お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第十四旋律 『女王の子と予言の子』

 

そして、ほんの少しだけ時間が経過して。

 

───鐘撞き堂、三階。

 

わたしはトリスタンと別れてリツカ達と合流して鐘を鳴らすために鐘撞き堂を上がっていた。

 

「……っていうか、気のせいかな。なんだか騒がしくないかい?」

 

3階に上がってすぐ、周囲の騒がしさに気がついたオベロンの言葉と共に暗がりに灯りが灯る。

 

「表の妖精舞踏会など華やかなだけの目眩し、子供の遊びにすぎません。ここはグロスター、流行と歓楽の街。刺激と破滅、興奮と悲劇なくては物足りない───」

 

目の前に広がったのはいつかと同じオークション会場。

会場のテラス席から響くのはこの街の領主であるムリアンの声。

 

そしてわたしたちの対面に立つのは───。

 

 

「このブリテンを左右する世紀の大決戦。今をときめく予言の子アルトリア・キャスターと星見の魔術師、それに相対するのは女王陛下の愛娘、妖精騎士トリスタンと女王陛下の婚約者であられるベリル・ガット様!」

 

「…………ん?ちょっとまってあの男がモルガン陛下の婚約者?」

 

ムリアンからの観客への紹介。

そのなかでわたしに引っかかったのは婚約者という言葉。

あの男が、モルガン陛下の夫候補?

ってことはトリスタンの父親になる……ってことで。

 

“娘に対して、あの呪いをかけた”ということになる。

 

ふつふつ、と良くない感情が湧き上がるのがわかる。

だって、父親っていうのは子供のことを愛してくれて心配してくれて。

不自由がないか気にかけてくれて、幸せを願ってくれる。

わたしはレインからそういう類の愛を貰った。

 

親というのはそういうものなんだって心の中でそう思っていた。

 

「このブリテンの命運を分ける対決にこれほどまでのカードはございません!トリスタンとアルトリア、さあ!ステージにお上がりください!」

 

ムリアンの言葉が、嫌にハッキリ耳に届いた。

怒り、そうだこれは怒りの感情だ。

トリスタンとはきっと友達にはなれない。

ノクナレアみたいな嫌味は言ってくるけどあの子は友達ではなくわたしにとっては間違いなく“家族”の1人だ。

 

そんな子が、利用されてボロボロにされて腐り果てていくなんて納得できない。

 

まして、それが……モルガン陛下やトリスタンの“家族”になるかもしれない男がしたのだとしたらそれは……!

 

「この2人の対決はこのステージから始まったもの。このブリテンを背負う役割を選ぶのもこのステージで決まるのなら、それは運命ということでしょう!」

 

何がなんでもあのチョビヒゲを毟ってやらないと気が済まない。

ボコボコにして簀巻きにして陛下の前に叩き出してやらないと気が済まない。

杖を握りしめ、ステージに上がるために一歩踏み出したところで杖を持ってない方の腕を掴まれた。

 

「おい待て、アルトリア」

 

「む、村正?」

 

「気合い入ってるのはいいことだが、その格好じゃ締まらねぇだろ。ステージの陰にドレッサーがある、急拵えだがお前さんに似合う服を用意したつもりだ。“救世主”らしく、相応の格好に着替えてこい」

 

「…………わかった」

 

怒りのままにステージに向いていた足を急遽ステージ裏のドレッサールームへ、そこに綺麗に畳まれておかれていた衣服を手に取る。

白いシャツにスカート、厚手のタイツにシンプルながら強度のありそうなブーツに赤い裏地に星が散りばめられた青いマントにこれに似合いそうな新しい帽子。

 

「……胸元のリボンはわたしにはかわいすぎるのではないか」

 

せっかく用意してくれた衣装だ。

文句を言うのは非常に心が痛むがこれは流石にとおもうのです。

 

全身を着替えて、その場で少しジャンプしてみる。

左右の腕を伸ばして動きやすさを確認、せっかくの衣装なので汚れ防止をはじめとした各種魔術を重ねがけしていく。

 

「よし、準備オッケー。深呼吸、深呼吸」

 

怒りに身を任せていたらトリスタンとの作戦がダメになってしまう。

あくまでも自然に、前にトリスタンと戦った時のような気持ちを思い出して。

ドレッサールームから駆け出す。

ステージの上ではトリスタンが言いたい放題している。

いくら作戦とはいえボロクソに言い過ぎではないか。

少しくらいなら言い返しても文句は言わないだろうとステージに上がって口を大きく開いた。

 

「よくも言いたい放題してくれたなトリスタン!なんだその服、いやらしい!」

 

「はあ!?テメっ!」

 

「私は予言の子、アルトリア!【唱えるもの(キャスター)】の名において、巡礼の鐘を鳴らしにきた!邪魔をするのなら容赦しないぞ!その高価な靴(おたかいヒール)共々、傲慢なプライドを叩き割る!」

 

言った、言ってやった。

もう一度ちゃんと会えたら一応謝ろう。

しかし、そんなわたしの言葉に応えるようにトリスタンはその端正な顔を邪悪な笑みに染める。

 

「ハッ!言うじゃねぇか田舎妖精!ヒールの価値がわかるのは褒めてやる。けど、その啖呵切ったあとに負けたらキツイぜ?同情はしてやるけど、命乞いは効かないからな?」

 

「えっ?ほんとに自分の方が強いとか思ってるんだ?きっつー……事前に言っておくけど、わたしは貴女に同情とかしないから。泣きながらお城に帰るのは慣れてるでしょ?妖精騎士長も今日は来てないみたいだし、ちゃんと1人でお家に帰れる?」

 

「んなことにはならねぇよ!テメェ、八つ裂きにしてやるからな!」

 

……トリスタンの額に青筋が見えた。

やば、流石に煽りすぎたかも。

自分から提案してきた作戦だし、ちょっと強めに煽っても大丈夫だよね?

ま、まあなんとかなる、なんとかなるって……たぶん。

 

「あちゃー、舌戦ではトリスタンの完敗か。やっぱ普段から鬱憤してるやつは強いぜ」

 

「ベリル・ガット」

 

「よお、後輩。遠路はるばるこんな土地までご苦労さん。この間はあの女王様やら騎士長様がいたから大して話せなかったが、こうして会えて嬉しいぜ。せっかくのペア戦なんだ、もう少し小粋なトークをおまえさんとはしたいんだが……こっちの姫さんはもうやる気だしよ」

 

「一つだけ聞かせて、どうしてあの時キリシュタリアを後ろから狙ったの?」

 

「あー、まあそれは突っ込まれるわな。大した理由じゃないさ、オレはオレの目的のためにキリシュタリアを殺そうとした。結局失敗しておまえさんたちのところに“アイツ”がいないなら計画は失敗だったわけだ」

 

「そう、なら……」

 

「ハッ!いいねぇ、そのギラついた目!オレにとっちゃ初めてのマスター戦でお相手は一度世界を救って五つの世界を淘汰してきた歴戦のマスター様ときた!怖くて身体が震えちまうってな!」

 

趣味の悪い煽り方だった。

リツカの瞳に相手を打倒すると言う意思が宿る。

歴戦のマスター、その名に恥じない覇気が彼女から感じられた。

 

「ここでは負けられない……!アルトリア、力を貸して!」

 

「もちろん……!アルトリア・キャスター!選定の杖のもとに妖精騎士トリスタンを打倒します!!」

 

「やってみろよ田舎妖精!今回はボロ雑巾みたいにズタズタにしてやるからよ!!!」

 

杖を持つ手に力を入れる。

魔術回路に光を放つ、二つの鐘を鳴らした今ならあの頃とは比べ物にならないほど膨大な魔力が全身を奔る。

 

「いくぞトリスタン!!」

 

「来いよ田舎妖精!!!」

 

数多の観衆が野次を飛ばす中、杖と弓が同時に互いの技を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

ニュー・ダーリントン、教会地下。

 

ジメッとした湿気が身を包む地下水道からニュー・ダーリントンに侵入することを選んでいたレインフォートは数時間かけてオックスフォードから移動していた。

 

「しかし、ベリルのやつ……こんな地下で一体何をして」

 

「でも、それを調べにきたんでしょ?」

 

ニュー・ダーリントンまであと少しのところで、見知った姿が視線の先に現れる。

仕立てのいい服に身を包み、人当たりのいい笑みを浮かべて僕へ歩み寄ってくるのはペペロン伯爵ことスカンジナビア・ペペロンチーノだ。

 

「ぺぺ、そんな上等な服でこんなところに来ていいのかい?」

 

「あらやだ!アナタ、ブーメランって知ってるかしらァ!?」

 

挨拶がわりの軽いジャブ。

ペペロンチーノと合流して、さらに奥へ進んでいく。

先ほどまで1人分の足音が響いていた地下水道には2人分のブーツの音が響く。

 

「ここに来たってことは大体のシッポは掴んだってところかしら?」

 

「……ベリルがいまグロスターにいるんだ。今を逃したら次はいつガサ入れ出来るかわからないからな」

 

「まあ、私もそんなところ。キリシュタリアを裏切って裏でコソコソやってたことを知っておかないとね。まあ、殺すのは変わらないんだけどー!!!」

 

「そのテンションで言うことではないだろうに」

 

「あら、知らなかった?私ってクズなのよ!?」

 

「クズであっても外道ではない、って僕は信頼してるよ」

 

「…………そういうところ、キリシュタリアが尊敬するところなのね」

 

「さあ、どうだか。僕こそロクデナシだよ」

 

「ふふっ、じゃあクズとロクデナシの最悪コンビでカスで外道なゴミ野郎の秘密を暴いてやりましょ!!」

 

「賛成だ、どうせなら研究成果全部燃やし尽くしてやろう」

 

「最っ高よ!」

 

地下水道に男2人の笑い声が響く。

距離的にはあと十数分も歩けばニュー・ダーリントンに辿り着くはずだ。

ロクでもない研究がされてたのは考えなくてもわかる。

教会の地下室にわざわざ籠って認識阻害の重ねがけまでしているんだ。

 

一体どんな爆弾が飛び出てくるのか、想像することすら嫌になる程だ。

 

 

視界が開けた先、僕たちの目に飛び込んできたのは…。

 

 

「思ってたよりも最悪な研究してたみたいね」

 

「…………モース毒を人に感染するようにしたのか」

 

妖精が掛かるモース毒、それに感染した人間モースがビッシリと檻の中に閉じ込められていたのだった。




わあ、人間モースだ!!!!(絶望)

ここからの展開はいつもの拙作以上にハイスピードで後編を駆け抜けるかも……?

前回のお話はトリスタンとアルトリアの関係性の変化やあの呪いに関するコメントが多くて作者もニッコリでした。
この2人にはもっと仲良くなってほしい、カルデアでね!!!(ひとのこころ)

後編を駆け抜けるにあたってそろそろリハビリをと今月は滑り込み5話投稿してみましたが如何でしたか?
来月は新規イベントに月末には水着鯖の発表、そこからフェスと夏イベとイベントが盛り沢山です。

まあそんな中拙作は陰鬱なアヴァロン・ル・フェを突き進むわけですが……みなさん本編とこの作品の温度差で風邪ひかないでくださいね?

それでは次回、VSトリスタン戦をお楽しみに!

皆様の感想と高評価、お待ちしてます。
お気に入り登録とここすきもお待ちしてます。

アヴァロン・ル・フェの更新について

  • 今まで通り月に3〜4話見れればいい。
  • 待ってもいいからストックして放出
  • 別に気にせんでええねんで(^ω^)
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