お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
結果として、アルトリア・キャスターの支援魔術や聖剣魔術、円卓の騎士パーシヴァルの持つ選定の槍から放たれる絶技によって円卓軍と排熱太公ウッドワスの戦いは円卓軍の勝利に終わった。
ロンディニウムの被害は決して少なくはなかったけれど、妖精騎士に迫るほど強力なウッドワスを退けたことは円卓軍にとってもその勢いを加速させるものになった。
それから数日後、予言の子一行はムリアンからの招待を受けグロスターで開催される妖精舞踏会に赴いていたのだった。
「……それにしても、ここに来たのも2回目かぁ」
「なんでぇ、お前さん直前まであんなに渋ってたのにここに来るのは2回目だってか」
「それに、アルトリアがこういうところ向けのドレス持ってるなんて知らなかったなぁ」
「ドレスの出本については察してもらえると助かります」
会場入りしたのはアルトリアに立香と村正、ダ・ヴィンチの4人。
散々舞踏会への出席を渋っていたアルトリアだが、腹を括ったのか近くの宿に駆け込んでいったと思ったら白をベースに青や金の装飾が施された綺麗なパーティドレスに身を包んで出てきたのだ。
パーティードレス自体はアルトリアがレインフォートと共に旅に出る時にモルガンの指示でアルトリア用に用意されたもので、まさか着る機会が訪れるとは思っていないながらも大切に鞄の中にしまっていたのだが、意図せずともその機会がやってきたようである。
「はぁ、ムリアンも招待しといてホールにいないのはどうなの?もう勝手に鐘鳴らしにいく?」
「まあ、ちょっと落ち着きなって。流石に勝手に鐘付き堂までいったら怪しまれるし、もうちょっと様子を見て……」
「っと、それはそれとして新しい招待客みたいだ」
「ありゃ……オーロラか。それに横にいるのは……」
ホールに新たに現れた招待客の姿は見覚えのある人物だった。
談笑していた妖精たちが海を割るかのように道を開き、その中を堂々と歩いていく。
ソールズベリーの領主であり、風の氏族長であるオーロラ。
そして、その隣で圧倒的な存在感を放つ小柄な少女はアルトリアにとっては忘れられない存在で予言の子一行にとっても一度出会った相手でもある。
「ランスロットだよ、あの子」
「げ……古傷が疼くようなことをいうんじゃねぇ」
村正の脳裏によぎるキャメロットでの出来事。
容赦なくレインフォートに吹っ飛ばされとんでもない速度でカッ飛んできたランスロットに霊核を破壊されたほんの少し前の苦い思い出。
嫌だ嫌だ、と肩を落とす村正を尻目に入場してくる妖精騎士トリスタン。
そして、トリスタンの横にはあの玉座の間でレインフォートに絡んでいた悪そうな男の姿もあった。
「…………ベリルだ!」
「それにトリスタンの奴もいる、か。まあモルガンの娘としちゃ来ない理由がないわな」
「それにガウェインの姿もあるね。もしかしたら、妖精騎士とモルガンも出席するのかも?」
「だから、こういう場所でモルガン陛下の名前を呼び捨てするのはやめなって…………あれ?」
懲りないな、と思って立香を注意するアルトリア。
しかし、今日は肌の露出が多い格好のトリスタンだからだろうか……アルトリアの目に映ったのは明らかにおかしいと思えるような違和感があった。
「あの子、足の指……あんなに黒かったっけ」
普段の赤いブーツじゃないから、凄いヒール履いてるなーなんて軽い気持ちで足元まで見た時に感じた違和感は拭えなくて……。
「どうしたの?」
「えっ……ああ、いや、ノクナレア来てないかなーなんて、ははっ、上から目線の嫌味が聞けなくてラッキー☆みたいな……?」
咄嗟に嘘をつく。
会場を見渡してもノクナレアがいないのはわかっていた。
会えないのは、ちょっと残念だったし……今の自分なら恥ずかしくない格好はしてると思っていたから。
それから、オーロラのお付きであるコーラルから話しかけられ……またしてもカルデアの面々が地雷を踏み抜いた。
どうして、どうしてこの人たちはこうも立場のある妖精を怒らせることに躊躇いがないのか。
頭が痛い、どうしてこう……。
「コーラルに何を言ったんだいキミたち……?彼女、随分と動揺していたけれど」
「あっ……」
「さっき、オーロラと一緒にいた」
「ああ、今日は甲冑姿ではないからね。アルトリアは私のことを知っているけれど、こうしてキミたちに名乗るのは初めてになるかな」
彼女は自身の顔を隠していたアイマスクをとって、その美貌を惜しげもなく輝かせた。
「妖精騎士ランスロットだ。舞踏会へようこそ。アルトリア、リツカ。それに、アルトリアはそのドレスやっぱり似合っているね、アーデルハイトの目は間違ってなかったみたいだ」
キラキラと眩しい笑みを浮かべてすぐに今日の容姿を褒められた。
社交界ではキラキラの王子様とは聞いていたけれど、ここまでとは思わなかった。
「うぐっ……こ、この笑顔が眩しい!レインの顔面偏差値に慣れてなかったら危なかったかも……!」
「……ここではあんまりレインのこと話さない方がいいよ。随分自由にしてるみたいだけど、彼の正体を知られるのは不味いんだ。特に、オーロラにはね……陛下と彼のことを思うなら公の場ではあまり口にしない方がいい」
「…………そっか、そうだよね。ありがと、ランスロット」
「ふふっ、素直に言うことを聞いてよろしい。じゃあ僕はこれで、いまは敵同士ではあるけれど今夜の舞踏会は楽しんでいってほしい」
じゃあね、と言い残してランスロットはオーロラの元へと去っていく。
彼女が歩いて行った先で彼女を待っていたと言わんばかりの妖精たちが駆け寄っていくが、あのキラキラスマイルを見たらそれもそうだろうなと納得するしかなかった。
「王子様系かぁ、ランスロットの名を冠する騎士だから想像はしてたけどやっぱり美しいと言うだけで私の心は惹かれてしまうなぁ」
「ダ・ヴィンチちゃんはもうちょっと我慢を覚えてほしいなって」
「私は芸術家だよ!?美しいものには弱いのさ!」
堂々とそんなことをいうものだから思わず笑ってしまう。
しかし、アルトリアにだって言いたいことはわかる。
自分だって彫金を嗜むものとして、グロスターにある綺麗な細工には惹かれるものが多かったのだから。
「……アルトリア様、予言の子一行の方々ですね?」
夜会はこれから、というところで現れたのはいかにも侍女という出立の妖精だった。
「妖精騎士ガウェイン様が御一行様をお待ちです」
「……あー、なるほど。ごめんだけどガウェインのところへはリツカたちだけで行ってもらえる?わたし、ちょっと話さなきゃ行けない人がいるから」
「え?あ、うんわかった。じゃあ行こっか、アルトリアも話終わったら来るよね?」
「うん、多分用があるのはわたしじゃなくてリツカたちにだと思うし。ちょっと行ってくるね」
ガウェインからの個別な呼び出し。
本来ならいくべきだとは思いつつもアルトリアの頭に残って離れないのはトリスタンの足の指が一部だけやけに黒かったこと。
立香たちと別れ、ホールの中からトリスタンを探す。
身長も高くてあんなに綺麗な赤い髪なんだからすぐに見つかると思っていたのだが……。
「な、なんで見つからないの?」
ホールからほんの少し離れたテラス。
月光に照らされるテラスでアルトリアは思いっきりため息をついていた。
妖精騎士ともなればこんな舞踏会では華で目立つ場所にいると思っていた。
現にランスロットの周りには人だかりが出来ていて相変わらずのキラキラ王子様スマイルを振りまいている。
そもそもトリスタンと一緒に入ってきたあのチョビヒゲの男は簡単に見つけられたのになんで目立つ方が見つからないんだと悪態をつきたくなる。
「…………もう帰ろうかな」
「舞踏会だって言ってんのに一曲も踊らないで帰るとか正気?」
「……え?」
探し人、来たれり。
綺麗な赤い髪に灰色の瞳、露出の高いちょっと悪趣味な衣装。
両手にドリンクを持った彼女は呆れ顔のままテラスの入り口に立っていた。
「と、トリスタン!」
「1人でうろついてるからお仲間と喧嘩でもしたかと思って声かけに来てやったんだけど元気そうじゃん」
「それは……!トリスタンを探してたのに全然見つからないから……」
「私?まあ一応立場は身内だし?挨拶しようってのは殊勝な心がけじゃんか」
ほら、と手渡されたグラスを受け取る。
中身はオレンジジュースだろうか、トリスタンが一口飲んだのを見て渡されたグラスに口をつけるか悩む。
「心配しなくても毒なんか入ってないわよ。ムリアンが用意した席で毒殺なんてどうやってもありえないから」
「そ、そっか。レインにこういう席で用意されたドリンクは注意しなさいって言われてて……」
「まあ、伯父様のいうことは正しいわ。私だってお母様によく言われたもの」
トリスタンの言葉には嘘がなかった。
実際に彼女がモルガンからの注意を守った上で口をつけたのだから確かに安全ではあるのだろう。
なら、と手にしたグラスを口につけて傾ける。
芳醇なオレンジの香りと共によく冷えたジュースが口の中に流れ込んでくる。
「わぁ……おいしい」
「だろ?ムリアンが用意する飲み物はどれも逸品なんだぜ?」
ニッと笑うトリスタンはグラスの中身を飲み干して、そのままアルトリアの顔をよく見つめた。
「んで、ただ挨拶しようってわけじゃなかったんでしょう?わざわざお仲間から離れて探してたってことはさ」
「あ、うん。トリスタン、その足の指……なんだけど」
「あぁこれ?なんか昨日くらいからこんなになってさ。どっかにぶつけた覚えもないし、ヒールがズレた感覚もなかったんだよな」
「ごめん、ちょっと見せて」
彼女の履いているめちゃくちゃ高いヒール。
そのヒールから露出している小指の部分。
ずっと感じていた違和感が嫌な方面で当たりませんように、と便利だから覚えた解析の魔術をかけようとして……
「……呪い?」
「はぁ?」
「トリスタン、最近自分に反動のある呪詛の魔術使った?」
「最近……?そういえばウッドワスのバカ相手にベリルに教わった魔術使ったっけ。それがどうかした?」
「それだ……!」
「おい、一体なんだって」
話が読めない、といったトリスタンとそれどころではないといったアルトリア。
解呪の魔術をかけても効果はなし、解析をかけてその呪いの悪辣さを知る。
血の気が引いた、とはまさにこのことだろう。
なんでこんな最悪の魔術を彼女に使わせたのかがアルトリアには理解できなかった。
「その魔術、使用者の身体が腐敗する反動のある魔術なんだ」
「…………」
「嘘じゃないよ。レインに誓ってもいい」
「そうかよ…………そういうことかよ。アーデルハイトとお母様の言いつけを破ったツケが早速回ってきたってわけ」
面白いものが見れる、とベリルの口車に乗った。
見知らぬ呪術、ベリルが“得意”だという魔術を教わりそれをウッドワスのやつに試したのだ。
特に身体に異変は見当たらなかった。
いや、本当はほんの少しだけ違和感があったりした。
けれど、こんな事になるのは思ってもいなくて。
以前の自分ならどうしただろうか、とトリスタンは考える。
利用されて、“また”ゴミのように捨てられるのだろうか。
「……なわけ、ねぇだろ」
「トリスタン?」
ただ利用されてボロ雑巾のように捨てられる?
舐めるな、そんな結末一ミリだって認められるわけがない。
「おい、お前……伯父様の役に立つ気あるか?」
「……レインの?それよりもトリスタンの呪いをなんとかしなきゃ……」
「自分が呪いの魔術使ってるからわかんだよ。その効果に解呪の手段はないって、なら……こんな舐めた真似したやつに一矢報いなきゃ妖精騎士の名折れだろ」
自分にかけられた解呪不能の腐敗の呪い。
それをかけた奴がわかっているのなら、この身体が動くうちに報復してやらなければ気が済まない。
「手伝えよ、アルトリア。この私が一芝居打ってアイツに特大の嫌がらせしてやろうっての」
「…………うん、わかった」
「いいか……作戦は」
妖精騎士トリスタンと予言の子アルトリア・キャスター。
この妖精國で最初で最後になる従姉妹の共同戦線の始まりだった。
「いいか?絶対ヘマすんなよ」
「でもいいの……?これをしたらトリスタンは」
「…………私はもう妖精騎士に戻れない。けど何もできないまま腐ってく方がムカつくだろ?」
「だったら……だったらせめてこれ持ってって!レインにあげたアクセサリーの練習で作った奴だけど、ほんの少しだけなら呪いの進行を遅くできるはずだから」
手に持っていたカバンの中からいつか使うかもと思って持っていた対呪のアクセサリーをトリスタンの手に乗せた。
レインフォートに渡したようなガチの効果ではないけれど、それでも呪いの進行はゆっくりになるはずだ。
「……ふぅん?お前、彫金のセンスがいいって本当だったんだ。こんなの作れるなら予言の子なんてやめてキャメロットで店やってた方が良かったんじゃない?」
「もし開くならトリスタンも一緒だから」
「何言ってんだか、私のヒール趣味とお前の彫金じゃジャンル別すぎだろ」
軽く笑って、トリスタンはテラスから歩き出す。
「いいこと教えておいてやるよ。ほんの少し気を抜いた瞬間にとんでもないミスすることあるだろ?ああいうのってミスしたやつも見てる方も辛いじゃんか?なんで『最後まで集中する』んじゃなくて、『最後こそ集中する』な?覚えた?」
「うん、忘れない」
「なら良し、それじゃあ最高の舞台にしようぜ」
手を振って、トリスタンがホールに戻っていく。
この後、彼女と決めた作戦を実行するために……覚悟を決めなければならない。
妖精騎士トリスタンとしての彼女をこれから殺すのだから。
原作と違うこと、本格的に始まるよー!!!
たった一度、気が向いたからベリルの言葉に耳を傾けたバーヴァン・シー。
それが自分の最期を決めてしまった。
モルガンとアーデルハイトの教育。
レインフォートのアドバイスで得ることができた大好きな母との思い出。
ムカつくけど、一緒にいるのは嫌じゃない形だけの従姉妹との出会い。
さあ、妖精騎士トリスタン最期の舞台が幕を開けます。
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