お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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今回マジで難産でした。


第七旋律 『はじまりの厄災祓いⅡ』

 

───呪われよ、呪われよ。

 

妖精たちに禍あれ。

 

神を欺いた罰を受けよ。

 

汝らの王を手にかけた罪を受け入れよ。

 

海より来るは祭神の怒り。

 

大地を呪うは祭神の苦しみ。

 

空を貫くは祭神の悲しみ。

 

顕現するは祭神の呪厄。

 

ここに、百年に一度の滅びの日が訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大地を鳴らす轟音。

 

海を割るような津波と共にノリッジの海岸に巨大な呪いの影が現れる。

 

誰もが本能的に理解する、それは百年に一度の厄災。

 

誰もが自身の街に現れないようにと願う。

 

誰もがその影に恐怖する。

 

そして、誰もが願うのだ。

 

“女王陛下がこの悪夢を終わらせてくれる”と。

 

 

 

「───来たか」

 

玉座の間で、モルガンが訪れた厄災を感知する。

いつもならば、すぐに水鏡を極大展開して自身のいる“過去”へと厄災を送り飛ばして過去の自分に倒させていた。

しかしモルガンには厄災が現れたノリッジに誰がいるのかわかっていた。

 

「アーデルハイト、妖精騎士3人を連れてノリッジへ向かえ。戦力の使い方はお前に一任する」

 

「御意。しかし陛下、もしアルトリア様が厄災祓いを出来なければ……」

 

「いつも通り水鏡の用意は終わらせてある。お前たちが現着してから1時間で祓えなければ私が対応しよう」

 

「承知致しました。では妖精騎士を招集してノリッジへ向かいます」

 

一礼をして玉座の間からアーデルハイトが立ち去っていく。

現れた厄災にキャメロットの城内も慌ただしくなっている。

ノリッジというそれなりに人口の多い街で厄災が現れたとなれば被害はそこそこ出るのは確定している。

 

いつもならばこの程度の厄災なら現れてから10分足らずで対応を終わらせる。

しかし……いまあの場に自分の後継となる楽園の妖精がいるのならば話は別だった。

 

「アルトリア、お前がお兄様から得た魔術の成果。我が娘を打ち負かしたその実力を見せるがいい」

 

女王は遠見の魔術でノリッジの街を見る。

その瞳の先には、海から呪いを撒き散らしながら接近する巨大な腕のような影が迫ってきていた。

 

 

 

 

 

****

 

ノリッジの街は混乱を極めていた。

隣人が突然モースと化する恐怖、海から無制限に湧いてくる呪いの軍団。

妖精たちは触れるだけでモース化してしまうことを理解しているからこそ、一心不乱に逃げ回る。

そう、それがたとえさっきまで話していた友人であろうと。

 

「…………なに、これ」

 

アルトリアは目の前で起こっている事態に茫然としていた。

地獄、というにはあまりにも惨い。

倒しても倒してもキリがない呪いの軍勢。

触れただけで増えていく災厄の呪い。

 

逃げ惑い、蹴落とし、そして逃げ遅れたものが呪いに変わる。

 

「……なんなの、これ!」

 

アルトリアの人生における最も醜い光景。

妖精たちの罪のカタチ、100年に一度訪れる厄災の光景だった。

 

「……100年に一度訪れるという厄災だ」

 

「厄災……?」

 

「災害、というにはあまりにも規模が大きい。その時々によってカタチは違うけどその被害は毎回計り知れないというやつさ」

 

「原因は……?」

 

「あの海に見えるデカい腕だろうさ。あれの近くからモースが湧いてきやがる」

 

村正の言葉に続くように全員の視線が海の方に見える巨大な影に向く。

視界に入れるだけで吐き気を催すような憎悪を感じる。

背中に冷たいものが流れる感覚が強く感じる。

 

一歩踏み出すための勇気が、湧いてこない。

 

「……あの程度の厄災相手にビビってんなよ。それが仮にも私に勝ったやつの姿なワケ?」

 

気が付いたら、数日前に戦った赤い少女の声が聞こえた。

 

「……トリスタン?どうしてここに……?」

 

「どうしても何もお母様の命令だからよ」

 

突如隣に現れたトリスタンに驚く暇もなく、少し離れたブロックで大きな爆発音と共に炎が奔る音が聞こえる。

それに上空から垂直に降下して一瞬でモースを殲滅していくランスロットの姿が幾度となく視界に入った。

 

「此度の厄災、女王陛下の準備完了までにはあと1時間程度がかかります。アルトリア様、それに星見の魔術師とサーヴァント。我ら妖精騎士はそのための時間稼ぎにこのノリッジへ派遣されました」

 

「……1時間?そんなに時間かかったらこの街が!」

 

「……ではどうされますか?」

 

「…………っ!」

 

厄災祓いなんて絶対に無理、心の中ではずっとそう思っている。

 

「何もせずに立ち去るのもそれは賢き選択でしょう。ここで立ち尽くしているよりは何倍もマシというものです」

 

遠くの方で、鈍い鈍器を振るう音がした。

 

「予言の子であろうと、まだ16歳の少女。その選択は決して恥ずべきものではありません」

 

いつのまにか、隣にいた立香も虞美人も村正もオベロンもモースとの戦いを始めていた。

 

「───マシュ!」

 

「やっと合流できました!指揮をお願いしますマスター!」

 

立香が大切な人と手を取って戦っていた。

わたしと、そんなに歳も変わらないはずの普通の女の子が。

 

「あなたが何もしなくとも、どれだけ被害が拡大しようとも、1時間後にはモルガン陛下が対応してくださるのですから」

 

「……このっ!」

 

チクチクチクチクと!

さっきからずっとわたしに向かってそうやって!

 

「戦って欲しいなら最初からそういって!わたしは貴方たちのおもちゃでもなんでもない!そんなにやってほしいならやってやる!」

 

非常に頭にきた。

一瞬で頭に血が昇ったといってもいい。

妖精騎士長がなんだ!モルガン陛下の第一の騎士がなんだ!

 

そう思った時には杖を握りしめて駆け出していた。

 

「ごめん立香!わたしも戦える!」

 

「うん!アルトリア!マシュ!先輩にオベロンにおじいちゃん!みんなでアレを止めよう!!!」

 

 

そうしてわたし達のはじめての厄災払いが始まったのです。

 

 

 

 

 

 

とはいっても、海から延びるあの大きな腕に攻撃する暇なんて一切なくて迫り来るモースの大群を妖精騎士も含めた10人に満たない戦略で押し留めるのが限界であって……

 

正直あそこまで意気込んだのに『モルガン陛下はやくして』くらいに思い始めていたのです。

 

遠くの方ではもはや見慣れた妖精騎士達の暴れっぷりが凄くて嫉妬の感情すら湧かなくなったり。

近くは近くでテーブルっぽい盾を振り回してモースを蹴散らすマシュさんに呆気に取られたり。

 

「キリがない……けど、頑張りましょうアルトリアさん!」

 

「う、うん!」

 

なんてまっすぐで美しい目で言われたら弱音なんて吐いてる暇なんてなかった。

もうがむしゃらに使える魔術全部使ってモースを消し飛ばして、宝石もたくさん使って魔術を行使してるけど無限と言っても差し支えないくらいのモースにうんざりしてしまう。

 

「ああもう!全然アレに攻撃できないじゃん!」

 

「流石に無限湧きは分が悪い……先輩の宝具で吹き飛ばしたってすぐに埋められるんじゃ決定打にならない。飽和攻撃をする人員もいないし、仮にできたとしてもそれを連射できるだけの魔力は……」

 

状況を俯瞰的に見て、指示を飛ばしていた立香は口元に手を当てて考え込んでいた。

 

本当に打つ手無し、というしかなかった。

 

わたしの魔術、村正の刀、虞美人の剣、マシュさんの盾、オベロンのキラキラするだけの魔術……。

妖精騎士達は別のブロックで被害を抑えるのに手一杯でこっちにくる余裕なんてない、本当に手詰まりというしかなくて……。

 

やってやる、なんて大きいことを言ったけれどこれじゃあモルガン陛下が対処してくれるまで粘るのが精一杯だ、なんてネガティブな考えをしていたときだった。

 

「アルトリア!!!」

 

「アルトリアさん!!!!」

 

「え…………?」

 

オベロンとマシュさんの声が聞こえる。

振り返ればそこには一際大きなモースがいた。

あ、やば……そう思った時にはもう手遅れ。

防御の魔術も反撃の魔術も間に合わない、これに触れられたら間違いなく終わりだ。

 

「───ぁ」

 

喉から出るのはそんな声にならない小さな鳴き声だけだった。

杖を抱きしめて小さく蹲ってしまいそうになる。

モースの大きな体がそのままわたしの方に倒れ込んで───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雨よ、汚れを祓え」

 

 

 

聞き慣れた声が、耳に届いた。

それと同時にわたしの目の前を魔力の雨が貫く。

断末魔にも似た音をあげながら目の前にいた大きなモースは消え去っていた。

 

それに続いてわたしの近くに歩み寄ってくるブーツの音。

それはわたしの前で止まっていつものような優しい声が聞こえるのでした。

 

「アルトリア、大丈夫かい?」

 

「れ、レイン……!」

 

「本当は外に出るのは禁止されていたんだけどね、アルトリアのピンチに急いで飛び出てきたんだ」  

 

戯けたように笑う久しぶりにあったひとはすぐに目の前に迫るモースの軍勢と海岸沿いにまで迫っている巨影を見つめる。

 

「レインさん!!」

 

「立香ちゃんも久しぶりだ。以前よりも頼もしい顔になったみたいで何より。それにあそこで暴れ回ってるのは芥だね?彼女も元気そうでよかった」

 

「き、来てくれたのは嬉しいんだけど……」

 

レインが来てくれたことは頼もしいし嬉しかった。

だけど、レインが1人来たところでこの状況がひっくり返るなんて思えなかった。

 

「何はともあれ話よりも先に厄災祓いだ。立香ちゃん、君はこの状況で必要なものはなんだと思う?」

 

「厄災に攻撃を通すために周りのモースを消し飛ばせるほどの飽和攻撃と本体を仕留めるための強力な一点集中攻撃です。ブリテン由来の英霊でいうならガウェインとランスロットがいれば……」

 

立香がそこまで言った時、自分の中で何かがストンとハマった感覚があった。

 

「───ねぇ、立香」

 

「……?」

 

「わたし、レインと一緒ならあれを祓えるかも」

 

「無理はしない?」

 

立香の問いかけにしっかりと頷いて返す。

 

祓えるかも、ではない。

ランスロットとガウェイン。

その2人の聖剣のガラティーンとアロンダイト。

二つ同時の魔術の展開はわたしには出来ないけれど、片方だけならばわたしにも出来る。

 

「……レイン、アレの前までの道って作ってくれる?」

 

「もちろん、アロンダイトの射程まで傷一つ付けさせないよ」

 

「ありがとう!それじゃあお願い!」

 

わたしの声に応えるように、レインは力強く頷いた。

瞬間、レインの前方に大きな陽炎が生まれる。

バゲ子との戦いで見たレインが使うプロミネンス・ガラティーン。

その範囲と火力はそれを修めたわたしだって理解してるつもりだった。

 

「芥!そこにいたら危ないぞ!」

 

そう言った時には既に灼熱の斬撃がモースの大群に目掛けて放たれていた。

声に気がついてこっちを振り向いた瞬間、目を大きく開いたのと同時に大きく跳躍する虞美人。

眼下で焼き尽くされていくモースを見ながら思いっきり舌打ちする。

 

「そういうのは撃つ前にちゃんと警告しなさいよ!!!!!」

 

「ちゃんと避けれるタイミングで声をかけたじゃないか!」

 

「おせぇのよ!!!!!!!」

 

そんな言い合いをする2人を微笑ましく思いながら、わたしは駆け出す。

その隣にはすぐにマシュさんが駆けつけてくれて、わたしを護るようなポジションをキープしていた。

 

「防御は任せてください!」

 

「うん、おねがい!」

 

レインが焼き払った道を2人で走る。

撃ち漏らしたモースが接近してきてもマシュさんが盾で殴り飛ばし、レインの魔術が斬り払う。

モースの大群が開いた欠落を埋めるように終結してくる。

わたしとマシュさんを本体へ向かわせまいと押し寄せてくる。

2人だけじゃ無理かもしれない、でも……!

 

「ほら!さっさと行けよ田舎妖精!」

 

「大丈夫、僕たちが君には指一本触れさせないから」

 

「露払いは私たちに任せて走れ!」

 

不可視の斬撃が、洗練された剣戟が、力強い剛剣がわたし達を送り出してくれる。

 

「霊剣よ、我が声に応えろ」

 

更に押し寄せるモースを蒼き光の斬撃が消し去る。

妖精騎士長アーデルハイト、彼が右手に持つその霊剣から放たれた斬撃は純粋な魔力の光となって一直線に再び押し寄せ始めていたモースの海を切り拓く。

 

「……ありがとう!」

 

「礼は不要です。さあ、往きなさい!」

 

更に走って、走って走って。

みんなの援護のおかげでやっと魔術の届く距離にまでたどり着いた。

 

「───っ」

 

改めて近くまで来ると、その威圧感に押しつぶされそうになる。

足が震えて、今すぐにでも地面に腰を落としてしまいそうになる。

 

「アルトリアさん」

 

隣にいるマシュさんの声が、しっかりとわたしの耳に届いた。

そうだ、震えてる場合じゃない。

ここにきた意味をしっかり思い出せ。

足に力を入れて、まっすぐに厄災を見つめる。

 

「うん、やれる。マシュさん、魔術を展開するまでわたしのことお願いします」

 

「はい!アルトリアさん!」

 

マシュさんの返事に頷いて宝石の入ったポーチに手をかける。

ポーチをベルトから外して、その勢いのまま宝石をわたしの周りにばら撒く。

 

「───告げる(セット)!」

 

宙に舞った宝石、その総数24個。

その全ての宝石が次の瞬間には砕け散る。

 

「私は謳う、私は願う」

 

「雨よ、雫よ、清廉なる湖面よ」

 

光輝く魔力に指向性が与えられていく。

ひとつ、またひとつと純白の聖剣がわたしの周囲に展開されていく。

 

「最果ての湖光はここにあり」

 

「湖の乙女よ、この光を刮目せよ!!!」

 

 

 

「擬似聖剣、二十四基並列抜刀!!!!」

 

掛け声と共に全ての剣がその姿を表し、ピンと号令を待つ。

張り詰めた光の剣が今か今かとその時を待ち続けていた。

 

「光の剣よ、災禍を鎮める慈愛の湖となれ!!!」

 

号令と共に、二十四の剣が一斉に軌跡を描きながら厄災へ放たれる。

放たれた光の軌跡はものの数瞬で厄災に着弾し、爆散することでその内側へ内包した魔力でもって内側から破壊していく。

 

悲鳴にも似た断末魔。

しかし、それと同時に空には極大の水鏡が顕現する。

タイムリミットにはギリギリ間に合わなかった。

モルガン陛下が準備を終えるその瞬間と、厄災が断末魔をあげて消滅するのは同時だった。

 

空から放たれるヒカリ。

わたしの知る水鏡とは違うモルガン陛下だけの術式。

それが着弾したのはわたしのすぐ近くで───

 

「マシュさん!!!!!!!!」

 

倒れる厄災からみんなを守るべく盾を構えていたマシュさんを光が飲み込む。

 

光が落ち着き、視界が開けた時。

わたしの前にいたマシュさんはその姿を消していたのでした。




というわけでみなさまお久しぶりです。
今回はノリッジの厄災祓いをマシュではなくアルトリアにこなしてもらいました。

正直なところはもっと妖精騎士達の描写したかった……。
しかし、作者の描写力不足でこんなことになってしまって……。
だがしかしとやかく言っても仕方ない!
作者としては厄災という大きな共通の敵がいるにも関わらず妖精騎士達と共闘して祓うことができなかったことが本編での心残りでして……あっ、那須先生に文句言ってるわけじゃないですよハイ。
でも、こういう展開だってあっても良かったよねという作者の妄s……もとい願望というかね。

今回のお話はアヴァロン・ル・フェでやりたかったことの一つなので無事辿り着けて良かったです。
このまま全てのやりたいことを制覇しつつ本編完結まで走っていきましょう!


ところでお兄様、いいつけは……?


皆様の感想と高評価、お待ちしてます。
お気に入り登録とここすきもお待ちしてます。

アヴァロン・ル・フェの更新について

  • 今まで通り月に3〜4話見れればいい。
  • 待ってもいいからストックして放出
  • 別に気にせんでええねんで(^ω^)
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