お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
あれから数日が経過し、このブリテンの情勢はかなり変わった。
アルトリアを味方につけたカルデア一行はロンディニウムに辿り着き、円卓軍と合流。
予言の子としての活動を開始したアルトリアを旗印に女王軍への反旗を翻すに至った。
戦況は一向に女王軍が優勢であるものの、予言の子率いる円卓軍も電撃的な作戦がいくつか勝利を収める形になっている。
その中で大きな戦場となったのは女王軍が行ったウェールズの森の焼却作戦。
妖精騎士ガウェインを派遣し、森を焼き払ってそこに住む虫型妖精の8割以上を殺したことになる。
作戦のきっかけとなったのはあのオベロンと名乗った妖精の領地だからというのは決定的でモルガンもあの妖精に思うところがあったのか、作戦の実行は迅速だった。
しかし、そこで予言の子一行は妖精騎士ガウェインに勝利を収めることとなる。
そんな中、今僕がどこにいるかという話になると……。
「そういえばアンタ、カルデアに協力させたければ力尽くでとか言ってたわよね?」
「確かにそうは言ったが、今は僕も目立ちたくないんだ。君と戦う意味が僕にはまるでないんだけどね」
ベリルが水面下で行っているナニかを調べるため、ニュー・ダーリントンの近郊を調べ上げあとは教会の地下のみとなった。
しかし肝心のベリルがそこから出てこないこともあり、調査を進めることができなったことで仕方なく今度はオベロンに関することに手をつけ始めたのだが……。
ロンディニウム近郊の小さな村、そこから少し離れた草原でバッタリと出くわしてしまったのだ。
ブリテン中に名を馳せる予言の子一行と。
「第一、君たちだってこんなところで僕に構っている暇があるのかい?ウッドワスの部隊がロンディニウムに向かっていると噂で聞いたが」
「亜鈴返りだったかしら?アンタに太刀打ちできるならそいつだって撚れると思わない?」
「君、そんなに好戦的な性格だったか?それともカルデアに戻ってから何かのタガが外れたのかな?」
「ヤケクソよ」
「ヤケクソか」
呆れ返って肩を落とす。
本当にどうしてこうなった、というしかない。
魔術の痕跡を残さないようにこの数日は魔術を一切使ってこなかったというのに飛んだ計算外のことが起きてしまったと愕然とするしかない。
「……レインさん、本当にカルデアには戻れないんですか?」
「ああ、君たちの立場が変わらないうちは戻ることはないよ。まして、モルガンを討ち取ろうとしてる君たちに協力することは絶対にない」
「どうして、カルデアを裏切ったんですか?」
「どうして、と言われてもな。そもそも僕ははじめからこちら側の妖精っていう話もあるけれど、この間も言っただろう?僕は国と民よりもたった1人の妹を選んだ男だって」
「でもっ!」
「君たちが歩んできた異聞帯で言葉で納得した王はいたかい?大切な人たちを犠牲にしてでも世界を差し出した王は?そこにいる芥だって、追い求めたもののために君たちと戦ったと僕は思っているけれど」
「それは……確かにいなかったけれど……」
僕の問いかけに立香ちゃんは返す言葉を持たなかった。
それはそうだろう、異聞帯と呼ばれる僕たちの世界。
ここはおかしい歴史だから排除しないと正しい歴史の世界がなくなってしまう、だなんて言われたとして納得して『はいそうですか』と差し出す統治者なんていないだろう。
「僕にとって世界なんてどうだっていいんだ。ただ愛する人たちが健やかに笑ってくれればそれでいい……大体の人はそうじゃないかな。君だってそうだろう?汎人類史に生きる人たちのために戦っている、自分が生きるために戦っている。家族に、友人にまた会うために戦っているんだろう?なら、僕だって大切な妹と娘……あとは姪のために戦うさ、それは何もおかしなことじゃない」
「……っ」
それは、誰にとっても当たり前のことだ。
兄にとって、親にとって、他の何よりも守りたいというこの気持ちは誰だって同じ気持ちを抱くだろう。
結局のところ、今のカルデアの立場とレインフォートという個人に折り合いをつけることなんてできない。
それをわかっていたからこそ、虞美人がこうして喧嘩を売ってきていたのだろう。
「まあ、分かりきっていた答えだったわね。だからここでひとつ腕試しをしておこうってわけ。見ておきなさい後輩、真祖と亜麗の戦いがどんなものか。アンタも協力するわけじゃなくてこのくらいなら構わないでしょう?」
「まあ、仕方ないか。今はモルガンから隠れて行動していたから魔術の痕跡は残したくなかったんだが……」
「やっぱり逃げ癖がついたんじゃないの?」
「頼むから彼女の前では2度と言わないでくれよ。怒ったモルガンは僕の手には負えないんだ」
「はあ?妹の手綱くらい握っておきなさいよ、情けないわね」
「……まあ、否定はできないな」
お互いの手に、魔力で編まれた剣が握られる。
方や炎で編まれた真紅の双剣、方や水で象られた西洋剣。
そこに纏う魔力の密度は並のサーヴァントでは太刀打ちできないほどの神秘の濃さであり、
「アルトリア、ヤバイと思ったら声をかけてくれ」
「あっ、うん。わかった!」
ずっと黙っていたアルトリアに声をかけて目の前に立つ虞美人を見つめる。
こうなってしまったからにはもうしょうがない、全力でやらなければ深傷を負うのはこちらになるのは間違いないのだから。
空気が張り詰める。
互いの全身に奔る魔力が大きくなる。
ドンっと大地を蹴るのは奇しくも同時だった。
ほんの一瞬、接敵して数秒で10を超える剣戟。
炎と水がぶつかり合うことで瞬く間に水蒸気で視界が悪くなっていく。
真祖と亜麗、肉体のスペックが通常のサーヴァントでは手も足も出ないほどの上位存在同士による全力の“模擬戦”は開始数秒から大地を抉り出すほどの強烈な戦いとなっていた。
精霊と妖精、どちらも星からの潤沢な魔力を供給される超常の存在。
それは当然、トップサーヴァントの瞬間的な爆発力を彷彿とさせるような膨大な魔力放出が常時行われ、踏み込んだ大地は砕け、振るった斬撃は遠くの丘を切り裂く。
「君、霊基の出力が落ちてるんじゃないか!?」
「うるさいわね、聖剣を持ってない聖剣使いにはいい手加減よ!」
「痛いところを突くじゃないか、でも……どれだけ持つかな!?」
均衡する剣に爆発的な魔力を込める。
魔力放出の正しい使い方はアルトリア・オルタからしっかり学んでいた。
彼女の場合は少女の肉体から繰り出す斬撃をより強力にするために全身に魔力を巡らせてまるでジェット噴射のような爆発力を手にしていた。
『貴様の魔力放出は無駄が多すぎる。いくら無尽蔵に魔力を精製できるからと言って無駄な放出を続けていれば生産よりも放出の方が上回る瞬間が必ず出てくるものだ。全身に隈なく行き渡らせろ、そして攻撃する瞬間、大地を蹴り出すその瞬間ごとに最大出力を叩き込め。それが私がこの身なりでありながらトップサーヴァントとしての戦力たり得る所以だ』
(わかっている、そのための訓練だってしたからね)
「っ……!」
「悪いけど、僕の間合いまで下がってもらうぞ」
爆発的な魔力放出を加えて虞美人を押し込む。
体勢が崩れたその瞬間を見逃さずに彼女の腹を思い切り蹴飛ばした。
虞美人の肉体が宙に浮き、立香ちゃんとアルトリアの横を通過して近くにあった岩にめり込む。
「……アンタねぇ、仮にも元同僚の腹を容赦なく蹴り飛ばすのはどうなのよ」
「どうせ不死者なんだ、多少全力で蹴り飛ばしてもすぐに治るじゃないか」
「言ってくれるじゃない、模擬戦なんて言わずにぶっ殺すわよ」
「出来るものならやってみるといい。ほら、次はこれだ」
パチンッとよく響くフィンガースナップの音が鳴る。
虞美人を囲うように現れるのは30を超える光の剣。
「穿て、ルクス・アロンダイト」
「このっ……!」
光の剣が、虞美人目掛けて放たれる。
射撃、装填、射撃、装填、射撃、装填、射撃、装填。
幾度もルクス・アロンダイトを撃ち込んで、それでも目に見えるのは彼女が的確に致命傷となる一撃を叩き落としている姿。
「埒があかないわね」
そうして幾度めの掃射が行われた時、打ち払う彼女の手が止まり。
ルクス・アロンダイトが着弾した光の爆炎の中から真紅の爆発と共に空から赤い呪詛の雨が降り注ぐ。
「……肉体の放棄?なるほど、体内の魔力を暴発させて自爆したのか」
爆炎の中に虞美人の姿はない。
当然だ、自爆して肉体を放棄したのだからその場にいるはずなどない。
だが、肉体を放棄した程度で真祖の吸血鬼が死ぬわけがないだろう。
この、呪詛の雨はアルトリアが以前くれたネックレスが全て弾いてくれる。
だから、僕が集中しなければならないのは……。
「後ろか、視えているよ芥」
「精霊種の気配遮断をサラッと見破るんじゃないわよ……!」
「残念、ここが君の中国なら当たっていたかもだ」
「嫌味のつもり?」
「まさか、純然たる事実だ」
肉体を再構成してからの背後からの奇襲。
あんなド派手な爆散をしておいて一瞬で肉体を再構成してくるのは驚きだったが、やはり彼女はそのスペック頼りで戦い方は素人に近い。
「キャメロットでも言ったかもしれないけど、君じゃ僕には勝てない」
「はあ!?亜麗だからって調子乗るんじゃないわよ!?それとも何?お前まで虞美人差別!?」
「……なんて?」
「カルデアのやつらといい、サーヴァントの連中といい、果てにはお前までか!!」
「一体何を言ってるんだ君は!?」
驚愕に染まった僕の声が届くや否や虞美人が大地を踏み締め、駆ける。
一瞬で距離を詰めて、その手に持った双剣が猛威を振るう。
先ほどとは比べ物にならないほどの乱撃が真祖という圧倒的なスペックの肉体から縦横無尽に振るわれる。
袈裟斬り、突き、薙ぎ払い、切り上げ、交差切り。
ありとあらゆる斬撃が熱気と共に神速ともいえる速度で舞う。
紅の月下美人、とはまさにこのことだろうなどと不覚にも思ってしまうくらいにはメチャクチャでありながらそれ自体が一種の舞のようにも思えてしまうほどその姿は美しかった。
問題はその表情が全く身に覚えのない憎悪に塗れていることだが。
「どうせちょっとやそっとじゃ死なないんだからいっそのこと死にかけろ!」
「勘弁してくれ!そもそもなんだ虞美人差別って!」
「読んで字の如くよ!」
更に苛烈になる乱撃、何とか防御も追いついているが眼に映る速度がさらに上がり、肉体の反応が遅れ始める。
(まずい……このままだと抜かれる……!)
「滅びの運命にすら見放された、我が永遠の慟哭!」
乱撃が続く中、虞美人の肉体に超高密度の魔力が満ちる。
彼女が紡ぐその言葉は、彼女が宝具とする自爆へのカウントダウン。
「空よ!雲よ!哀れみの涙で……命を呪え!!!」
瞬間、眼前で虞美人が爆ぜる。
彼女の肉体、そして手にした剣に至るまで全てが自爆の対象となる。
紅の爆発、真紅の魔力爆弾は呪いをぶち撒け、彼女を中心としてまるで爆弾が爆発したようなクレーターを生成する。
流石にこの距離でそんなものをまともに食らえばこの肉体だって無事ではいられない。
どうする、なんて考えるまでもなく自分の前面にほぼ反射的に水鏡を展開していた。
爆発のエネルギーそのものを自身の後方数百メートル先に逃すことで対応するというオークニーで嫌というほど繰り返した身に染みついた技術。
まさかそれがこんなところで役に立つとは思わず、内心で過去のトネリコに感謝を告げて、数メートル先に肉体を再構成させていた虞美人を見つめる。
「めちゃくちゃだな、まさかこんな自爆戦法を平気で使ってくるとは」
「あの至近距離で自爆してんのに何で傷ひとつないのよ」
「過去の教訓の賜物だな。元気な掛け声と主に即死級の魔術が飛んでくるよりはまだ可愛いものだったらしい」
「何言ってんのよお前」
「…………」
何を言ってるんだと言われてもその通りとしか言えないが、そんな君こそ一体何をしているんだ、と言いたい。
「……まあ、納得はいかないけど今回は私の負けよ。あの距離で自爆して無傷ならもう集団リンチするしかないもの」
「集団リンチ……」
「そう集団リンチよ。知らなかった?そこにいるマスターはそういうの得意なのよ」
「誤解を招くようなこと言わないでよ!!!!」
「り、リツカってそういうことする人だったんだ……」
「違う!違うのアルトリア!!!まって本気で引いた顔しないで!」
アルトリアと立香ちゃんがそんなやりとりをしている横で、僕と虞美人は互いに手に持っていた武器を霧散させる。
「言っておくけど、僕は君のせいでモルガンに場所を特定されたからな」
「いいじゃない。愛しの妹に追いかけられるなんて兄冥利に尽きるわね」
「巡礼の鐘を鳴らした君たちだって見つかったら一大事だって忘れてないか?」
「その時はお前を差し出している間に逃げるわよ」
先ほどまで本気の戦闘をしていたとは思えないほどの軽口の応酬。
改めて、真祖の吸血鬼の……というよりも虞美人としての彼女の能力が凄まじいものだと理解させられた。
「まあいい。そういえば少し前だがぺぺに会ったよ。グロスターで服屋として逞しくやっていた」
「……何やってんのよあいつ。まあ、そういうことからこっちからも伝えておくわ。ヴォーダイムとカドックはいまカルデアにいる。怪我の治療のせいでストーム・ボーダーで留守番してるけどね」
「そうか、しかしオフェリアは……」
「自分の為すことをしたんだからお前が気にすることじゃないわ。それより、ベリルには気をつけなさい」
「ああ、僕もいまはあいつを追ってるところでね。本当はここでこんなに目立つ予定じゃなかったんだ」
大きなため息をついて、肩を落とす。
あれだけ派手にやればモルガンがここにくるのも時間の問題だろう。
急いで離れないといけないが、それよりも伝えておくべきこともあった。
「アルトリア」
「……ん?なに?」
「いくつかの巡礼の鐘を鳴らしたらオークニーにくるといい。かつての僕や母上……僕のもうひとりの妹であるルクレティアが姿を変えた巡礼の鐘がある。それに、君たちの探し物も……あの場所にあるだろう」
「…………ぇ?ちょっとまって、今のどういうこと?」
「そのままの意味さ。まあ、それはオークニーに来た時に僕が居れば話せるだろう。そうだな、4つ目の鐘を鳴らしたらオークニーにおいで、僕もやることをある程度終わらせて話せる準備はしておくから」
それだけ告げて、僕はその場から走り出す。
これ以上長居したらそれこそいつモルガンが水鏡から飛び出してくるかわからない。
「あっ!ちょっとレイン!!!」
背後からアルトリアが僕の名前を呼ぶ声が聞こえる。
それに軽く手を振りかえしてそのまま疾走を続けるのだった。
「ふっ、やっぱ逃げ癖ついてるんじゃないの?」
そんな虞美人の鼻で笑ったような声がやはり耳に残った。
次会った時は水鏡での奇襲も視野に入れて攻撃してやろうと心に誓ったのだ。
ぐっさまって本来なら真祖としての圧倒的な肉体スペックだけで並みのサーヴァントでは太刀打ちできないほどの存在なんですよね……
現在のお兄様のスペックではちょっと戦うのが厳しい相手ではあるんです。
なんせ彼はいま3割が人としての属性を持っているので10割妖精にして圧倒という匙加減だったりします。
まあ、その10割妖精の状態からリミットブレイクがあるんですが……。
久しぶりの戦闘描写だったので拙い文ではありますが楽しめていただけたら嬉しいです。
ではまた次話でお会いいたしましょう!
皆様の感想と高評価、お待ちしてます。
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アヴァロン・ル・フェの更新について
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今まで通り月に3〜4話見れればいい。
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待ってもいいからストックして放出
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別に気にせんでええねんで(^ω^)