お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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前回のお話から新規で投票してくれた方々が結構いらっしゃったお陰で3日ほどランキング入りさせていただいてます!
拙作がランキングにいるのが久しぶりすぎて思わずにやけてしまいましたが、期待に応えられるように新話出していきますね。


第十六旋律 『ニュー・ダーリントン』

 

意識が覚醒するのに必要な条件は最初から揃っていた。

トリスタン……バーヴァン・シーがわたしに提案した作戦はあの戦いでわたしが勝利してトリスタンのギフトを剥がしてあの観衆のなかでベリルに敗北を喫すること、そして『(ガーデン)』の礼装と合わせ鏡の魔術を併用してこのニュー・ダーリントンの地下へ転移させることだった。

 

ただ、問題としては飛ばされたのがわたしと絶賛『失意の庭』に意識を囚われているリツカだけって言う話で。

 

「うーん、やっぱり起こした方がいいよね。でもどうやれば……」

 

こういう場合って大抵礼装を壊せば機能の停止ができる。

しかし、肝心の礼装がどこにあるのか……というか早く停止させないとバーヴァン・シーの魔力が枯渇してしまう。

 

「もう1時間も経ってるし、そろそろ起こした方がいいよね」

 

生憎、起こす方法はちょっと乱暴になるけれど絶望の夢を見続けるよりは100倍マシだろう、たぶん。

 

「よし!ごめんねリツカ!」

 

拳をガッツリ握る。

それを振り上げて下そうとしたとき。

 

「……ぁ。ってうわぁああああ!アルトリア!アルトリアストップ!!」

 

「あっ、起きた」

 

天に掲げられた若干魔力を帯びた拳は行き場を無くしたのでした。

 

 

 

 

 

 

「なるほど、じゃあトリスタンの戦いからアルトリアとトリスタン……バーヴァン・シーの作戦だったんだ」

 

「うん、本当は話しておくべきだったんだけどこういうのって誰にも話さない方が上手くいくし、それに『どうせ勝てる』なんて絶対に思っててほしくなかった」

 

リツカが目を覚まして最初に行ったのはここに至るまでの経緯の説明。

バーヴァン・シーとわたしが交わした約束と作戦の話。

リツカから聞いたのは数日後にガウェインの邸宅、つまりマンチェスターに招待されたから向かうとのことだった。

 

「とりあえず、お互いに情報の交換は終わりだね。じゃあ、アルトリア」

 

「はい、あのちょびヒゲ男の秘密とやらを暴いてやりましょう!」

 

ジメッとした地下空間の中、わたしとリツカはやる気満々のまま歩き始めるのでした。

 

 

 

****

 

人間モース、まさしくそう表現するのが正しい存在がいま僕とペペロンチーノの前にいた。

教会の地下最奥、その中にびっしりと並べられた牢獄の中には人が人の姿のままモースの呪いに侵され、決して逃れることのできない苦しみを与え続けられている。

 

「…………これは」

 

「言葉も出ない、ってカンジよね」

 

「モース化は妖精に与えられた罪の呪い、それがこのブリテンにおけるルールだったんだ。これが外の世界に出たら……取り返しがつかなくなるぞ」

 

「でしょうね、私もモース自体は何度か目にしたけれど触れただけで同じモースに変えてしまう呪詛なんてたまったものじゃないわ」

 

檻の中に所狭しと詰め込まれている人間モースがじっとこちらを見つめる。

その瞳に感情はない、もはや彼らは語るべき言葉を持たない。

あるのは呪いを振り撒くモースとしての本能だけだった。

 

「終わらせてあげましょ」

 

「そうだな、彼らは……このブリテンに在るべきじゃないんだ」

 

魔力を奔らせて魔術を起動する。

純粋な魔力の雨に炎上の効果を付与したもの。

無数の檻の中に強力な魔力の雨が降り始める。

触れたもの、その全てを焼き尽くすように燃え上がる炎の中で怨嗟の悲鳴がこの地下空間に響いた。

 

「せめて、君たちの魂が安らかに眠れますように」

 

「ここ、地下の1番深い場所よね?」

 

「ああ、これから上にあがるにつれてもっといるだろうな」

 

「普通のモースならともかく人間に効くなら私は戦力になれなさそうねぇ」

 

「その辺りは問題ないさ、僕が全部焼き払う」

 

「じゃあ、その辺りはお願いするわ。資料とかその辺りが残ってないか探してみるから」

 

手を振って離れていくペペロンチーノを見送り、僕は上層にあがりながら檻の中のモースを燃やし続けることにしたのだった。

 

 

 

上層へ向かいつつ、ぺぺロンチーノがいくつかの資料を見つけることでここで行われていた実験がどんなものだったのかはある程度把握することができた。

速読の魔術を使うことで読み込んだところで書いてあった内容は反吐が出るような内容だったといえるだろう。

 

「わかっていたことだけど書いてる内容はロクでもないわね」

 

「それはそうだろう、妖精にしか効果のなかった呪いを人間に効くようにしたんだ。僕の千里眼でも観えないレベルの認識阻害を掛けてまでやっていたのには納得はするよ」

 

「それにしても広いわね、もう数時間探索してるけどまだ2階しか上がれてない」

 

「これだけの規模のモースを保管してたんだ、それ相応の広さだって必要だろう。それに、人間をモースに変えるってことはそれの元になった普通のモースだってどこかにいるってことだ。僕としてはそっちの方を警戒したいところだよ」

 

「そっちが出てきたら私の出番ってわけね?」

 

「出来れば触れたくないな。通常の個体にも人間をモースにする効果が付与されているかもしれないからね」

 

通路を進み、また一つ階層を上がる。

檻に閉じ込められているモースを焼き払い、地下を進んでいくと肌に馴染んだ魔力が近くにいるのがわかった。

 

それは相手も同じだったのだろう、いくつか通路を曲がったところで僕たちと2人の少女は出くわしたのだ。

 

「あっ!レイン!」

 

「アルトリア、それに立香ちゃんも」

 

「ぺぺさん、お久しぶりです!」

 

「立香ちゃんにアルトリアちゃんもどうしたのこんな胸糞悪いところで!」

 

思わぬ邂逅、とはまさにこのことだろう。

アルトリアと立香ちゃんだって驚いた様子を見れば僕たちがここにいることを知らなかったと見える。

 

「話せばちょっと長くなるんだけど……簡単に言えばトリスタンとの作戦。ベリルってあのちょびヒゲ男、レインの敵なんでしょ?あいつが隠してること暴いてやろうって」

 

「……君たちも本当に無茶をする。まあでも、来てしまった以上は仕方ないか。見た通りここで行われてたのは人間をモースにする研究だ、何が目的でこんなことしてたかは知らないけどコレを外に出すわけにはいかない」

 

「うん、だと思ったから全部焼いてきた」

 

「流石は僕の娘だ。いつ檻からモースが飛び出してくるかわからないからここからは4人で行動しよう。立香ちゃんもそれでいいかな?」

 

「はい、私も人数が多い方が助かります」

 

返答をした立香ちゃんの声は少し暗いように聞こえる。

よく見たら脂汗もかいているし、呼吸も乱れている。

 

「……『(ガーデン)』の魔術か、その顔を見るかぎり掛けられたのは【失意】かな?」

 

「たぶん、そう……だと思います。キリシュタリアさんとカドック、先輩が復帰したから私は用済みになって……的なものだったような」

 

「───失意の庭は簡単に言えば自分の心の中にある不安や自嘲などのマイナス感情から生まれた幻影に「嘘や妄言のない絶望」を言わせ、訪れた者の心をへし折るというものだ。例えばそうだな、ムニエルあたりに『藤丸はもうスペアでいいんだから』みたいなことを言われただろう?」

 

「そうですね、そんな感じのことは言われたような……」

 

「とりあえずムニエルは減給だな。だけど、君はその幻影に負けなかった。ここに君が立っていること自体がその悪夢に打ち勝った証拠なんだ、夢は夢と割り切ることは難しいかもしれないけれど……君がこれまで辿ってきた道は君にしかできなかったと僕が保証するよ」

 

「実際私たちには人理修復はできなかった。ビーストを打ち倒して冠位英霊を呼び出すことも星の数ほどの英霊を呼ぶことも絆を結ぶこともできなかったのよ。だから、自信を持ちなさいな」

 

僕とペペロンチーノの手が彼女の双肩を叩く。

しかし、カルデアにキリシュタリアやカドックに芥がいるのならその問題は表面化しなくたっていつかは彼女が1番ぶつかる壁だろう。

カルデアのスタッフたちは藤丸立香ただ1人を“カルデアのマスター”として認識しているが、それは彼女はおそらく違う。

自分よりも素養があり、魔術の知識があり、それを扱う力がある。

自分よりも適任だと心のどこかで思っているからこそ、失意の庭はそれを彼女に叩きつけたのだから。

 

「まあ、今は敵の僕から言われても嬉しくはないかもしれないけどね」

 

「なんせ私とレインはカスとロクデナシのコンビなのよぉ!?!?」

 

「ふふっ、なんですかそれ!レインさんもぺぺさんも大事な仲間ですよ」

 

「あーー!もう本当に可愛いんだから!!もしカルデアに帰ったら私と立香ちゃんマシュとキリシュタリアとカドックと芥ちゃんで新しくAチーム名乗っちゃう!?」

 

「なら、チームA'だな。本来の想定より1人足りないが君たちならいいチームになれるだろう」

 

「いいわね!キャー!やる気出てきたわァァァ!!」

 

敵地のど真ん中、というか周りはモースまみれなのだがデカい声をあげて立香ちゃんに抱きつくペペロンチーノ。

ギリギリセクハラになるかと思ったが、今の立香ちゃんにはペペロンチーノの距離感はちょうどいい薬になるだろうと静観することにした。

 

「レインはそこに入らないの?」

 

「アルトリアを置いては帰るつもりはないよ」

 

「で、でも仲間なんでしょ?」

 

「君は家族だろう?モルガンもそうだ、僕はもう家族を置いてこの世界から離れるつもりはないんだ」

 

「ふ、ふーん?そうなんだ……へへ、そうなんだぁ」

 

頬を緩めてニマニマと笑みを浮かべるアルトリア。

そういえば、一眼見た時から気になっていたのだが随分と出立が変わったものだ。

 

「アルトリア」

 

「ん?なに?」

 

「似合っているよ、その服」

 

「へぁっ!?そ、そう?そっかー!」

 

「本当に、立派に育っているみたいで何より」

 

「わーっ!帽子の上から撫でるのやめろー!」

 

帽子の上から頭をわしゃわしゃと撫でる。

1時間ほど前に聞こえた鐘の音で3つめの鐘だった。

今の僕とほぼ並ぶほどの魔力を保有しているアルトリアに敵う妖精は本当に妖精騎士とモルガンしかいないだろう。

このまま6つの鐘を鳴らし、モルガンとアルトリアが戦うことになったらその時の勝敗はどうなるのか。

普通に考えればアルトリアの完敗である。

たった一度巡礼の旅を終えた程度では“幾度と巡礼の旅を終えた”モルガンに勝ち目など到底ない。

 

しかし、きっとモルガンは手加減をする。

同じ出力で、同じ土俵に立ち……その上で完膚なきまでに叩きのめすつもりだろう。

 

6つの鐘を鳴らし、最大まで出力の上がった楽園の妖精。

モルガンにとっては更にそこから上がった出力を落としての戦いになるがキャメロットが恐ろしいまでにボロボロになるのだけは今から目に見えている。

 

……しかしそれはそれ、今はこの地下のモースを燃やし尽くして教会から出るのが優先だろう。

 

「それじゃあ気を引き締めて上まで行こう」

 

そうして僕たちは4人で地下から教会に向けて移動を再開したのだった。




さて、物語はだいぶ前倒しになってニュー・ダーリントン地下。
人間モースを順調に焼き払っているアルトリアとレインですが、彼らが地上にたどり着くまでにベリルくんは間に合うのでしょうか()

まあ、間に合うでしょきっと()

しかし、やはりランキング入りすると閲覧数が増えるお陰で新規のお気に入りの方も増え、約90話を一気読みする方もいらっしゃるかと思うと追うのも大変な作品になってきたなと自覚してしまいますね。
目指せ通算100話、みなさんこの調子で【高評価】【感想】で作者を甘やかしてやる気溢れさせてください!

アヴァロン・ル・フェの更新について

  • 今まで通り月に3〜4話見れればいい。
  • 待ってもいいからストックして放出
  • 別に気にせんでええねんで(^ω^)
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