの緊張の糸をほぐしていく。

 

だが、それよりも

 

「モルガン陛下直属の妖精騎士長の前で呼び捨てとかどんだけ命知らずなの!?」

 

「私もまさか名前呼んだだけで斬りかかられるとは思ってなくて……」

 

これが本当に世界を救う魔術師なのだろうか。

アルトリアは目の前にいる少女のことで頭が痛くなるような気がして、思わず眉間に指を当ててしまうのだった。




みなさんフローラちゃんのバレスト見ました?
見たよね?見たよな?見たと言え。

めっっっちゃかわいかったですよね。

今年は去年新しくお迎えできた子達のストーリーをしっかり見てきたんですけど、相変わらずニヤニヤ出来て最高に笑えて楽しいバレンタインイベントでしたね。

それはそうと、プロトギルはいつ出るんです?
もう実装11年待ってるんですけど???????

ゲフンゲフン。
ひとまずプギルは置いといて本編の話をば。
今回はアルトリアvsバーヴァン・シーの一回目でしたね。
なんだか本編よりもちょい強そうなアルトリアとちゃんとしたお師匠がいるおかげで自分の力不足をしっかりと認めることのできるバーヴァン・シー。
お互いに本編よりも少し成長した状態でのバトルでした。
今回のバトル、皆様が楽しめればいいのですが……なにぶん戦闘描写はかなり苦手でですね……ハハッ

そしてこれまではモルガンやお兄様とセットだったアーデルハイト氏、ついに登場です。
……え?バーヴァン・シーを迎えにきたって?

まあ それは そう ね

しかしぃ?彼が出てきたことでぇ?
アルトリアがモルガンや妖精騎士たちと面識があって関わりがあったことがどんどん暴露されていくのはシンプルに地獄だとは思わないかね?


それではまた次回でお会いしましょう。
皆様の感想と高評価、お待ちしてます。
お気に入り登録とここすきもお待ちしてます。

アヴァロン・ル・フェの更新について

  • 今まで通り月に3〜4話見れればいい。
  • 待ってもいいからストックして放出
  • 別に気にせんでええねんで(^ω^)
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