お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
「お・じ・さ・ま♡」
「…………果てしなく嫌な予感しかしないけれど、ここにどうやって入ってきたんだい?」
グロスターのオークションから翌日。
あれからアーデルハイトと共に帰城したトリスタンはモルガンの娘となってから身につけたワガママ姫としての性格をフルに発揮して自分の師であるアーデルハイトに無理を言ってレインフォートが監禁されている部屋に忍び込んでいた。
「まあ、その辺りはいいでしょう?それよりも、教えて欲しいことがあるんだけど」
「モルガンのことならかなり話したと思うんだ」
「違うわよ、今回はあの田舎妖精……伯父様の娘のアイツのこと」
「……アルトリアのこと?ああ、そういえば」
「全部言ったら呪うから。それに私の魔術は事前に準備をしてしっかり呪うタイプのやつでタイマン向けじゃないの。伯父様ならそのくらいわかるでしょ?」
「まあ、そうだろうね。アルトリアと君ではそもそも魔術師としてのタイプが違うのはもっともだとも。それでも善戦した方だとは思うけどね」
なにせ、アルトリアに宝石を使わせたのだ。
あの戦いは僕も千里眼で観測していた。
間接的にとはいえ娘と姪の魔術戦。
モルガンとアーデルハイトが教えたトリスタン。
僕と“マーリン”なる妖精が教えたアルトリア。
お互いにとっていい研鑽戦になればとは思うけれど、残念ながらあの時かけていたのはお互いの“価値”と“矜持”を示すためのものだった。
結果として、宝石を数個使ったアルトリアの戦術勝ちという話に落ち着いたわけだが……それでこの娘が『はいそうですか』で終わる性格ではないのはこの一年に満たない付き合いでわかっているつもりだった。
「アーデルハイトの言う通り、あの時は視野が狭くて対応が遅れたせいで負けたのは否定しない。だけど、お母様もアーデルハイトも宝石を起点にした魔術なんて教えてくれなかった」
トリスタンは歯を食いしばり、悔しさに顔を歪める。
「……私、勉強家なの。自分を負かした魔術を研究しないなんてあり得ない、それが私にも使えるものならしっかりモノにしないと気が済まない。そうじゃなくても理論を知っていれば対策だって出来るじゃない?」
灰色の瞳が、真っ直ぐにこちらを見つめる。
自分の知らない知識に対する飽くなき探究心。
いつかのトネリコを思わせる魔術への興味。
そして、関わっていくうちにわかってきた彼女の本来の善性。
今は負けたアルトリアが使用した宝石魔術に対抗するためにその理屈をしっかり自分のモノにしようとしている。
「───あまり詳しく話すとアルトリアが不利になるから理屈だけなら教えてあげよう」
「十分。宿題にして答え合わせはこっちでやるから」
「勉強家らしくて結構。あの子が使ったあの宝石たちは魔力が少ないアルトリアが大規模な魔術を使うために日々の余剰魔力を宝石に蓄積した物でね。簡単にいえば小さな魔力タンクを複数持ち歩いてる状態なんだ」
「……なるほど、アイツの魔力だけじゃあの雷は使えなかった。だから宝石を7つもばら撒いてその魔力を使って」
「そう、基本的に妖精に魔術の概念はない。空想具現の能力を活かしてなんでも再現できてしまうからね。しかしそれは僕たち妖精には妖精紋様という強力な神秘が宿っているからで、魔術回路とは違う器官だ」
「その辺りはお母様から教わった。お母様やアイツみたいな特別な妖精……あと伯父様もか……そんな奴にはもとから魔術回路が備わっていてそれを使ってるって」
「そうだね。アルトリアは魔術回路は膨大なものを持っているけれど、少し特殊な理由で制限がかけられているんだ。そのせいで今は普通の妖精よりも少し少ないくらいの魔力しか使えない。だからこそ、僕が教えたのは『魔力が足りないのなら外部から持ってくる』という案だったわけだ」
「アレで普通の妖精よりも魔力が少ない?冗談でしょう?だってアイツあんなにバカスカ魔術撃ち込んできて…………ああ、そういうこと」
そこまで口にして、彼女なりに何かに気がついたように何度も頷いた。
そう、あの時アルトリアが使っていた魔術の数々は───。
「私にとってのガンドくらいの消費しかなかったんだ。あんなに煌びやかで強力な魔術が……チッ、ハナから舐められてたってこと?」
「それは違うね。むしろ君のような魔術師と戦うからこそ数を撃てる速射の魔術を選んだんだろう。クラレントの魔術を君が対応出来ていたら負けていたのはアルトリアだっただろうね」
速射の魔術に織り交ぜて的確に配置していた7つの宝石。
トリスタンを囲んでいる最中にその意図がバレていたら。
トリスタンに宝石魔術の基礎知識があったら。
切り札としてクラレントを用意していたアルトリアは負けていただろう。
「結局それって“たられば”ってやつでしょ?魔術で負けたのはめちゃくちゃムカつくけど、ヒステリーになって対策しないんじゃそれこそ話にならないっての」
「君、普段からその性格ならもっと好かれるだろうに」
「……それは無理。お母様に言われたから、アーデルハイトがそう願ったから。そうじゃないと私は生きていけないって」
「───すまない、無神経な発言だった」
「別にいい、この私を知ってるのは……私を愛してくれる人たちだけで」
「…………」
「あっ、言っておくけど伯父様は特別な?お母様のことたくさん教えてくれたし、アレ以降お母様とお茶会できる回数増えたんだぜ?」
さっきまでの真剣な顔はどこへやら。
ニコニコと笑ってそんなことを言うトリスタンに僕も思わず笑みをこぼしたのだった。
****
「アリアの本当の名前はアルトリア・キャスターで、レインさんはアルトリアを拾って色々教えてくれた親みたいな人で」
「挙句の果てには数ヶ月前まではモルガンの勅命でブリテン中をそのレインって妖精と旅をしていたって……?」
「おまけに喧嘩別れ同然でキャメロットから飛び出してあの家に、ねぇ」
「あ、あはは……まあ、そんな感じというかぁ……」
おめめぐるぐる。
アルトリアは自分の身のうちを全て話し切って立香、オベロン、虞美人を前に囲まれて逃げられないように詰められていた。
「……そもそも騙すつもりとかなかったし。もともとソールズベリーまで案内して別れる予定だったからセーフじゃん」
「確かにそうなんだけど……」
「しかし、ガウェインに攻撃した以上仲間じゃないか。話してくれるタイミングなんていくらでもあったと思うけど」
「逆に聞くけどわたしの立場で簡単にモルガン陛下に敵対しようとしてる人たちに自己紹介できる?」
「まあ、確かにそうだよねぇ」
オベロンの問いかけに逆に問いかけるアルトリア。
そしてそれに理解を示すダ・ヴィンチ。
「どちらにせよ、お嬢ちゃんがアルトリアなんだな?」
「え?はい、わたしがアルトリアです」
「なら、儂はお前に命を買われた恩があるわけだ。それに、そのレインって奴にも命を救われた対価がある。お前がどんな選択をしようとこの命の代価を支払うまではキッチリ守ってやるさ」
「え、大丈夫です。わたし、自分の身は自分で守れるので」
「その胡散臭い爺を見る目をやめろっての」
あんまりにも塩な返答に思わず苦笑いをする村正。
しかし、キャメロットを襲撃した際の取引を無下にするわけにもいかない。
千子村正、受けた恩はしっかりと返す男である。
「……まあ、バレちゃった分には仕方ないや。アリアでもアルトリアでも好きな方で呼んで?わたしにとってはどっちも大切な名前だから」
「……じゃあ、アルトリアって呼ばせて?」
「うん、それじゃあ改めてアルトリア・キャスター。マーリンに魔術の基礎を、レインフォート・アーデルハイトに魔術の応用と攻撃魔術を教わった魔術師兼彫金師見習いの妖精です。わたしを信用するかどうかとこの先もわたしと一緒に行動するかは皆さんにお任せします」
レインフォートに教わった一礼で立香たちに向けて行う。
『まあ、ここで別れてくれたほうがわたし的にはいいんだけど』
とも言葉にしなくても思っていたわけだけれど。
「大丈夫、アルトリアは嘘なんてつかないって信じてるから」
しかし、返ってきたのは立香からのそんな言葉。
その真っ直ぐな瞳と、裏のない綺麗な言葉に思わずため息をつきそうになる。
「わたし、モルガン陛下に直接楯突くことは出来ないからね」
そんな言葉だけしか、いまは彼女に返せないのでした。
──海の底で蠢く漆黒の腕。
呪われよ、呪われよ。
罪を認めよ、罪を認めよ。
汝らの罪を認めよ。
妖精たちに災いあれ。
これは、祭神の怒りである。
今回の話はノリッジの厄災前の幕間ということで短めに。
ここからノリッジまでの行間はたいして本編と変わらないのでスキップします。
それはそうと、みなさまは水怪クライシス楽しんでますか?
作者はゆっくりとストーリーを見ながら我らが女王陛下の可愛らしいシーンをスクショしています。
久しぶりに我らが女王陛下が活躍できるイベントで嬉しい反面、いろんなものが現実で押し寄せてきて集中してやる時間が取れないジレンマ……!
ここから一気に物語が進むかも……?しれないのでお楽しみいただけると嬉しいです。
それではまた次話でお会いしましょう!
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アヴァロン・ル・フェの更新について
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今まで通り月に3〜4話見れればいい。
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待ってもいいからストックして放出
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別に気にせんでええねんで(^ω^)