お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第八旋律 『トネリコ』

 

 

強い光に飲まれ、自分の身体がどこかに浮くような感覚。

幸いにも以前に経験した肉体が消滅する感覚とは違ってどこかに飛ばされるような、レイシフトに似たような感覚であったことから少なくともこの肉体に危害を加えるものでないことはわかっていた。

 

意識がしっかりとつながり、五感がしっかりと働く。

鼻を抜ける潮の香り、耳に届くのは穏やかな潮騒。

靴越しに感じるのは柔らかな砂で、ほんの少しだけ歩きにくいだろう。

そして、視界いっぱいに広がったのは曇り空とほんの少しだけ黒い海。

天気が良ければもっといい色だったのか、なんて少しだけ思ってしまったり。

 

「肉体、霊基共に安定。先輩とのパスは確認できませんが……ここはいったい」

 

見たところ、ブリテンというのは間違いない。

とはいっても、背後に見えるのは鬱蒼とした森で前方を見れば海。

ブリテン異聞帯にいることは間違いないが、ここがどこなのかはさっぱり見当もつかなかった。

 

「……まずはここがどこなのかハッキリさせないことにはどうにもなりませんね。あの上空に現れた魔術がレインフォートさんの水鏡と同系統の魔術なのはあの一瞬で理解はできましたが……」

 

正直、不安でいっぱいである。

今まで数々の特異点、異聞帯を走り抜けてきた。

隣にはずっとマスターである藤丸立香がいたし、頼りになる英霊たちがいた。

 

ひとりになる、ということ自体が少なかったのだ。

今回のブリテン異聞帯であっても近くにはハベトロットさんがいたし、やっと先輩と合流できたと思った矢先のコレである。

 

「……ガッデム、ですね」

 

ロシア異聞帯攻略以降に召喚された皇女の言葉を借りるように思わずそんな言葉が口から溢れてしまう。

何はともあれ、足を進めなければ合流するための目算も立たない。

世界最高のマスターである藤丸立香のファースト・サーヴァントとして立ち止まるという選択肢は存在しない。

何がなんでも先輩の元に駆けつけようと足を一歩前に進めた時だった。

 

「あー!いたぞトネリコ!」

 

「ちょっとトトロット!そんなに急がないでってば!変な妖精が相手だったらどうするの!」

 

「大丈夫、そんなのボクがぶっ飛ばしてやるんだわ!」

 

知ってる声と、知らない声。

しかし、その姿は……顔は十分に知っていた。

 

ついさっきまで守っていた少女。

そう、ちゃんとした自己紹介はできなかったがアルトリアと呼ばれていた少女にその姿は酷似していた。

だが、服装はもちろん違うし、持っている杖だって違う。

白を基調としたバトルドレスに黒いファー付きのローブ、胸元にトゲがついたブレストプレートに白いブーツ。

金色の美しい長髪はポニーテールに纏められてところどころに水色のメッシュがワンポイントで目立つ。

 

「……あなた、どこからきた妖精?」

 

透き通るような真の通った声が、私に投げかけられる。

 

「ええと……」

 

回答に困る、転移魔術で飛ばされてきました。

なんて単純に答えていいものか、そもそも魔術は妖精の間では常識的な知識ではないと記憶していた。

果たして、事実を述べたとしてそれを理解してくれるかという疑問が頭の中に生まれては、どう説明するべきかと思考がループして……。

 

「まあ、さっきの魔術……水鏡に似た転移魔術でここに飛んできたのはわかってるけど。ってことはあなたはその術者か被害者……ってことになるのかな?」

 

「あ、はい。その通りです!」

 

「やっぱりね、アレがこっちに開いた時って決まって厄災級の何かが起きるから警戒してきたけど出てきたのはあなたひとり。もしかして私がまだ遭遇してないタイプの厄災なのかなって思ったけど…………その盾を見る感じそうではなさそうだね」

 

「うーん?結局どうするんだトネリコ?一旦ぶっ飛ばしてみるかー?」

 

「その脳筋思考やめてねトトロット。猪のような思考は一旦おいといてもらわないと話が進まないから」

 

見覚えのありすぎる小さな妖精、私の知る限りではハベトロットと名乗っていた全く同じ見た目の妖精は私に明確な敵対の意思を持っていて、トネリコと呼ばれた少女は何か考え込むように私を見つめる。

 

「ひとまず、お互いの認識を確認しよっか。今は妖精歴何年?」

 

「妖精歴……?今は女王歴2017年だと教わってきましたが……」

 

「女王歴……?聞いたことない年号だね、じゃあもう少し踏み込んだ話をしよう。あなたは何処からここに来たの?」

 

「ノリッジです、ノリッジに現れた厄災を討伐して光に飲まれたらここに」

 

「…………なるほどね」

 

私からの情報を聞いた少女は深く考え込むように眉間に指を当てた。

そうしてほんの少しの沈黙の末に口を開く。

 

「あなた、もしかしなくても水鏡に似た魔術で過去に飛ばされてきたんじゃないかな?だって今妖精歴11600年だし」

 

「………………」

 

思わず絶句した。

喉から出そうになる声が引っかかって出てこない。

妖精歴、という暦が存在していたことはハベトロットさんから聞いていた。

それが私のいた女王歴の前の暦であったことも知識として得ていた。

そして、妖精歴12000年となった年に女王歴が始まったことも。

つまり今は2417年前のブリテン異聞帯に私1人が飛ばされてしまったことになる。

 

「……まあ、そんな顔になるのもわかるよ。きっとあなたにも未来で厄災を倒す仲間がいたんだってわかるもん」

 

そう口にした彼女は「よしっ!」と気合いを入れたように両手をグッと握りしめる。

 

「こうして出会ったのも何かの縁、あなたが元の時代に無事帰れるようにお手伝いしましょう!その代わり、それまでの間あなたは私の旅に同行してください!」

 

それはあまりにも力強い言葉だった。

それはあまりにも楽観的な言葉だった。

だけど、その姿は自分の尊敬する先輩に重なったのだ。

この人ならきっと信用しても大丈夫、そう思ったからこそ私は彼女に手を差し出したのでした。

 

「私はマシュ・キリエライトです。束の間になるかもしれませんがよろしくお願いします」

 

「うん、よろしくねマシュ。私はトネリコ……トネリコ・アーデルハイトです。そしてこっちの小さくて可愛いのはトトロット」

 

「うん、よろしくなマシュ!」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

こうして、私と救世主トネリコのほんの少しだけの旅が幕を開けたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

「さっきの光は……?空に浮かんでたのはすごく大きい水鏡だっていうのはわかったけど」

 

「おっ、それだけわかってるなら上出来だな。さっすがはマシュのセンパイってやつだ」

 

厄災が消滅して、その光を受け止めたマシュが消え去ってすぐ。

立香はあの時間神殿での一件を思い出し、激しい動揺を隠せないでいた。

状況を理解するために発した小さな一言、答えるものがいないであろう質問に自分の足元ほどの高さから声がかけられたのだ。

 

「アレはモルガンの水鏡だ。マシュが飲み込まれた光は本来なら厄災を何処かに飛ばすための巨大な転移術ってわけ。今ごろこのブリテンの何処かにマシュは飛ばされたってわけなんだわ」

 

「そ、そっか……なら安心。急いでマシュのことを探しに行かなきゃ」

 

激しい動悸を落ち着かせるように深呼吸する。

何はともあれ、マシュがこのブリテンの何処かにいるのならブリテン中を駆け回ってでも見つけ出すだけだ。

アメリカ大陸を横断した女の健脚をあまり舐めないでほしいといったところだと意気込んでいたのだが……。

 

「いいや、マシュのことも大事だけど……」

 

立香の視線はあの南極基地から別れたままだったレインフォートに向いた。

しかし、彼のもとに集まっていたのは妖精騎士と呼ばれるこの異聞帯での円卓の騎士たちだった。

 

「……殿下、勝手に出てこられては陛下の機嫌が悪くなります」

 

「厄災の対処に出たんだ、少しくらいなら許してくれるさ」

 

「まあ?伯父様が道を切り拓いたのは事実なんだし、アーデルハイトだってそこまでマジで言ってないわよ」

 

「しかし、流石は陛下の兄君。以前手合わせした時には見れなかった範囲殲滅の魔術まであれ程の練度で放つとは」

 

「当然だね、なんせレインはこのブリテンで初めて魔術を修めた天才なんだから」

 

和気藹々、というのはいささか不謹慎だろうか。

虞美人が言っていたことが正しいなら、このブリテン異聞帯こそがレインフォートにとっての故郷ということになる。

ここにきた目的はオリュンポスに撃ち込まれた【ロンゴミニアド】の回収。

神造兵器級の装備をこのブリテンで手に入れ、ストームボーダーを強化することが目的であるのは変わらない。

 

しかし、その目的を達成するために恐らくは目の前の騎士たちとも戦うことになるとは自分が一番よくわかっている。

そして、それが自分たちにとっては仲間だと思っている彼の故郷を壊してしまうことになることも。

 

「れい……」

 

「レイン!!!!」

 

そんな彼に再会の挨拶をしようとした時だった。

背後から大きな声で彼の名を呼び、もう疲弊しているであろう身体で走り抜けていった少女が杖を投げ捨てて彼に飛びついたのだ。

 

「レイン!レインだ!レイン!!」

 

「アルトリア、久しぶりだ」

 

危なげなく彼女を受け止め、今にも泣き出しそうなアルトリアを優しく抱きしめる。

まるで、長い間親に会えなかった子供のように。

まるで、長い間子供に会えなかった親のように。

厄災が祓われたノリッジで、数ヶ月ぶりに2人が再会したのである。

 

「……とりあえず、好きにさせてやりなさいな」

 

「うん、そうだね」

 

いつの間にか隣に来ていた虞美人のその言葉に、私を含めた仲間たちはただ頷くことしか出来なかったのである。

 

 

****

 

レインがいた。

 

ずっと会いたくて、あの時の選択を後悔した日もあった。

 

思えば、立香たちにあってからも選択の連続で。

ほとんど流されるまま厄災を祓うところまで来てしまった。

結果は大勝利、でもマシュさんが水鏡に似た魔術で何処かに飛ばされてしまったのは流石にマイナス。

 

そんなことを考えたのもほんの一瞬だった。

もう使える魔力なんて一ミリもない。

少なくとも1日はもう何もしたくないというか何も出来ない。

 

───でも、わたしの脚はまっすぐに進むのです。

 

息も切れ切れ、身体がふらついて仕方ない。

でも、進む足の速度は少しづつ速くなって。

 

「レイン!!!!」

 

叫んだわたしの声に、彼は振り向いた。

いつもわたしに向けてくれる優しい表情。

あいたくて、会いたくて、逢いたくて。

やっと目の前にいることが嬉しくて、人目も憚らずわたしは彼に飛びついてしまったのでした。

 

「レイン!レインだ!レイン!!」

 

「アルトリア、久しぶりだ」

 

優しい声音、壊れ物を扱うかのようにそっと抱きしめてくれるぬくもり。

 

「元気だったかい?ご飯はちゃんと食べてしっかり寝ているかな?」

 

「うんっ、レインが教えてくれたことちゃんと全部できてる」

 

「宝石に魔力を込める日課はサボらずやっているかい?」

 

「毎日ちゃんとやってるよ」

 

「イノシシに追いかけられて泣いてない?」

 

「もうちゃんと追い払えるもん」

 

「そっか、少し見ない間に逞しくなったね」

 

優しい言葉が、欲しかったぬくもりがこの数ヶ月の寂しさを埋めてくれるような気がしている。

自分の決断でレインと別れる選択をした。

モルガン陛下と袂を分つことで、強くなった気でいた。

 

でも、わたしは……こんなにも弱かったんだと自覚するには本当に一瞬もかからなくて。

レインから離れようとしないわたしを見かねてか、先ほどまでの雰囲気を霧散させたアーデルハイトがわたしの近くまで寄ってきていた。

 

「…アルトリア様、此度の厄災祓いの件で陛下がキャメロットに帰城するように、と」

 

「…………やだ。このままレインも連れて家に帰る」

 

「あ、あはは……」

 

「そういうわけにもいきませんでして……先ほどの無礼もお詫びしますのでどうか」

 

乾いた笑いのレインと困り果てた顔のアーデルハイト。

周りにいる妖精騎士たちは呆れたような顔でこっちを見ているがそんなの知ったことではない。

というか、人目も憚らずレインに抱きついて甘えた挙句ワガママを言っていた事実に今更になって羞恥心が湧いてきた。

立香のたちの方を見れば虞美人にオベロン、村正になんだが小さな可愛い妖精がわたしのことを見てニヤけていたり“仕方ないな”といった困り顔を浮かべている始末だ。

 

「───り、立香たちも対象ですよね?」

 

「当然です」

 

「じ、じゃあ……みんなで行こっか!!!!」

 

もうヤケクソである。

事態の収集と被害規模の把握のために周囲には女王軍の兵士たちが多く集まり慌ただしくしていく中で、わたしは最後の最後までレインの服の裾を離さないまま投げ出した杖を回収してキャメロットへ続く水鏡の中へ歩みを進めるのでした。




Fakeコラボきちゃー!!!!!
配布ヒッポリュテちゃんガチ助かるー!!!(大歓喜)

というわけでFakeコラボみなさん頑張っていきましょう!!!

アヴァロン・ル・フェの更新について

  • 今まで通り月に3〜4話見れればいい。
  • 待ってもいいからストックして放出
  • 別に気にせんでええねんで(^ω^)
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